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【さびついた剣】を試しに強化してみたら、とんでもない魔剣に化けました  作者: 万野みずき
第二章

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第三十八話 「神器探し」

 

「ある人の神器を探してほしいって、まさかその依頼人さんは神器をなくしたりでもしたんですか?」


 僕は信じがたいと言わんばかりに問いかける。

 神器は神様から授かる、とても大切な物だ。

 唯一無二の存在で、一度なくしてしまったらもう二度と手に入らない。

 替えの利くおもちゃとはまったく違う。

 それなのにもかかわらず、そんな大切な神器をなくしてしまったのだとしたら、それはいったいどんなうっかり屋さんなんだろう?

 なんて思ってチャームさんに尋ねると、彼女は笑顔のまま答えた。


「お察しの通りですよ〜。どうやらその依頼人さんは〜、七色森で“日向ぼっこ”をしている間に〜、スナッチシーフに神器を持っていかれてしまったみたいなんですよ〜。それで神器を探してほしいって依頼してきたんです〜」


「な、七色森で日向ぼっこって……」


 いったい何を考えているんだその人は……?

 魔物が蔓延る危険域(エリア)の中で、神器をとられたことにも気付かないほど、のほほんと日向ぼっこをしているなんて、どれだけ胆が座っているのだろう?

 それとも単に抜けている人なんだろうか?

 どちらにしても"変な人”だということは間違いない。

 それにしても『スナッチシーフ』かぁ……。あまり良い思い出はないんだよね。

 僕たちも冒険者試験の時は、スナッチシーフに神器を奪われそうになったからね。

 小人の姿をした小さな悪魔。奴らは人の持っている物を強奪しようとする習性があるのだ。

 しかも積極的に神器を奪おうとしてくる。七色森で採取依頼をしている時も、何度か奴らに神器を狙われたものだ。

 もしもそれを知らずに七色森で奴らに出くわしたのなら、神器を奪われてしまっても致し方ない。

 ここはむしろ、神器をとられただけで襲われはしなかったことを、不幸中の幸いと見るべきだろう。


「それで、その依頼人さんの神器は七色森のどの辺でとられてしまったんですか? あと、依頼人さんの神器ってどういう……」


 僕は捜索依頼をするにあたり、必要な情報を聞いておこうと思った。

 どこでどういう神器が奪われてしまったのかわからなければ、まともに捜索することもできないから。

 と思って問いかけてみたのだが、チャームさんからは予想外の返答がきた。


「依頼の詳しい情報は〜、直接その依頼人さんに聞いたほうが早いと思いますよ〜。それにどの道〜、捜索依頼には依頼人さんも同行してもらう予定ですから〜、今から会いに行ってくださいね〜」


「えっ……? 一緒に捜索依頼に行くんですか?」


 どうしてわざわざそんなことを?

 何よりそれって、かなり危ないんじゃないのかな?

 神器は魔族と戦うための唯一の武器だ。

 その神器を今、依頼人さんは装備していない状態なのだし、魔法やスキルや恩恵が一切宿っていないということである。

 そんな状態でエリアに入って、万が一魔物に襲われでもしたら……


「あっ!」


 と考えた直後、すぐに僕はハッと悟った。

 神器を装備していない状態。

 とはいうものの、神器それ自体が壊されていないのだとしたら、その依頼人にはできる限り同行してもらったほうがいいかもしれない。

 そうしたらもしかしたら、捜索依頼の効率がぐんと上がるかもしれないぞ。


 神器にはそれぞれ正しい『装備の仕方』というものがある。

 剣や槍なら『柄を握る』。腕輪や指輪なら『特定箇所に身に付ける』。

 といった具合に、神器の種類によって様々な装備方法が確立されているのだ。

 しかし誤った装備の仕方をしてしまうと、神器は『半装備エラー』の状態になってしまう。

 半装備エラー状態では魔法やスキルが正しく発動しなかったりする。

 同じように攻撃力(神聖力)も効果を発揮しなくなってしまうので、神器はきちんと装備しなければ戦うことができない。

 そして、神器を手放してしまった際も、同じように半装備(エラー)として判定されてしまうのだ。

 

 例えば僕が【さびついた剣】を取り落とした状態で『進化』のスキルを発動させようとしても、半装備エラーとなっているので上手く【呪われた魔剣】に変化させることができない。

 逆に、【呪われた魔剣】の状態で神器を取り落としてしまった場合は、半装備エラーの判定になって『進化』が解けてしまう時がある。

 そしてこれは『恩恵』にも同じようなことが言える。

 僕が【呪われた魔剣】を取り落としてしまったら、せっかく体に宿っている莫大な恩恵も、熱が冷めるみたいに消えてしまうのだ。

 ただし恩恵は、魔法やスキルと違って、半装備(エラー)状態になったとしても一瞬ですべてが消えてしまうわけではない。

 恩恵だけは所有者と神器の“距離”によって効果が変動する。

 所有者と神器が離れれば離れるほど、体に宿る恩恵は薄れていき、逆に近ければ近いほど、体に宿る恩恵は濃いものになっていく。

 となれば、依頼人さんの神器が破壊されていないのだとしたら、その現象を利用して神器を“探知”することができるかもしれないぞ。

 なくした神器に近づけば近づくほど、少しずつ恩恵が戻ってくるから。


「その依頼人さんの神器が〜、今どこにあるのか〜、正確にわかるのは所有者の依頼人さんだけなんですよ〜。ですから依頼に同行してもらって〜、一緒に神器を探してもらったほうがいいと思うのですよ〜」


「なるほどですね。それなら確かに、一緒に来てもらったほうがいいかもしれませんね。あっ、でも……」

 

 チャームさんの言い分は納得できたけれど、僕の胸中には一つの不安が残っていた。

 それは、依頼人さんをちゃんと守り切れるかどうかということである。

 討伐依頼や捕縛依頼でも、『依頼人同行』はよくある話だ。

 きちんと依頼通りの働きをしたかどうか、それを依頼人に直接見てもらうことで、依頼達成の証明としている。

 その際には依頼人を護衛するのも冒険者の立派な務めで、そういった護衛力も冒険者の必須能力になっているのだ。

 果たして今の僕に、そのような護衛力があるだろうか?

 なんて不安に思っていると、その思いが顔に出ていたのか、不意にダイヤが声を掛けてきた。


「心配しなくても大丈夫ですよ」


「えっ?」


「依頼人さんは、絶対に私が守ってみせます。そのための盾の神器なんですから。ですからラストさんは、安心して前だけを見ていてください」


「……」


 ……た、頼もしい。というかかっこいいぞ。

 初めて会った時に見た自信のなさは、すでに皆無と言ってもいい。

 そうだ。僕の隣には今、頼れる仲間がいる。

 毒や呪いが一切効かず、絶対に壊れない盾の神器を持つ守護神ダイヤ。

 これほど依頼人の護衛に適任な人物は他にいないだろう。

 ダイヤに依頼人の護衛を任せれば、僕は魔物討伐に専念できる。

 そういった役割分担で依頼を進めれば、捜索も順調に行くかもしれないぞ。

 改めてそうとわかった僕は、チャームさんから依頼を受注することにした。


「わかりました。その依頼、受けさせてください」


「はいなのですよ〜。では冒険者手帳(ギルドブック)を出してくださいね〜」


 僕らは言われた通りに冒険者手帳ギルドブックを出す。

 するとチャームさんは、そこに引き受けた依頼の詳細を書き記し、受注の手続きを終わらせてくれた。

 相変わらずの手慣れた所作に感嘆していると、チャームさんは改めて教えてくれた。


「おそらく今は〜、『旅人の止まり木』という宿屋の〜、203号室にいると思いますので〜、そちらを訪ねてみてくださいね〜。お名前は『ジェム』さんっていうのですよ〜」


「はい、わかりました」


 場所と名前。

 必要なことも聞けたので、さっそく依頼人の元を訪ねてみることにしよう。

 せっかくチャームさんに用意してもらった依頼なので、絶対に成功させたいな。

 ダイヤも同じ気持ちなのか、僕の隣で可愛らしい童顔を引き締めている。

 それに加えて……


「それではお二人とも〜、行ってらっしゃいなのです〜!」


 と、背中を押されるようにチャームさんから声を掛けてもらい、僕たちの気持ちはますます引き締まった。

 そして『行ってきます!』と声を揃えて返し、ギルドを飛び出したのだった。




 ギルドを後にしてから程なく。

 僕たちはチャームさんに教えてもらった『旅人の止まり木』という宿屋に辿り着いた。

 以前、同じ名前の宿屋を見た覚えがあったので、場所は事前に知っていた。

 だから迷うことなく宿屋に到着した僕たちは、さっそく依頼人さんがいるらしい『203号室』を訪ねることにした。


「……」


 だが、部屋の前に着いてから三十秒、僕はピタリと固まっている。

 僕、昔から人ん家とか訪ねるの超苦手だったんだよね。

 知らない人の家のドアとかノックするの、死ぬほど怖いって思っちゃうもん。

 幼馴染のルビィを呼ぶために家に行っても、「ルビィちゃんいますか?」の一声すら上げられない人間だったのだ。

 それなのにいきなり見知らぬ人の部屋を訪ねるなんて、僕にとっては難易度が高すぎる。

 おまけに依頼人さんは、ちょっと変な人っぽいし。

 しかし、いつまでもこうしてはいられない。

 後ろには僕以上に不安げにしているダイヤしかいないのだから。

 ダイヤもこういうの苦手そうだなぁ。じゃあ僕がやるしかないよなぁ。

 仕方がないと思った僕は、ごくりと唾を飲み込んで、改めて意を決した。

 コンコン、コンコン。


「はいは〜い」


 すると中からは、若い女性の声が聞こえてきた。

 高く澄んだ声で、若干の弾みと元気っぽさを感じる。

 次いでドッドッドッと駆け足で近づいてくる足音が鳴り、すぐにドアが開かれた。

 ガチャ。


「んっ? 君たちだ〜れ?」


 ドアを開けて出てきたのは、細身で可愛らしい女性だった。

 身長は僕より若干高いくらいで、年齢は十七、八くらいだろうか。

 目線が上なせいで、一見大人っぽい印象を受けるが、実際はつぶらな黒目とピンク色の頰が特徴的な、とても愛らしい童顔をしている。

 黒くて真っ直ぐな髪を肩の上まで伸ばしていて、側頭部には小さな髪留めが付いている。

 十字架のような髪留め……かと思いきや、二つの髪留めを交差させて付けており、片方が金色、もう片方が銀色に光っている。

 服装は白いインナーの上に紺色のセーターを着ていて、黒と白のチェック柄のミニスカートを履いている。

 どこか神殿の修道女さんっぽい色合いの服装だが、どちらかと言えば学生服と表現したほうが近いだろうか。

 この辺りでは見掛けない服装だ。

 いったいどこの出身なんだろう? なんてぼんやりと考えていると、同じく僕たちのことをぼぉーっと見ていた彼女が、突然ハッと目を見開いた。


「あっ、もしかして!」


「……?」


「君たちが、ボクの神器を探してくれる冒険者さん!?」


「え、えっと……」


 初対面の相手に詰め寄られて、僕は思わず萎縮してしまう。

 こんなに可愛いお姉さんに寄られて平静でいられるほど、僕は男ができていない。

 ただでさえ人見知りなんだから。

 ダイヤに至ってはびっくりしすぎてか、口をあんぐりと開けて固まってしまっている。

 そんなこちらの心情を知る由もなく、女性はさらに捲し立てた。


「わぁ! 来てくれてありがとう! へえ、すごく若いんだね! ぱっと見で冒険者ってわからなかったよ! こんなに若い冒険者さんもいるんだね!」


 手をとられてぶんぶんと握手を強制される。

 僕の心の耐久値はすでにゼロに近い。

 ていうか、冒険者をとても待ちわびていた様子だ。

 ということは……。と思った僕は、改めて確かめるように女性に尋ねた。

 

「あ、あなたが、ギルドに捜索依頼を出した、ジェムさん……でしょうか?」


「そう! ボクの名前はジェム! 『ジェム・アレキサンド』っていうんだ。よろしくね、冒険者さん!」


 ダイヤに負けず劣らずの童顔なのに、ニカッと微笑むその姿は、年上のお姉さんらしくかっこいいと思った。

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[一言] アレキサンド・・ライト? 二つの色を表す宝石かぁ。
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