第四十六話 「大盾の欠点」
洞窟に入ってから三十分くらい経っただろうか?
いまだに僕たちはジェムさんの神器を探して、洞窟内部をうろうろしている。
洞窟の中は別段広いというわけではないのだが、道が入り組んでいるせいでなかなか先に進めない。
それに地面はデコボコしてるし、妙に狭いところもあったりして、結局かなり時間を食ってしまった。
そしてまた……
「げっ、ここもかなり狭いな」
僕たちの前に細道があらわれた。
道というより穴と言ったほうが正確だろうか。
人一人が這いずってギリギリで通れるくらいの小さな穴。
先に進むにはこの穴を通り抜けるしかなさそうだ。
「まあ、みんな細身だから大丈夫じゃない?」
「そう……ですね」
ジェムさんの声に、僕はぎこちなく同意を返した。
……細身ね。
女子が言われたら嬉しい言葉なのだろうが、僕にとってはそうでもない。
言わずもがな、いじめられっ子でなよなよしていた僕は、それはもう紛れもなく細身だ。
肉付きが悪くて男らしくない、叩けば折れてしまいそうな体つきをしている。
おまけに肌の色も薄くて頼り甲斐がない。
冒険者としては、もっと食べて肉をつけたいと思っているんだけど。
しかし今回は逆に、それが幸いした。
「……それじゃあ先に進みましょうか」
僕は密かに気持ちを落としながら、細い通路へと頭を突っ込んだ。
洞穴に潜る蛇のように、ずるずると体を通していく。
すると少しの余裕を持って、僕は穴を通り抜けることができた。
細身で助かった。それと鎧とかも着てなくてよかったと思う。ゴツゴツとした装備をしていたら、きっと突っかかって通り抜けることができなかったはずだから。
基本的に服装はいつも、紺色のチュニックとブレーという地味な格好だ。
冒険者ならもう少し良い物を着ろと言われるかもしれないけど、着慣れている格好だし、何より動きやすいため愛用している。
それにそのおかげでこの穴も問題なく通ることができたのだ。
続いてジェムさんが挑戦。
彼女もすらっとした体躯をしているので、僕以上に簡単そうに穴を抜けてきた。
「おっ、段々と神器の気配が強くなってきたよ! すごく近づいてきたんじゃないかな!」
「でしたら早いところ奥の方へ……」
と言って、僕とジェムさんは先に進もうとしたのだが……
「あうっ!」
「「……?」」
突然後ろから、緊張感の抜けるような声が聞こえてきた。
振り返るとそこには、穴の半分くらいのところで、肩から上だけを出してピタリと固まっているダイヤがいた。
完全に狭い道に挟まってしまっている。
それが恥ずかしいのだろうか、ダイヤはみるみるうちに顔を真っ赤にしていった。
そんな中、さらに追い討ちをかけるように、ジェムさんがダイヤに言った。
「ダイヤちゃん、お菓子はあんまり食べ過ぎないほうがいいよ」
「ち、違います! 盾ですよ盾! 【不滅の大盾】が引っ掛かって先に進めないだけです!」
……あらら。
まあ、【不滅の“大盾”】というくらいだからね。
彼女の盾はかなり大きくて、小さな穴に引っかかってしまうのも無理はない。
しかしこれは困ったことになったぞ。
これではダイヤだけがここから先に進むことができない。
僕の【さびついた剣】のように、片手で扱えるくらいの小ぶりな神器ならば、問題なく通ることができたんだけど。
無理に押し込むのは現実的ではないとして、洞窟の岩壁を削って穴を広げてみるとか?
いやでも、それが亀裂になって洞窟が崩れたら生き埋めになるよな。
それに簡単に削れそうな壁ではない。なら、別の道を探してみようか?
でもそれも、他の道なんてそう簡単に見つかりそうにないし、何よりジェムさんの神器はもうすぐ近くにあるみたいだ。
……仕方ないか。
「それじゃあダイヤは、ここでジェムさんと一緒に待っててよ。ここから先は“僕だけ”で行くからさ」
「「えっ?」」
僕からの提案に、ダイヤとジェムさんは揃って疑問符を浮かべた。
すかさず僕は、提案の意図を話す。
「さすがにダイヤがいない中で、ここから先もジェムさんについて来てもらうのは危ない気がするから。だから二人はここで……」
「えぇ! ボクも一緒に行くよ! だってボクの神器を探してもらってるわけだし、ボクが一緒に行けば早く見つかるでしょ!?」
「そ、それはそうなんですけど、ジェムさんも知っての通り、僕の【さびついた剣】は不確定な要素が多い神器なんです。いざという時にジェムさんを守ることができないかもしれません。ですのでやっぱりここは、ダイヤと一緒に待っていてもらえませんか? そのほうが確実に安全ですから」
「うぅ……」
ジェムさんは見るからにがっかりしている。
そんな彼女には悪いと思ったけど、僕は説得するようにさらに続けた。
「それに、そろそろ神器が近いんですよね? それなら僕だけでも充分見つけられると思うので、僕が行って来ますよ。ダイヤと一緒に待っていてください」
「う、うん、わかったよ……」
ジェムさんは、罪悪感と不満感が入り混じったような顔で、渋々と頷いてくれた。
続いてダイヤが、申し訳なさそうな表情で言う。
「す、すみませんラストさん。よろしくお願いします」
「うん。そっちもよろしくね」
というわけで僕は、ダイヤにジェムさんを任せると言う形で、二人をその場に残すことにした。
少女二人に見送られながら、僕は洞窟の奥へと足を進める。
一人で洞窟を歩いていく中、僕はぼんやりと思った。
きっとジェムさんは、この先に何があるのか見に行きたかったんだろうな。
洞窟内部を探索している間なんて、ずっとわくわくした顔をしていたし。
お天端な性格に似合って、すごく冒険好きなんだろう。
もしかしたらジェムさんは冒険者に向いているんじゃないだろうか?
冒険者に並々ならぬ興味を抱いていたこともあるし、神器を見つけて戻ったら、冒険者試験を勧めてみようかな。
なんて思っている間に、僕はいつの間にかひらけた場所に出ていた。
細道から一転して、大きなドーム状の空間になっている。
しかもそこには……
「うわっ、なんだここ!?」
埃をかぶった“ガラクタたち”が、そこら中に散在していた。
人が身につけるような服や靴、手袋や鞄。他にはランプやグラスといった日用品まで。
古ぼけたそれらが散在している景色を見た瞬間、僕は思わずゴミ溜めかと思ってしまった。




