第七話 「呪われた魔剣」
名前:呪われた魔剣
ランク:S
レベル:
攻撃力:500
恩恵:筋力+500 耐久+500 敏捷+500 魔力+500 生命力+500
スキル:【神器合成】
耐久値:500/500
攻撃力と恩恵が、すべて500。
300あれば驚異的と言われている中で、これはあまりにも強すぎる。
僕の知る限り、最上級品と言っても過言ではない神器だ。
なんで僕の【さびついた剣】がこんな神器に変化したのだ?
どうして突然剣の姿が変わったのだ?
いや、今はそんなことどうでもいい。
体の内側から、湧き水のように力が溢れてくるみたいだ。
これが神器から与えられる恩恵。
神様が人間に与えてくれる強大な力。
負ける気が……しない!
「はあっ!」
僕は鍔迫り合いになっていた魔人の大剣を弾き返した。
先ほどまでまったくびくともしなかったのに、今は簡単に押し返すことができた。
「なにっ!?」
魔人は神器を押し返されたことで、大きく体勢を崩す。
僕はその隙を見逃さない。
右手の神器で、魔人の胸元を斬り付けた。
【さびついた剣】では傷一つ付けることができなかった奴の魔装を、いとも容易く斬り裂いてしまう。
「ぐあっ!」
目の前で鮮血が散ると、魔人はすかさず僕から距離をとった。
傷は浅い方だ。
しかし奴は傷ついた胸元を手で押さえ、怒気に満ちた顔で僕を見てきた。
「て、てめえ! 俺の体に、傷を付けやがったな! 許さねえ! 絶対に許さねえ!」
自分の魔装に相当の自信があったのだろうか。
傷を付けられたことに対して激しい憤りを覚えているようだ。
奴はその怒りに任せるように、黒い大剣を力任せに振ってくる。
力も速さもあり、常人ならばその迫力だけで圧倒されているだろう一撃を、僕は冷静に右手の剣で弾いた。
「くそ……がぁぁぁ!!!」
魔人は続け様に神器を振ってくる。
同様に僕も魔人の攻撃を弾いていく。
神器の打ち合いで激しい剣圧が生じ、周囲の木々が騒がしく揺れていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
やがて魔人は息を切らして攻撃の手を止めた。
魔人にも疲労という概念は存在するらしい。
少し意外である。
「く、くそがっ! 急に力を変えやがって! だったら見せてやるよ、俺の『神器』の本当の力をな!」
魔人は黒い大剣を、こちらに見せ付けるように高々と振り上げた。
「付与魔法――【黒炎】!」
奴がそう叫ぶと同時に、大剣に黒い炎が宿った。
離れた場所に立っていても熱気が伝わってくる。
強力な黒炎だ。
「……『付与魔法』か」
神器は大きく分けて二つの種類が存在する。
『武器系』の神器と『触媒系』の神器だ。
武器系の神器は文字通り、神器それ自体に攻撃力が備わっており、魔族を直接攻撃できる種類の神器だ。
そして触媒系の神器は、神器それ自体に攻撃力はないものの、『魔法』という超常的な現象を起こすことができる神器である。
ゆえに触媒系の神器を持っている人たちのことを、世間では『魔法使い』や『魔術師』なんて呼んだりもする。
戦いにおいて、どちらが優秀ということはなく、状況によって優劣は変わってくる。
それに、武器系の神器にも少なからず『魔法』は宿る。
その一つが『付与魔法』だ。
神器の攻撃力を底上げしたり、特殊な効果を持たせたりすることができる。
見るからに奴の付与魔法は、攻撃力上昇の効果があるはずだ。
奴は最大の一撃で勝負を決めるらしい。
「ははっ! これでてめえの神器の攻撃力を上回ったぜ! 死にやがれ雑魚野郎っ!!!」
魔人は黒炎の大剣を両手で振りかぶり、全力で飛び出してきた。
目にも留まらぬ速さの上段斬り。
それを見た僕は、その一撃を防ぐために右手の【呪われた魔剣】を……
ではなく、何も持っていない左手を前に構えた。
瞬間――
「なっ!?」
吸い込まれるかのように黒炎の大剣が左手に落ちてくる。
凄まじい衝撃と熱が左手に伝わるが、僕は僅かに顔をしかめただけで、奴の最大の一撃を完全に止めた。
「す、素手で受け止めただと? 俺の神器を……? あ、ありえねえ……」
魔人は目の前の事実に驚愕しているようだ。
しかし、なんてことはない。
ただ素手で受け止められると思ったからそうしただけだ。
そして……
「今度は、こっちの番だ」
僕は右手の剣を力強く握り直す。
右肩に担ぐようにして振りかぶると、眼前で固まる魔人を……
「はあっ!」
一撃で、両断した。
「ぐ……あ……」
左肩から右腰にかけて両断された魔人は、力なく地面に倒れた。
そして驚愕と怒りを含んだ視線で、僕を見上げてきた。
「あり、えねえ……。あんな、ボロボロの神器、だったのに……」
次第に魔人の体が光に覆われていく。
全身が少しずつ光の粒へと変わっていき、空気に溶けるように散っていった。
「くそっ……たれが……」
後に残されたのは、奴の神器である禍々しい黒い大剣だけだった。
しばしの静寂がこの場に訪れる。
先ほどまでの戦いがまるで嘘のように鎮まり返り、僕は事実を確認するように声を漏らした。
「魔人に、勝てた……?」
あの弱虫で泣き虫だった僕が。
最弱の神器を授かったはずの僕が。
いじめられっ子だった僕が。
まったくもって信じられない。
しかしこれは、紛うことなき事実だ。
ということを、後方からのすすり声が再認識させてくれる。
「うぐっ……ひぐっ……」
魔人に襲われそうになっていた女の子だ。
彼女はいまだに地べたにへたり込み、顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくっていた。
僕も、あの子も、ちゃんと生きている。
僕は改めて少女の元まで歩み寄ると、目の高さを合わせるように屈んだ。
「もう、大丈夫だよ。怖い魔人は僕が倒したからさ。だから泣き止ん……」
と、慰めている最中……
突如、視界がぐらついた。
まるで世界が横転するように、目の前の景色が揺れる。
「あ……れ……?」
急速に意識が遠のいていき、僕は地面に倒れた。