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【さびついた剣】を試しに強化してみたら、とんでもない魔剣に化けました  作者: 万野みずき
第二章

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第四十三話 「プロパティ」

 

「離れてください!」


 狼の魔物がはっきりと見えた時、すでにダイヤは僕たちの前に立っていた。

 狼の凶悪な顔とダイヤの背中が、ほぼ同時に視界に映り込む。

 次いでダイヤの盾と狼が激突し、『ガンッ!』と甲高い音が響き渡った。

 相変わらずのダイヤの反応速度に、思わず僕は舌を巻く。

 同様にジェムさんも感心した様子で、『ほぉ』と目を丸くしていた。


(って、呑気に固まっている場合じゃない!)


 少し出遅れたが、僕は半ばまで抜いていた【さびついた剣】を、改めてちゃんと抜刀した。

 サビだらけの刀身があらわになる。

 それを横で見ていたジェムさんは、これまた『ほほぉ』と感心したように目を見張った。

 見るからに低性能(プロパティ)の神器。これでいったいどうするつもりなのか気になっている顔だ。

 

「……」

 

 僕は一瞬だけ躊躇いを覚える。

 何の前振りもなしに“あれ”を見せて、ジェムさんに引かれたりしないだろうか?

 正直僕の神器は、他人に見せびらかすような代物ではない。

 知らない人に突然見せたら、驚かせてしまったり恐怖させてしまうかもしれないから。

 何せ見た目は完全に魔人の神器だからね。

 しかし、僕にはこれ以外に戦う術がないので、仕方なく力を使うことにする。

 それにジェムさんならきっと大丈夫だろう。


(……進化)


 すると見る間に【さびついた剣】のサビが落ち、禍々しい黒い刀身が姿を見せた。

 次いで僕の全身に黒々としたオーラが巡り、途端に体が軽くなる。

 神器の恩恵が体に宿った証拠だ。


「おおっ!」


 今度こそジェムさんははっきりと感嘆の声を上げた。

 その声に背中を押されるように、僕は前に出る。

 ダイヤの横を通り抜け、僅かにこちらから距離をとっていた狼に急接近する。


「グガァ!」


 対して黒狼は、接近する僕を返り討ちにしようと、大口を開けて飛びかかってきた。

 よだれに濡れた牙がヌメリと光る。

 しかし僕は臆することなく愛剣を振りかぶり、噛み付こうとしてきた狼を……


「はっ!」


 一振りで、両断した。

 すると狼の体がドサドサッと半身ずつ地面に落ちる。

 すぐにそれは光の粒となって消滅し、この場に一時の静寂が訪れた。

 後ろを振り向くと、安心したように微笑むダイヤと、興味津々な様子で【呪われた魔剣】を見つめるジェムさんがいた。

 どうやら怖がらせてはいないらしい。むしろ興奮しているように見える。

 僕は遅まきながら、右手の剣を軽く掲げて、神器の紹介を再開することにした。


「えっと、これが僕の神器です」


 サビだらけの剣から一転、真っ黒な剣に変貌。

 ジェムさんは心からワクワクしたような顔で飛びついてきた。


「やばっ! 何それ超かっこいいねっ! 神器の姿が変わっちゃった! 見せて見せて!」


「ちょ、ジェムさん、抜き身で危ないですよ!」


「もしかしてスキルの効果なのかな? すごく強くなってる気がするんだけど、付与魔法(エンチャント)とは違う感じ? しばらくしたら元に戻るとか? ていうかラスト君の雰囲気もちょっと変わってない?」


「あのっ、いったん落ち着きましょう!」


 抜き身の状態になっている両刃の剣を、興味津々に触りまくるジェムさん。

 危ないからやめてほしい。手とか切れちゃったら洒落にならないから。

 僕は一度ジェムさんから距離をとり、お互いに気持ちを落ち着かせることにする。

 そして一拍置いてから、僕は改めて神器の説明を再開した。


「僕の神器は【さびついた剣】って言って、スキルを使うとこの姿に変化するんですよ。で、こっちの神器の名前は【呪われた魔剣】って言います」


「なるほどなるほど。さっきのサビだらけの剣が【さびついた剣】で、こっちが【呪われた魔剣】ね。付与魔法(エンチャント)とは違うのかな?」


「はい。『進化』っていうスキルの効果で変化しているので、付与魔法(エンチャント)ではないです。プロパティを見ると、神器そのものが変わってますし……」


「ふぅ〜ん、なるほどねぇ……」


 ジェムさんはじっと【呪われた魔剣】を凝視する。

 対して僕はジェムさんの視線から顔を逸らすように、密かにそっぽを向いた。

 なんだかまじまじと見られるのは気恥ずかしいな。

 ただ神器を見られているだけなのに……


「ねえねえ、もしよかったらなんだけど、その神器のプロパティ見せてもらってもいいかな?」


「えっ? 別に構いませんけど……」


 ダイヤと同じく、プロパティを見せてもらいたいと言われた僕は、ジェムさんに神器を手渡した。

 あまり長い間【呪われた魔剣】を出していると、体力がごりごりと減っていくので、あまりのんびりはしていられないけど。

 しかしジェムさんはすぐに神器のプロパティを確認し、飛び上がるような勢いで驚いた。


名前:呪われた魔剣

ランク:S

レベル:

攻撃力:500

恩恵:筋力+500 耐久+500 敏捷+500 魔力+500 生命力+500

魔法:【黒炎(ヘルフレア)】【闇雷(ダークライ)

スキル:【神器合成】

耐久値:500/500


「うっはー! 攻撃力500!? しかも恩恵値も全部500だし、いったい何なのこの神器!?」


「いや、その……僕もまだよくわかってなくて」


 自分の神器のことなのに、僕もまだこれについてはよく知らない。

 どうしてこんなに強力なのか。どうしてこんな姿をしているのか。

 僕から説明できることなんて本当に限られている。


「【さびついた剣】のレベルを10まで上げたら、突然『進化』っていうスキルが発現したんです。それでこの姿に変化させることができるようになったんですけど……」


「へぇ、じゃあそれまではずっとサビだらけの剣で戦ってきたのかな?」


「はい。この神器を出せるようになって、ようやくまともに戦えるようになったんですけど……でもこの神器には呪いが掛かってるのか、装備している間はずっと体力を消耗しちゃって、今も不便なことに変わりはないんです」


「えっ、そうなの? じゃあ今も?」


「……まあ、それなりにきついですね」


 そう伝えると、「じゃあすぐ返すね」と言ってジェムさんは神器を返してくれた。

 そして僕はすぐに【呪われた魔剣】を【さびついた剣】に戻し、背中の鞘へと落とす。

 するとすうっと体に宿っていた恩恵が消滅し、途端に全身がどっと重たくなった。

 しかし呪いからは解放されて、疲労感や倦怠感はなくなる。

 これで一安心だ。

 ほっと一息吐いた後、僕は話を再開した。


「どうしてこんな『呪い』がかかっているのか全然わからなくて、身に覚えもないんです。それにこの神器には見たことないランクが表示されていますし、逆にレベルは消滅していますし、もう何が何やらって感じで……」


「所有者のラスト君でも、わからないことだらけの神器なんだね」


「は、はい……」


 僕は自信なくぎこちない頷きを見せる。

 背中にあるこの神器は、本当に僕でもわからないことだらけなのだ。

 どうして『進化』なんてスキルが発現したのか。装備者を苦しめる『呪い』がかかっているのか。

 そういう能力の神器だと言ってしまえば、それで片付けることもできるだろうけど。

 それらには何か特別な意味があるように、僕には思える。

 まあ、これはただの勘だけど。

 するとジェムさんは、ここまで聞いた話を脳内でまとめたのか、“ふむふむ”と納得したように頷いた。


「確かに不思議な神器みたいだね。装備者の体力を奪っていく神器なんて聞いたことないもん。それに見た目もなんか普通とは違うし。あっ、でも、“レベル”についてはボクでも説明できると思うよ」


「えっ?」


 レベル? どういうことだろう?

 疑問に思っていると、ジェムさんは右手の人差し指で【さびついた剣】を……正確にはその進化後の【呪われた魔剣】を差しながら、少し得意げに言った。


「君の神器、もう限界地点(リミットライン)に到達してるんじゃないかな?」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 自分でも把握してない様なスキルや能力を会ったばかりの人に見せるのは違和感がありすぎて、読むのをやめてしまいました。確か相棒にも見せてませんよね・・・ ストーリー的に必要なのでしょうが、…
[一言] なんか人の話は聞かないしマシンガンの如く話し出すし好きになれないキャラだなぁ.......特に神器の情報って冒険者からしたら生命線じゃないの? そんな簡単に信用するは教えていいの?なんだか…
[気になる点] んー、素直な性格だから仕方ないものの他者へ迂闊にプロパティを見せるのは迂闊過ぎる…事前に誓約書を書かせるとかしないと情報漏洩に繋がるよね(汗)
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