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第11話 プロ意識、巨乳化、妹系

「はい皆さんどーもこんにちは! あーぽんですっ! 今日はっ! YouTubeSpaceに来ています!

 

 たぶん来るのは2年ぶりとかかな? 前は六本木ヒルズにあったけど、今は渋谷なんだよねっ! あーぽん、渋谷は庭ってゆーかめっちゃ来るからすごくテンション上がった!


 で、なんで~ここに~来てるかと言うと~、私ってこれまで色んなドールを紹介してきたじゃないですかっ!? ファンシー雑貨大好きなんで、普段から動画とか関係なく色々調べてるんですけど、『サプライズトイ』って知ってます? 


 もともと海外で人気のドールで、箱を開けるまで中身がわからないらしいんだよね。なにそれめっちゃ楽しそうっ~! テンション上がるっ~! ってことで、今日はこのかわいいドールを紹介していきたいと~~思いますっ!!」


   ===



 明るくハイテンションでハキハキ喋るあーぽんの姿に、先程までの暗さは皆無だった。顔立ちは変わっていないはずなのに、別人のようにすら見える。ディレクションするところもなく、その必要もないくらいスムーズに商品の紹介をしていく様子に、メーカーの担当者さんも安心した面持ちを浮かべていた。


「一旦休憩です! カメラ回し続けときます!」


 しばらく撮影したのち、俺の合図で一旦休憩となる。


 その瞬間、杠が興奮した面持ちで話しかけてきた。


「リョータさん、すごいですっ!! お話もわかりやすいですし、プロって感じで……めっちゃスゴいです!!」

「杠は語彙力つけような」

「はいっ!!」

「リョーくんっ!!」


 と、そこで横から割り込んでくる人が。あーぽん(陽ver.)だ。


 最初と打って変わって明るい雰囲気で、清楚なきゃぴきゃぴJKにしか見えない。先程まで岸壁に張り付く海苔のようにべっとりしていた長い黒髪が、陽の気に当てられたのかふんわりとウェーブしており、洗練された華やかさすら感じさせる。


「いい感じのディレクションありがとーっ!」


 で、俺の腕に絡みついてきた。ちっぱいで肋骨折ったとか言ってたけど、陽verはバストサイズも大きくなるらしく、豊かな双丘が俺の腕を挟んだ。


「いや俺はべつになんにもしてないよ。あーぽんがスゴいだけだよ」

「違うのっ! リョーくんが撮ってくれるって安心感があるからうまくやれてるのっ!」


 会話しつつ、俺は彼女を離そうとするが、逆らうように密着を強めた。甘い匂いに、俺の息子もこのままだとブンブンハローユーチューブしそうな感じだ。


「おい、ちょっとあーぽん! 他の人が見てるからやめろ!」

「えー、べつにいいでしょーリョーくん!!」

「良くないだろ! ここ公共の場だし」

「んー……あ、今の『他の人が見てるからダメ』っての、もしかして『だから他の人が見てない場所に行こうぜあーぽん』って意味かなっ!?」

「違う違う違う……」


 と、俺はそこで、横にいる杠が冷ややかな視線を送ってきていることに気づく。


「え、リョータさん……」

「こいつはカメラ回ってるときはずっとこうなんだよ……」

「なによ君~! さっきから気になってたけど誰なのっ?」

「……私は間瀬杠と申します。リョータさんにYouTubeのプロデュースをしてもらうことになった、新米YouTuberです」

「へ~、君もYouTuberなんだあ……リョーくんは渡さないからね?」


 そう言うと、あーぽんはさらに俺の腕を強く抱きしめる。


「いや、全然争うつもりないんですけど」

「私はもう何年もリョーくんに恋してるんでっ! そこんとこよろしくって感じでっ!」

「こら、あーぽん暴走しすぎだっ!!」


 俺はなんとかあーぽんを振りほどくと、高らかに宣言する。


「撮影再開しまーっすっ!! 皆さん持ち場に戻ってください!!」


 スタッフたちが撮影再開の準備を始めたことで、


「リョーくんにプロデュースしてもらえたからって、いい気になるんじゃないからね、小娘がっ!」


 なんて捨て台詞を残し、不服そうにしながらもあーぽんは戻っていった。


   ○○○


 撮影が終了し、機材等を撤収、元の人格に戻ったあーぽんの襲撃を逃れ、俺は杠と一緒に帰路についた。


 そして、ふたりで電車に乗る。撮影で疲れたのか、杠は席にもたれかかって腰掛けて、少しぼーっとしていた。


「今日はお疲れ様」

「あ、リョータさんこそお疲れ様です。貴重な体験をさせてもらえて本当に感謝です」


 俺の一言で姿勢を正した杠の口から、丁寧な言葉が続けて出てくる。


「プロの現場がどういうものかわかったろ?」

「はい。色んな人が関わってお仕事って出来ているんだなと……うまく言えないですけど、そう思いました」

「あーぽんもスゴかっただろ?」

「はい……正直、今の私とは全然違うなって。喋り方もユーモアも、YouTuberって感じでした。カメラ回ってるときはオーラありましたし」

「カメラ回ってないときも別の意味でのオーラはあるんだけどな。背後霊的な」

「たしかに」


 どこか悔しそうな言い方だったが、俺の一言で少し杠の表情が緩む。


 あーぽんは、ああ見えて自分の見せ方をよくわかっている。明るさを乗っけさえすれば、自分の容姿は清楚でありながら華やかな、つまりちょうど万人受けするルックスの女子高生だと認識しているのだ。まあその結果、わりと二重人格的だけど。

だからこそ、杠には彼女の姿を、間近で見てほしかったのだ。


「今日は色んな発見があったと思うけど、忘れないで今後に活かすようにな」

「はい!」


 威勢よく杠が言う。俺も自然と、自分の表情が柔らかくなるのを感じる。


 今日一日、一緒に長い時間を過ごしたことで、自然と距離感も縮まったらしい。


「でも、リョータさんって、ああいう女子が好きだったんですね」


 と、そこで杠がそんな風に漏らした。


「え、ああいう女子って?」

「決まってるじゃないですか、あーぽんさんのことです」

「……いや、俺は全然そんなつもりは」

「でも嬉しそうでしたよー、密着されて」

「えっ」


 杠はいつになくジトッとした視線で、俺を見てくる。


「あーぽんさん、二重人格なのはさておき見た目は清楚ですよね。例えるなら妹系というか……リョータさん、実の妹が好きなのに、恋愛対象もそっち系なんですね」

「いや、待て杠」

「妹も妹系も好きなんだー的な。まあ見た目大人っぽい私には関係ない話ですけど」

「見た目大人っぽい……杠、お前色々と勘違いしてるぞ」

「なにがですか」


 冷たい目で見てくる。敬語にも表れている通り、今はまだ仕事中らしいが、この件について引くつもりはないようだ。


「まず、俺はあーぽんのことがべつに好きなワケじゃない」

「そうですか。まーなんでもいいですけど。私は推しの恋愛事情に口を挟まない主義のオタクなので」

「次に、俺は年上好きだ。こんなこと電車で言うのもあれだが、年上のエロい女性がめっっっっちゃ大好きで、いつかそういう人で童貞を捨てたいと思ってる」

「ホントに電車で言うことじゃないですね。アンパン○ンみたいに頭取り替えてきたほうがいいんじゃないですか?」

「で、これが一番重要だが、杠、お前はどう考えても妹系だ」

「……」


 杠が突如、ポカンとする。


「見た目大人っぽいとか言ったけど、全然違う。むしろ、めちゃくちゃ妹系だ」

「……またまたーっ! リョータさん、冗談が好きなんですねっ!!」


 そう言いつつ、胸をパチンと叩いてくる杠。


「いや、冗談じゃないから」

「いやいやー……ホントに言ってます?」


 俺が黙ってうなずくと、杠が真顔に戻る。一旦明るいテンションで笑い飛ばそうとしていたが、できなかったらしい。


 杠は後ろを振り向くと、窓ガラスを鏡にして自分の顔を見る。


「え、私が妹系とか……」

「むしろどこを見て大人っぽいと思ったんだよ」

「だって私、長女ですし、普段から家事とかしてますし……」

「まあ内面はそうかもだが、見た目はどう見ても妹系だ」

「ウソでしょ……妹系なら、家系のほうがまだ近いと思ってたのに……」

「なんでラーメン?」

「家系じゃなくても二郎系のほうが妹系より近いですよこの顔……」

「もはや意味不明だな」


 呆れてツッコミを入れるのすら諦めてしまった俺だけど、しかし、これがこの子の現状なのだろう。自分のキャラとか容姿を客観的に分析できてないのだ。


 だからこそ、ひとりでYouTubeをやっても冴えない感じだったし、続けても人気が出そうな雰囲気もなかった。


「ってことはリョータさん。私、YouTuberとしてそっちのキャラでいくんですかね?」

「まー、杠がどうしたいかも当然考えるけど、俺としては妹系で売り出すのがいいかなって……もしかして不満だったりする?」

「いえ、不満なんてないです」


 しかし、俺の言葉に杠は勢い良く首を横に振る。


 少しも間を置かず、だからこそ本気でそう思ってるのがわかった。


「それが私の強みで、人気を出す武器になるならむしろそうなりたいです。リョータさんが言うなら間違いないって思ってます」

「そう言ってくれるのはありがたい」

「それに、私には守るものがありますし」

「……そうだな」


 幼い容姿とは対照的な、力強い言葉に思わず笑みが浮かぶ。


 そんな俺の反応を見て、杠も笑顔で明るく言った。


「それに、妹系YouTuberと言ったって、本当に妹になるワケではないですしねっ!」


 その言葉が耳に入ってきた瞬間、なぜか俺は自分の思考が停止するのがわかった。


 当然のことを口にしただけなのに、言葉が出てこず、首の後ろに冷や汗が浮かんだ。


「……」

「リョータさん?」


 気づけば、杠が下から見上げていた。心配そうな、不可解そうな表情だ。


「いや、なんでもない。ただお前が意外にしっかりしてて、驚いたというか」

「え、ホントですか!? もー、そんなこと言っても美味しい煮物くらいしか出ないですよー!?」

「だからどんだけ煮物に自信あんだよ」


 なんとか冗談で場をごまかした。杠は俺の動揺に、気づいていなかったようだ。


 そして、すっと前を向き、決意に満ちた表情でつぶやく。


「私、妹になります。視聴者の皆さんの妹に……」


 強いその声は、混雑した電車の中でも、しっかりと俺の耳の中に届いた。


 と同時に、亡き妹とそっくりの横顔からそんな言葉が吐き出されることに、胸が言いようのないざわつき方をするのを感じていた。


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