第四十七話 「盗品庫」
「スナッチシーフが盗んできた物……だよね?」
ガラクタの山を見て、僕はおおよそそう見当をつけた。
ここに来るまでの間、同じように洞窟のあちこちにも古ぼけた品が落ちていた。
スナッチシーフが人間たちから奪ってきたと思われる盗品たちである。
となるとこの場所に落ちている埃まみれの品々も、盗品と考えるのが妥当だろう。
それらが集結したようなこの場所は、言ってしまえば連中の“盗品庫”……ということになるのかな?
盗んできた物を置いておく場所なんだろうけど、乱雑に置かれているせいでゴミ置き場にしか見えない。
「うげっ、汚いなぁ……」
ともあれ、僕は手を汚しながら、この盗品庫を漁ることになってしまった。
ジェムさんの神器が近くにあるとのことなので、たぶんこのゴミ山のどこかに埋れているんだろう。
埃っぽいのは苦手なんだけど、ダイヤとジェムさんに見得を切った手前、探さないわけにはいかない。
今はとりあえず、周りに魔物らしき影も見えないことだし。
「……仕方ないか」
僕はため息まじりにそう言うと、二つの意味で汚れている盗品山に近づいていった。
そして端から順番に神器を探していく。
確かジェムさんの神器は、“刀身の長い剣”だったよね?
見たところ盗品山の中は、衣服や日用品が多いみたいなので、剣が紛れていたらすぐに気付けると思う。
というわけで僕はそれらしい物がないか目を凝らし、盗品山を手で掻き分けていく。
すると……
「んっ?」
ガシャッと、重みのある音が盗品山の中から聞こえてきた。
明らかに他の品とは違う、固くて重々しい物音。
僕はその音を頼りに盗品山を掻き分けていき、やがて手を突っ込んだ先に細長い物体を見つけた。
「おっ」
引き抜いてみるとそれは、輝くような“金色の長剣”だった。
刀身が長くて、刃もそれなりに肉厚である。
と言っても、僕の【さびついた剣】を少し長くしたくらいの剣なので、細長い直剣と言えるだろうか。
ともあれこの長剣は、ジェムさんから聞いていた神器の特徴と合致する。
じゃあこれが……
「……ジェムさんの神器、かな」
意外なほどあっさりと見つかり、僕は思わず気が抜けてしまった。
もう少し時間が掛かると思ってたんだけど、手もあまり汚れずに見つけることができた。
それにジェムさんの神器も、他の物と違ってほとんど埃をかぶっていない。
鮮やかな金色の輝きを放っていて、とても良質な神器に僕には見えた。
ジェムさんはもっと可愛らしい神器が良いと言っていたけれど、この長剣だってすごく綺麗で、女性らしいと僕は思う。
「とりあえず、見つかってよかっ……」
と、安堵しかけたその瞬間……
目の前の盗品山が、音を立ててぐらりと揺れた。
僕が山の中から長剣を引き抜いてしまったせいだろう。
盗品山はバランスを崩し、見事に瓦解してしまった。
そして古ぼけた品々が、盛大な音を立ててそこら中に散らばってしまう。
片付けたほうがいいだろうか? なんて気の抜けたことを考えている僕の目に……
「んっ?」
ふと、“ある物”が映り込んだ。
先ほどまで古びた盗品が山のように積まれていた場所。
おそらく金色の長剣を抜き取ったすぐ近くだと思われる。
そこにはなんと……
「……はっ?」
刀身が長く、それなりに肉厚な刃を備えた、鮮やかな“銀色の長剣”が転がっていた。
二本目の長剣。
しかもこれまた、ジェムさんから聞いていた神器の特徴と、見事に合致している。
僕は二本の長剣を前に、思わず固まってしまった。
「……ど、どっち?」
金色の長剣と銀色の長剣。
色くらいしか違いがないように見える。
二本とも輝くような光沢を帯びていて、刀身の長さや刃の厚さがまったく同じように思える。
どっちがジェムさんの神器だろうか?
混乱した僕は、とりあえず二本の神器の性能を確認してみることにした。
名前:太陽の長剣
ランク:A
レベル:20
攻撃力:250
恩恵:筋力+220 耐久+200 敏捷+210 魔力+220 生命力+200
魔法:【日照】
スキル:【日光浴】
耐久値:250/250
名前:月光の長剣
ランク:A
レベル:20
攻撃力:250
恩恵:筋力+220 耐久+200 敏捷+210 魔力+220 生命力+200
魔法:【月明】
スキル:【月光浴】
耐久値:250/250
Aランクの神器。
恩恵値も平均的に高く、どちらも強力な神器である。
ジェムさんは強力な神器を授かったことで、グレイ村の教えに従い、現在は魔人討伐の旅をしている。
そのため彼女の神器は高性能ということになるので、二本のうち強い方がジェムさんの神器だと思ったんだけど……
よもや性能までほとんど同じとは思ってもみなかった。
こんなことなら神器の名前を聞いておけばよかった。
「……まあ、いっか」
とりあえず、それらしい神器を二本見つけることができたので、二本とも持って帰ることにしよう。
もし片方が違ったら、それはギルドに届ければ問題はないだろうし。
ジェムさんの神器と同じように、どちらか一本が盗品ということは間違いなさそうだからね。
まあ、どっちもジェムさんの神器じゃないって可能性もあるけど。そうなった時はまたここに探しに来ればいいか。
そう自己完結させて、僕はさっそくダイヤとジェムさんの元まで帰ろうとした。
二本の長剣を手に持ちながら、盗品庫から出ようとする。
……しかし、その刹那――
「てめえ、ここで何してやがる?」
「――っ!?」
突如後ろから、掠れた女の声が聞こえた。
と同時に、背中に激痛を感じる。
「ぐあっ!」
気が付けば僕は、盗品の山に突っ込むような形で、盛大に吹き飛ばされていた。
盗品たちを下敷きにしながら、僕は地面に倒れ込む。
……何が起きたのか、まったくわからない。
背中が殴られたように痛むし、頭もぼんやりとする。
気を抜けば意識が途切れそうだ。
そんな状況の中で僕は、顔をしかめながらなんとか上体を起こし、先ほどまで立っていた場所に目を向けた。
するとそこには……
「なんで人間なんかがここにいやがる。誰も入ることを許しちゃいねえぞ」
大きな棍棒を担いでいる、一人の女が立っていた。
女、と言うが、しかし人間ではない。
薄暗くてわかりづらいが、絵の具でも塗ったような薄緑色の肌をしていて、尖りのある大きな耳が見える。
そしてこちらを睨みつけてくるのは、不気味な黄色い瞳。
極め付けは、膨れ上がった右腕で軽々と持っている、血に染まった“大きな棍棒”だ。
正確には、血塗られたように所々赤くなっているだけのようだが、禍々しい一品ということに変わりはない。
どう見てもあれは、“奴ら”が持っている神器に違いない。
「ま、魔人……!」
僕は遅まきながら、目の前の存在について悟った。
まるで気配に気がつかなかった。
盗品庫に入った時、敵がいないか周りを確認したんだけど、いったいどこにいたのだ?
まさか、僕が入ってきたことに気付いて、どこかに隠れていたとか?
「チッ。こっちが気持ちよく寝てる時に、ガシャガシャとうるさくしやがってよ。これだから人間はうざってえんだ」
……気配がしなかった理由はそれか。
スナッチシーフの場合は、積極的に襲いかかってきたから、気配には気が付きやすかった。
でもこの魔人の場合は、眠っていたから事前に見つけることができなかったんだ。
元々この場所は薄暗いということもあるし、何より盗品の山で視界が遮られていたこともあった。
もう少し注意深く警戒しておくんだった。
「でっ? てめえはここで何してやがる? ここはアタイの部屋だぞ。アタイの部屋にある物は全部アタイの物だ。勝手に触ってんじゃねえ」
「くっ!」
今の口ぶりからするに、おそらくこの魔人がスナッチシーフたちの“長”だろうか?
スナッチシーフたちに物を盗むように命令していた親玉、と考えるのが妥当だろう。
こいつのせいで、たくさんの人たちの物が盗まれた。
物を盗むために、スナッチシーフはたくさんの人たちを襲っている。
それで命を落とした人だって少なくない。
もうこんなことをさせないように、絶対に止めなくちゃ!
僕はすかさず背中に手を伸ばし、【さびついた剣】の柄を握った。
そして音高く抜刀する。
目の前の魔人と戦うために、神器を手にして、僕は意識を切り替えた。
――こいつを、倒す!
だが……
「……えっ?」
戦う意思を強く抱いたのにも関わらず、【さびついた剣】は【呪われた魔剣】に進化することはなかった。
いや、それ以前に……
僕は右手に握った神器を見て、思わず目を疑った。
「な……んで……」
信じられないことに、鞘から引き抜いた【さびついた剣】が……半ばから折れていた。
名前:さびついた剣
ランク:F
レベル:10
攻撃力:10
恩恵:筋力+0 耐久+0 敏捷+0 魔力+0 生命力+0
スキル:【進化】
耐久値:0/20




