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【さびついた剣】を試しに強化してみたら、とんでもない魔剣に化けました  作者: 万野みずき
第二章

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第六十三話 「野営」

 

 ギルド本部を目指して歩くこと数時間。

 いよいよ辺りが暗くなってきた。

 すでに危険域の森は抜けて、綺麗な湖のほとりまで来たので、今日はここで野営をすることにする。

 ちょうど良く湖に面した木陰もあったので、そこで代わりばんこに水浴びをして、旅の疲れと汚れを落とした。

 そして程良く拓けた場所で火を焚いて、長らくぶりに腰を落ち着けると、シトリンは糸が切れたようにすぐに眠ってしまった。

 相当疲れていたみたいだ。

 明日は村か町で休みたいところだけど、シトリンの入場を許してくれるような場所が都合良く見つかるかはわからない。

 もし守衛に止められたりしたら、水や食糧の補給だけしてまた野営することになるだろう。

 窮屈な旅になるけれど、シトリンを助けることを思えばなんてことはない。

 でも、それはあくまで僕個人の意見だ。

 たった今焚き火のそばで携帯食料を頬張っている相棒まで、まったく同じ気持ちだとは限らない。

 僕はそれを確かめるように、ダイヤに静かに声を掛けた。


「言うの遅くなっちゃったけど、ありがとうねダイヤ」


「ふぁいっ?」


 片頬を膨らませたダイヤがこちらを見る。

 何のことですかと言いたげな表情だったので、僕はすかさず補足した。


「一緒について来てくれたことだよ。大変な旅になるってわかってたのに、それでも一緒に来てくれて、すごく心強い」


「ど、どういたしましてです。改めてそう言われると、なんだかむず痒いですね」


 ダイヤは照れ臭そうに"あはは“と苦笑した。

 この際だからと、僕はずっと気になっていたことを尋ねてみる。


「でもさ、どうして手伝ってくれたの?」


「えっ?」


「ダイヤの目的は冒険者階級を上げて、『白金窟』への立ち入り許可を取るためでしょ? でも今回のこれは冒険者依頼に含まれないから、階級にだって影響しないし、下手すれば罰則を受けることだってあり得る。なのにどうして……」


 今日の昼、ギルドの前で僕のことを待っていてくれたのだろうか?

 ずっと気掛かりだった。

 あの時は、僕と一緒にシトリンを助けたから同罪だって言っていたけれど、正直ダイヤに罪はない。

 僕が咎められていたのは人間に対して神器を向けたことなので、ダイヤまで付き合ってくれることはなかったのだ。

 それなのにどうして……

 そう聞くとダイヤは、僅かに頬を膨らませて僕を見た。


「もしわかって聞いてるなら、ちょっと意地悪ですよラストさん」


「い、意地悪って、僕は別にそんな……」


 意地悪する気なんてまったくないのに。

 思わず言い淀んでいると、膨れっ面だったダイヤが、途端にクスッと笑みを浮かべた。


「仲間だからに決まってますよ。ラストさんだって、そのことは充分にわかっているんじゃないですか? だって、もし仮に立場が逆だったとしたら、ラストさんが私のことを助けてくれてましたよね」


「……うん、そだね」


 ダイヤがシトリンを助け、シトリンのためにギルド本部を目指すと言ったら、確実に僕もついて行っただろう。

 改めてそのことに気付かされて、僕の問いかけは愚問に他ならなかったと思い知らされた。

 聞くのは野暮だったかもしれない。


「それに、私だってシトリンちゃんのことを助けたいって思いましたから、別に苦だとは思っていません。三人で旅ができているのもすごく楽しいですし。そもそも、私……」


 不意に言葉を切ったダイヤは、浮かべていた笑みを苦笑に変えた。


「ラストさんがいないと、何もできない無能ですから」


「……」


 その笑みにはどこか、含みがあるように僕には見えた。

 何か思うところがあるような表情。

 そういえば少し前にも、似たような顔をしていたような……

 何かあったのだろうか?

 僅かに抱いた違和感の正体を、ダイヤに問いかけてみようとするけれど、残念ながら彼女に先を越されてしまった。


「ところで、ラストさんはどうしてこの子を助けようと思ったんですか?」


「えっ?」


「ラストさんの目的も、ある冒険者さんに追いつくことだって言ってたじゃないですか。この子を助けても、冒険者階級は一つも上がらないのに、どうしてラストさんはこの子のために、いま頑張っているんですか? さっきの仕返しです」


 気が付けば、すでに意味深な苦笑は消え、ダイヤはにやけるような笑みを浮かべていた。

 いつものダイヤに戻っている。

 先ほどの表情は気になるけれど、先に聞かれてしまったため、僕は致し方なく返答することにした。

 どうしてシトリンのことを助けたのか。

 ……というか、ダイヤのにやけ笑みからして、すでに答えはわかっているような様子だ。

 まあ、それも当然と言えば当然である。だって助けた理由なんて、ただ助けたいと思ったからだ。至って単純明快。

 きっとそれを僕の口から言わせたいのだろうな。

 でも、シトリンを助けた理由はそれだけでもない。

 馬鹿正直に単純な答えを返しても、ダイヤにしてやられた気になるので、僕はもう一つの理由を話すことにした。


「確かに僕の目標は、ある人に追いつくことだよ。そのために冒険者になったし、冒険者としてあの人に追いつきたいって思ってる。でも、階級が同じになったからって、その人に追いつけたってことになるのかな?」


「……どういうことですか?」


 ずっと考えていた。

 どうやったらルビィに追いつけるのだろうかと。

 冒険者階級が同じになったら?

【呪われた魔剣】を使いこなせるようになって強くなったら?

 昔から憧れていた『英雄』って呼ばれるようになったら?


「今さらだけど、僕の"目的“って、結構曖昧なんだよね。ダイヤみたいに明確な目的があるわけじゃなくて、『ある人に追いつきたい』っていう漠然とした気持ちだけ。そのために何をするべきなのか、僕はいまいちわかってないんだ」

 

 だから……

 

「だから、少しでもあの人に近づくために、あの人の真似をしてみようかなって思ってさ」


「真似?」


「あの時、僕の恩人なら、同じことをしてたかなって」


 そう、言っちゃえばこれはただの真似事だ。

 ルビィならきっと、同じ状況でシトリンのことを助けていた。

 だから僕も同じようにシトリンを助けようと思った。

 助けることでルビィに近づけると思ったから。

 まあ実際は、シトリンのことを助けた後で、ルビィもきっと同じようにしてたよねって気付いただけなんだけど。

 ともあれ、今はまだ、ルビィの後を追っているだけなのだ。

 ルビィの後を追って冒険者になって、ルビィの後を追って冒険者活動を頑張っている。

 そう思うと、僕って結構空っぽな人間だな。

 僕の本当にやりたいことって、いったい何なのだろう?


「……なるほどです。ラストさんがシトリンちゃんを助けた理由がよくわかりました。それと、その人がラストさんにとって、どれだけ大きな存在なのかも。私もいつかお会いしてみたいです」


「うん、きっと仲良くなれると思うよ」


 ルビィに追いつくことは、ひとまず置いておくとして。

 とりあえずは一度、久しぶりに顔を合わせておきたいな。

 冒険者になれたことを自慢しなくちゃいけないし、ダイヤのことだって紹介しておきたい。

 何よりもう三年も会っていないのだから、顔を忘れられちゃう前に再会しておかないとね。

 差し当たっては、シトリンの件を終わらせたらルビィを探してみよう。

 本当にやりたいことは決まらなかったけれど、また新たな目的が一つ出来た。


「……」


 ふと、隣で眠るシトリンが目に映る。

 そして彼女の右手人差し指に付いている指輪がきらりと光り、僕の視線はそちらに吸い寄せられた。

 そういえばこの子、“治癒魔法”を使ってたよね。

 その時、この指輪が光ってたように見えた。

 ということはこの指輪が、シトリンの“神器”ということになる。

 ……ちょっとだけ見てみたい。

 いったいどんな性能(プロパティ)を秘めているのか。

 他人の神器の性能(プロパティ)を勝手に覗くのは、マナー違反ということになっているけれど、シトリンの身の潔白を再確認するためにも、僕は恐る恐る手を伸ばした。

 失礼します。


名前:微光の指輪

ランク:C

レベル:1

攻撃力:0

恩恵:筋力+0 耐久+0 敏捷+0 魔力+80 生命力+20

魔法:【回復(ヒール)

スキル:【光合成】

耐久値:30/30


「んっ? 何してるんですかラストさん? なんだかちょっと嬉しそうですけど……」


「えっ? ううん、なんでもないよ」


 僕はシトリンの指輪から手を放し、手持ち無沙汰になったその手を焚き火の前にかざした。

 ギルドが彼女のことを無害だと判断したのも頷ける。

 おそらく職員さんたちも同じように神器の性能(プロパティ)を見たのだろう。

 レベル1という、今まで人間を誰一人として殺したことがないという証明を。

 攻撃的な魔法が一つも宿っていないという、無害と信用するに足る根拠を。

 もちろんこれだけですべてを断定できるわけではないが、少なくてもシトリンの無害性はより明らかなものになった。 

 そうと安心したら、僕もなんだか眠くなってきてしまった。

 その日はダイヤと代わりばんこで睡眠を取り、夜を過ごしたのだった。


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[気になる点] また、無駄な描写。他の読者も言ってるだろ!もっとサクサク行こうよ!
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