プロローグ
2022年あけましておめでとうございます。
新年のお年玉企画(?)
数話程度ですが、お楽しみいただければと思います。
「ククククク・・・我に依頼があるとか・・・」
「ええそうよ・・・殺して欲しいの!」
やたらと暗い部屋。
高級な金の燭台に設置された蠟燭の炎が妖しく揺らめく中、闇に溶け込むかのような黒いローブをすっぽりかぶった男と、やたらとごてごてアクセサリーを身に着けた身なりだけは良い夫人が机を挟んだソファーに座っていた。
その夫人の後ろには老執事が立っている。
この薄暗い部屋の持ち主は黒ローブの男であり、夫人と老執事はこの男の館を訪れた客であった。
この客間の前室には夫人が引き連れてきた護衛の兵士や従者、メイドたちが十数名控えていた。それだけ見てもこの夫人が平民ではなく、どこかの貴族の夫人であることが伺えた。
「ククククク・・・殺しですか。我が闇魔法は対象を深淵の底に沈めることを最も得意とする・・・殺しなど造作もありませんよ」
黒ローブの男は深くかぶったフードの奥でにやりと笑ったようだ・・・顔は見えないが。
「んま~~~、頼もしいわぁ! ヤツらを皆殺しにして頂戴!!」
自信たっぷりに笑う黒ローブの男に期待したのか、夫人は嬉しそうに声を高めた。
「皆殺し・・・ふっ、容赦有りませんな」
「ヤツらに情けなんて無用よ・・・殺してちょうだい!」
夫人は眉を吊り上げて自らの拳を机に叩きつけた。
「皆殺しですと・・・高くつきますよ?」
黒ローブの男はフードの奥で先ほどよりもいやらしい笑みを浮かべたようだ。
「お金ならいくらでも払いますわ・・・。ヤツらを皆殺しにしてくれるのならば!」
「わかりました・・・。それで、館の見取り図は?」
「セバス!」
「はっ」
夫人の声に後ろに控えていた老執事の男が懐から何かを取り出すと、机の上に広げた。
「フム・・・」
それは館の見取り図であった。
黒ローブの男は館の見取り図に描かれた部屋割りを指でなぞりながら考えを巡らせる。
「どうなの!?」
「ククククク・・・この館なら大丈夫ですよ・・・ご希望通り皆殺しです」
そう言って黒ローブの男は席を立ち、後ろの扉から一旦出て行った。
「そう・・・これで私の安眠は確保されたも同然ね・・・さすがは世界最強の闇魔導一家ね・・・」
夫人が囁くような声で独り言をつぶやく。
やがて黒ローブの男は手に小瓶のような物を持って客間に戻って来た。
そのまま無言で机の中央に置いた。
コトリと瓶が音を立てる。
「・・・金貨で350枚。まかりませんよ?」
「セバス」
「はっ!」
老執事が持っていたカバンから金貨を取り出すと、瓶の横に積み上げていく。
「・・・きっかり350枚でございます」
「おめでとう・・・これでこの『ゴキゴロシ420年物』は夫人の物だ」
「ああっ! なんてことでしょう! あの憎き黒き悪魔にもう怯えずに済むだなんて!」
「この『ゴキゴロシ420年物』は420年前にゴキブリに驚いてショック死してしまった有名な魔術師の怨念を詰めて制作した物です。相当ゴキブリを恨んでいますからね。間違いなく屋敷のゴキブリは皆殺し間違いないでしょう」
「素晴らしいわっ!!」
「玄関ホールの奥。この位置に瓶を置いて蓋を取り外してください。ものの一時間できれいさっぱり館中のヤツらは深淵の闇の底で眠ることになる・・・」
「素晴らしいっ! 素晴らしいわ! さすがは世界最強の黒魔術を誇るグランベル一族だわ!」
小瓶を手に取るとほおずりする勢いで顔を寄せる夫人。
そのまま立ち上がると上機嫌でその場を後にしようとした。
「言い忘れましたが・・・」
「なにか?」
黒ローブの男は座ったまま部屋を出て行こうとした夫人の背中に声をかけた。
「一時間後の大掃除もお忘れなく」
夫人は、目をパチクリさせると、
「モチロンですわ!」
満面の笑みで答えたのであった。