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【さびついた剣】を試しに強化してみたら、とんでもない魔剣に化けました  作者: 万野みずき
第三章

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第八十七話 「雪花壇」

 

 一夜を明かして、翌日の早朝。

 僕たちは雪花壇(せっかだん)に向けて再び進み始めた。

 するとまたしても魔物と遭遇し、戦闘になった。


「グオォ!」


 白兎の魔物から一転、今度は毛が針のように尖った白い大熊だった。

 兎よりも断然獰猛で、歴戦の冒険者を凌駕するほどの逞しい巨躯。

 爪は鋭利なナイフのように研ぎ澄まされており、切られたらひとたまりもないだろう。

 だから慎重に間合いを見極めながら、大熊と対峙しなければならなかった。

 ……そう、普段なら。


「【紫電(ライラック)】!」


 でも今は、アメジストがいる。

 彼女の撃った雷撃は、凄まじい光と音を放ちながら大熊の巨躯を貫いた。

 爪が届かない遥か後方から。

 その怒りでアメジストに目をつけた大熊だったが、近づくより先にまた紫電で貫かれた。


「【紫電(ライラック)】!」


 激しい稲妻が再び瞬く。

 すると大熊の全身に紫色の雷が巡り、一時的に石のように硬直した。

 かなり効いている。今が絶好の機会だ。

 アメジストの魔法だけでも討伐は可能だと思ったが、僕はその隙に大熊に肉薄して剣を振った。


「はあっ!」


 雷で硬直している熊を両断するのは、思っている以上に容易かった。

 無事に魔物を討伐すると、後ろにいたアメジストが不服そうな声を漏らした。


「別に私だけでも倒せたんですけど」


「今日は一日中、こんな感じの戦闘が続くだろうし、魔力を節約しておくに越したことはないだろ」


 と正論を語ることで、なんとかアメジストの冷ややかな視線から逃れることができた。

 夜を明かしても僕とアメジストの仲はこんな感じ。

 今回の旅の中で仲良くなるのはやっぱり難しいだろうな。

 ダイヤが後ろの方で苦笑いをするのも無理はない。

 そんなこんなありつつ林を進んでいくと、やがて木々がなくなり見晴らしのいい場所へと出た。

 一面に氷が広がっていて、真っ白な雪も積もっている。

 湖をそのまま凍らせて、その上に雪を降らせたような景色だ。

 所々に山のように氷塊が形成されていて、雪山の中にいるような感覚にもなる。

 まさに氷と雪に覆われた氷雪地帯。

 ここが雪花壇(せっかだん)


「綺麗な所ですね」


 目の前に広がる景色を眺めながら、ダイヤが感嘆の息を零していた。

 その気持ちは非常によくわかるので、僕は頷きながら相槌を打つ。

 すると紫髪の少女が、雰囲気を無視した現実的な発言をした。


「滑って転びそうだけどね」


「まあ、戦うには少し危ない場所かもしれませんね」


 雪が積もっているおかげで幾分かマシだけど、氷の床が剥き出しになっている箇所もある。

 もしそこで戦闘になったらかなり危ないだろう。

 それゆえに探索があまり進んでいないらしいので、僕たちはここに赴いた次第である。


「で、どの辺りに邪神の祭壇があるのかしら?」


 とアメジストが辺りを見渡しながら呟いたので、僕は肩をすくめながら答えた。


「それはさっぱりわからないよ。図書館で見た危険域(エリア)の情報も、そこまで詳しくは書いてなかったし、たぶんまだ発見すらされてないんだと思うよ。そもそもこの雪花壇(せっかだん)に祭壇があるかもわからないし」


「もし何もなかったら相当な無駄足よね。まあ何もなかったってことがわかるだけでも収穫かもしれないけど」


 前向きな意見なので参考にしたい。

 確かに何もなかったら無駄足した感が否めないので、それがわかっただけでも来た甲斐はあったと思いたい。

 ていうかそっちの可能性の方が高そうなんだよね。

 別にここには邪神の祭壇があると確信して来たわけじゃないし。

 まだ危険域探索がそこまで進んでいないから、祭壇が埋もれているんじゃないかと思って来ただけなんだから。


「とりあえずは危険域(エリア)の中央に向かって進んでみよう。あそこに大きな氷の山も見えるし、そこから一度危険域(エリア)を見渡してみたいからさ」


 と提案すると、ダイヤとアメジストは頷きを返してくれた。

 そして僕たちは雪花壇(せっかだん)の中央に見える氷山を目指して歩き始める。

 正直図書館で見た情報はぼんやりとしたものばかりだったので、改めて直で危険域(エリア)を一望してみたい。

 それで何か特別なことや祭壇の在処が一発でわかるわけではないだろうが、他に思いつく案もないので無難に行動してみる。

 当然危険域(エリア)の中なので、周囲を警戒しながら進んでいくと……


「ねえ、見てよこれ」


「……?」


 アメジストが何かを見つけた。

 それは傷ついた氷塊だった。

 自然的な傷ではなく、明らかに人為的な傷。

 しかもまだ真新しい。

 見るとその周囲の氷塊や地面にも、同じような傷跡が残されていた。


「魔物同士の争いでもあったんでしょうか?」


「それかもしくは、他の冒険者がここで戦ってたとかね? 私たち以外にもこんな場所に来てる冒険者がいるとは考えにくいけど」


 近くには小さな村が一つしかない。

 いわばここは辺境の危険域(エリア)のため、僕たち以外の冒険者がいる可能性はかなり低い。

 しかしかといって魔物同士が争ったにしては傷が鋭利だ。鋭い武器を用いらなければこんな状態にはならない。

 まさか魔人が潜んでいる? と人知れず疑心を募らせていると……


「ほらほら、頑張れ頑張れッ!」


「……?」


 どこからか甲高い男の声が聞こえてきた。

 僕たちは思わず顔を見合わせて首を傾げてしまう。

 今のは明らかに人の声。

 よもやこんな場所に自分たち以外の人間がいるとは思いもしなかった。

 という驚きがある一方で、今の声にどこか邪悪な雰囲気が含まれている気がして眉が寄る。

 僕はまるで人生経験が豊富じゃないし、冒険者になってかなり日が浅いけれど。

 こんな感じの声を、すでに幾度となく聞いている。

 それにこの争ったような傷跡……

 ダイヤとアメジストも同様の気配を感じ取ったようで、険しい顔つきになっていた。

 僕たちは引き寄せられるように声のした方に歩いて行く。

 すると大きな氷塊が見えたので、その裏に隠れて密かに窺うと……


「もうホークアイ! 可哀想だからさっさと殺してあげなよぉ!」


「いやいや、もうちょっとだけ続けようぜ! まだこんなに頑張ってくれてんだからよ!」


 悪い予感の通り、“魔人”がいた。

 二人。虎のような顔をした男の魔人と、狐のような顔をした女の魔人である。

 格好もなかなかに奇抜で、こんな極寒の中で二人とも薄い羽衣を着用していた。

 先ほどの邪悪な声の主は、おそらく虎の魔人の方だろう。

 高難易度の危険域(エリア)の中なので、当然魔人がいることも想定はしていたが、それ以上に意外なものが目に映って僕は困惑した。


「えっ……?」


 思わず自分の目を疑ってしまう。

 二人の魔人の目の前には、“三人の人間”がいた。

 いずれも男性。二人は気を失ったように地面に伏せており、残りの一人がそんな彼らを守るように立っている。

 それだけならば、魔人に襲われている冒険者パーティーという説明だけで納得がいくけれど、それだけじゃなかったので僕は驚かされた。

 だって、そこに立っていたのは……


「ヘリオ……君?」


 青白い長槍を構える、幼馴染のヘリオ・トール君だったからだ。

 七色森での激闘が脳裏をよぎる。

 シトリンのことを悪い魔人だと一方的に決めつけて、無情にも矛先を向けてきた。

 それを阻止するために争いになって、僕たちは互いに神器をぶつけ合った。

 そんな彼が、どうして今この場所にいるのだろうか? ダイヤも驚いたように目を丸くしている。

 例の一件の後、確か神器剥奪の罰を受けていた。

 いや、でもあれはチャームさんの計らいで、たった一週間に抑えられたんだっけ?

 あの日からすでに二週間近く経過しているので、神器を返してもらった後にこの雪花壇(せっかだん)に来たのだとしたらおかしなことではない。

 にしても、こんなに毎度のこと遭遇するなんてあり得るのだろうか?

 偶然って怖い。

 いや、今はそれよりも……


「お友達を二人も守りながら戦うのは大変そうだな冒険者。なんなら先にそっちの二人を殺して、戦いに集中させてやろうか?」


「……」


 明らかにヘリオ君たちは、魔人に追い詰められて万事休す。

 仲間の二人がどうして眠り続けているのか、それは定かではないが、しばらく起きる様子はなさそうだ。

 そんな隙だらけの彼らを、二人の魔人から守っているヘリオ君。

 ヘリオ君だって体の至る所に傷を作っていて、今にでも倒れてしまいそうだった。

 いつもの彼ならこの魔人たちを相手にしても問題はないのだろうが、今の状況では反撃もままならない。


「もうそんな足手まといの奴らなんていらねえだろ。危険域(エリア)の中でぐーすか眠りこけやがって。邪魔者以外の何者でもねえじゃねえか」


 虎の魔人は面白がるようにケラケラと笑う。

 次いで眠る二人に目を移し、神器と思われる短剣(ナイフ)の先端で差し示した。


「だからよ、先にそいつら殺させろよ。そしたらお前は逃げることに集中できるし、俺らももっと狩りを楽しめるようになるからよ。そうしようそうしよう!」


 遊びの誘いでもするかのような気軽さで、恐ろしい提案を持ちかける。

 そんな虎魔人に対してヘリオ君は、静かに掠れた声を返した。


「……うるせえよ」


「あっ?」


「なんでわざわざてめえが楽しくなるように言いなりになんなきゃなんねえんだ。楽しみてえんだったら自分でなんとかしろ。それと……」


 傷だらけで苦しむ中、ヘリオ君はしっかりと相手を嘲笑うような笑みを浮かべた。


「こんなことで楽しめるお気楽な脳みそに、少しだけ同情する」


「……ぶち殺す」


 挑発的な台詞を受けて、虎魔人は短剣を構えながらヘリオ君を刺しに行った。

 対してヘリオ君は槍の神器を構えていたが、それは見せかけだけの牽制だったようで、だらりと腕を下げてしまう。

 彼に反撃する余力がないのは一目瞭然だった。

 そうとわかった時には、僕は剣を抜いて飛び出していた。


「「――っ!?」」


 虎魔人とヘリオ君の間に飛び込むと、二人は揃って目を剥いた。

 そして魔人は僕を警戒するように飛び退る。

 そいつに向けて【呪われた魔剣】を構えていると、後ろから掠れた声が聞こえてきた。


「ラス……ト?」


「……」


 その声には多分の疑念が込められていた。

 なぜお前がここにいるのかという疑念。

 そしてなぜ、助けに入って来たのかという疑念が。

 僕自身、どうしてこんなことをしたのかよくわかっていない。

 見捨ててしまえばいいと言う人も少なからずいるだろう。

 でも、ここでそれをしてしまったら、ヘリオ君が僕にしたことと同じことをしているような気になってしまう。

 たとえ相手がいじめっ子のヘリオ君だろうと、ここでは助けるのが正解だと、僕の中の正義がそう言っている。

 正義っていうか、僕の中の憧れの人が、かな。

 何よりヘリオ君の後ろで眠っている二人は、何の罪もないのだから。

 ヘリオ君はともかくこの二人は助けないとダメだ。

 など色々な理由の元で彼らを助けると、遅れてダイヤとアメジストもやってきた。


「だ、大丈夫ですかラストさん」

 

「まったく、なんで勝手に飛び出して行っちゃうのよ。もう少し冷静に行動しなさい」


 そう言われると耳が痛い。

 確かに軽率な行動だったかもしれないと、今になって後悔の念が湧く。

 もう少し状況を有利に進めることができる助け方があったように思うけど、今さらなので考えるのは良そう。

 ぞろぞろと出てきた僕たちを見て、魔人たちは怪訝そうな顔をした。


「あっ、なんだよなんだよ? お仲間か? せっかく狩りを楽しんでる最中なんだからよ、邪魔しねえでもらいてえなぁ」


「そうよそうよ!」


 ヘリオ君も“どうして”という顔でこちらを見ている。

 そんな彼らに合わせて返答するように、僕は口を開いた。


「別に仲間じゃない。けど、同じ“冒険者”だ。だから助ける」


「……」


 ヘリオ君は依然として目を見開いたまま固まっていた。

 一方で虎魔人は、水を差されたことで怒りを覚えたのか、額に青筋を立てながら飛び出して来た。


「あぁそうかよ。ならせいぜい頑張って同業者を守ってみな!」


 短剣の矛先が、今度は僕の方へ向く。

 こちらに迫ってくる魔人を見据えながら、僕はすかさず後方に声を掛けた。


「ダイヤ!」


「はいっ!」


 それだけで言いたいことが伝わったようで、ダイヤは傷ついた三人を守るように盾を構えた。

 これで三人にこれ以上の危害が加わる心配はない。

 だから僕は、【呪われた魔剣】を構えて目の前の敵に集中する。


「ハハッ!」


 虎魔人は獰猛な笑みを浮かべながら、素早く短剣を突き出してきた。

 僕は【呪われた魔剣】を盾のようにして構えて、その一突きを刀身の腹で受け止める。

 これがこの魔人の神器。見るからに武器系。

 何らかの能力を宿していると見ていいだろう。

 付与魔法(エンチャント)かスキルか。どちらにしても間合いを詰めさせるのは良くなさそうだ。

 そして後ろの狐魔人にも注意が必要である。

 奴は虎魔人とは違い、胸に水晶玉のようなものを抱えている。

 あれもおそらく神器だと思われるが、こちらもどんな能力を有しているか見た目からはわからない。

 一つ言えるのは触媒系神器というのは明確なので、魔法による遠距離攻撃を最警戒しておいた方が良さそうだ。

 手短に戦況の確認を終えると、僕は受け止めていた短剣を押し返し、その勢いのまま虎魔人を斬りつけた。


「はっ!」


 だが、寸前で避けられてしまう。

 めげずに追撃を加えようと一歩を踏み出しかけるが、氷の地面に足を取られかけて上手く踏み込めなかった。

 一方で虎魔人は自宅の庭を駆け回るような軽快さで氷の上を走り回っている。

 あの短剣の神器からかなりの敏捷の恩恵を与えられているようだ。

 加えてこの足場にも慣れている様子。

 対してこちらは不安定な氷面に慣れておらず、俊敏に動くことができない。

 いつもの感覚で突っ込めば間違いなく転倒してしまう。

 ゆえに魔剣の敏捷の恩恵を持ってしても、捉えるのは困難を極めるだろう。

 では、どうするか……


「はぁ、仕方ないわね」


 後ろに控えていたアメジストが、僕の体たらくを見て隣に並んできた。


「私が魔法で足を止めるから、その隙にあんたが斬りなさい。さっきみたいにね」


「……うん、わかった」


 先ほど大熊を狩った時と同じように、アメジストと協力して魔人を倒すんだ。

 彼女の電撃なら遠距離から狙い撃ちすることもできるし、足場の不安定さも関係ないから。

 さらに、念には念を入れておこう。

 ちょうど良い機会だし、魔人相手にどれだけ通用するか見ておくのも悪くない。

 ……試してやる。

 

付与魔法(エンチャント)――【死呪(デッドエンド)】」


 一撃必殺の邪気が、神器の刀身を暗く覆い尽くした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公弱くなってね?
[一言] 面白いです。これからも更新頑張ってください
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