仲間が増えました
「えーっと、仕事でミスしたら辞令が下っちゃいました、てへっ!」
ぶん殴りたくなった俺は悪くないと思う
「お帰りください」
「ちょっと待ってください吉田さん、目がマジですよ?」
今目の前にいるこの女神ーーセーラ様が人違いで俺を転生させた
そのせいでこっちの神様がへそを曲げ、チート無しサポート無しの無一文で放り出された
幸い今のところは勇者じゃないとバレてないので城に住めているが、それも時間の問題だろう
最悪、死刑になりそうなんだが、やべぇマジどうしよう
「セーラ様」
「セーラでいいですよ?」
「じゃあセーラさん、こっちの神様はやる気を無くしてしまったんですよね?」
「はい、なのでどうしようかと」
だが幸い、こっちの神様がやる気を無くしただけだ
神様ならもう一人いる
「セーラ様が代わりに能力の向上とかをしたり」
「できません」
「スキルや恩恵を与えたり」
「できません」
「おい」
セーラ様が真顔で即答する
「えーっと、セーラ様? こう女神的な能力って一体・・・」
「私ってまだ平の女神なんですよね、なので転生とかの書類を見ながら転生陣を起動させるだけというか」
「つまり女神的な能力はカケラもないと?」
「いえまぁ、学校で再生魔法とか習ったりしたのですがーー」
「おぉ、そういうのが使えるとか?」
「優秀すぎるんですかね、力が強すぎて人間に使うと赤ちゃんまで戻っちゃったり」
「使えねぇぇ!」
ホントにどうしようか、というかこれは厄介な女神を押し付けられただけなのでは?
こんなこと日本で起こったら、責任者総出で記者会見するレベルの大問題なんだが
「それでは女神様、お出口はあちらになります」
「あはは、嫌だな、そんな他人行儀な・・・ちょ、あの、追い出そうとしないでくださいよ!」
「ありがとうございました、それではまたの機会をーーおいっ、抵抗するな! これ以上厄介ごと抱えられるか」
俺がセーラを外に追い出そうとしていると、ドアをノックする音が響く
思わず二人とも動きを止めて、音のした方を向くとさらに声がかかる
どうやら、いつも通りシーツを変えに来たメイドさんらしい
「あの・・・ヨシダ様? シーツを変えに参りましたが、女性の方が居られるのですか?」
おっと、どうやら思った以上に声が響いていたようだ
すぐに謝ろうとドアの方に手を伸ばすところで気づくーー先程の取っ組み合いでセーラの服が乱れている事に
さらにセーラは涙目、そのセーラの腕を掴む俺ーーどう見ても無理矢理連れ込んでいるようにしか見えない
そんな考えに至ったところでーーセーラと目が合う
ーーこの瞬間二人の考えが一致した
「酷い! 昨夜あんなことまでしたのに、用がなくなったらもう捨てむぐっ!」
「おい、おいっ! ちょっと待てなんてこと言いやがる!」
咄嗟にセーラの口を押さえた俺だが、時すでに遅く
ドアの向こうでガタリと何かを落とす音がする
「っ!? す、すみません! お邪魔しました!」
そう言って走り去っていく足音が聞こえると
セーラは俺を見てニヤリと笑う
「ふふっ、これでもう面倒見るしかなくなっちゃいましたね!」
思わず頭を引っ叩いてしまった俺は、絶対に悪くないはずだ
◇◆◇
「ねぇもしかしてあれがーー」
仲間を紹介する、という国王の言葉で呼び出された俺
「しっ、目を合わせたら勇者の権力で部屋に連れ込まれるらしいわ」
ついて来ると言って聞かないセーラと共に廊下を歩いているーーのだが
「そばにいる娘はもうーー可哀想に」
何やら視界の端々にいるメイドさんが騒がしい
数日前はこちらを見ながら蔑むように笑っていたメイドさんだが
今日のは本当に汚物を見る目をしている
さらには怯えの感情も含まれているみたいなーー
「えーっと・・・そこのメイドさん?」
「ひっ・・・」
完全に誤解されている
「い、いや、さっきの件を聞いたのかもしれないけど」
できるだけフレンドリーに接してみるも
「許してっ・・・わ、私には将来を誓い合った恋人がーー」
走って逃げ出してしまう
それを見ていた他のメイドさんたちも一斉に目を背ける
「私たちメイドまで口説いてーー」
「恋人がいてもお構いなくーー」
「公衆の面前で手を出そうとーー」
さらに噂がひどくなった
「ちくしょー! 俺は悪くないのに!」
これ以上悪くなることは無いだろうと思っていた状況がさらに酷くなったのだった
だが彼はまだ知らない、さらに状況が悪化することを