街角アンケートをした
ここは王の執務室
昼間なのにカーテンが閉め切られ、蝋燭のみが灯っている
そこではこの国の王と宰相が話し合っていた
「それでエバルスーーギルドが爆発したというのは本当か?」
「はい、勇者一行がさっそく問題を起こしました」
頭痛がするのか、手を額に当てて苦い顔をするハリス
「やはりあれらはさっさと国外に出すべきだろうな」
「これ以上問題を起こさないうちにですか?」
「被害を受けてる者たちは、交渉しなくても協力などしないだろうし」
そうーー放っておけば国外に出ていく問題児たち
このチャンスを逃したくない者は多い
それに力だけは優秀な連中だ
王国の切り札というのも、あながち間違いではない
「それにしてもあの勇者ーーどう思う?」
「伝承とは違うようですね。どうとはーー偽物かもしれないと?」
「あぁ、伝承では召喚時点で特異な力を持っていたとあるが、そんな片鱗もない。それにーー」
「それに?」
「私の勘が告げるんだーーあれはどうにも胡散臭い、と」
吉田のことを全く信じてないハリス
それを否定はしないエバルス
「まぁ連中を抱えてくれるわけだし、いざとなったらーー」
その先は言わないが、邪魔になった人間をどうするか、今までどうしてきたか
それを知っているエバルスは無言のまま目を瞑る
「一度、見極めておく必要はあるか」
◇◆◇
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
道端で頭を抱えた男がいきなり叫び出す
周りは突然大声を出した彼に驚き、怪訝な顔をして通り過ぎる
中にはヒソヒソと指を指して噂する人も現れーー
「何でだ! 俺が何をしたってんだ!」
突然叫び出した男ーー勇者ヨシダ
それを数歩離れた位置から見ていたリラは、眉を顰めながら罵倒する
「ったく、ホントにうるさいわねーー私まで頭おかしい奴みたいに見られるじゃない」
「頭おかしいんだよっ! お前ーーいやお前らは!」
そう言って指を指した先にいるのはーーリラとセーラ
つまりはギルド爆発事件の主犯二人のことである
「は? 喧嘩売ってるの? 消し炭にされたいの?」
「消し炭になっちゃったんだよ!? お前とーーおい、何隠れようとしてるんだ、セーラ?」
「い、いやー・・・私は止めようとーー」
「煽ってたよな? ギルドの協力はこれでパーだが、そんなことよりーー借金だよ!」
そうーー借金である
ギルドの建物、そして人的被害
当面の活動停止を余儀なくされたギルドは俺たちにーー三千万の賠償を請求
国と司法はそれを承認、認めないなら裁判で決着とのこと
だが裁判をすればさらに賠償が増える可能性もあり、そもそも勝てるとは思えない
なんでだ!
少し前まで順風満帆だった異世界生活はどこいった!?
「ちょこっと借金したくらいでウジウジとーー」
「三千万だよバカやろう!」
「そんなもん踏み倒しちゃえばいいのよ。今までだってーー」
“今までだって”ーーなんだろうか
これまでも踏み倒してきた奴の口調である
というかホントに仲間を入れ替えないとマズイ
俺は役に立たない女二人を視界から外してロンデルを見る
「まぁギルドは使えなくなったわけだが、他に手はあるか?」
「他か・・・あとは街中で勧誘するくらいしか」
「勧誘か、流石にそれじゃあーー」
いやーー待てよ?
くるりと振り返るとリラとセーラが睨み合っている
二人とも機嫌の悪そうな顔だ
だが幸い、見た目は良い
そうーー見た目は良いのだ
コイツらで寄せ付けた男に一筆書かせて契約で縛る
前世ではよく使った手だ
「よし、勧誘で行こう」
「考えてそうなことは分かるが上手くいくか? 協力するとは思えないが」
「セーラの方は今後の生活を人質にすれば協力するだろうし、リラも巻き込めると言えば乗ってくるはずだ」
さて、行動に移るとするか、手始めに風呂にでも連れて行ってやろうーー
◇◆◇
王都でもそれなりの値段がする宿の一室
会議用のテーブルに座る三人
部屋の隅にあるガラス棚には高級な酒やつまみが並んでいる
こちらの世界でのスイートルームというやつだ
「おい、あの勇者だがーー怪しくないか?」
「あぁ、未だに能力の一つも見せないし、なんというかーー小物臭がするんだよな」
「聞いたか? 国のお偉いさん方は、活躍次第で伯爵位まで与えるとか言ってるらしい」
そこにいたのは貴族たち、だが召喚の儀には出席できなかった位の低い者たちだ
その中でも爵位を引き継いだばかり、つまりーーまだ若いのだ
「伯爵位だと!? 何考えてるんだ」
「勇者だろうが、国外ーーいや世界も違う人間に、この国の貴族位はやれないな」
「そういや城の中歩いてるの見たんだが、あの野郎、すごい美人を連れてやがった」
「美人ってーーあのイカれた聖女か?」
「いや、あの“ちんちくりん“とは違ってスタイルも良かったしーーすごいマトモそうだった」
「それ知ってるぜ! たしか勇者が連れ込んだってメイドが騒いでやがった」
「なっ!?」
圧倒的に経験が足りず、何よりも自分を優先してしまう
結果、全てを失うことになってしまうとしても
そこへさらに嫉妬が絡むとーーもう正常な判断が下せなかった
「ーー許せないな」
「あぁ、貴族というものを教えてやろう」
勇者を気に入らない貴族たちが動こうとしていた
◇◆◇
「むっむ、むぅぅぅ!」
手足を縛られ口を塞がれたリラが暴れているーー暴れ狂っている
すごい剣幕でこっちを睨みつけている
その頭にはウサギ耳、そして張り付くような黒い衣装
そうーーバニーガールである
あれから公衆浴場へと行き、そこでセーラに服を取り替えさせた
それだけじゃ足りないと、ロンデルに借りた金で売店の売り子を買収
一服もって眠らせた後に手足を縛って口を塞ぎ、今こうして看板娘をさせているんだがーー
「叫ぶわ睨みつけるわーーこれじゃ勧誘どころじゃないな」
まぁ少しでも釣れればいいわけだし、ちょっと放置してみるか?
罵倒とかで喜ぶ人種もいるわけだし
そう思いリラの口元を自由にするようロンデルに伝える
自分でやらないのは間違いなくコイツが噛み付いてくるからだ
やはり近いうちに弱みを握らないといけない
それにしてもーー
「えぇぇ!? ロバートさんって上級貴族なんですかーー」
「すごーい! あそこに住まれてーー」
「ーーそれじゃあこちらにサインしてーー」
褒めて煽てて上手いことサインさせているセーラ
あいつやっぱり美人局とかやってないかーーって女神だったか
「なぁ、何でそんなに手慣れてるんだ?」
サインをもらった紙を受け取りながら聞いてみる
「あぁ、女神なら研修で教わってるセールストークですよ、転生者を言いくるめてーー」
「今なんて? 言いくるめてとかーー」
「ーー嘘は言ってないですよ?」
「つまり騙してはいると。やっぱりお前、美人局じゃねーか」
「違いますよ人聞きの悪いーー次の生に対する不安を取り除くのも女神の役目、と」
「・・・まぁいいか、俺は騙されてはないわけだし。それでーーおっ、上手く言ってるじゃないか」
受け取った用紙を眺めてみる
そこには街角アンケートと書かれていた
抽選で賞品が当たるので、後日送付するためと氏名と住所を記載してもらった
普通に考えれば怪しいが、引っかかる人間はいる
さらに対応するのは見た目の良いセーラだーーそれはもう入れ食いだろう
そして紙の裏には硬い粘土のような板、そうーー氏名の型を筆跡ごと取り、他の書類にも複製するというわけだ
書類さえ作ってしまえば住所まで取り立てに行くだけだし
「よしっ、この調子でジャンジャン頼むぞ? 上手く行ったらガッポリ儲かるしな!」
「はい! 儲けの分配はーー」
儲けの話で盛り上がる俺たちを見ていたリラ
「あ、あんたらーー」
はい、ドン引きですねーーでもしょうがないだろう
こうでもしないとヤバい奴を押し付けられるのは俺の方なんだ
大体ヤバいやつ筆頭の聖女に引かれるのは納得がいかないんだが
そんなことを考えていると声がかかる
「あのーー」
新しいカモが来たらしい、セーラに目配せしようとして目に入ったのはーー
「ここに勇者様がいらっしゃると聞いてきたのですが」
ロングの髪を片側で縛り胸の前に垂らした、おっとり垂れ目の美人さんがいた