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【さびついた剣】を試しに強化してみたら、とんでもない魔剣に化けました  作者: 万野みずき
第二章

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第四十八話 「ボクの神器」

 

名前:さびついた剣

ランク:F

レベル:10

攻撃力:10

恩恵:筋力+0 耐久+0 敏捷+0 魔力+0 生命力+0

スキル:【進化】

耐久値:0/20


 耐久値全損による神器破壊。

 僕の【さびついた剣】はもはや、神器としての効果を完全に失っていた。

 どうして【さびついた剣】が折れているのだ?

 何もしてないはずなのに……


「――っ!」


 少し前のことを思い出し、僕はハッと気がついた。

 さっき背中に激痛を感じた。

 そして僕は吹き飛ばされて、盗品山の上に転がされた。

 たぶん、あの魔人が持っている“大きな棍棒”で、背中を殴られたのだろう。

 

「……その時か」

 

 僕は半ばから折れている【さびついた剣】を見て、舌打ちまじりに歯を食いしばった。

 背中の鞘に収めていた【さびついた剣】が、盾の代わりになって壊れてしまったんだ。

 そのおかげで一撃で昏倒することはなかったものの、【さびついた剣】は鞘の中で破壊されてしまった。

 これではもう戦うことができない。

 破壊されてしまった神器には、神聖力や恩恵も宿らず、スキルや魔法も使えなくなってしまう。

 僕の切り札である【呪われた魔剣】に進化させることができないのだ。

 このままじゃ……

 密かに奥歯を噛み締めていると、いつの間にか緑魔人が、僕の目の前にいた。


「うっ――」


 驚愕した僕は、呻きにも似た声を漏らす。

 そして咄嗟に後退しようと思って、足に力を入れたが、それより先に魔人の魔手が僕を襲った。

 胸ぐらを掴まれ、無造作に地面に叩きつけられる。

 再び背中に激痛を感じ、声にならない声を漏らしていると、次は腹を踏みつけにされた。

 棍棒の神器から多大な恩恵を受けているのだろう。凄まじい力で、僕は地面に押さえつけられた。


「あっ……ぐっ……!」


「チビ共に集めさせた物はな、全部アタイのコレクションなんだよ。クソ人間共の持ってる物は、全部アタイがもらいうける。だからアタイの物に勝手に触るんじゃねえ」


 額に青筋を立てているところを見るに、奴は激情に駆られているようだ。

 よほどこの盗品庫を荒らされたことが気に食わないらしい。

 しかし僕は、逆に怒りを持って、なんとか奴に言い返した。


「お前のじゃ、ないだろ……!」


「あっ?」


「他人から、強引に奪って、それを自分の物だって、勝手に決めつけるな……!」


 こいつはただの泥棒だ。

 ここにある物すべて、こいつの物なんかじゃない。

 それなのに奪ってきた物を勝手に自分の物だと決めつけて。

 中にはその人が大切にしている物だってあるはずなのに。


「はっ! だったら奪われねえようにしっかり握っておけよな。ま、チビ共に奪われるくらいなんだから、大して大事な物じゃなかったってことだろ? 道具も、神器も、人間の“命”もな」


「……?」


 人間の命?

 その発言を受けて、僕は思わず疑問符を浮かべた。

 何を言ってるんだ、こいつは……?


「たまにな、チビ共が“人間のガキ”を攫ってくることがあんだよ。そいつらも漏れなく、アタイの物にしてやったんだ。ま、ピーピー泣いてうるせえから、すぐにぶっ殺しちまったけどな」


「――ッ!」


 人間の……子供?

 それを攫ってきて、自分の物にしただと?

 そして殺した? 何の罪もない子供たちを?

 奪われるくらいなんだから大事な物じゃなかったなんて、勝手に決めつけて……

 燃えるような怒りを静かに募らせていると、そこに奴が油を注いできた。


「なあ知ってるか? 人間のガキを潰した時ってな、すっげえ面白え音が鳴るんだよ! 水を入れた袋を、思いっきり地面に叩きつけたような音がな……」


「だま……れ……」


「ずっとピーピー泣いてたガキ共が、『ベチャッ!』って音を鳴らして黙るのがな、もう本当に最高なんだよ! てめえも一回聞けば絶対に笑うはずだぜ! 『ピーピーベチャッ!』ってな……」


「黙れっ!!!」


 僕は叫びを上げた。

 背中や腹の痛みなんか忘れて、僕は頭の中で怒りを爆発させた。


「人の命を、なんだと思ってるんだ! 物みたいに軽々しく扱うな! 僕はお前を、絶対に許さない!」


 腹に押し付けられている奴の足を、左手で鷲掴みにしながら怒声を上げる。

 そんなせめてもの抵抗を、魔人は意にも介さず、心底つまらなそうに返してきた。


「許さないからどうするってんだよ。てめえみたいな雑魚に、いったい何ができるってんだ?」


「……っ!」


「それに、何度も言ってるだろうが。チビ共が盗ってきた物は、全部アタイの“物”なんだよ。アタイの物なんだから、それをどうしようがアタイの勝手だろうが」


「なん……だと……!」


「そんなに焦んなくても、てめえも今から同じようにしてやるから安心しろよ。マジで面白え音が鳴るから、よく聞いておけよな。ま、死んだ後じゃ聞こえるはずもねえか」


 そう言って奴は、大きな棍棒を振り上げた。

 僕の頭をかち割るべく、唸りを上げて棍棒を高々と掲げる。

 今の僕があれで殴られれば、確実に潰れる。

 ほとんど原形をとどめることなく、洞窟の地面のシミになることだろう。

 こんな奴に、僕は殺されるのか……?

 人の命を、子供の命を軽々しく摘むような、こんな非道な奴に……

 踏みつけにされながら緑魔人を見上げていると、奴は僕を嘲笑うかのように、口角を吊り上げて言った。


「死ねよ、バーカ」


「――っ!」


 大岩のような棍棒が頭に落ちてくる。

 魔人に踏みつけにされている僕は、奴の足をなんとか振り払おうとするも、抵抗虚しく回避が間に合わなかった。

 僕は、棍棒が落ちてくる景色を目前にして、己の死を悟った。

 …………しかし、その瞬間。


「よっと!」

 

 魔人の横顔に、飛び蹴り(・・・・)が突き刺さった。


「ぐあっ!」


 見事に顔面に蹴りを受けた緑魔人は、そのまま盗品山の方へ吹き飛んでいった。

 まるで、先ほどの僕と同じように。

 そして盛大な音を立てて、奴は頭から盗品山に突っ込んでいく。

 そんな光景を僕は、ただただ呆然と眺めていた。

 僕は……助かったのか?

 やがて、魔人に飛び蹴りを食らわせた人物が、調子外れな声を掛けてきて、僕はハッと我に返った。


「やあやあラスト君、間に合ってよかったよ」


「ジェ、ジェムさん……?」


 その人物が、あの気立ての良いお転婆なお姉さんだということに、僕は遅まきながら気付いた。

 どうしてジェムさんが、ここに……?


「なんかすごい音が聞こえてきたからさ、たまらず追いかけてきちゃったよ。そしたらラスト君が襲われててびっくりしちゃった。あっ、ダイヤちゃんは一人でも大丈夫って言ってたから心配しなくていいよ」


「そ、そうですか……」


 ジェムさんは口早に説明してくれる。

 先ほど僕が吹き飛ばされた時の音だろうか?

 あるいは盗品山を崩した時の音だろうか?

 どちらにしても、ジェムさんはそれを聞きつけてここにやってきてくれたみたいだ。

 助かった。間一髪だった。本当に感謝しかない。

 すると吹き飛ばされた魔人は、盗品山の中から体を起こし、ジェムさんを黄色い瞳で睨みつけた。


「なんなんだよ次から次に! アタイの部屋に勝手に入りやがって!」


「あぁ、やっぱ全然効いてないかぁ。ま、そりゃそうだよね。神器じゃなきゃ魔装を傷つけられないし」


 とんでもない威力のように見えた飛び蹴りだったが、やはり神器でなければ魔族を傷つけられないようだ。

 いまだに窮地なことに変わりがないとわかった僕は、なんとか上体を起こし、地に膝をついた。

 その体勢のまま、僕は現状について考える。

 ここからどうすればいい? 

 なんとかして逃げるか? いやでも、あの魔人を相手に逃げ切れる自信がない。

 それにあの魔人をこのまま見過ごすわけにもいかないだろう。

 かといって、今の僕には戦う力も残されていないので、“戦う”という選択肢を取りたくても取れない。

 いったいどうすれば……?

 と思い悩んでいると、突然ジェムさんが僕の足元に目を向けて、パッと笑顔を咲かせた。


「あっ、それ、ボクの神器(・・・・・)!」


「えっ?」


 釣られて地面に目を落とすと、そこには先刻の“二本の長剣”が落ちていた。

 金色と銀色の輝かしい長剣。

 魔人に殴られて吹き飛ばされた際、僕がギリギリまで手に持っていたので、同じところまで飛ばされてきたみたいだ。

 ジェムさんはその二本の長剣を、純真な少年のようにキラキラとした瞳で見つめている。

 やっぱりこれは、ジェムさんの神器で合ってたのか。よかった。


「見つけてくれたんだね! ありがとう!」


「な、なんとかですけど。あっ、でもこれ、どっちがジェムさんの……」


 と言いながら僕は、足元に転がっている二本の長剣を拾い上げた。

 そしてジェムさんに向けて差し出す。

 どちらかわからないので両方とも差し出してみたけれど、いったいどっちがジェムさんの神器なのだろう?

 なんて疑問に思っていると――


「アタイの物を、勝手に触ってんじゃねえッ!!!」


 僕らの短いやり取りを見ていた緑魔人が、怒号を放ちながらこちらに飛びかかってきた。

 盗品の山を蹴散らしながら疾走し、血塗られた棍棒を高々と振りかぶる。

 恐ろしいその光景を前にして、僕は思わず身を強張らせ、対してジェムさんは余裕の表情を一切崩さなかった。

 そして彼女は、長剣に手を伸ばす。

 二本の内どちらを手に取るのか、ほのかに疑問に思っている僕の前で……ジェムさんは、両の手で二本の神器を掴み取った。


「えっ……」


 呆然とする僕をよそに……

 魔人に対しての返答だろうか。

 あるいは、僕の疑問に対しての返答だろうか。

 ジェムさんは、飛びかかってくる魔人を見据えながら、二本の長剣を構えて言った。




「これは二つとも……ボクの神器だよ!」




 その瞬間、ジェムさんは僕の目の前から姿を消した。

 同時に、魔人の雄叫びもピタリと止む。

 気が付けばジェムさんは、剣を振り抜いた体勢で魔人の後ろに立っていて、魔人の体には“X”の字のような斬撃が刻み込まれていた。

 

「なん……だと……!」

 

 魔人は驚愕したように黄色い瞳を見開きながら、おもむろに地面に倒れる。

 そして叫びを上げることもなく、瞬く間に光の粒となって消滅してしまった。

 騒がしかった盗品庫に、一時の静寂が訪れる。

 後に残されたのは、奴の神器と思われるあの大きな棍棒だけだった。


「……」


 今の一瞬の出来事を目の当たりにした僕は、見開いた目を閉じることができなかった。

 言葉を無くし、息も忘れて、僕はじっと二本の神器を振り抜いているジェムさんを見つめている。

 自分でもわかる。僕は今、ひどく混乱している。

 今、ジェムさんは確かに、二本の神器で魔人を斬り伏せた。

 言葉では簡単に言い表せるけれど、それは常識では考えられない出来事なのだ。


 基本的に神器は、一人に一つだけと決まっている。

 決まっていると言うよりかは、『祝福の儀』は一度きりしか受けることができないので、絶対に一つだけに限られてしまうのだ。

 神器の中には、二つで一対になっているもの……例えば籠手とか靴とか……が往々にしてあるけれど、それらはあくまで二つで一つ。

 必ず紐か何かで繋がっていて、性能(プロパティ)も二つで一つになっているはずなのだ。

 でも、ジェムさんの持っている二本の長剣は、それぞれが完全に独立している神器だった。

 僕はそれを確かに見た。一本ずつにちゃんと性能(プロパティ)が設定されているのを。

 名前も、ランクも、レベルも、攻撃力も、魔法も、スキルも、果ては“恩恵”まで。

 二本の神器にそれぞれ恩恵が宿っているということは、つまりジェムさんは強力な神器の恩恵を“二本分”、その身に宿しているということになる。

 そんな彼女を一言であらわすなら、まさに『規格外の人間』だ。


「う……そ……」


 ゆえに僕は、その事実を飲み込めずにいた。

 しかし心の奥底では、密かに得心していることもあった。

 ジェムさんは強力な神器を授かったがゆえに、グレイ村では“英雄”に選ばれたらしい。

 そして魔人討伐の旅に向かわされたと聞いたが、僕はそのことをほんの少しだけ疑心に思っていた。

 今どき強い神器を授かったくらいで、一人の少女を魔人討伐の旅に行かせるなんてことを、果たしてするだろうか?

 何か別の理由があったのではないか? なんて僕は考えていたけれど、ジェムさんが規格外の『二刀流剣士』ならば話は違ってくる。

 二本の強力な神器を授かった人なら、きっとどんな魔人も倒せるに決まっていると、周りの人たちは思ったに違いない。

 いやそれ以前に、二本の神器を授かった時点で、それこそ何か『特別な使命を背負わされた人間』と思われても不思議はないはずだ。


 そしてもう一つ納得したことは、ジェムさんのあの超人的と言っても差し支えないほど凄まじい“動き”だ。

 魔人に飛び蹴りを食らわせた時は、生身での攻撃とは思えないほどすごい威力だったし、最後の一撃は目で追うことができないくらいとんでもない速度だった。

 あれは常軌を逸している。

 たとえ神器から多大な恩恵を受けているとしても、あれほどの冴えた動作を行うのは上級冒険者でも絶対に叶わないはずだ。

 まず第一に、ジェムさんはあの時半装備(エラー)の状態だったのだから、恩恵だって完全ではなかった。

 だから僕が抱いた違和感は当然のものだ。どうして半装備(エラー)の状態であれほどの動きを実現できるのだろうかと。

 しかし、二本分の神器の恩恵をその身に宿しているなら、あの目覚ましい動きも大いに納得できる。

 強力な神器の恩恵を二本分も受けているなら、たとえ半装備(エラー)の状態だったとしても莫大な力を振るうことができるはずだ。

 そう、あれはまるで、僕が頭の中で思い描いているような、『高恩恵による超戦闘』を再現したかのような動き。

 僕が目指している領域に……理想としている極地に……この人は辿り着いている。

 

「はぁ〜! 無事に見つかってよかったぁ〜! もう無くしたりしないからねぇ〜!」


 こちらの驚愕など知る由もなく、ジェムさんはすりすりと二本の長剣に頬擦りする。

 するとやがて僕の視線に気がついたのか、きょとんと目を丸くしてこちらを振り向いた。


「んっ? どしたのラスト君?」


「あの、その……ジェムさんは、神器を二本も持ってるんですか?」


 今さらながらの質問。

 お前はいったい何を見ていたんだと言われるかもしれない。

 しかし僕は、聞かずにはいられない。

 直接彼女の口から真相を聞くまで、僕は目の前の現実を受け入れてなるものかと思った。

 だってそんな人間、過去に存在していたなんて聞いたこともないし、どんな英雄譚にも描かれてなかっ……


「うん、そだよ。【太陽の長剣】と【月光の長剣】。どっちもボクの神器だよ」


「……」


 あっさりと、ジェムさんは認めた。

 自分が二本の神器を授かった人間ということを。

 歴史上初めてとなるかもしれない、『二刀流の剣士』ということを。

 僕が理想としている、目標にすべきとしている、強力な神器を自在に使いこなす剣士ということを。

 ……いや、待て待て待て。

 そんなことよりもまず先に、ジェムさんに言っておかなければならないことがある。

 言っておかなければならないことというか、注意しなければならないことだろうか。

 と思っていたら、先に本人がそのことに気づいたようで、ジェムさんは冷や汗と苦笑を滲ませながら、小首を傾げた。


「あ、あれっ? 言ってなかったっけ?」


「言ってないですよ!」


 なんでそういう肝心なことを最初に言っておいてくれないのかな!

 神器探しをするのだから、先にそのことを教えておいてくれないとダメじゃないか!

 どんな神器か聞いた時に言ってくれればよかったのに!

 まったくこの人は相変わらず抜けているというかなんというか……と呆れる一方で、ここまででジェムさんの天然さやお転婆な様子をたくさん見てきた僕は、『まあ仕方ないか』とも思ってしまった。

 これが彼女だ。これがジェム・アレキサンドなのだ。

 天然で、お転婆で、天真爛漫で、世間知らずで、常識外れな、まさに規格外の少女。

 ということで、僕は自分を納得させた。

 何よりジェムさんには危ないところを助けてもらったし、とても“良いもの”だって見せてもらった。

 終わり良ければすべて良し。と言うつもりはないけれど、これ以上彼女にとやかく言うのはやめておこう。

 しかしせめて、この一言だけは言わせてほしい。

 僕はどっとした疲れを感じながら、息も絶え絶えな様子でジェムさんに言った。


「ありがとうございました、ジェムさん」


「およっ? それはボクの台詞じゃない?」

 

 とにかく、これにて無事に、神器探しの依頼を達成したのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] おれた剣はこの後どこかで修復されたのでしょうか?気になります
[一言] 探し物依頼なのに探し物の詳細をきちんと確認しない主人公サイドにも問題があるような…
[気になる点] >奪ってきた物を勝手に自分の物だと決めつけて。 >中にはその人が大切にしている物だってあるはずなのに。 お前が言うのか…
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