第四十九話 「依頼達成」
『帰りの戦闘はボクに任せてよ! ここまで守ってもらった分、今度はボクが二人のことを守ってあげる!』
帰り道のこと。
神器を取り戻したジェムさんは、水を得た魚のように、自信満々にそう言った。
逆に、神器を破壊されてしまった僕は、自信なさげに『お願いします』と返した。
情けないことこの上ないが、帰り道の戦闘はジェムさんに任せることにした。
本来であれば、ジェムさんは神器探しをお願いしてきた依頼人なので、僕が護衛しなくてはならないんだけど。
神器が折れてしまっているので致し方あるまい。
それにジェムさんの正体を知った今、彼女は護衛が必要な人物ではないと改めてわかった。
ジェムさんは強い。
それはもうとんでもなく。
帰り道での戦闘で、そのことをさらに痛感させられた。
Aランク神器の恩恵を二本分も受けていることもそうだが、その力を最大限発揮できる素質も驚くべきものだ。
飛びかかってくる魔物は見る間に斬り裂き、気が付けば目の前から姿を消していた。
凄まじいの一言である。
ダイヤも一応、ジェムさんの助けになればと戦闘に加わろうとしていたけれど、介入の余地がないくらい瞬殺の連続で手出しができていなかった。
おまけにダイヤは、ジェムさんが二刀流剣士ということを知らずにいたので、ジェムさんが二本の神器を振り回すところを見て、しばらくぽかんと口を開けていた。
そのせいで戦闘に加われなかったと言っても過言ではない。
僕が魔人にやられそうになっているところを、ジェムさんに助けてもらったという話はしたが、神器については教えていなかった。
二本の神器を腰にぶら下げて帰ってきたジェムさんを見てはいただろうけど、その両方共がジェムさんの神器とは考えもしていなかったんじゃないかな。
だからこんな反応をしてしまうのも仕方がない。僕も最初に見た時は似たような反応をしちゃったからね。
だって神器を二本も持っている人間なんて見たことも聞いたこともないんだから。
いったいどうしてジェムさんは神器を二つも所持しているのだろう?
当然そのことを、帰り道で本人にも聞いてみた。
でも、聞いたところで結局何もわからなかった。
なぜなら……
『えっ? なんで神器を二つも持ってるかって? ボクにもよくわかんない』
“あはは〜”とあっけらかんとした笑みを浮かべて、ジェムさんがこう返してきたからだ。
どうやら『祝福の儀』を受けた時、神器が二本同時に祭壇に出現したらしい。
その理由は本人にもわからないようで、いまだに詳細は不明のようだ。
本当に、どうしてジェムさんの手元には二本の神器が降臨したのだろうか?
謎である……
何はともあれ、ジェムさんの凄まじい戦闘を後方で眺めていると、いつの間にか僕たちはエリアの外へと出ていた。
そして無事に町にも到着し、晴れて捜索依頼は完了となった。
「お疲れ様でした〜」
ギルドまで戻り、依頼の報告を済ませると、チャームさんがいつもの間延びした声で労ってくれた。
これにて正式に神器探しの依頼は終了となる。
報酬も受け取り、冒険者手帳に依頼達成の印章も押してもらった。
ついでに僕は、今回の依頼中に得た情報を、チャームさんに共有しておくことにした。
「へぇ〜、七色森のエリア内に地下洞窟があったんですか〜。全然知らなかったのですよ〜。よく見つけられましたね〜」
「見つけられたのはジェムさんのおかげです。そこに神器を持って行かれてしまっていたので、本当に偶然で……」
と言うと、後ろに立っているジェムさんが『いやいやぁ〜』と照れ笑いを浮かべた。
ジェムさんの“おかげ”と言った部分に反応したのか、もしくは神器を持って行かれてしまったという部分を恥ずかしがったのかは定かではない。
特にそれについては言及しないでいると、チャームさんが心なしか目を丸くしながら続けた。
「それに〜、またサビサビ君の前に魔人が現れたっていうのも〜、とても驚きなのですよ〜。本当によくご無事でしたね〜」
「……それも、何というか、ジェムさんのおかげですからね。魔人はジェムさんが倒してくれましたから」
今度こそジェムさんは、称賛を受けたことに対しての照れ笑いを浮かべたのだった。
これは本当にジェムさんのおかげだ。
彼女がいなければ僕はやられていた。
そもそもジェムさんが神器を盗られていなければあんな目には遭っていなかっただろうけど、それでも魔人から助けてもらったのは紛うことなき事実である。
ジェムさんは強い。ということをチャームさんもわかってくれたみたいで、彼女は童顔の上に何か含みのある笑みをたたえて、ジェムさんに言った。
「もしよろしければ〜、冒険者になってみてはいかがですか〜?」
「あははっ! それも悪くないかもですね! でもごめんなさい、ボクにはまだやることがありますから」
という返答を受けて、“あら残念です〜”とそんなに残念そうじゃない様子でチャームさんは呟いた。
元から答えがわかっていたみたいな反応だ。
同じく僕とダイヤも、ジェムさんの性格なら冒険者になろうとはしないだろうなと思っていたので、さほど驚きはしない。
彼女は冒険者じゃなくても勝手に冒険するからだ。
「何はともあれ〜、三人ともご無事でよかったのですよ〜。本当にお疲れ様でした〜」
これにて手続き終了、と言わんばかりに、チャームさんは重ねて労いの言葉を僕たちに掛けてくれた。
そんな彼女を見ながら、僕はふと今さらながらに疑問に思う。
そういえばチャームさんは、ジェムさんが双剣使いということを事前に知らなかったのだろうか?
僕たちに依頼紹介をしてくれた時は、特に何も言ってなかった。
もし知っていたなら、ジェムさんの神器は二本あるからきちんと二本探してきてくださいね〜、なんて風に最初に言っておいてくれたはずだ。
じゃあ知らなかったのかな?
でも、両の腰に剣をぶら下げているジェムさんを見て、特に驚いていないのはいったいどういうことなんだろう?
神器だと気付いていないのだろうか? それとも無用な詮索をしないのがギルド職員の心掛けなのだろうか?
と、人知れず思い悩んでいる中……
「それじゃあボクは、そろそろお暇しようかな」
「えっ?」
依頼報告が無事に済んだと見たのだろうか。
ジェムさんは僕たちに笑みを向けながら、唐突にそう言った。
そんな彼女の片手には、緑魔人を倒した証と言わんばかりに、地下洞窟から回収してきた“血塗られた棍棒”が握られていた。




