第四十一話 「七大魔人」
強き神器を授かりし者、英雄となる。
聞く限りだと、『強い神器を授かった人は英雄になる』という教えみたいだ。
グレイ村ではそんなかっこいい“教え”が伝わっているんだなぁ。
なんか冒険譚の冒頭に出てきそうな教えでワクワクするぞ。
しかしジェムさんは、どこかふてくされたように続けた。
「噛み砕いて言うとね、『強い神器を授かった村人は、魔族討伐の旅に出ろ』っていうこと。なんか昔からの言い伝えがあるみたいでさ、『神から強力な神器を授かった人間は、魔族と戦う使命を背負わされた戦士』って考えてるらしいんだよね」
「へぇ、そうなんですか」
どこかで似たような英雄譚を読んだ気がする。
世界が魔族の脅威に晒されている暗黒の時代。
とある村で強力な神器を授かった少年がいたそうだ。
その少年こそ暗黒の時代を切り拓く英雄だと信じられ、魔族討伐の旅に行かせたらしい。
その結果、見事少年は魔族を討ち滅ぼし、暗黒の時代を終わらせたという。
その後、人々の暮らしが脅かされた際は、村で強力な神器を授かった者を英雄として旅立たせるようにしたそうだ。
グレイ村に伝わっている教えが、まさにその英雄譚と酷似している。
ジェムさんの授かった神器も、かなりの高ランクの神器なのだろうか?
「だからボクは魔族討伐の旅を強制されて、ほとんど追い出される形で村を出たってわけ。なんか旅が終わるまでは帰ってくるなって空気だったよ」
「それは何というか、今の時代からすると、ずいぶん横暴に見えてしまいますね」
「でしょ! まあいつかは村を出ようと思ってたから、いいきっかけにはなったけどね。でもさすがにずっと村に帰らないわけにもいかないし、無事に魔族討伐の旅が終わったら、グレイ村には戻るつもりだよ」
そうと語るジェムさんは、心なしか嬉しそうに頰を緩ませている気がした。
退屈な村だと何度も語っていたけれど、さすがに故郷には少なからず思い入れがあるらしい。
家族や友達もいるだろうし、戻りたいと思うのは自然な感情だ。
でも、魔族討伐の旅が終わるまでは帰れないみたいだ。
ていうか、魔族討伐の旅の“終わり”って何なんだろう? 定義が曖昧な気がする。
「何をしたら、魔族討伐の旅が終わったって認められるんですか? まさか、すべての魔族を倒すまでは終わらないっていうわけではないですよね?」
さすがにそれはないだろうと思って尋ねてみる。
魔族はエリアの中で突然生まれる存在だ。
一説によるとエリアの中に漂っている邪神の力が、何かの拍子で形となってあらわれているのではないかと言われている。
だからそれを全部倒すなんてどう考えても不可能な話だ。
何をもって旅の終わりとするのだろうか?
「グレイ村にいる『ニッケル爺』……あっ、村長さんなんだけどね、ニッケル爺が言うには、『七大魔人』を倒したら、使命を果たしたってことになるみたいだよ」
「……七大魔人」
聞いたことがある。
確か、二百年くらい前、魔族の王と呼ばれる『魔王』という存在がいたそうだ。
その魔王を筆頭として、過去たった一度だけ魔人同士が手を組み、『魔王軍』が結成された。
そして魔王軍は人間の国に攻め込んできて、大戦争が勃発したらしい。
その戦争は人間軍の勝利で終わったけど、被害は甚大なものになって、その絶望感から当時のことは終焉期と呼ばれている。
その時に魔王軍の幹部を務めた魔人が、十四人いたそうだ。
噂によると、その内の半分の七人の魔人は、いまだに生きているとされ、それぞれが次世代の魔王になるために暗躍していると言われている。
その七人の魔人が『七大魔人』。
でもそれって……
「七大魔人の存在は、あくまで噂話じゃないんですか?」
実際に七大魔人が生存しているという明確な情報は、どこにも発表されていない。
それに当時のことを知っている人間はもうおらず、仮に魔人が生きているとしてもどれが七大魔人かなんてわからないと思う。
そんな、いるかいないかもわからないような存在を探して倒さないといけないなんて……
「うん、七大魔人が本当にいるとは限らないよ。だから、とりあえず強い魔人を七人倒せばいいって、ニッケル爺は言ってた」
「あっ、そんな緩い感じでいいんですね」
それならまあ、英雄としての使命を果たすことも、不可能ではないと思う。
「じゃあ、ジェムさんが魔人を探しているっていうのは……」
「そそ。とりあえず魔人を倒して、その証拠としてそいつの持ってる神器を村に持って帰ろうかなって思ってるんだよね。それでニッケル爺が納得してくれたらいいんだけど」
ジェムさんが魔人を探している理由について、僕は改めて納得できた。
大切な旅を終わらせるために、とりあえず魔人を倒さなければならないらしい。
僕がジェムさんに抱いていた僅かな疑いは、本当にただの杞憂だったみたいだ。
「でしたらなおさら、早く神器を見つけなきゃいけないですね」
「うん、そうだね。よろしくお願いするよ。まあ、英雄として選ばれておきながら、大切な神器をとられちゃうなんてどうなのかって話だけどね」
艶やかな黒髪を掻きながら、ジェムさんは自分の失態に苦笑を浮かべる。
そこはまあ、性格の問題だから仕方ないと思うけど。
「ちなみに、ジェムさんの神器はどういう神器なんですか?」
最後に僕は、ジェムさんの神器について聞いておこうと思った。
どういう姿形をしているのか?
武器系か触媒系か?
事前にそれを知っておけば、見掛けた時にすぐにわかるからね。
それに、七大魔人を倒す英雄に選ばれるくらいなのだから、きっと強力な神器に違いないはず。
という個人的興味もあるため、若干前のめりで問いかけてみると、ジェムさんは両手をやや広く開き、それで神器の長さを示した。
「これくらいの、結構長い“剣”だよ。刃もそこそこ肉厚かな。女の子としてはもっと可愛らしくてオシャレな神器がよかったんだけど、自由に選べるわけじゃないからね。ねっ、ダイヤちゃん」
「えっ!? あっ、はい……」
急に話を振られたダイヤは、半ば飛び上がるように驚いた様子を見せた。
完全に油断していたみたいだ。
どうやらジェムさんは、ダイヤの傍らに置かれている大きな盾を見て、彼女のことを同じ境遇の人物だと判断したらしい。
ダイヤの盾は白くてとても綺麗だけど、確かに女の子らしい神器とは言えないからね。
ともあれ、神器の形についてもわかった。
事前準備はこれくらいで充分だろう。
「それではさっそく神器の捜索に行きましょう。それであの、ジェムさんに捜索依頼に同行してもらうように、担当のギルド職員さんから言われているんですけど……」
「あっ、そそ。それはボクからお願いしたんだよ。そのほうが早く見つかるし、何より冒険者さんに任せっきりにするのは忍びないと思ったからね。迷惑も掛けちゃうかもしれないけど、ボクも一緒に連れて行ってよ」
というジェムさんからの願いを聞き、むしろこちらからお願いしたいと僕は思った。
神器の探知をしてくれるなら、実質僕たちはジェムさんの護衛をするだけで済むので楽チンだ。
広大なエリアの中を数日、あるいは数週間かけて捜索する必要がなくなるのだから。
おまけにこちらには守護神がいる。ジェムさんに危険が及ぶことはまずないだろう。
というわけで僕とダイヤは、まるで遠足にでも行くようなテンションのジェムさんに、ぐいぐいと背中を押されながら、捜索依頼に向かうことになった。




