第1話 始まりの始まり
壮大な物語はハクシから始まる。アドリブの方が面白いのかもしれないという考えで始めてみたいと思う。なぜならセカイはセカイに生きる彼、彼女らが作る物だからだ。そのセカイの人々の珍道中ご覧あれ。
…ここはどこ?
私は砂漠に立っていた。
「もう朝ごはんの時間よ!用意しなさい!」
私がいつもの様に喝を入れても聞いてくれる執事は誰もいない。魔法を使ってみた。魔法は発動しなかった。ーここらの土地は魔力が枯渇しているのだろうー私はそう思った。果てしなく広がる砂漠の先には地平線が見える。ーどうすればいいんだろうー私の目には涙が浮かんでいた。涙なんて何年ぶりだろうか。とりあえず自分の周りを確認したが何もない。食べるものも水もない。私は歩いた。誰もいない。どこまで歩いても人が見当たらない。何時間歩いただろうか。すっかり夜になっていた。朝昼晩1食も抜いたことがなかった私はすっかり疲れ果てていた。そんな矢先街が見えた。空腹なんて忘れた。今は歩いて行くんだ。私はまた歩いた。街へ向かって。だが歩こうとも一向に街へたどり着かない。それどころか街へ近づかない。街へ向かっていたはずなのに街はいつしか見えなくなっていた。私は幻覚だと気づいた。もう駄目だ。死にたい。初めてそう思った。だがナイフはなく、腹は減っていても死ねない。ー天は私のことを殺してくれないの?ーもううんざりだ。空には綺麗な星が浮かんでいた。
何時間たったんだろう。外が明るい。そして私はベッドの上にいる。目を開けた。目の前には水がある。私は力を振り絞って水を飲んだ。そしてここは砂漠ではなく家だった。誰の家かは分からないがきっと親切な人が迎え入れたのだろうと考えておいた。
「目が覚めたのか?」
温厚そうな老人だ。きっとこの人が迎え入れてくれたのだろう。
「はい」
元気ではなかったが出来るだけ元気そうに答える。老人は火を焚いている。何故魔法を使わないのだろうと私は思った。
「ここらでは魔法が使えないのですか?」
さっきからの疑問をぶつけてみた。
「魔法?そんなものが本当にあるのか?」
どうやら魔法は知らないようだ。私は質問を続けた。
「ここはどこなんですか?」
「クラネリアさ」
ますます分からない。クラネリアとはどこなのだろう。
「国名を教えてくれませんか?」
「国?国なんて遠い昔になくなったよ。君こそどこから来たんだい?」
「私はプレセクト・アヌスのイリアから来ました」
プレセクト・アヌスは有名だからきっと分かるはずだ。そう思った。
「知らないな」
予想外だった。まさかここは私が生きているセカイとは違うのだろうか。私の知っているセカイはこんなものではなかった。私はどうすればいいんだろう。そのことが頭に張り付いて離れない。混乱状態だったのだ。
「君はあんな砂漠のど真ん中で何をしていたんだ?」
「すみません。分からないんです。」
私の心は既にしょげていた。いつもなら私は威張っていられた。この先のことが全く分からない。どうすればいいのか分からない。まさに真っ白だ。とりあえず何日か居させてもらおう。そうしたら何かが思い浮かぶかもしれない。
「少しの間ここに居させてくれませんか?
まだ全然分からないことだらけなんです…。」
「そんなに気を損ねないでいい。ゆっくり落ち着くまでいなさい。」
私は少し落ち着いた。この人といると気持ちが楽になる。
「そういえば君の名前はなにだい?」
「私はラベンダー。ラベンダー・ロストレアよ。」
「ほう、いい名前だね。」
このセリフはこのセカイの挨拶代わりなのだろう。
「私の名前はアルガツェフ・ヴォラピュニアだ。よろしく。」
ー随分と呼びにくい名前だなあー私はそう思った。
「こちらこそよろしくお願いします。アルガツ…アルガツェフ・ヴ…アルガツェフ・ヴォラピュニアさん。」
言えるかどうか試してみようと思って言ってみたがやはり私は随分呼びにくい名前だと思う。
アルガツェフさんは笑っている。私もつられて笑い始めた。笑える…そのことが今は嬉しかった。ー今を楽しむのも大事なのかもしれないー私は胸にそう刻んでおいた。ハクシからどんどん刻んで行こう。そして私は作り上げるんだ。
私だけの物語を。




