異世界召喚
ここムント王国の中央に位置する王宮にてーー
きらびやかな内装だが、そこらの成金のような俗物さは無い
どこか神聖な雰囲気でつつまれたここは、この国で信仰されている唯一神ウースを奉る大聖堂である
「世界を支配する神ウース様ーーー」
国教として崇拝されていて教団の総本山も国の中央にあるウース教
だが実際は、そこまで国と教団の関係は深くなく、むしろ裏では双方の幹部や上層部が利権をめぐって日夜汚い争いを繰り広げてすらいる
そんな国と教団だが、今日この瞬間においては双方の利害の一致から
また世界の存亡がかかっているため、手を取り合い一つの儀式をとり行っていた
「この世界、そして人類を救うためーーー」
この儀式は代々王家に伝わっている儀式であり、実行するにはウース教団の教皇猊下と今代のムント国王陛下の立ち合いが必要となる
「いと強きお方をーーー」
実際に儀式の実行役として、教団の敬虔な信徒である巫女や高位の神官数名
そして上級貴族や教団の上層部なども儀式の見学者として参列していた
「ーーーこの場にお導きください」
国と教団のそうそうたる面々をもってして、異世界より世界の救い手を召喚する儀式の名は
"勇者召喚の儀“
今現在、少々の問題はあるものの国内は落ち着いており、これといって大きな問題があるわけでもない
また他国との戦争なども、周辺の国々との同盟があるため、ここ百年ほどは起きてない
つまり、今はまさに平和一色だった
そう“だった“のだ
この平和の中でなぜ異世界の勇者が必要なのか、それには数日前に突如降りてきた神託が関係していた
「この世界に降り立ち、かつて世界の半分をその手に落とした大魔王サタン、その復活の時が近づきつつある」
このような信託を教団の巫女数名が同じ瞬間に受け取った
それから国と教団との会議にて、双方一致で出た打開策が勇者召喚の儀
二百年前にこの地に降り立った魔王サタンを打ち倒すため、聖剣と数多のスキル持ち、多くの魔物を屠り続けた救国の英雄
これを異世界より召喚した儀式である
対策が決まってからの行動は速く、王国と教団にそれぞれ残された資料を元に儀式の準備をはじめて、それが数日で完成
そして今、儀式のただ中のここに至る
巫女の一人が召喚の言を締めくくると、反応した儀式の台座の中心にある方陣が光り輝く
ひときわ眩い輝きを終えるとそこに一人の青年が立っていた
黒髪黒目の相貌は、まさしく資料や言い伝えにある通りで、誰もが召喚の成功を悟った
最初に歓声を上げたのは誰であったか
次々と沸き起こる歓喜の叫びの中、国王が近づき問いかける
「其方が異世界の勇者か、私はこの国の王ハリス。すまないが、この世界を救ってはいただけないだろうか?」
期待に高まった周りの者たちが、はやる気持ちを抑えて返答を待つ
「勇者、ですか・・・すみませんが、まずは状況の説明をお願いできるでしょうか?」
「う、うむ、そうだったな・・・少し急ぎすぎたようだ。ではーーまずは魔王についてからか」
その後、王に指示された宰相が前に出る
それから魔王のこと、この世界、そしてムント王国のこと、儀式のことなどを教えていく
それらの説明が終わり、王が再び勇者に尋ねる
「おおむねの事情はエバルスから説明があったが、他に分からないことがあれば聞いてくれればよい」
「いくつか質問があります。まず勇者についてですが、元の世界への帰還はできるのでしょうか?」
「それについては申し訳ないが現状では無理だ。召喚された者は、その目的が達せられなければ元の場所に戻すことはできない」
「では他の勇者の召喚は?」
「それも無理だ。この世界に召喚した勇者がいる以上、追加で呼ぶことはできないのだ」
「なるほど、それでは根本的なことについてですが、、勇者とは?」
「そうだな、私も文献でしか知らないが、勇者とはーー」
そうして語り出すのは王国の歴史に残された勇者の伝承
勇者とは異世界より呼び出される者
伝承によるとその者は世界を渡り
その際に勇者に見合うだけの能力が与えられるという
◇◆◇
どうやら女神様の話は正しかったらしい
想像したことくらいはあるが、実際起こると戸惑うな
というか召喚されたら帰れないとか酷くないか? 普通に犯罪だと思うんだが
目の前の国王ハリスを見ながら俺ーー勇者として転生した、吉田拓実は思った
「そういえば、まだ名前を聞いていなかったな、其方の名前はーー」
「吉田と申します」
「ヨシダ? あ、いや、すまない。あまり聞かないもので戸惑った」
短く謝罪をするとハリスはさらに続ける
「ときにヨシダ殿ーー先代の勇者は召喚時、"すてーたす・おーぷん"なる呪文を唱えて力を確認したというが、其方はどうだろうか」
「ステータス・オープン、ですか」
ステータスーーチートとか確認できるやつか?
そう思って唱えてみるが・・・何も出ない
あれ? ここは普通、凄い能力が確認できて周りが驚く・・・みたいな
「どうだろう?」
「出ないで・・・あぁそうか」
そういえば女神様はこちらの神から接触があるとか言ってたな
つまりその時に能力とかが与えられるのか?
「今はまだ確認できないみたいですね、女神様からはこちらの神から接触があると言っていたので」
「こちらの神・・・それはもしや!? ウース様のことでしょうか!」
そこで声を上げたのはハリスと対になるように立っていた男ーー教皇ノリス
「ウース様? それがこちらの神なのですか、であればそうかと思います」
「なんと! つまりあなたは神の使徒ーー」
その言葉を聞き、ノリスから周りに驚きが伝播していく
それを咳払いで止めるハリス
「それでヨシダ殿ーー魔王の件なのだが」
「はい、こちらも仰せつかっているので、やらせていただきます」
おぉ、と周囲から歓声が上がる
それからは予算的な話や人員、その他サポートについての説明を受けーー気づけば日も暮れる頃
「説明することはこれくらいだろう。それでこれからだが」
いわく
当面は王城に部屋を用意するので、そこで生活できる
食事に関しても部屋に運ばせる
必要なものがあれば用立てる
必要な情報については、許可は必要だが文献や資料など調べてもらっていい
といったことを伝えられた
それから部屋に案内されて一人になるーー
「すげぇ部屋! なんだこの広さ、超VIP待遇じゃないか」
でもまぁそれも当然か、この世界の人類の存亡に関わるわけだし
そういえば国王が数日中に仲間の紹介をする、とか言っていたな
「仲間・・・か、どんな奴らだろう?」
不安はあるが、これからの事に想いを馳せてると嫌でもテンションは上がってくる
当面は神ウースとやらからの接触を待ちつつ、この世界に慣れていかないとな
それにしても・・・この世界って人間以外もいるらしいし、年上の妖艶なエルフとか・・・ごくり
「くぅぅぅっ! 異世界バンザイ! 女神様ありがとう!」
両手を伸ばしてベットに寝転がる
色々あって精神的に疲れたのか、すぐに眠れそうだ
明日からは異世界生活だ!