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【さびついた剣】を試しに強化してみたら、とんでもない魔剣に化けました  作者: 万野みずき
第三章

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第九十話 「いじめ」


 ヘリオ・トールはラスト・ストーンが大嫌いである。

 それ以上でも以下でもない。

 いじめていた理由を挙げるとすれば、ただそれだけに限られるだろう。

 しかしながらヘリオも、最初からラストのことが嫌いで、いじめの対象にしていたわけではない。

 正直、いじめる相手は誰でもよかった。

 自分が誰かの上に立っているということを証明して、それを周りの連中に見せつけることさえできれば、いじめる奴なんて誰でもよかったんだ。

 そこであの気弱で華奢な少年が標的になったのは、本当にただの偶然だったと言える。

 ヘリオから言わせれば『なんとなく』だ。

 なんとなく目についた。だからいじめた。


『おいラスト、まだ稽古は終わってねえぞ! へたり込んでんじゃねえ!』


『はははっ、その辺にしておけよヘリオ』


『また泣くぞそいつ』


 ラストをいじめると周りの連中から笑いを誘うことができた。

 誰も自分に逆らおうとしなくなった。

 その優越感からさらにいじめを加速させた。

 ヘリオにとってラストは自分を輝かせるための“引き立て役”。本当にその程度の認識でしかなかった。

 でも、一人の少女が現れて、事態は一変した。


『ラストをいじめるなー!』


 事あるごとにいじめを止めに来たルビィ・ブラッド。

 ラストへのいじめが発覚するや、まるで姫を守る騎士のようにラストにべったりとくっ付くようになった。

 それ以前からも仲は良かったようだが、ヘリオのいじめを起点にするように二人の仲はより親密になったように見える。

 引き立て役は、むしろこちらの方ではないかと思わされた。

 その事実に苛立ちを覚えて、ヘリオは徐々にラストを嫌うようになっていった。

 その嫌悪感がいよいよ頂点に達したのは、ついこの前のことである。

 祝福の儀で落ちこぼれたはずのラストが、同じ冒険者になって目の前に現れた。

 ルビィが特別昇級をして白級(プラチナ)になったと聞き、焦りを覚えている最中の出来事である。

 なんともタイミングが悪いとヘリオは思った。

 そしてラストとは価値観の相違によって衝突し、互いに神器をぶつけ合った。


『ラスト、そこをどけ』


『僕は、どかない』


 結果、ヘリオは敗北した。

 幼い頃にいじめていた相手に、完膚なきまでに負けたのだ。

 向こうからしてみたら、昔からのいじめっ子を満を持してやっつけたことになるだろう。

 感動的な話だ。爽快感のある展開だ。誰がどう見てもラストが主役だ。

 本当にこちらが引き立て役だと確信させられてしまった。

 そしてラストに負けてからというもの、ヘリオの焦燥はとどまるところを知らなかった。


『おい、本当に行くのかよヘリオ!』


『さすがにそこは難易度が高すぎるって! まだ俺らが行っていい場所じゃねえよ!』


 無謀だとわかっていながらも、凶悪と言われている危険域(エリア)に足を運んだ。

 そこにあるとされている『邪神の祭壇』を見つけて、壊そうと考えていたからだ。

 ラストの読みは正しく、ヘリオも『邪神の祭壇』を狙って雪花壇(せっかだん)にやって来ていた。

 いち早く冒険者階級を上げるためである。

 ただラストたちとは違い、ギルド長から直接依頼を受けたわけではなく、たまたま『邪神の祭壇』の情報を得ることができたのだ。

 ゆえに当然、力量的に祭壇破壊は困難だった。

 本来ならばギルド長に認められるほどの実力がなければ、依頼を紹介してもらうこともないからである。

 だから仲間には止められた。まだ早い。探索できる場所じゃないと。


『うるせえ。怖けりゃ付いてくんな』


 しかしそれを無視して強行した。

 すると危険域(エリア)内で、一人の魔人と遭遇した。

 そして戦いになり、その結果…………まるで歯が立たずに仲間の二人が呪われた。

 自分の軽率な行動のせいで仲間を危険に晒した。

 その後、尻尾巻いて逃げ出した。

 惨めだった。滑稽だった。見苦しすぎて反吐が出るかと思った。

 そして、誰にも見られたくないようなその過ちを、よりによって最悪の奴(ラスト)に見られてしまった。

 またもタイミングが悪いと、ヘリオは腹の底から思った。

 それだけにとどまらず、挙げ句の果てにそいつに命を救われた。


『別に仲間じゃない。けど、同じ“冒険者”だ。だから助ける』

 

 惨めさも極まり、思わず舌を噛みたくなった。

 だから何としても、今回の件は自分でケリをつける。

 ヘリオは傷だらけの体を酷使して、雪花壇(せっかだん)の深部へと辿り着いた。

 そこは巨大な氷塊があり、まるで洞窟のように大口を開けている。

 ヘリオは躊躇わずにその中に入っていくと、氷壁に吊るされた灯りを頼りに奥を目指した。

 地下に続く階段があったのでそこを下りた。

 下層は迷路のように氷の道が入り組んでいたが、ヘリオは迷わずに薄暗い洞窟を進んでいく。

 坑道を進み、階段を下り、また坑道を歩いていく。

 どれくらい地下に進んだだろうか。

 やがて拓けた場所に辿り着き、そこに氷で出来た祭壇を見つけてヘリオは目を見張った。

 さらに壇上に小柄な少女……魔人が寝そべっているのを発見して、一段と瞳が見開かれた。

 枕に頭を預けながら眠っているそいつは、気だるそうに寝ぼけた眼を向けてくる。


「ん〜、あれぇ? 君、どこかで会ったことあるかなぁ?」


 欠伸混じりの声を漏らしながら、その魔人はゆっくりと体を起こした。

 病的なまでに青白い肌。側頭部から生えた二本の巻き角。もこもことした純白の衣服。

 まるで温かい毛に包まれた羊のようだと、ヘリオは改めて思った。

 と同時に奴もこちらの顔を思い出したのか、こくこくと頷きを見せた。


「あぁ、そうだそうだぁ。君は逃げた冒険者くんだぁ。久しぶりだねぇ」


「……」


 寝ぼけたような声でそう言われて、ヘリオの眉が僅かに動いた。

 逃げた冒険者。向こうはその気もなかったのだろうが、ヘリオは強烈に挑発された気分になった。


「どうかしたのぉ? 私に何か用かなぁ?」


「用だと? 人間を二人も呪っておいてよく言うな。それはてめえが一番わかってるはずだろうがよ」


 とぼけているわけではなく、本気でわからないという顔をしている。

 それがまたヘリオの激情を煽ってきた。

 すると羊魔人は、得心したように首を縦に振った。


「あぁ、それで私を倒しに来たんだねぇ。んっ? でも、どうしてここがわかったのかなぁ? 前に戦ったのは全然違う場所だったよねぇ?」


「俺は特別“鼻が利く”んだよ。特にてめえらみてえなゴミ魔人の汚臭は(いや)ってほど漂ってきやがる」


 その侮辱に何も思うところがないように、羊魔人は不思議そうに首を傾げた。


「人間程度の嗅覚じゃ、そんなことできないと思うんだけどなぁ? それって神器の能力? 君の才能?」


「んなことどうでもいいんだよ。俺はただてめえを殺しに来ただけなんだからな」


 そう言ってヘリオは【雷撃の長槍】を構えた。

 この魔人を倒す。倒して仲間に掛けられた呪いを解く。目先の目的はそれだけだ。


「君じゃ、私に勝てないと思うけどなぁ? また逃げた方がいいんじゃないのぉ?」


「なんだ? 脅して追い返そうってか? もしかして負けんのが怖いのか?」


 今度はこちらが挑発気味に返すと、羊魔人は気だるそうに欠伸混じりの声をこぼした。


「今日はもう眠いから、戦わなくていいかなって思っただけだよぉ。でも君がその気なら、ちゃんと殺してあげるねぇ」


 言うや、羊魔人は祭壇から下りて、頭を預けていた“枕”を手に持った。

 何の変哲もない、ただの真っ白な枕。

 普通の人ならそう思うだろう。

 しかしヘリオはその枕を見て、思い出したかのように鳥肌を立てる。

 初見ではこれが、この魔人の“神器”だと気付くことができなかった。


「それぇ」


 気の抜けた声とは裏腹に、羊魔人は凄まじい速度でこちらに迫ってきた。

 そして手に持った枕を槌のように振り下ろしてくる。

 辛うじてその一撃を目で捉えたヘリオは、すかさず横に飛んで寸前で躱した。

 枕とは思えない重い風切り音が鳴り、ひやりとした風圧が頬を撫でてくる。

 と同時に、激しい衝撃が足元を襲ってきた。


「ぐっ――!」


 見ると、先ほどまで立っていた分厚い氷の床が、大爆発が起きたかのように陥没していた。

 ただの枕を叩きつけただけのようには到底見えない。

 付け加えて言うと、この魔人は小柄な体躯で、さらに片手で軽々と枕を振り下ろしただけでこの威力なのだ。


(やっぱつえぇ!)


 今の一撃を見ただけで、ヘリオはそう思わされた。

 凄まじい身体能力。特に“筋力”がずば抜けて高い。

 あの枕の神器の性能(プロパティ)を覗いたわけではないけれど、体感的に恩恵値は『450』を超えていると思われる。

 おそらく神聖力も同等かそれ以上。

 今まで戦ってきた魔人とは、別次元の強さだ。

 昨日の虎魔人と狐魔人が赤子のようにすら思えてくる。

 それにこいつの力は、これだけじゃない。

 もう一つ、厄介な能力を有している。

 仲間の二人が“眠らされた力”。

 そちらも警戒しておかないと、一瞬で勝敗が決してしまう。


「らあっ!」


 一撃を回避した直後、ヘリオは羊魔人に向けて長槍を突き出した。

 しかしそれは楽々と避けられてしまう。

 続け様に放った二撃目ものらりくらりとした動きで空を切らされ、ヘリオは舌を打ちながら飛び退いた。

 素早さや身のこなしは五分といったところだろうか。

 氷の床にはすでに慣れているので、地形的な有利不利はこの場合ない。

 しかし筋力に桁違いの差があるため、反撃が怖くて思うように攻めることができずにいる。

 手数を減らしてでも、槍の射程を生かして間合いを取るしかないのだ。

 槍の先端を押し付けるように立ち回っていると、ヘリオはふと違和感を覚えた。


(こいつ、段々と……)


 動きのキレが良くなっている?

 最初は気のせいかもしれないと思った。

 でも次第にその違和感は確かなものに変わっていった。

 槍がまるで掠らない。間合いがどんどん狭まってきている。一撃の重さが格段に上がってきている。

 先ほどまで本気を出していなかった? いや、それかもしくは……


「ふわぁ、眠いねぇ。でも眠いと調子いいんだよねぇ」


「……」


 欠伸混じりの呟きを耳で拾い、ヘリオは一つの可能性を抱いた。

 もしかしたらこれが奴の神器の能力なのかもしれない。

 眠いと調子がいい。

 確かに眠気に襲われている様子ながら、身体能力は逆に向上しているように見える。

 枕という道具に関連して、眠気に応じて能力値が上昇するスキルでも宿っているのかもしれない。

 ていうかそうでなければこの急激な変化の説明がつかないではないか。

 そしてもし本当にそんな能力を宿しているのだとしたら、チンタラと時間を掛けていては非常にまずい。

 やがて筋力だけでなく素早さにおいても遅れをとり、間合いを詰められて勝負は終わりだ。


(くそがっ……!)


 ここで負けてたまるか。

 こんなふざけた状況なんかに。

 むしろこの状況は僥倖なんだ。

 ここには『邪神の祭壇』がある。

 先ほどまで奴がベッド代わりに使っていたあの台座。

 異質な雰囲気を帯びている。間違いなく邪神の力が込められた祭壇だ。

 あれを破壊して内部に宿されている『神玉』を持ち帰ることができたら、一気に上の位に手が届く。

 そしてこいつを倒すことができれば、仲間の呪いは解け、自分は飛躍的に成長できるはずだ。

 それらができる千載一遇の機会。

 だから、ここで負けてたまるか。

 ヘリオは一層力強く長槍を握りしめて、羊魔人に飛びかかった。


「うらあぁぁぁ!!!」


 相手の驚異的な力に怯まず、先ほどより距離を詰めて槍を突いていく。

 一撃、二撃、三撃と相手の急所を的確に射抜くように矛先を出していく。

 ほとんど防戦一方だった戦況が、ここにきて五分に変わった。


「やっぱり君、結構強いねぇ。最初から本気出してたらよかったのに」


「端から手なんて抜いてねえよ。てめえが鈍ってきただけだろうが」


 なんて挑発的な台詞を、槍の矛先と共に突き出していく。

 だが奴の言ったことも事実であり、ヘリオはここに来てようやく本気になれた。

 強気な性格とは正反対に、戦闘では冷静に安全な立ち回りを重視してしまう。

 悪い言い方をすれば思い切りが足りないということだ。

 ゆえに、仲間の二人が眠らされた時も、早急な反撃は捨てて身の安全を優先して逃げ出した。


「やっぱりさぁ、あの弱っちい仲間たちがいない方がぁ、君も全力になれるんじゃないのぉ?」


「……あっ?」


 魔人からの不意な言葉に、青筋が立った。


「どう見てもあの二人と釣り合ってないよ、君。早く捨てちゃった方がいいと思うけどなぁ」


「……」


 明らかにこちらを煽るような文句。見え透いた挑発。

 冷静な脳内ではそれは充分に理解しているのだが、ヘリオの心中は穏やかさを取り戻すことはなかった。

 その気持ちをさらに逆撫でするように、羊魔人は続ける。


「このまま五日くらい放っておけばぁ、私の呪いで衰弱死すると思うけどぉ、そっちの方が君にとって幸せなんじゃないかなぁ?」


「……うるせえよ」


 槍を持つ手に力が込もる。氷雪地帯にいるのに体が燃えるように熱くなっていく。

 言い知れない怒りがふつふつと湧き上がってくるのを自覚していると、核心をつく一言を浴びせられた。


「このまま見捨てて殺しちゃえばいいんじゃないかなぁ? だって邪魔だよねぇ……“弱い仲間”なんて」


「うるせえって言ってんだよ!」


 ヘリオは腹の底から怒声を上げて魔人に突っ込んだ。

 怒りをすべて力に変えて、全力で長槍を突く。

 どうして自分がここまで怒っているのか、その理由はいまいちわかっていない。

 ただ、これまで感じてきた怒りとは、まるで別種の熱情というのだけは理解できた。 

 その気持ちに後押しされるように、魔人に突っ込んでいくと。

 瞬間、挑発を行なっていた羊魔人が、今までの気の抜けた顔を一変させて……


 ニヤリと、不気味な笑みをたたえた。


付与魔法(エンチャント)――【悪夢(ナイトメア)】」


 刹那、魔人の持つ枕の神器に、紫色の邪気が迸った。

 魔人の神器が目の前で禍々しい姿に変貌し、ヘリオは思わず瞳を見開く。

 そんな彼を迎撃するように、羊魔人はその神器を振り下ろした。


「ぐっ――!」


 ヘリオは寸前で踏ん張りを利かせて、枕の一撃を間一髪で免れた。

 しかし攻撃の余波を受けて後方に吹き飛ばされる。

 まあ、この程度で済んで良かったと言える。

 もしあと一歩多く踏み込んでいたとしたら、間違いなく直撃して叩き潰されていた。

 そのことに密かに安堵しつつ、一時の怒りが引いて冷静になっていくのを自覚していると……

 途端、意識が朦朧とし始めた。


「な……にっ……!?」


 ヘリオは思わず地に膝をついてしまう。

 ついには視界までぼやけ始めて、ヘリオはすぐに立ち上がることができなかった

 体が重い。意識がぼんやりとする。一言であらわすなら、ただただ“眠い”。

 この唐突な眠気と怠さは……


(やら……れた……!)


 奴の神器に宿っている付与魔法(エンチャント)の効果だ。

 仲間の二人がやられたのもこの付与魔法(エンチャント)の効果である。

 攻撃した対象を眠らせる力。

 しかしあの時は攻撃を防いだことで呪われてしまい、昏睡状態に陥っていた。

 だから直撃さえしなければ影響はないと踏んでいたのだが。

 まさか攻撃の余波を受けただけで呪いの影響があるのか?

 その可能性は充分にある。というかこの強烈な眠気はそうでないと説明がつかない。


(く……そっ……!)


 油断した。激情に駆られて無謀な突攻をしてしまった。見え透いた挑発に簡単に乗ってしまった。

 激しい睡魔に襲われながら、なんとか視線だけを持ち上げると、羊型の魔人はすぐ目の前に立っていた。


「眠い? そうだよねぇ。君、最初からすごく眠そうだったもんねぇ。それで一撃でも耐えたのは充分すごいよぉ」


「う……ぐっ……!」


 意識がぼんやりとしていて視点が定まらない。

 今はこの間延びした声にすら眠気を誘われてしまう。

 気を抜けば瞬き一つで眠りに落ちてしまいそうだ。

 ゆえにヘリオは歯を食いしばってなけなしの意識を保っていると、羊魔人がおもむろに枕を振り上げた。


「私の枕ね、人間を殺すと寝心地がどんどん良くなるんだよぉ。だから私は人間をたくさん殺してるんだぁ。それで君にも永遠に眠ってもらうねぇ。私が気持ちよく眠るために」


 再び不気味な笑みをその青白い頬にたたえる。

 そして奴は、力強く枕を握り締め、重々しい風切り音を上げながらそれを振り下ろしてきた。


「おやすみ、冒険者くん」


 迫り来る死を目前に、ヘリオは強く唇を噛み締めた。

 起きろ! 立て! 寝ている場合じゃない!

 このままだと死ぬ。この魔人に殺される。

 虫ケラみたいに。ゴミクズみたいに。

 こんなところで終わってたまるか。中途半端に死んでたまるか。

 ダサいままで終わってたまるか。

 あいつらを助けるんだろ。ルビィに勝つんだろ。引き立て役じゃなくて主役になるんだろ。

 そしていつか、“冒険譚”に描かれているような、かっこいい“英雄”に……


「ヘリオ君!」

 

 刹那、目の前に華奢な少年が飛び込んできた。

 ほっそりとした体躯に茶色のコートを羽織り、右手には真っ黒な剣を下げている。

 少年はその剣を下から振り上げるように一閃し、羊魔人の神器を大きく後ろへ弾き返した。

 突然の割り込みに驚いた魔人は、僅かに目を見張って後方へ飛び退る。

 ヘリオも呆然となって目の前の少年の背中を見つめていると、やがて彼は見違えた顔つきでこちらを振り返ってきた。


「間に合って、よかったよ」


「……」


 よかった?

 いったい何がよかったのだろうかと問い詰めたくなった。

 いいことなんて何もない。自分なんて放っておけばいいはずなのに。

 それにもかかわらず、こいつは何度も何度も自分を助けにやってくる。

 ヘリオは助けられたことでさらに惨めさを覚え、同時に先ほどとは別種の怒りをふつふつと湧き上がらせた。

 本当に、いつもいつも、タイミングが悪い。

 

 だからヘリオ・トールは、ラスト・ストーンが大嫌いなのだと、改めて自覚した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヘリオ君がラストを嫌う気持ち。某大爆殺神くんが無個性の幼馴染みをいじめてたのと大体同じ。いじめの動機は違いますけどね。 [一言] 正直いじめっこのプライドなんてどうなろうが知ったこっちゃあ…
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