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第10話「女神様と登校する」

「では、行きましょうか」


「…………」


 ……どうしてこうして、この女神様はぼっちなんかと一緒に通学路を歩こうとしているのでしょうか? WHY?


「どうしました? 早く出ないと遅刻してしまいますが」


「……悪いが、先に行っててくれるか?」


「忘れ物ですか? それでしたら、待ってますが」


 美桜は友達に会話するようなノリで「待つ」と言い張った。

 こうやって僕のために待ってくれる幼馴染を持って、非常に嬉しいのだが、今は大人しく先に行って欲しかったな。


「いや、それだとお前まで遅刻することになるぞ」


「私は構いません。特別、皆勤賞を狙っているわけではありませんし」


「そ、そうかもだが……」


「そういうことじゃない」と、そう言おうとしたが、必死に言葉を飲み込んだ。


 考えろ、空気を読め——そんな単語をぶつけたところで、美桜にわかるわけがない。

 寧ろぶつけても逆効果。更に細かな説明が必要となる。


 ……そのためこういうときは、


「ごめん。やっぱ何でもない」


「そうですか? では、行きましょう」


 一度そうだと決意づけたらよっぽどのことが無い限り変更しない。そんな彼女の意志を断ち切り、僕はこの現状を受け入れなければならないのだ。


 けれど、そうなると困ったものだ。

 僕が住んでいる家は学校との距離が他の人より少しだけ遠い。電車などの通勤機関は使うことはしないが、それでも徒歩30分は容易にかかる。


 今はこうして隣を悠々と歩けるが、時間と距離が縮まればそれも無くなってくる。

 僕が最も恐れているのはそういうことだ。


 女神様と讃えられている真城美桜は、僕達1学年の中で、最も美しい風貌を持つ生徒として、学校中の人気の的になりつつある。


 そんな彼女と『幼馴染』だという事実でも危ないというのに、更には登下校までもが僕と同じだと知られれば、いずれ一緒に住んでいるというこなどすぐにでも噂になるだろう。


 人がたてる噂というのは、思っている以上に早く広まるものだ。

 収束には時間と手間がかかるというのに、何という理不尽の差だろうか。


 きっと、この女神様は僕がこんな考えをしていると知れば——「それ、私に関係ある話ですか?」とか何とか言って、噂なんて気にしない的なことを言うのだろう。

 さすが、常に注目の的であり続ける人物は言うことの格言さが違うな。


 ……でも、僕はそうじゃない。

 彼女のことを尊敬していても、幼馴染として対等でいたいとは思わない。元々、関わること自体が奇跡だったかもしれない出会いだったのだ。


『噂なんて気にしません』


 そんなカッコいい台詞を吐けるほど、僕は立派な精神をしていない。


 寧ろ、あまり人に注目されたくないのが僕だ。

 人に何かを期待されて。

 そしてその期待に応えられなかったときが、僕には1番のトラウマだ。




 ——あんたに期待した私がバカだったわ




 ふと、脳内にかつての光景が過ぎる。思い出すことさえ苦痛で、二度と思い出さないようにと蓋をしていたはずの記憶が、一瞬甦ってしまった。哀れだと、期待はずれだと、そうやって(さげす)まれていたあの頃を——。


「どうしました?」


「……いや、何でもない。っていうか、いつまで一緒に登校する気なんだ?」


「いつまで、と言われましても」


「ほら、日直のときとかさ。誰よりも早く着いてなきゃいけないだろ?」


「そのときは、普段より早く起きて、湊君にも協力をしてもらって……」


「巻き込むな!」


 余計な思考など、今の僕の人生には不必要だ。

 この世間ずれした幼馴染が居てくれるから、今の学校生活は満喫出来ている。


 人目が届かないところで、2人きりになって人には言えないことを——ではなく、ただ学生らしく友達同士の一般的な会話をしているだけなのだが。それでも、僕の学校生活はたった数週間のうちに開花し始めている。


 あの頃を思い出すと、今にでも吐き気を催すこともある。

 どうしてああいう想いをしなくちゃいけなかったんだろうって、時々、僕の中で疑問が残ることもある。


 人気者だったわけでもない。かと言って、天才だったわけでもない。

 平凡な思考を持ち、平均的な体力を持つ、ごく一般の人間だった。けれど、いくら血の繋がりがあったからと言って『あの人』と同じ人間なわけがない。……今になって思えば、僕は諦めていたのかもしれない。反抗するということが、あの人達への裏切りになってしまうかもしれないという恐怖心から。


「…………お前が、羨ましいよ」


「何か言いましたか?」


「いいや。何でもないよ」


「……今日の湊君は忙しい人ですね」


 美桜は不思議そうに僕のことを見つめながらそう言った。

 ……そうだな。今の僕はあの頃と違うんだから、お前と楽しい時間をまた過ごせるんだから。今は考えるべきじゃないよな。


「そうだ。湊君、今日のお昼時間ありますか? どなたかと約束とかが無ければですが」


「あぁ。別に何もないけど。伊月はカノジョさんと食べるらしいからな」


「ヤキモチ、ですか?」


「誰が誰にヤキモチ妬いてるって?」


「すみません。そう聞こえてしまったので……よかったです」


「えっ、なに?」


「いえ、何でもありません」


 何でもあるとは思うんだけど、ぷいっと顔を背けられたので追求しないことにした。……相変わらず、可愛い仕草するなこいつ。


「あ、でも、現地集合でいいか? あんま目立ちたくない」


「私は気にしませんよ?」


「僕が気にするんだよ……!」

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