表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【さびついた剣】を試しに強化してみたら、とんでもない魔剣に化けました  作者: 万野みずき
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/132

第六十七話 「徒党」

 

 白い魔人に拐われて、正体不明の歪みを抜けた先。

 そこは、“洞窟”の中だった。

 まるで墨を塗りたくったかのような漆黒の岩肌に囲まれて、陰鬱な雰囲気が漂っている。

 壁の所々に照明器具が掛かっているが、ほとんどの灯りが消え掛かっているためなんとも頼りない。

 そんな薄暗い洞窟内部に連れて来られたシトリンは、恐怖のせいでしばらく動くことができなかった。

 彼女はこの場所を知っている。

 嫌というほど熟知している。

 黒々とした景色、外から聞こえるパチパチと何かが爆ぜるような音、それでいて肌を撫でるように巡る冷えた空気。

 何より、迸る異臭が鼻腔を刺激した瞬間、ここがどこなのかをシトリンはすぐさま察した。

 だからこそ彼女は、魔人の手を振り払って逃げようとしたのだ。

 しかし抵抗虚しく、シトリンはこの場所へ――そこで待っていた人物の元へ、連れて来られてしまった。


「ただいま、オニキス」


 シトリンを拐った白い魔人が、そこにいた人物に対して声を掛けた。

 大岩を削って作ったような黒椅子に腰掛けて、赤い液体の入った杯を左手に持って遊ばせている。

 傍らには一人の女魔人を侍らせて、いかにも強欲な王様のように見えた。

 オニキスと呼ばれたその者は、シトリンたちが来るのを見るや、杯を女魔人に渡し、嬉々として立ち上がった。


「おぉ、さっすがクォーツだな! 随分と早いお帰りじゃねえか!」


 この、弾ませるような声音と軽々しい口調。

 この男の声を聞いていると、重苦しい記憶が脳裏を揺さぶってくる。

 二度と聞きたくないと願った声なのに。会いたくなかった魔人なのに。

 オニキス。

 波のような模様が付いている羽織を着た魔人。

 髪、瞳、肌すべてが炭のように黒く染まっている。

 シトリンの腕を掴んでいる白魔人とは、まるで正反対のような姿だ。

 さらには鬼のように長い角を二本生やしていて、まさに悪魔と呼ぶに相応しい魔人である。

 そしてもう一つ特徴を挙げるとすれば、彼には“右腕”がないため、羽織の袖がぶらぶらとだらしなく揺れていた。


「やっぱお前に頼んで正解だったぜクォーツ。よくそのガキを連れて来てくれたな。で、俺んとこの連中は少しは役に立ったか?」


 オニキスが嬉しそうにそう尋ねると、クォーツと呼ばれた白魔人は静かな笑みを浮かべた。


「うん、結構助かったよ。ま、全員死んじゃったけどね。彼らを先に行かせてなかったら、もしかしたらぼくが危なかったかもしれないし」


「ほぉ、そんなに大量に上級冒険者どもがいたのか。ガキ一人のお守りのためにご苦労なこったな。案外冒険者は暇な連中が多い……」


 と言いかけたオニキスの台詞を、クォーツのかぶりが遮った。


「いいや、二人だけだったよ」


「あっ?」


「そのうちの一人が、かなり強かったんだ。まだ子供だったんだけど、たぶん実力はもうマスタークラスの冒険者に匹敵すると思う。その人間にほとんどの魔人がやられちゃった」


「……へぇ、一人の子供ね」


 オニキスは鬼のように鋭い目を、さらに細めてほくそ笑んだ。

 その笑みを見て怖気だったシトリンは、ますます身が強張って動けなくなってしまった。


「あっ、ちなみに魔人の一人はぼくが殺しちゃったんだけど、何かお詫びとかした方がいいかい? 一応、君の徒党(レギオン)の団員でしょ」


「いや別に。今回の仕事だけで充分釣りが出てる。一匹や二匹ぶっ殺しても問題ねえよ」


 あのワニのような魔人のことだと、シトリンは密かに思い出していた。

『オニキス・レギオン』。

 目の前の黒鬼の魔人が取り仕切る魔人集団。

 主にこの『黒曜山』のエリアを拠点にし、現在は徒党拡大に努めている。

 団員は全部で三十人ほど。いや、先ほどの戦闘で何人かが倒れ、今は団員のほとんどが外にいるせいか姿が見えないので、もはや正確な数字はわからない。

 わかっていることと言えば、徒党を強くするためならどんな悪質な行為にも手を染め、気に食わない奴がいれば地の果てまで追って始末する。言うなれば、魔人のあるべき姿をした徒党(レギオン)だということ。

 だから仲間が死のうと顔色一つ変えない。果ては笑い話にさえしてしまう。

 ここにいる連中は、みんなこんな感じだ。


「それにしても、よくこの子があの湿地帯を通るってわかったね。何か居場所を特定するような特別な力でも使ったのかい?」


 クォーツがシトリンの腕を引っ張りながら、オニキスに尋ねる。

 シトリンも同様の疑問を抱いていて、自然とオニキスの返答に耳が寄った。


「いいや別に。ただ“情報提供者”がいたってだけの話だ」


「情報提供者?」


「なんつったっけなあいつら? 確か背教者(レネゲイド)、だったか? 人間の犯罪者集団だよ。少し前からうちの徒党(レギオン)に加担しててな、金を撒けば人間の町から情報を仕入れて、こっちに色々と流してくる」


 という答えを聞き、シトリンは一つの疑問を解消した。

 なぜこいつらは、自分の居場所を知っていたのか。

 もっと言えば、ギルド本部を目指してあの場所を通ることを知っていたのか。

 意外にも答えは簡単だった。そういう情報を、人間側がオニキス徒党(レギオン)に流したのだ。

 魔人では入手困難な情報も、それならば容易に手に入ってしまう。

 しかしどうして付添人が、ラストとダイヤの二人だけしかいないと知らなかったのだろうか?

 と、疑問に思ったすぐ傍で、それも簡単な話だと気が付いた。


「そんな人間たち、信用できるのかい?」


「はっ、端から信じてるわけねえだろあんな連中。だからこそ念を入れてお前に依頼を出したんじゃねえか。まっ、今回の情報は確かなものだったみたいだがな」


 背教者(レネゲイド)たちの情報を、完全に信用していなかったのだ。

 シトリンの付添をまさかたった二人だけに任せているとは思わず、背教者(レネゲイド)たちの情報に偽りや誤りがあるのではないかと疑っていた。

 だからこそあの人数の魔人と、この白魔人をこちらに差し向けてきたのだ。

 それはひとえに、オニキスが人間をまるで信用していないということ……そしてオニキスにとってシトリンが、とても重要な魔人という証明になっている。


「ところで、お前は本当に何もいらねえのか?」


「んっ?」


「仕事の報酬だよ。お前には色々と働いてもらったからな。背教者(レネゲイド)たちと違って金がいらねえことはさすがにわかるが、他に欲しいものは何もないのかよ? 聞けば、他の“魔人連中”にも同じように無償で手を貸してるって話だし、お前はいったい何がしたいんだ?」


 オニキスが怪訝な顔でそう聞くと、クォーツは短い答えを彼に返した。


「人間を滅ぼしたい。ぼくが願っているのはそれだけだよ」


 静かに、ゆっくりと紡がれた言葉だったのだが。

 すぐ傍でそれを聞いていたシトリンは、声の奥に隠れたドス黒い“何か”を感じ取り、人知れず体を震わせた。

 そのせいで一層、彼女は動けなくなり立ち尽くしてしまう。


「人間を滅ぼしたい、ね。自分で滅ぼそうとは思わねえのか? その方が面白えし、上手くいきゃ次世代の“魔王”になれるかもしれねえんだぜ?」


 オニキスの問いかけに、クォーツは間髪入れずに答えた。


「思わないね。ぼくはそもそも戦いが得意じゃないし、誰が魔人の王になろうとそんなの知ったことじゃない。誰だっていいのさ。いつか人間を滅ぼしてさえくれたらね。だからぼくはみんなに手を貸してる。本当に、ただそれだけさ」


 幼い少年のようにも見える白魔人から、似つかわしくない言葉が次々と出てくる。

 その違和感と重い雰囲気に気圧され、シトリンの顔は無意識のうちに引きつっていた。

 この魔人は、いったいどれだけ……


「お前、本当に人間が嫌いだな」


「逆に聞くけど、人間が好きな魔人なんていると思うかい?」


 その返答に、オニキスは「違いねえ」と呟いて笑った。

 人間が好きな魔人なんているわけない。魔人は皆、人間が大嫌いだ。

 しかしシトリンは、彼らのその意見を間近で聞き、一言言ってやりたい気持ちでいっぱいになった。

 だが当然、物申す余裕なんて彼女にはない。

 依然として口を閉ざしていると、オニキスがクォーツに対して軽く左手を差し伸べた。


「んじゃあよ、よかったらお前もうちの徒党(レギオン)に入らねえか? 人間ならすぐに俺が滅ぼしてやるからよ。そのために俺の徒党(レギオン)に入って力を貸せ。それに、“戦乱の世”を一緒に生き抜いた魔人同士、お前とはそこそこ仲良くできる気がすんだよな」


 その誘いを受け、クォーツは再び静かな笑みを白い顔に浮かべた。


「ごめんオニキス、悪いけど遠慮しておくね。『オニキス・レギオン』に入るのはすごく面白そうではあるけど、そうなると他の徒党(レギオン)の手助けができなくなっちゃう。人間を滅ぼすなら、それこそたくさんの徒党(レギオン)に手を貸した方が早いだろうからね」


「あぁそうかい。そいつは残念だ」


 と、残念そうではない様子でオニキスは肩をすくめた。

 彼のその姿を見たクォーツは、ずっと掴んでいたシトリンの腕を放し、くるりと踵を返した。

 そして右手の鍵剣を頭上まで振り上げる。


「それじゃあね、オニキス。君には期待してるからね。また何か用があったら声かけてよ」


「あぁ」


 手短にそう言い残すと、クォーツは例の能力を使ってどこかへ消えてしまった。

 後に残されたのは、オニキスとお付きの女魔人。

 そして、いまだに恐怖で体が硬直しているシトリンだけ。


「さーてと」


「――っ!」


 オニキスが声を発した瞬間、シトリンは思わず身を竦めた。

 先ほどまでクォーツだけに向けられていた視線が、完全にこちらに振り向く。

 怖気が体の底から込み上げてきて、今にも逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。

 そうやって怯えるシトリンに対して、オニキスは不気味な笑みを浮かべた。


「久しぶりだなシトリン。めちゃくちゃお前に会いたかったぜ」


「……」


 こちらは会いたくなかったと、シトリンは心中で毒づいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔人がなぜ人間を嫌うのか、その理由を知りたい気がします。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ