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第1話 家族の肖像


「はああ~~~、疲れた~~~」


どっと疲れが出たのか、夫人と執事を見送った黒いローブの男はソファにどさりと座り込む。

深く沈むように座ったその男は、同じように深く深くため息を吐いた。


「全く・・・なんで俺がこんな事・・・」


誰もいない、蝋燭だけが揺らめくその部屋で、虚空を見つめながら呪詛を吐く。


「カイトちゃ~~~ん! お仕事ご苦労様!」


「うわあ!?」


急に後ろから首に手を回すように抱きしめられたローブの男は裏返った声を上げて驚いた。


「母さん! 急に出て来て抱き着かないでよ! 驚いて心臓が止まったらどうするんだよ」


「あら~、心臓が止まったって大丈夫よぉ。私みたいにレイスになるか。あの人みたいにリッチになればいいじゃないの~」


「いいわけないだろ! ボクまで死んだらうちの家族で生きている人がいなくなっちゃうでしょ!」


黒ローブの男・・・この館の現在の主人、カイト・グランベルは自身の母親――――<死霊女王(レイスクイーン)>――――イザベラ・グランベルに文句を言った。


「母親は<死霊女王(レイスクイーン)>、父親は<不死の王(エルダーリッチ)>・・・両親がともにアンデットって、闇魔導士一家としてどうなのさ?」


美しい絶頂期のまま時間を止めた母親に疑問を投げかけるカイト。


「おう、カイト。また儲けてくれたようだな! そこで早速だが研究費の追加を・・・」


声のした方をカイトが振り向けば、黒ローブを羽織ったガイコツがカタカタと笑いながら金の無心に来ていた。


「あらあなた。私だってお茶会の費用が必要だから、カイトにお小遣い無心に来た所なのよ?」


「また貴族のお茶会とやらか。どうせその永遠の美貌を自慢するだけなんだろう?」


「あ・な・た? 妻が美しいのに何か文句があって? みんな私の美しさに見惚れてくださっているのよ?」


ぷんぷんしながらガイコツに食ってかかるレイス。


「だからと言って自分で開催するお茶会が多すぎるのではないか? 私だって研究材料を調達するのにお金がかかるのだよ」


ガイコツだからしゃべりながらもカタカタと音が鳴っている。


レイスとガイコツの言い合いを見ながらカイトは首を振って頭を掻きむしる。


「いい加減にしてよ父さんも母さんも・・・『深淵の闇魔導士』アルタイル・グランベルと『妖艶なる闇魔導士』イザベラ・グランベルともあろう二人が、実の息子にお小遣いの無心って・・・。ボクが一生懸命闇魔術の魔導具を売って稼がなくても、二人とも冒険者にでもなれば、いくらでもお金を稼げるだろうに・・・」


「何を言うか、冒険者などと言って魔物と戦っている暇など私にはない。研究で忙しいのだ」


父親である<不死の王(エルダーリッチ)>のアルタイルが研究に忙しいから外で働けないという。


「私だって! お友達と美の研究に忙しいのよ? お茶会だって開かなきゃいけないのに」


母親である<死霊女王(レイスクイーン)>のイザベラもお茶会で忙しいから働けないという。


「二人してニートとも違うからタチが悪い・・・」


次男坊の言う「ニート」の意味が分からず父親も母親も首を傾げる。

そこへ扉をぶち破る勢いで人形が空中を飛んで部屋に飛び込んできた。


「お兄様お兄様お兄様―――――!!」


「うおわっ!?」


飛び込んできたのは金髪ドレッドヘアーで手に包丁を持って目が血走り、舌を出している狂気の人形だった。


「お兄様お客様帰りました!? なら一緒に遊びましょー!」


「ちょっとメルティ! 怖いからいきなり飛び込んで来ないで!」


「お兄様・・・メルティを怖いだなんて・・・悲しいです」


落ち込むメルティだが、なにせ人形はチャッ○―みたいな恐ろしい見た目をしているため、カイトはいかに妹のメルティが可愛くて大事でも、なかなか心の底から愛せなかった。


末の妹、メルティ・グランベル。

現在15歳で成人したてのカイトとは5つ下の妹であったが、5歳の時に闇の魔術実験失敗で壮絶に爆死。即<死霊(レイス)>となってしまったが、5歳のメルティでは魔力の総量が足りず、精神生命体の維持が厳しかったため、手ごろな人形に自分の魂を封印、<生きた人形(リビングドール)>として今は生活していた。


「悲しいのはボクの方だよ・・・。兄を残してあっさり死なないでよね」


「兄様。我が黒魔導士一族からすれば命のあるなしなど些細な事ですわ」


「いや、ささいなことじゃないよねぇ!?」


生きているか死んでいるかは闇魔導士にとって些細な事と宣う妹メルティに目を見開いて抗議するカイト。


「さすが『爆裂の闇魔導士』メルティねぇ。ホントしっかり者で安心だわぁ」


「いや母さん! 『爆裂の闇魔導士』って、自分が爆裂して死んでるのってどうなの!? 全然安心できないんだけど!」


母親のイザベラが末妹のメルティを褒めているが、何一つ納得できないカイトは反発の声を上げた。


「そうだなぁ。メルティもしっかり修行して早く<生きた人形(リビングドール)>から立派な<死霊(レイス)>にならないとな」


「はいっ! お父様」


「そういう事!? ねえ、そういう事なのかなぁ!」


父親と妹のやり取りに頭を抱えながらもツッコミを入れるカイト。


そこへ、再びガチャリと扉が開いた。


「やあカイト! 元気にしてるかい?」


「に、兄さん・・・」


扉を開けて立っていた人物。

それはカイトの実の兄、クリフト・グランベルであった。


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