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【さびついた剣】を試しに強化してみたら、とんでもない魔剣に化けました  作者: 万野みずき
第二章

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第六十五話 「一瞬」

 

 見るからにシトリンの様子はおかしかった。

 まるで目の前の魔人連中を恐れているように、小さな体を震わせている。

 魔人という存在そのものに怯えているのだろうか?

 他の魔人に迫害されたという経験があるようなので、魔人を警戒するのは当然だろうけど、それにしては反応が過剰に思える。

 どちらかと言えば、奴らの顔を見知っているような……


「てっきり上級冒険者が大勢で護衛してるかと思ったが、まさかガキ二人だけにお守りをさせてるなんてな。こんな人数いらなかったかもしれねえな」


 ワニ魔人のその呟きに、ますます疑問符が重なる。

 シトリンに用事があるように見える。

 これだけの数の魔人を引き連れて、いったい何を企んでいるのだろうか?


「お前たちはいったい何なんだ。シトリンに何の用がある」


【さびついた剣】を構えながら、警戒を一切怠らずに問いかける。

 するとワニ魔人は、僕の神器に目を向けて、盛大な笑い声を響かせた。

 

「ガハハッ! 随分と威勢の良いガキだな! 今にも壊れちまいそうな神器ぶら下げといて、ここで逃げ出さねえのは大した根性だ!」


 それに釣られて他の魔人たちも嘲るような笑みを浮かべる。

 その程度で僕の心が逆撫でされるはずもなく、ただ黙って返答を待っていると、ワニ魔人がシトリンを見据えながら続けた。


「別にお前に話すことは何もねえよ。さっさとそこのガキを寄越しな」


「……」

 

 その声に合わせるように、魔人たちが各々におぞましい神器を構え始める。

 話を聞く耳は持っていなさそうだ。

 シトリンに何の用があるのか、気になるところではあるが……

 僕は端的に言葉を返した。


「『嫌だ』って言ったら……?」


「良いっつってもぶっ殺すに決まってんだろ!」


 瞬間、連中は神器を振り上げてこちらに向かって来た。

 すかさず僕は、【さびついた剣】を【呪われた魔剣】に進化させ、同時にダイヤを一瞥する。


「ダイヤはシトリンを!」


「は、はいっ!」


 彼女が盾を構えてシトリンを庇うのを見るや、僕は魔人たちを斬るべく駆け出した。

 確かに最初は驚いた。

 いきなり大勢の魔人が、物騒な神器を片手に木陰から現れたのだから。

 でも、落ち着いて見れば、慌てる必要はないと気が付く。

 こいつら、大したことない。

 もちろん、神器を持った魔人たちなので、脅威であることに違いはないが、今はこいつらに負ける気がしなかった。

 そうだと思えるようになったのはきっと、少しだけ自信がついたからだ。


「おらよっ!」


 まず最初に熊のような魔人が、巨大な斧を振り上げて襲い掛かって来る。

 僕にはその光景が、まるで止まっているかのように見え、余裕を持って横に回避した。

 振り下ろされた大斧が、盛大に空ぶって地面に叩きつけられる。

 その隙に僕は、熊魔人の後方へ回り込み、がら空きの背に【呪われた魔剣】を一閃した。

 ……躊躇しちゃダメだ。


「はっ!」


 すると、熊魔人の恵まれた巨躯に、するりと刃が貫通した。

 一瞬で上半身と下半身がなき別れになる。

 吠える間もなく倒された熊魔人を見て、向かって来ていた他の連中が咄嗟に足を止めた。


「な、なんだこいつ!?」


「ただのガキじゃねえ!」


 その隙を見逃すほど、僕も間抜けではない。

 ピタリと硬直する蜂のような魔人に、一瞬で肉薄した。

 奴はぎょっとして、神器と思われる右手の巨大針を慌てて振り上げる。

 が、振り上げた時にはすでに、僕は首を斬っていた。

 蜂魔人は神器を振り上げたままの格好で地面に倒れる。

 次に魚のような魔人の後ろまで疾走し、走った勢いのままにそいつの体を薙いだ。

 同じようにして次々と魔人たちを斬っていく。


「はあっ!」


 仲間がバタバタと倒れていく光景を見て、他の連中は戸惑うように目を泳がせていた。

 こいつらは僕に追いつけない。

 どころか目で追うこともままならないのだろう。

 これが【呪われた魔剣】の真価。

 敏捷の恩恵を完璧に使いこなすということなのだ。

 ヘリオ君との戦いで得た成果は、思った以上に大きなものだ。

 魔人相手にも充分通用している。


「調子に乗んな!」


 最後に残ったワニ魔人が、ノコギリのような神器を構えて飛び出して来た。

 他の魔人たちとは違い、こいつだけは辛うじて僕の動きを目で追っていた。

 そして僕の攻撃の終わりに合わせるように、ノコギリの神器を振ってくる。


「……遅い」


 それでも僕には、奴が隙だらけに見えた。

 振られたノコギリが僕の元に届く前に、素早く魔剣を振り切る。

 するとワニ魔人の右腕が、神器を持ったまま高々と舞い上がった。


「ぐ、あああ――――!!!」


 ワニのような魔人は、右腕の切断面を左手で押さえて、苦痛に顔を歪ませた。

 痛みのあまりか、奴は力なく地面に膝を付く。

 そんなワニ魔人に対して僕は、脅しを掛けるように【呪われた魔剣】の切っ先を向けた。

 まだ止めは刺さない。

 こいつには聞かなければならないことがあるのだ。

 とても口を割るとは思えなかったけれど、僕は声を低めて問いかけた。


「お前たちの目的はなんだ? どうしてシトリンを狙っているのか、全部話してもらうぞ」


「ぐっ……!」


 怒りを滲ませた顔でこちらを見上げてくる。

 やはり答える素振りはない。

 それでも神器の先を向けて、返答を待ち続けていると……

 やがて、どこからか――


『あぁ、その必要はないからね』


「――っ!?」


 まったく別の者の声が聞こえて来た。

 次の瞬間、ワニ魔人の腹部から、異形の“刃”が突き出てきた。


「ぐあっ!」


 ワニ魔人は瞳を見開いて、腹部の刃に目を落とす。 

 まるで背中から剣で突き刺されたようなワニ魔人の姿に、僕も驚愕を禁じ得なかった。

 なんだこの刃は? それに今の声はどこから聞こえたのだ?

 ワニ魔人の後ろには誰もいない。

 背中から剣を刺すことができる奴は、誰一人としていないはずなのに。

 やがて刃が引っ込み、ワニ魔人はバタリと地面に倒れた。

 そしてまたどこからか、何者かの抑揚のない声。

 

『上級冒険者がいると思って、君たちを先に行かせたけど、まさかたった一人の子供にやられるなんてね。悪いけど、役に立たない魔人はいらないから』


「く……そっ……!」


 そしてワニ魔人は事切れたのか、全身が光の粒子となって崩れていった。

 後に残されたのは、奴が持っていたノコギリの神器と、他の連中の神器だけ。

 訳がわからずに固まっていると、やがて傍らにそびえる枯れ木の裏から、一つの人影が現れた。

 そいつは僕から僅かに離れたところに立ち、こちらを見つめて静かに笑う。


「でもまあ、彼らを先に行かせて正解だったみたいだね」


「……」


 白い子供。

 最初の印象がそれだった。

 肌も髪も瞳も、着ている布服も、そして右手に持っている神器と思しき武器も、すべてが新雪のように純白だ。

 中性的な顔立ちをしていて性別は定かではない。童顔の男の子のようにも見えるし、幼い少女のようにも見える。

 いやそれ以前に、まるで血の気のない人間離れしたその姿は、どこからどう見ても魔人そのものだ。

 加えて、右手に持っている神器もまた異質。


「……鍵」


 白い鍵だ。

 大きな門を開くためのような鍵。

 先端が刃のように鋭くなっているので、鍵のような剣だとも言える。

 鍵剣の神器。

 先ほどワニ魔人の腹を貫いたものと同じに見えるが、あの場所からどうやって攻撃を届かせたのだ?

 いったいどんな能力が宿っているのか見当もつかない。

 いや、それよりも……


「……」


 何なんだ、こいつの正体不明の威圧感は?

 対峙しているだけで、肌をピリピリと刺激されるようだ。

 こいつがいるだけで、この場の空気全体が重たくなったような気さえする。

 明らかに他の魔人たちとは別種の存在。

 あまりの緊張感に全身が強張る。


「すごいね、君」


「……?」


「オニキス徒党(レギオン)の魔人たちを一瞬で倒しちゃうなんて。彼らも別に弱いってわけじゃなかったのにさ」


 オニキス、徒党(レギオン)

 思わず眉を寄せてしまう。

 今の魔人たちのことを言っているのだろうか?

 どこかしらの徒党(レギオン)に所属していたのか?

 という僕の疑問はそのままに、白い魔人はさらに続けた。


「まだ神器を授かって間もないだろうに、君は大した才能を持っているよ。たぶんぼくじゃ、勝つのは難しいかもしれないね。だから、目的だけ回収させてもらおうかな」


「目的……?」


 再び首を傾げる僕の前で、奴は鍵剣を高々と振り上げた。


付与魔法(エンチャント)、【開門(ニューゲート)】」


 瞬間、鍵剣の刃に“白いモヤ”がまとわりつく。

 まるで冷えた氷から立ち昇る白霧のように、神器をじんわりと包み込んでいた。

 すると白魔人は、その鍵剣の神器をその場で振り下ろした。

 僕から十歩以上も離れた場所で、何もない空間を斬りつけるように。

 そんな場所から攻撃が当たるはずもなく、空を切る音だけが虚しく鳴る。

 いったい奴は何をしているのだろう? 

 そう疑問に思う中、奴は鍵剣を振り下ろした空間に、おもむろに左手を伸ばした。

 そして……


「それじゃあもらうよ」


 そう言うや、奴は左腕を引き抜く。

 するとその手には、信じがたいことに、一人の少女が掴まれていた。

 金色の長髪と黒ワンピースが鮮やかに映る、幼げな少女(シトリン)が。


「なっ――!?」


 僕は咄嗟に後ろを振り向く。

 同様にダイヤも驚愕した様子で後方を振り返った。

 そこにいたはずのシトリンが、いつの間にかいなくなっていた。


「わ、私の後ろにいたはずなのに!?」


 そうだ。今の今までシトリンは、ダイヤの後ろに隠れていた。

 けれど気が付けば、シトリンは目の前の白い魔人に捕われている。

 いったいどんな能力を使ったのだ?

 神器に付与魔法(エンチャント)を掛けて、鍵剣を振り落としたところまではわかった。

 でも次の瞬間、刃を振り下ろした空間から、いきなりシトリンが引っ張り出されたように見えた。

 目の前の景色に理解が追いつかない。

 いや、わかっていることが一つだけある。


「それじゃあね、冒険者さん」


 奴が言っていた“目的”というのは、“シトリン”の身柄に他ならない。

 そのシトリンを、みすみす魔人に奪われてしまったのだ。

 その事実に打ちのめされる僕をよそに、白魔人は再び鍵剣を振り下ろす。

 すると今度は確かに見える。

 鍵を振り下ろした空間に、亀裂が入ったように“歪み”が発生していた。

 白魔人はその歪んだ空間に足を踏み入れる。

 まるで歪みに溶け込んでいくかのように、奴の体が消えていった。

 ――まずい!


「くっ――!」


 僕はハッとなって飛び出す。

 たぶんあの歪みは、まったく別の空間に繋がっているのだ。

 奴の持っている鍵剣は、言わば空間を移動することができる異質な神器。

 あれを使えば、細い枯れ木の裏から大量の魔人たちを出現させることも、魔人の背中をまったく別の場所から貫くことも、後ろにいたはずのシトリンを一瞬で奪い去ることも、充分に可能。

 そしておそらく、エリアの中で冒険者を消し去るようにして“誘拐”することも、簡単にできるはずだ。

 もしかしたらこいつが、一連の事件の元凶やもしれない。 

 絶対に逃がしてたまるか!


「シトリン!」


 僕は敏捷値が許す限りの速度で、シトリンの元へ走り出す。

 彼女も、白魔人の腕を振り解くようにして、僅かな抵抗を見せていた。

 しかし抵抗虚しく、白魔人と共に歪みへと引き摺り込まれていく。

 刹那、体の半分を呑み込まれたシトリンが、泣き出しそうな顔をこちらに向けた。


「――っ!」


 シトリンは、『助けて』とは言わなかった。

 けれど、彼女が歪みに吸い込まれる瞬間、僕は確かに目にする。

 シトリンの小さな手が、まるで助けを求めるみたいに……

 

 真っ直ぐに、僕の手元へと伸ばされていた。




――――――――


修正報告


【神器合成】・邪神の祝福が施された神器を、強化素材として合成可能

      ・合成した神器の魔法とスキルを獲得

      ・未装備の神器に限る

      ・強化素材とする神器を近づけることで効果発動



【神器合成】・邪神の祝福が施された神器を、強化素材として合成可能

      ・合成した神器の付与魔法(エンチャント)を獲得

      ・未装備の神器に限る

      ・強化素材とする神器を近づけることで効果発動

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― 新着の感想 ―
[気になる点] うわ、マイナス修正入ってる・・・ 大量にスキル手に入ってゴチャゴチャしないかとは思ってたけど、こんな無理矢理な手で解決してくるとは・・・
[気になる点] 周りに残った魔人たちの神器喰っちゃわないと。 [一言] >「まだ神器を授かって間もないだろうに、君は大した才能を持っているよ。たぶんぼくじゃ、勝つのは難しいかもしれないね。だから、目的…
[一言] シトリン可哀想です (´;ω;`)
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