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【さびついた剣】を試しに強化してみたら、とんでもない魔剣に化けました  作者: 万野みずき
第三章

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第九十二話 「僕の番」

 

「強そうな付与魔法(エンチャント)だねぇ。魔人の神器みたいだなぁ」


 羊魔人は眠そうな声でそう言いながら、枕の神器を振り上げて飛びかかってきた。

 対してこちらも黒炎を纏った魔剣を轟々と振り回す。

 瞬間、お互いの神器が激しくぶつかり合い、文字通り火花を散らした。

 見ると、奴の枕の神器には焼け焦げたような傷が付いていた。


「……よしっ」


 これなら行ける。

 ほとんど同等だった神聖力を、強力な付与魔法(エンチャント)によって上回ることができた。

 元の神聖力がそもそも高いので、付与魔法(エンチャント)を使って越えられない神器は他にないだろう。

 さすがは【呪われた魔剣】と言ったところだ。

 この剣の性能(プロパティ)ならどんな相手にも有利を取れる。 

 唯一の欠点が使用時間に制限があることだが、そこは早期決着を心掛ければいいだけの話だ。

 ゆえに僕は、恐れずに間合いを詰めて、黒炎の魔剣を全力で振った。


「はあっ!」


 宙に炎の線を描きながら刃を叩きつける。

 羊魔人は枕の神器を盾のようにして構えてそれを受け止めた。

 また新たな傷が刻まれる。確実に耐久値が減少している証拠。

 このまま攻撃を続ければ、いずれは奴の神器の耐久値が消滅して神器が砕け散ることだろう。

 だから攻め続けろ!

 

「やっぱり君、すごく強いねぇ。このままだと負けちゃうかもなぁ」


 羊魔人はそんな台詞を、いかにも呑気な様子で口からこぼしている。

 まるで他人事だと言わんばかりの物言いだ。

 危機感が足りていないんじゃないか? と思っていると、不意に奴は青白い顔に不気味な笑みを刻んだ。


「だからちょっとだけ、本気出すねぇ」


 すると、どういうわけだろうか。

 突如として羊魔人は、眠るようにして瞳を閉じてしまった。

 目を……瞑った? なんで今この状況で?

 先刻の宣言とは正反対にも思える行動。

 本気を出すどころではない。あれでは実力のほとんどが出せなくなってしまうではないか。

 戦闘において最重要の感覚である“視覚”。それを自ら捨てるなど自殺行為にも等しい。

 どんな意図があるのかさっぱりわからない。

 わからない……けど、この好機を見逃すほど僕は間抜けではない。


「――っ!」


 今が最大の攻め時と判断した僕は、即座に地を蹴って羊魔人に肉薄した。

 そして右手の魔剣を左腰まで引き、正直な横一文字斬りを繰り出す。


「う……らあっ!」 


 目を瞑って佇む魔人に、これを避ける余地は毛程もないと思えた。

 だが……


「――っ!?」


 魔人はまるですべてを見通しているかのように、僕の斬撃を完璧に掻い潜った。

 避けた? この状態で? もしや偶然?

 と思って続け様に二撃目も放ってみたけれど、それも難なく回避されてしまう。

 間違いない、奴は目を瞑っていても僕の攻撃が見えている。

 眠りながらでも戦うことができるみたいだ。

 いや、それよりも驚くべきことは、今の一瞬の動き。

 明らかに、先ほどよりも俊敏になっている。

 まるで眠っているような様子とは正反対に、格段に素早くなっているのだ。

 奴の神器の“能力”なのだろうか?

 目を瞑ることで強くなる力? あまり整合性が取れているようには思えないけど。


「目を瞑ってるとさぁ、すごく眠くなってくるよねぇ」


「えっ?」


「特に、寒い所で暖かい格好しながら眠るの、大好きなんだよねぇ」


 戦闘中でありながら奴は、寝床で漏らすような間延びした声でそう言う。

 次いで右手にぶら下げていた枕の神器を、まるで抱き枕にするように胸に寄せて、こくこくと小船を漕ぎ始めた。


「おや……す……み……」


 ……信じられるだろうか。

 戦闘中に目を瞑っただけでも驚きだというのに、ついに奴は小さな寝息まで立て始めた。

 完全に眠っている。敵を目前にして。

 本当になんなんだ、この魔人?

 ともあれ、呆然と見守っていても仕方がないので、変わらず攻撃を続ける。

 反撃を警戒しつつ間合いに入り込み、右手の魔剣を懸命に振り続けた。

 だが……


「くっ――!」


 攻撃がほとんど当たらない。

 軽やかな身のこなしで、紙一重で斬撃を避けられてしまう。

 たまに当たったとしても枕の神器でいなされて、綺麗に受け流されてしまうのだ。

 先ほどよりも俊敏さが増したのも当然あるが、それよりも捉えどころのない独特な動きのせいで行動を読みづらい。

 嫌な緩急だ。

 まるで酔っ払っている人間が千鳥足で右往左往しているみたいである。

 

「スー……スー……」


 当の魔人は、やはり小さな寝息を立てながら目を閉じている。

 ほとんど眠っている状態なのだろう。

 すると次第に向こうからも、攻撃を仕掛けてくるようになってきた。

 鉛を詰め込んだ麻袋のような枕を、ゆらりゆらりと振り回してくる。

 僕はそれらの重い攻撃をギリギリで躱しながら、なんとか反撃できる隙を見つけようとした。

 この魔人、やっぱり段々と強くなってきている。

 素早さだけではなく力も増しているようだ。

 もしかして“眠くなるほど”強くなっているのか?

 目を瞑っているのは眠気を誘発させるため? だとしたら不可解な行動にも説明がつく。

 そしてもしそれが奴の神器に宿されている能力なのだとしたら、このまま好き勝手に眠らせておくわけにはいかない。

 眠気に応じて身体能力が向上するのだとしたら、完全な睡眠に入った瞬間、羊魔人は計り知れない存在へと昇華することになる。

 今はまだ眠りが浅い状態で、能力の半分も発揮できていないだろうけど、それでいてこの強さなのだ。

 完全な睡眠状態に入られてしまえば、いよいよ手が付けられなくなるかもしれない。

 その前に何としても決着をつける。


「はっ!」


 僕は枕の一撃を紙一重のところで掻い潜ると、すかさず魔人の腹部を狙って魔剣を振った。

 その一撃は寸前のところで神器に防がれてしまうが、ようやくのことで鍔迫り合いのような形に持ち込めた。

 ここの力比べで勝ち、決定的な一撃を加えることができれば形勢が一気にこちらに傾くぞ。

 そう目論んで全力で魔剣を押し込むが、まるでビクともしない。

 凄まじい筋力だ。魔剣を装備した僕とほとんど変わらないくらいの力を持っているなんて。

 それに神器の方もかなりの神聖力を有しているらしく、付与魔法(エンチャント)を纏っている魔剣でも両断することができずにいる。

 僕の【呪われた魔剣】も相当な性能(プロパティ)のはずなのに。


「うっ……!」


 それでもめげずに神器の押し合いを続けていると、不意に意識がぼんやりとしてきた。

 まるで目の前に濃霧が掛かったように、視界がぼやけていく。

 なんだこれ? 魔剣の呪い? にしては痛みや苦しさは感じない。

 というより、なんだかものすごく……眠たい。


「あっ、やっと眠くなってきたかなぁ?」


「――っ!」


 僕は遅まきながら現状を理解し、唇を噛み締めて眠気を堪える。

 これは間違いなく、ヘリオ君の仲間を眠らせた力と同じものだ。

 やはりこの枕の神器に宿されている付与魔法(エンチャント)がそうなのか。

 まさか神器を受け止めているだけで影響があるなんて。


「人間はみんなこうやっておやすみしていくんだよぉ。それで私が頭を潰してあげてるんだぁ。君も同じようにしてあげるねぇ」


 羊魔人はそう言いながら、さらにぐっと枕の神器をこちらに押し付けてきた。

 このまま鍔迫り合いを続けていたら、確実に昏睡させられる。

 力比べで勝つどころではない。すでに眠気のせいで上手く力が入らないのだ。

 一度距離をとるしかないか? でもできればこの一撃で仕留めたい。

 ヘリオ君にあれだけの啖呵を切ったというのに、逃げ出すような情けない姿を見せるわけにはいかないじゃないか!

 だって僕はもう、金級冒険者なんだから。

 七大魔人だってこの手で倒したのだから。


 …………そういえば。

 オニキスのことで思い出したんだけど、奴と戦って以来、“あれ”をまだ一度もやっていなかった。

 忘れていたわけではない。今日まで使う必要性がなかったんだ。

 あんなとんでもない魔人と戦う場面なんてそうそう訪れないし、よほど追い込まれでもしない限り使う必要はないのだから。

 今できるだろうか? できたらこの戦いが、一気に楽になるんだけどな。

 …………試してやる。

 僕は右手で握っていた魔剣を、左手も加えて両手で握りしめた。


付与魔法(エンチャント)――【闇雷ダークライ】!」


 瞬間、枕の神器と鍔迫り合いをする魔剣に、黒々とした稲妻が迸った。

 それは瞬く間に刀身を覆う黒炎と絡み合い、凄まじい光と轟音を放ち始める。

 激しく揺れる“黒炎”と爆ぜるように弾ける“黒雷”。

 二つが一つに合わさった。

 できた。あの時だけのマグレじゃなかったんだ。体が完全に覚えている。

 二つの付与魔法(エンチャント)を同時発動し、重ね掛けする絶技――二重付与魔法(デュアルエンチャント)


「なに……それ……?」


 羊魔人は目の前で起きた現象に、瞳を開いて激しく戸惑っていた。

 同じようにして後ろの三人も、僕の神器を見つめて固まっている。

 そういえばダイヤに見せるのもこれが初めてだった。

 僕は少しだけ得意げな気持ちになりながら、改めて魔剣を強く握り直す。

 そして打ち付け合っている枕の神器を、全力で押し返した。

 あの七大魔人の強固な魔装をも一刀両断した技だ。

 枕の神器を引き裂き、目の前の魔人に一撃くれてやることなど……


「は……あああぁぁぁ!!!」


 赤子の手を捻るより、容易かった。


「が……あっ……!」


 枕を斬り裂いた魔剣は、その勢いのまま羊魔人の肉体に深々と傷を負わせた。

 そして魔人はその衝撃で、後方へと吹き飛んでいく。

 ゴロゴロと氷の地面を転がり、力を失くして倒れ込んだ。

 近づいていくと、奴はいまだに呆然とした様子で、戸惑いの表情を浮かべていた。

 傷は深い。炎と雷によって激しく焼け焦げている。これで決着だ。


「わたし……負け……たの……?」


「……そうみたいだな」


 自らの敗北を認めることができていないのだろう。

 それほどまでに自分の実力に自信を持っていたということだ。

 まあそれも当然か。癪なことにこの魔人は確かに強かった。


「もっとたくさん、人間を殺したかったなぁ。もっとたくさん、気持ちよく眠りたかったなぁ」


 次いで羊魔人は、ハッと何かに気付いたようにとろんとした瞳を見開いた。


「あぁ、でも死ねば、ずっと夢を見ていられるのかぁ……」


 奴は倒れ伏したまま僕を見上げ、負けたのにもかかわらず不気味な笑みを浮かべた。


「殺してくれて、ありがとう……」


 言うや、魔人の体は幾千の光の粒となって消えた。

 最期まで口の減らない奴だ。

 魔人の今際を見届けていると、後ろの方からダイヤが近づいてきた。

 彼女は僕が両手で握っている魔剣を凝視し、驚いた表情をしている。


「ラストさん、それが……」


「うん、そうだよ。オニキスを倒した二重付与魔法(デュアルエンチャント)


 話だけはしていたが、実演するのは初めてだったので改めて神器を見せる。

 するとダイヤが不思議そうに神器を眺めてくるので、僕はさらに説明を続けた。


「久々にやってみたけど、やっぱり結構難しいよ。左右の手でそれぞれ付与魔法(エンチャント)を使ってる感覚だから、うっかり手放すと魔法が解けちゃいそうで」


 なんて軽く解説していると、遅れてアメジストも近くに寄ってきた。


「あんた、そんなことできたのね」


「まあ、できるようになったのは最近だけどね」


「ふぅーん……」


 なぜか彼女は意味ありげに目を細めて僕を見据えてくる。

 なんだよその目は。

 人を分析するような目で見ないでほしい。

 チラリと別の方向を一瞥すると、ヘリオ君はなんとも言い難い顔でこちらを見ていた。

 羊魔人は無事に倒した。

 これで呪いを掛けられていたヘリオ君の仲間は、今頃目を覚ましていることだろう。

 本当なら自分の手で助けたかったところだろうが、こればかりは仕方がない。

 結果良ければすべて良しとしてくれることを祈るとしよう。


「何はともあれ、お疲れ様ですラストさん」


「うん、ありがとう」


 労ってもらったことを感謝しながら、僕は【呪われた魔剣】を【さびついた剣】に戻して鞘に収める。

 そして改めて、羊魔人が倒れていた場所に視線を向けた。

 正確には、そこに落ちている真っ白な“枕”に。

 すでに半壊しているそれを拾い上げて、今一度性能(プロパティ)を確認してみた。

 

名前:睡魔の高枕

ランク:A

レベル:20

攻撃力:360

恩恵:筋力+350 耐久+300 敏捷+320 魔力+280 生命力+330

魔法:【悪夢(ナイトメア)

スキル:【睡拳】

耐久値:0/300

 

 やっぱりかなり高性能の神器だったみたいだ。

 まだまだ成長が見込めるこの状態で、すでに各数値が並の神器とかけ離れている。

 もしこの魔人と出会うのがあと少しでも遅かったとしたら、勝負はどうなっていたかわからなかっただろうな。

 神器の能力と持ち主の個性が極限に噛み合っていると、こんなにも強大な力を発揮するのか。


【睡拳】・眠気に応じて恩恵値上昇


 眠気に応じて身体能力が向上する神器。

 そして深い眠りについていながら高度な戦闘を実現できる素質。

 盾の神器と危険感知能力が合致しているダイヤと、どこか似ている才能の持ち主だったわけだ。

 七大魔人以外にも、こんなに強い魔人がいたんだな。


「さてと……」

 

 とにもかくにも、戦いは終わった。

 あとは事態の処理だけである。

 とりあえずはまあ……


 あそこにある氷の台座が、本当に『邪神の祭壇』か確かめてみるとしよう。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ナイトメアはエンチャントなのか魔法なのか
[良い点] >僕は少しだけ得意げな気持ちになりながら (>∀<)!!!ヨシ!!!
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