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女の戦い

「ーーって待たんかい」


俺はやり遂げた感じでフェードしていく王の肩を掴む


この野郎、仲間として紹介するふりして、どう見ても危ない奴らを押し付ける気だ


「なんでしょうか勇者様」


しかも白々しく勇者様とか言いやがる


「なんだその丁寧口調は、おいーーもしかして有耶無耶のまま旅に出す気じゃないだろうな」


「そんなまさか・・・厄介払いーー信頼して我が国の戦力をお預けするのです」


「今厄介払いってーー」


「言ってない」


どうしよう・・・このままだと、あの厄介者たちを連れて旅に出ないといけない


ここは何としてでも回避しなくてはーーそうだ


「じゃあ俺は俺で仲間を探すから、それが見つからなければ引き取る、というのではどうですか?」


「いや、しかし・・・」


渋るハリス、それもそうだろう、勇者パーティといえば誰もが憧れ入りたがるもの


パーティメンバー数人などすぐに集まるはずだ


そこで外野と化していた厄介者二号ーー聖女のリラが反論する


「ちょっと! それってどう意味かしら? 何で私まで一括りで問題児みたいな扱いを受けているの?」


そう言って俺に指を指す


「大体、あんたみたいなゲス勇者が、常識人枠ぶってるのも気に入らないわ、消し炭にされたいの?」


そう言うところだぞ、と言いたい


だがここで反論すると、本当に消し炭にされかねないのでグッと我慢する


所詮俺は一般人、勇者の力など貰えてないし、これからも貰えないだろうーーホントどうしよう


すると視界の端で、宰相のエバルスがハリスに耳打ちしていた


数回頷くと急に真顔になり、それから良い笑みを向けてこちらに来るハリス


「ヨシダ殿、先ほどの提案を受け入れよう。だがいくつか制約をつけるーー」


いわく


メンバーはこの街から選ぶこと


ちゃんとした戦力になる者に限ること


魔王討伐まで共にするメンバーのみで、一時的な契約で逃れないこと


これら全てに該当する者がいれば、現状のメンバーとの交代を認める


なお、期限は一週間以内とのこと


先程の笑顔からして何かしらの妨害が入るのは間違いないだろう


だがーー


「分かった、その条件で構わないですよ」


それでも何としても逃れたい


あの手の変人は絶対にヤバいことをしでかす


そこまで長くは生きれなかったが、詐欺師として生きた人生


関わってはいけない人種を見分ける事くらいはできるのだ


「そうかそうか、双方納得できる良い結果で終われたようで一安心だ」


そっちが何かを企んでいるなら、こっちだってやってやる


思い通りになるなんて思うなよ!



「ーーちょっと! 私まだ納得してないんだけど?」


外野がうるさいが俺と陛下は互いに笑い合う


互いにどう相手を蹴落とすか考えながら



◇◆◇



あれからしっかりと契約を結ばされ、血判まで押さされた


ハリスは何としても押し付けたいようだがーーそれはこっちだって変わらない


後になって反故にされないような安心が必要なのだ


とりあえず、一週間は現状のメンバーを維持となってしまったがーーそれくらいなら大丈夫だろう


「少しの間の臨時メンバーだが、ひとまず今後の予定でも立てようか」


城下に出てから向き合って集まる


リラは依然として俺から一定の距離を空けているし


ロンデルは俺の後ろから離れない


そしてガリウスはーー


「おい、ガリウスはどこ行った?」


「ガリウスさんなら、歩いていた少女にお菓子をあげていたところを通報されて警備隊に連れて行かれてましたよ?」


見ていたらしいセーラが教えてくれるがーーちょっと待て、まだ城から出て数分なんだが?


何でそんなすぐに問題を起こせるのか


というか少女にお菓子をあげる老人なんて微笑ましいはずだろ


なんでそれで通報されるんだ?


「と言うか見てたなら止めろよ!」


「嫌ですよ、私まで同類みたいに見られるじゃないですか」


そんなにヤバい感じだったのだろうか・・・


「ま、まぁいい・・・それで人探しだが、この街に求人募集とか出せるところはないか?」


そこで勇者パーティのメンバー募集をする


そうしたら一人か二人くらいは今日中に集まるだろう


「求人募集というならやっぱりギルドだな」


ロンデルが教えてくれる


それはとても助かるのだが、いいかげん俺の後ろの立つのはやめてほしい


「引き締まりつつも弾力のあるいいケツだ」


ーー頼むから本当にやめて欲しい



俺は片手でケツを庇いながら振り返る


「ギルドっていうのは依頼の仲介をしてくれるところか?」


ゲームやラノベで言うギルドといえば、冒険者の集まる場所のことだろう


「あぁ、行ってみるか? 案内ならするぜ」


「そうだな、それじゃあお願いしようか」



◇◆◇



ロンデルに案内されてギルドにやってきたーーのだが


「オイオイ兄ちゃん、ここは女連れで遊びに来る場所じゃーーひっ」


「キレイなお嬢さん方じゃーーげぇっ」


こう言う場所でのお約束、いわゆる新人への洗礼やナンパ、みたいな目に遭っているのだが


セーラを見て寄ってきた厳つい男たちが、次にリラを見て逃げていく


「なぁ、これは一体・・・」


俺の疑問にロンデルが答えてくれる


「リラは元々、孤児の生まれなんだが、教団に保護される前はギルドで働いていたらしいーー」


それで幼い少女ーーそれも見た目の良さから、酒を飲んだ客や態度の悪い冒険者によく絡まれていたそうな


普通ならそこを通りすがりの冒険者に助けられて恋に落ちる、みたいないい感じの話になりそうなものだが


何しろ相手は聖女になれるほどの神聖力を持つリラである


絡んできた冒険者を血祭りにあげ


悪評を広めた客を血祭りにあげ


そうこうしているうちに名が広まり、さらに聖女にまでなった事で


今では誰も彼もが恐れをなして手を出せないらしい


それ以来、ギルドに来ると傅かれ、荒くれ者たちの姉御として君臨しているとか


「ぁ、姉さん! 今日はどんな用事で?」


「へへへっ、肩でもお揉みしましょうか?」


「こちら採れたての果汁を絞ったジュースでございます」


本当に傅かれている


そして満更でもなさそうなリラがこちらを向くと


「ふふっ、どんなものよ?」


渾身のドヤ顔に腹が立つが、確かに大分やりやすくなった


それには感謝しているがーー何としてもマトモなパーティを手に入れたい気持ちが強くなる


「あ、あぁ、凄いなリラはーー」


「様!」


「ーーえ?」


「私の名前を呼ぶときは様をつけなさい、ゲス勇者」


コイツ!


俺が大人じゃなかったら、この場で泣き叫ぶ目に合わせてやるところだ


「リラ“様”?」


「それでいいのよ、ようやく立場を弁えてきたわね」


「それでリラ様? 出来ればパーティメンバー募集の手続きにも便宜を図っていただけると嬉しいのですが」


「えぇー、それはちょっと面倒くさいって言うかぁー」


ここぞとばかりに煽ってきやがる


よし決めた、コイツも俺の“絶対に許さない人物リスト”に追加してやる!


将来に向けて弱みの一つでも握ってやろう


いつか絶対に泣かしてやると誓っていると、既にリストに追加されている、もう一人がぼそっと呟く


「ーーうるさい小娘ですね」


「ーー今なんて言ったの?」


セーラを睨むリラーー二人とも目が据わっている


「うるさいって言ったのよーーお嬢ちゃん?」


「お嬢ちゃんーーそれは私のことかしら、娼婦のおばさん?」


「おばーー随分と生意気な口を叩きますね、私のどこがおばさんだって? というか娼婦ってどう言うことかしら」


「名声に目が眩んで自ら股を開いたんでしょ!ーーそれに、私のどこを見てガキ扱いしてるのかしら」


「股なんて開いてないわよ! 貧相な体してるからって八つ当たりは見苦しいわよ?」


「貧相・・・」


激しく言い争う二人


とても真っ昼間から口に出すような内容ではない


貧相と言われたリラが両手をダラリと下げる


それを見たセーラも拳を握ってファイティングポーズを取る


「おいおい・・・ヤバいぞあれは!」


先程、リラの側で傅いていた男が叫び出す


「まずいって何が!」


「あれはーー今日みたいな天気の良い昼下がりだった。姉御が、酒場で喧嘩している冒険者二人を仲裁しにきた時の話だ」


「あぁ・・・あれはヤバかった、二人とも冒険者になりたてで、まだ姉御のことを知らなくてな」


「喧嘩に熱が入るうちに言っちまったんだーーガキはすっこんでろだの、貧乳は黙ってろだの」



ーーその頃のリラは、まだ神聖力を使った魔法の類は使えなかったらしく


神聖力を纏った拳での殴打しかできなかったそうだ


それでも駆け出し冒険者の敵う相手ではなく、返り血まみれになりながらボロボロにしたらしい



「そんなにヤバかったのか?」


「あぁ、あれは聖女なんて存在じゃねぇーーまさしく鬼だった」


「だが姉御の恐ろしいのはそこからでなーー」



それからリラは、ギルドで冒険者の情報を手に入れ地元に赴いた


そこは常に雪の降る、寒い土地だったと言う


そこで人の集まる場所を探したリラはなんとーー全裸に向いた二人を吊るし上げたらしい


それ以来二人は、地元に帰るたび短小太郎や包茎次郎などと呼ばれて、帰ったら結婚しよう約束していた幼馴染にも振られーー



「もういい! もう聞きたくない!」


頭を抱えたり、焦点の合わない目で涙する冒険者たちを見ながら俺は思う


なんて女だーーまるで悪魔!


男の尊厳を踏み躙りやがって!


「相手の姉ちゃん・・・ヤバいんじゃねぇか?」


「だからってーーどうするよ?」


「お、俺は嫌だぞ! 巻き込まれるのはゴメンだ!」


「あ、あー! 俺は仕事がまだ残っててーー」


次々に逃げ出す冒険者たち、それに便乗して俺も逃げ出そうとするがーー



「ちょっと! 私を置いてどこへ行く気?」


ドンと床を一度踏みしめると、こちらも見ずに静止してくるリラ


「吉田さんは・・・私の味方? それともーー」


全く目が笑ってない笑顔のセーラ


見ようによってはラノベのお約束的展開ーー二人が俺を巡って、みたいに見えなくもないが


この場の雰囲気には全く甘さが無い


そしてーー先手を取ったのはリラだった


一瞬で眼前まで近寄ってからの見事な正拳突き


俺の目には何も見えなかったが、セーラには見えていた様子で


それをしゃがんで避けると、がらんと空いたリラの鳩尾に膝蹴りを放つ


だが、リラもそれを予想していたらしくーーその手が光り輝き


「ホーリーライト!」


右手から光をぶっ放す



「おい! 何だあれは!」


俺が後ろに立ってるロンデルに問いかける


「あれは神聖力を使った対魔魔法だな、人間相手でも邪な気持ちが大きければ最悪死ぬぞ」


解説ありがとうと言いたいが、そうじゃないーー


「何でそんな冷静なんだ! 違うだろ! なんで喧嘩にそんなもんぶっ放してるんだ!?」


思わず叫んでしまった俺、だが周囲も同じだったようでーー


「ひ、ひぃぃぃ!」


「い、イカれてやがるーーあんなの食らったら上半身がミンチになっちまうぞ!」


すごく物騒なことが聞こえた


「ロンデル! 二人を止めてくれ!」


「はは、怖がらなくても俺が守ってやるよ、それにーーここで邪魔なメス共が消えればアンタはもう俺のものじゃないか?」


もうやだコイツら!




「ふふふっ、今謝れば許してあげるわよ? 謝る口があればの話だけど」


煙の晴れない場所に向かってリラが問いかける


そこは少し前までセーラがいた場所だ


既に勝ちを確信していたリラだったがーー


「それだからお子様なんですよ? もう勝った気でいるなんて」


そこには無傷のセーラが立っていた


「なっ・・・あんた! あれをどうやって防いでーー」


「あの力は邪な心に反応するんでしょ? 私にそんなものがあるとでも?」


戦慄するリラ、一瞬にしてセーラ優勢に場が傾く


というか邪な心がないとかーーミスの後始末を全てぶん投げてきた時も悪意が無かったと言い張る気だろうか


まさか良かれと思ってやったとでもいうつもりか?


それって悪意よりもタチが悪いんじゃーー



「ふふふふふっ、少しは骨がありそうじゃないーー退屈しのぎにはちょうどいいわ!」


悪魔みたいな笑い方で、悪役みたいなことを言い出したリラが飛びかかり


「それはこっちのセリフですよーー生意気な性根をへし折って従順にしてあげる!」


それに対抗するセーラ


逃げ惑う冒険者に泣き叫ぶ職員


酒場のマスターなんて護身用の武器を構えて震えている


誰も彼もが阿鼻叫喚している地獄の中


リラが手元に炎と雷を出現させーーそれに向けてセーラが近場の机をぶん投げる


机を破壊する雷の槍、炎の玉だけがセーラに向かっていき


それを転がって回避するセーラを見てリラが高笑いする


「あははははっ、避けたわね! つまりーーあんたに属性系の魔法は効くってことでしょ!」


笑顔は崩さないが無言を貫くセーラ


その態度から間違いなさそうだと判断するリラ


そして今の魔法でギルド内が破壊され、酒場の酒が散乱する


舌なめずりをしながら近づいてくる姿を見て、セーラの表情に焦りが混じる


その瞬間ーー二人のすぐ横で爆発が起きる


「おい! 不味いぞーー酒場の高濃度アルコールに引火しやがった!」


酒から酒へと連鎖的に爆発が起きる


その爆発はギルドカウンターの書類をも吹き飛ばし


そこに居た全員を巻き込んで一際大きな爆発を起こした



ーーその日、王都のギルドで起きた爆発事件


死者こそ出なかったものの、重症数名、軽症多数で医療施設を騒がせた


ギルドは容疑者である勇者パーティに対して損害賠償を請求するとともに


一切の協力をしないことを公表したという


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