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閑話「女神様は知っている」

 正直なところ、賭けに近い行為でした。

 断られるということを前提にして、更にそこからどのような方法で湊君のことを攻めていけばいいのか──探りに探った結果、私らしさを出していくことにしました。


 湊君は優しい人です。

 あんなにも優しい人だと、私以外の誰が知っているのでしょうか。

 知られたら知られたでいいですが、何だか少し……嫌な気分ですね。


 彼が優しい人だと知ることなど、容易いことでした。


 小学生時代の頃のことです。彼はいつも、他の男子生徒とはあまり交わらない、いわゆるコミュ障と呼ばれる類の人だったらしいのです。

 だから私も、彼から初めて声をかけられたとき、誰か一瞬わからなかったのです。


 しかしそれだと不思議ですね。

 湊君はコミュ障。病気のような類の人間です。


 そんな人が、どうして私みたいな人に話しかけることが出来たのでしょうか?


 ……実に謎でした。

 彼の行動も、彼自身のことについても。


 知る努力を(おこた)っていました。

 彼が私に話しかけてくれたことが嬉しくて、それでつい忘れていました。

 私は──友人として、彼のことを知る権利があります!


 と。

 そう決意したのはいいのですが……。どうにもこうにも、主だった情報が手に入りません。

 家族構成や出身幼稚園、そこまでは1日で調べられましたが、肝心の『湊君の情報』が手に入らないのです。


 ……こうなったら、直接交渉でしょうか? あ、いや……それは湊君に呆れられてしまいます。学校では普通でいること。それが約束だったはずです。


 なら、どう動いたら……、


「──美桜さん?」


「ひゃ、ひゃい!?」


 あっ……思わず変な声が出てしまいました。

 後ろからの不意打ちを仕掛けてきたのは、現在の私の悩みの種──和泉湊君でした。


「ど、どうしたんだよ。急に変な声出して……」


「そ、それは、湊君が急に話しかけてきたので、ビックリしただけです。湊君のせいです」


「そ、そっか。……ごめんな?」


「……はい」


 自分が『悪いことをした』のだと自覚すれば、こうやってすぐに謝ってくれる。現代の子どもでも、あまり取られない行動の1つです。感謝を述べる、謝るという行為が出来る。──やはり湊君は、優しい人です。


 ……そうです!

 こうして目の前に湊君がいるのですから、こちらから訊けばいいじゃないですか!


 そうですよ。遠慮する必要なんてないのです。

 彼はいつも、真っ当に人の心に触れ合ってくれるのですから。


「……湊君。本日、予定空いていますか?」


「えっ? ……確か空いてるけど、何かあるの?」


「あ、はい。その……あの……」


 私は身体(からだ)をくねくねさせながら、口から出ないもどかしさに悶えていました。


 い、言い出せない……! ど、どうしてでしょう。彼の顔を直視していると、どうしても身体全体が言うことを効きません!


 命令しても動きもしません。

 本当に……私は、どうしてしまったのでしょう。


「おい、本当に大丈夫か?」


「え、えぇ。平気です。すみません、先程の話は無かったことにしてくれませんか? まだ……言い出すには時間が──」


「そっか。なら仕方ないか。……ちょっと楽しみにしてたんだけど」


 ──言葉の真意に気づいたときには、時すでに遅し、教室に先生が入ってきて授業が開始してしまいました。


 黒板に書かれる板書を手早くノートに写し終え、窓際に座る彼の方へチラっと視線を向けます。

 特別なことをしているわけではありません。

 かと言って、何もしていないわけでもありません。


 けれど、彼が太陽の光にほんの少し照らされている姿は、私よりも美しいと感じてしまいました。天性の感覚……とかではありませんでしたが、直感的に、そう思ってしまったのです。


 本当に不思議な方です、湊君は。


 私が無下にしてしまった話を、まるで幼子のように残念がって、それを見た私は『やってしまいました』と後悔している気持ちでいっぱいになってしまいました。


 ……この気持ちは一体何なのでしょうか。


 友情?

 恋愛?

 それとも好奇心?


 正直なところ、どれでも構いませんでした。

 彼に対しての気持ちが、より一層高まったのですから。


 残念なことに湊君自身の情報は更新出来ませんでした。──が、重要なことならば、私の中で秘密裏にゲットしました!



『……ちょっと楽しみにしてたんだけど』



 あの言葉の意図はわかりませんが、彼は私のことを、少しだけ“特別視”してくれているようです。

 こんな私の様子を、真っ先に気づいて、気にかけてくれる。


 そんな、誰よりも優しい湊君のことは何より……私だけ知っていればいいのにな。と、本気で思ってしまうほどに、私は重症のようです。

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