第七十六話 「原石の覚醒」
ラストとオニキスが去った後。
大部屋に残されたダイヤとクロヘビは、それぞれの責務を果たすために戦っていた。
クロヘビはオニキスの命令で、ダイヤを倒すために。
ダイヤは自らの意思で、冒険者たちを守るために。
「【溶毒】!」
クロヘビの持つ小さな壺から、毒魔法が放たれた。
ダイヤはそれを【不滅の大盾】で受け止める。
後ろには傷ついた冒険者たちが倒れているので、そもそも彼女に避けるという選択肢はない。
そのため明らかに防戦一方になっていた。
それでもダイヤは逃げない。
(必ず皆さんを、守り切ってみせます……!)
息つく間も飛んでくる毒魔法を止めながら、ダイヤは自分自身に言い聞かせた。
ラストと約束したのだ。
必ずここにいる全員を守ってみせると。
シトリンをみすみす攫われてしまった時は、本当に何もすることができなかったから。
だからこれは、汚名返上のまたとない機会。
ゆえにダイヤは、あの時の失敗を取り返すため、たった一人で魔人と戦う決意を固めたのだ。
(絶対に負けられません!)
その思いを胸に、ダイヤは思考を巡らせた。
見たところあの魔人の神器は、典型的な触媒系の神器。
おそらく神器からもたらされる恩恵そのものは微弱で、遠距離から飛ばせる“あの魔法”が主力だ。
距離を詰めずに遠方から攻撃を続けているのがその証拠。
(それなら、接近さえできれば私でも制圧できるかもしれません)
そう考えたダイヤは、大盾を構えながらクロヘビの元に走り出した。
変わらず毒魔法を撃たれ続けるが、構わずに突っ込んでいく。
「はあっ!」
そしてクロヘビの目前まで来るや、盾を横に薙ぐようにして振り回した。
筋力の恩恵が僅かにあるおかげで、それなりには様になっている。
だが、戦闘経験を積んだ魔人相手には、そう易々と通用はしなかった。
クロヘビは攻撃を見切って飛び去り、再びこちらと距離を空ける。
ダイヤは密かに歯噛みをし、それでもめげずに盾での攻撃を続けた。
「くっ、しつこいわねあんた!」
毒魔法で迎撃しようとしても、ダイヤには盾がある。
ゆえに臆すことなく突っ込むことができ、そのしつこさにクロヘビは思わず憤った。
やがて斧のように振り回した大盾が、クロヘビの脇腹に突き刺さった。
「うっ――!」
これで壺型の神器が弾け飛んだり、向こうが取り落としてくれたらありがたい。
そう思ったのだが、そう上手くいくはずもなく、奴は僅かに顔をしかめただけだった。
神聖力の無さがもどかしい。
密かに舌を打っていると、クロヘビは殴られた脇腹に目を落とし、訝しげに眉を寄せた。
次いで不意に頰を緩めて、意味ありげに独りごちる。
「ふふっ、なるほどね」
「……?」
今の呟きはどういう意味だろうか。
その真意を探るより早く、クロヘビがダイヤに視線を移して首を傾げた。
「あなた、どうして毒が効かないのかしら? 常人ならとっくに指一本も動かせないくらい毒が回ってるはずなのに」
そう問われ、ダイヤはチラリと自分の体を見下ろす。
盾で毒魔法を防いだとしても、完全に遮断できるわけではない。
被弾した毒液は弾け飛び、細かな飛沫となって体に付着する。
それだけでも充分に毒が回るはずだ。
そうでなくても、毒液に含まれている溶解性で、とっくに体がグズグズに溶けていてもおかしくない。
それなのになぜダイヤが五体満足で立っているのか、クロヘビには不可解に見えて仕方がなかった。
その疑問に対し、ダイヤは素っ気なく返す。
「さあ、どうしてでしょうね」
「……」
クロヘビの眉が微かに揺れる。
気に障ったみたいだが、馬鹿正直に種明かしをするはずがなかった。
「ま、おおかたあなたの神器の能力ってところでしょうね。とにかく、あなたに毒が効かないのはわかったから別にいいわよ」
心なしか不貞腐れたようにクロヘビは言う。
さすがにここまでケロリとしていればバレてしまうか。
ダイヤの神器――【不滅の大盾】には『不滅』というスキルが宿っている。
装備者に毒や呪いの耐性を付与し、完全に無効化するというものだ。
加えて神器の耐久値も減少しない。
だからクロヘビの毒魔法を受け続けても毒に冒されないというわけだ。
(でも、さすがにちょっと痛いですね)
毒性は完全に無効化できても、溶解性に関してはその限りではない。
晒した肌身に付着した毒の飛沫は、耐性に関係なく肌を灼いてきた。
それはさすがに少し痛い。
しかしそちらの方も、神器の恩恵に助けられて大した損傷にはなっていない。
だから怖がらずにどんどん攻めても大丈夫。改めてそれがわかった。
そう思っている一方で、クロヘビは蛇のような顔に笑みを取り戻していた。
そして不意に、傍らに視線を振る。
どこを見ているのだろう? と疑問符を浮かべていると、クロヘビはため息まじりに呟いた。
「はぁ、やっぱりあの人たちを狙うしかないのかしら?」
「――っ!?」
視線の先には、傷ついた冒険者たちがいた。
遅れてそれに気が付いたダイヤは、急いで後方へ駆け戻る。
「【溶毒】!」
その努力を嘲笑うように、クロヘビは容赦なく毒魔法を撃ち込んだ。
狙いはダイヤではなく、倒れ伏す冒険者たち。
「くっ――!」
ダイヤは間一髪のところで、冒険者と毒魔法の間に滑り込んだ。
そして構えた盾で毒魔法を受けて、被害を未然に防ぐ。
あと一歩遅かったら……そんな思いが冷や汗を生み、ダイヤは目を細めてクロヘビを睨みつけた。
「あら、よく間に合ったわね」
「……」
ダイヤは盾の裏で、密かに唇を噛み締める。
こうして冒険者を狙われてしまうと、守りに徹するしかなくなってしまう。
実質、人質をとられているのと同じ状況だ。
これでは奴を攻撃することができない。
攻撃すると隙が生まれて、今みたいに冒険者たちを狙われてしまう。
いったいどうすれば……
(……耐え続けるしか、ありませんね)
打開する手立てが残されているとしたら、たぶんそれしかない。
至極単純な話、奴の魔力が底を尽きるまで、毒魔法を耐え続けるのだ。
そうすればクロヘビは魔法を使うことができなくなり、完全に無力化することができる。
何より、神聖力のない盾で殴っても無意味だというのは、先刻の一撃ですでにわかった。
攻めるのが不利な今、自分に残されている戦い方はそれしかない。
だから耐えろ。痛くても逃げるな。絶対の壁になれ。
自分ならできる。
「それじゃあ、これはどうかしら?」
すると、ダイヤのその決意を読んだかのように、クロヘビが微笑をたたえた。
そして奴は不意に、懐から細長い小瓶を取り出す。
中には赤黒い液体が揺れていた。
(あれは……血?)
誰の血かは定かではない。
でも、あの独特のドロッとした粘度は、間違いなく生き物の血液だ。
奴はその誰かしらの血が入った小瓶をチャプチャプと揺らすと、ロウで固めた木のコルクを指で弾き飛ばした。
次いでどういうわけか、その血を神器の壺の中に注ぎ始めてしまう。
いったい何を……? と思う間に、小瓶の中にあったすべての血を注ぎ終え、クロヘビは再び壺を構えた。
「【溶毒】!」
瞬間、壺口から毒の弾が射出された。
しかし、先ほどまでのものとはまるで違う。
遥かに大きく、色の濃くなった毒の塊だ。
しかも射出の勢いが明らかに増している。
咄嗟に盾を持つ手に力を込めると、今までに感じたことのない衝撃がダイヤを襲った。
「ぐっ――!」
重い。まるで全速力の馬車が突っ込んできたような威力だ。
危うく体ごと吹き飛ばされるところだった。
加えて毒魔法の毒性も極度に高まったように感じる。
体に付着した僅かな毒の飛沫が、より強く、熱く、肌を灼いてきた。
「ぐっ……うっ……!」
あまりの痛みに顔をしかめながら、ダイヤは必死に頭を回す。
なぜ突然、クロヘビの毒魔法がこんなに強力になったのか。
おそらくそれは……
(あの神器に秘められた能力。“血”が発動条件でしょうか……)
というダイヤの予想は正しく、クロヘビの持つ【大蛇の毒壺】には、『貢血』というスキルが宿されていた。
壺に生き物の血を注ぐことで、魔法の威力を上昇させることができる。
特に生命力の強い者の血ほど、魔法をより強化することができるのだ。
ゆえにクロヘビは、人間や魔人の血を小瓶に入れ、いつも懐に携帯している。
あの血を注がれたらまずい――! とダイヤが直感していると、その気持ちが顔に出ていたのか、クロヘビがニヤリと頰を上げた。
「さすがに気付いたみたいね。さっ、どんどん行くから、全部その盾で受け止めてみなさい」
言うや、また一つ血瓶を取り出して、壺の中に注ぎ始めた。
入れ終えると、すかさず毒魔法を放ってくる。
再び強力な毒魔法が大盾に炸裂した。
「ぐっ――!」
毒の飛沫が舞い、付着した雫が肌身を蝕んでくる。
毒は効かないと言った。しかし体は溶解性によって徐々に傷ついていく。
あの血による魔法強化を阻止しなければ、敗北は必至だ。
しかしクロヘビとの距離を考えると、毒攻撃の合間を縫って接近するのはかなり厳しい。
毒魔法の射程内で、かつ余裕を持って壺に血を注いでからの攻撃ができる絶妙な距離。
それをわかってこの幅を保っているのだろう。
このままじゃ、強力な毒魔法を撃たれ続けて、いつか死ぬ。
「【溶毒】!」
かといって、ダイヤに逃げるという選択肢はなかった。
彼女が退けば、後ろの冒険者たちが犠牲になってしまう。
ダイヤと違って毒の耐性がなく、かつ神器だって手元にない。
そんな彼らがこの毒魔法を受けたら、助かる余地は微塵もなくなってしまう。
だから耐えるんだ。痛くても苦しくても。みんなの盾にならなきゃいけない。
「ぐっ……うっ……!」
絶え間ない毒撃に、ダイヤは歯を食いしばりながら耐えた。
体の至る所が灼けるような痛みに襲われても、盾を構え続ける。
そのボロボロの姿を見たクロヘビは、毒魔法での攻撃を続けながら薄ら笑いを浮かべた。
「あなたのさっきの言葉は忘れてないわよ。ここにいる冒険者たちを絶対に傷つけさせないんでしょ? 守るものが多くて大変ね」
皮肉のつもりだろう。蔑むような視線がそう物語っている。
「それと、少し戦ってわかったことがあるわ。あなた、魔族を倒す力を持ってないんでしょ?」
「……」
「その大きな盾で攻撃されても、まったく痛みを感じなかった。おおかた神聖力がほとんど宿ってないんじゃないかしら? だから魔族を倒せない。身を守ることしかできない。なんとも不憫な冒険者さんね」
毒魔法を防ぎながら、盾の後ろでダイヤは歯噛みする。
神聖力がないことは、いずれはバレてしまうことだった。
だからそれは仕方がない。
それよりも、奴に自分の“弱み”を知られたことが、何より嫌だった。
案の定、クロヘビは蛇のように、執拗にダイヤを責め立てた。
「だからさっきの彼と行動してるのかしら? 代わりに彼に魔族を倒してもらっているんでしょ? 自分は手を汚さずに高みの見物なんて、良いご身分じゃない」
そんなの、自分が一番よくわかってる。
ラストばかりに負担を掛けていることも。
ラストに比べて明らかに自分が楽をしていることも。
そんなの全部全部、嫌というほどわかっているのだ。
ずっと気に掛かっていた現実を突きつけられて、固く身を強張らせていると、クロヘビに核心を突く一言を浴びせられた。
「盾を持って守った気になっているだけで、実際に守られているのは、あなたの方なんじゃないの?」
「……」
その言葉は、想像以上にダイヤの胸に突き刺さった。
守った気になっているだけで、守られているのは自分。
そう言われて心が痛むということは、それが事実であることの裏付けである。
自分の存在意義が、わからなくなってきた。
「これで冒険者たちを守ることができなければ、本当にあなたはただの役立たずね。それを私が証明してあげる」
クロヘビはそう言うと、懐の中から少し違った小瓶を取り出した。
明らかに他のものとは区別された、特別にリボンを巻いた血入りの瓶。
それは、オニキスの血だった。
二百年以上も生き続けている、生命力に満ち溢れた魔人の血液。
瓶一杯に溜めたそれを恍惚とした形相で見つめたクロヘビは、その栓を抜いて壺の中に注いだ。
瞬間、毒壺から禍々しいオーラが溢れ出てくる。
肉眼でもはっきりと見えるほどの強烈な魔力。
今までとは比べ物にならないほどの一撃が来る。
見ただけでそう直感させられた。
思わず身震いしていると、クロヘビはニヤリと不気味な笑みをたたえた。
「さようなら、役立たずの冒険者さん」
壺の口を向けられて、ぞくりと心臓が高鳴った。
このままだと、死ぬ。
誰も守れずに、殺される。
約束を果たせずに、負ける。
誰が? 自分が? また同じように?
『ラストさんがいないと、何もできない無能ですから』
自らが口にした台詞が、まるで鉛のように、心に重くのしかかった。
これでは本当に、ただの無能だ。
一度ならず二度までも、役目を全うすることができずに敗北する。
役立たず。鈍間。愚図。足手まとい。出来損ない。
冒険者になる前と、何も変わっていない。
弱虫で泣き虫でいじめられっ子の、何もできないダイヤ・カラットではないか。
改めて自分の弱さに気付かされ、ダイヤはつぶらな瞳に、大粒の涙を滲ませた。
『ダイヤ、人にとって一番の原動力って、なんだと思う?』
絶望の最中――
大好きな母の声が、頭の奥で静かに鳴り響いた。
温かく、優しく、心を包み込んでくれるような声音だった。
同時に、パチッと泡が弾けるように、当時の記憶が思い起こされる。
村のいじめっ子たちに、髪飾りを隠された日のことだ。
母が手作りしてくれた、一番のお気に入りだった髪飾り。
それを頭から引っぺがされ、どこかへ持って行かれてしまった。
探しても結局見つからず、髪飾りは諦めて泣きながら家に帰った。
すると、髪飾りがないことに気付いた母が、すぐに事情を察し、泣きじゃくる自分にこう言った。
『ダイヤ、人にとって一番の原動力って、なんだと思う?』
『げんどうりょく?』
『そう、何かを“頑張ろう”って思うようになるには、どんな“気持ち”になるのが一番だと思う?』
最初は質問の意味がわからなかった。
頑張ろうって思うようになるには、普通に“頑張ろう”って気持ちになるのが一番良いのではないか。
そう思えて仕方がならず、何より髪飾りを無くしてしまった動揺で、自分はテキトーな答えを返してしまった。
『“好き”って気持ち?』
『おっ、その心は?』
『何かが好きなら、それを頑張ろうって思うんじゃないのかな?』
その答えに、母は声を上げて笑った。そういう人だった。
『あははっ! 好きって気持ちかぁ! 確かに“好き”って気持ちはすごい原動力になるよね! うん、乙女的に大正解! でもねダイヤ、あなたはもっと強い気持ちを持ってるはずよ』
『強い、気持ち?』
『そう。それが人にとって一番の原動力でもあるし、ダイヤの一番の強さでもある。それはね……』
頰を伝う自分の涙を、母は指で拭いながら、優しく教えてくれた。
『“悔しい”って気持ちだよ』
『くや……しい?』
『うん、悔しいってすごく強い原動力なんだよ。それで悔しいって気持ちは、何かに負けた時に初めて生まれるもの。だから、人は何かに負けた時、一番強くなれる可能性があるんだよ』
それでもわからずに首を傾げる自分を、母はぎゅっと抱きしめてくれた。
『いつも大人しいダイヤだけど、ものすごく負けず嫌いっていうこと、お母さん一番よく知ってるから。その気持ちを大事にしてね。そうすればダイヤは……』
誰よりも、強い女の子になれるから。
思い出した母の言葉に、忘れていた熱を取り戻した。
そう、自分は今、悔しいと思っている。
全身の血が沸騰して体が燃え上がりそうなくらい、悔しいと思っているのだ。
母の手作りの髪飾りを隠された時、初めてこの感情を知ることができた。
そして絶対に見つからないと思った髪飾りを、何ヶ月も掛けて見つけ出してやった。
もう場所を教えてやるといじめっ子たちに言われても、無視して自力で見つけてやった。
その執念が、悔しさが、自分の強さなのだと母に気付かせてもらった。
その時と同じくらい、自分は今、猛烈に悔しいと思っている。
――役に立てなかったのが悔しい!
――足手まといになっているのが悔しい!
――やられっぱなしでやり返せないのが悔しい!
――守ることしかできないのが悔しい!
――そして、そんな自分の弱さを認めてしまっているのが、何より悔しい!
――こんなんじゃ、ラストの隣に立つことはおろか、大好きな父と母を探し出すことだって、絶対にできるはずがない!
だから……
(……勝ちたい)
弱い自分を変えるために。
(……勝ちたい)
あの人の隣に立てるように。
(……勝ちたい)
もう、何もできずにいるのは嫌だから。
(……私は、勝ちたい)
勝ちたい? いや……
「絶対に勝ちますっ!!!」
その強い意志に感応するように、【不滅の大盾】が眩く光り出した。
突然のことに、クロヘビのみならずダイヤも目を見張る。
これは間違いなく、神器が成長した反応。
幾度となく毒魔法を受けた成果と、ダイヤの心情の変化に応じて、【不滅の大盾】がレベルアップしたのだ。
そして【不滅の大盾】の成長は、それだけにとどまらなかった。
ダイヤは神器の性能を見て、ハッと息を呑む。
対してクロヘビは、その変化に構わずに毒壺を構え続けた。
「後ろの連中もろとも、仲良く死になさいッ!」
叫ぶや、禍々しい魔力を解放した。
「【溶毒】ッッッ!!!」
刹那、洞窟が震えるほどの勢いで、巨大な毒弾が撃ち出された。
これまでで最大威力の攻撃。
オニキスの血を使った究極の毒魔法だ。
受ければ盾もろとも体が吹き飛ばされ、触れれば生身の肉体は瞬く間に溶けてしまうだろう。
だが、ダイヤは逃げない。
逃げれば、後ろに控えている冒険者たちが死んでしまう。
いや、死ぬとか生きるとか、守るとか助けるとか、そんなのはこの際関係ない。
今はただ、この戦いに勝つために……
「…………付与魔法」
ダイヤは、叫んだ。
「【鏡盾】!」
瞬間、ダイヤの持つ【不滅の大盾】が、純白の閃光を放った。
と同時に、特大の毒魔法が盾に直撃する。
それは本来なら、ダイヤの体を盾ごと吹き飛ばし、冒険者たちを一人残らず呑み込むはずだった。
だが、最大威力の毒弾は、【不滅の大盾】に当たった瞬間。
まるで鈴の音に似た、甲高い音が鳴ると同時に――
逆方向へ弾き返された。
「――っ!?」
毒の塊が、今度はクロヘビの元に飛来する。
突然のことに逃げる間もなく、奴は自らの放った毒魔法に直撃した。
そして後方の岩壁まで吹き飛び、凄まじい衝撃によって洞窟内部を揺らす。
「な……にが……おき……!」
毒魔法の強力な溶解性によって、岩壁はグズグズに溶けて大穴があいていた。
その中でクロヘビは、自らの毒で半身を溶かし、激しい痺れで完全に硬直していた。
朦朧とする意識の中、クロヘビは必死に現状の把握を試みる。
何が起きたのかまったくわからなかった。
気が付いたら、撃ち出したはずの毒魔法が自分の方に跳ね返ってきていた。
いや、決まっている。
あの大盾に宿る白い光。
あの付与魔法によって、魔法を弾き返されたのだ。
負けた。あり得ない。あんな弱々しい子供に。
「く……そッ……!」
掠れた声で毒づくと、クロヘビはそれを最後に自らの毒で息絶えた。
そして細かい光の粒と化して、洞窟を流れる風に乗って消えていく。
その姿を見届けたダイヤは、しばし自分の神器に宿る白光を見つめて呆然とした。
自分でも、魔族を倒すことができた。
冒険者たちを守り切ることができた。
無能で、役立たずで、足手まといだった自分が……
名前:不滅の大盾
ランク:A
レベル:8
攻撃力:0
恩恵:筋力+65 耐久+270 敏捷+0 魔力+65 生命力+250
魔法:【鏡盾】
スキル:【不滅】
耐久値:∞/∞
弱気になっていた自分の背中を、母の言葉が強く押してくれた。
自分が負けず嫌いだということを、改めて思い出すことができた。
それによって新しい力が目覚めて、窮地を救ってくれた。
【鏡盾】・付与魔法
・神器に魔法反射効果を付与
この付与魔法があれば、自分でも魔族を倒すことができる。
さっきみたいに相手の魔法を弾き返し、攻撃へと転換することができる。
まあ、すぐに使いこなすのは、難しいことかもしれないけれど。
でも、一つだけ手は増えた。
何より、弱虫で泣き虫だった自分を、ちょっとだけやっつけることができた。
(今度は、ちゃんと守れましたよ……)
眠っていた原石が、覚醒した。




