表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【さびついた剣】を試しに強化してみたら、とんでもない魔剣に化けました  作者: 万野みずき
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/132

第三十六話 「付与魔法」

 

 ミルクロンドの東門まで辿り着くと、まず最初に守衛さんの背中姿が見えた。

 長い槍の神器を片手に門の前に立っていて、不審な者を侵入させないようにしている。

 傍らの守衛室にはあと二人の守衛さんがいるみたいだけど、一人は事務作業をしていて、もう一人は椅子に座りながら眠っていた。


(……なんか大変そうだ)


 そんな守衛さんたちが守る東門を潜り、僕は町の外へと出た。

 町から外に出る分なら、特に何も言われたりしないけれど、入る時は守衛さんにじっと見られてしまう。

 この前は帰りが深夜になってしまい、町に入る時は守衛さんに色々と事情を聞かれてしまった。

 そうならないように、今日は少し早めに修行を終えることにしよう。

 なんて考えながら、僕は町の外壁に沿って一本杉を目指した。

 やがてポツンと屹立する木が見えてきて、いつもの修行場所に辿り着く。

 僕はきょろきょろと周囲を見渡してから、背中に右手を伸ばした。


「よし、じゃあ始めよっと。まずは……」


【さびついた剣】の柄を握り、ザッと抜刀する。

 見慣れたサビだらけの刀身に目を落としてから、僕は心中で唱えた。


(……進化)


 瞬間、生き物が卵の殻を破るように、神器のサビがボロボロと落ちていく。

 やがて内側に隠されていた禍々しい姿を僕の前にさらし、黒々としたオーラが僕の全身を包み込んできた。

 ぞわっと、全身の血流が加速するように体が軽くなる。

 神器から与えられる恩恵が、体の隅々まで巡った証拠だ。

 

名前:呪われた魔剣

ランク:S

レベル:

攻撃力:500

恩恵:筋力+500 耐久+500 敏捷+500 魔力+500 生命力+500

魔法:【黒炎(ヘルフレア)】【闇雷(ダークライ )

スキル:【神器合成】

耐久値:500/500


 これで【呪われた魔剣】に進化完了。

 修行開始の合図でもある。

 ちなみに、【呪われた魔剣】に進化させる際、今まではいちいち「進化」と口で唱えていたが、修行をしていくうちにそれが必要なくなった。

 基本的に『スキル』の発動条件は、スキルの詳細を調べることでわかるようになっている。

 例えば『神器を両手で装備する』とか、『強く手を握る』とか、『動かずに息を殺す』とか……

 一方で『魔法』の場合は、昔から『魔法名を唱える』という発動方法しかわかっていないので、いちいち魔法名を口にするしかないけど、スキルは上記したように明確な発動条件が確立されている。

 そしてこの【さびついた剣】に宿っている『進化』のスキルは……


【進化】・神器の真の姿を解放

    ・強い戦意を抱くことで効果発動


 このような詳細となっている。

 これまでは『戦意を抱く』ということが具体的にわからず、毎回「進化」と唱えることでスキルを発動させていた。

 はっきりと口にすることで、気持ちの切り替えをしていたというわけだ。

 でも少しの修行を経て、「進化」と口にすることなく戦意を抱くことができるようになった。

 戦意とはつまり、『戦う、勝つ、倒す』といった戦う意思のことだ。

 その意思を強く持つことで、『進化』のスキルは効果を発動してくれる。

 初めて黒狼の魔人と戦った時のように、「絶対に勝つんだ」という強い戦意が、【さびついた剣】を【呪われた魔剣】に進化させてくれるのだ。


 逆に、【呪われた魔剣】から【さびついた剣】に退化させる時は、単純に戦意を失えばいい。

 こちらは戦意を抱くよりも簡単で、修行の必要もなくすでに会得していた。

 僕は戦うより戦わないほうに気持ちを入れるほうが得意なのかもしれない。

 なんとも情けない話だけど。

 それとこれもちなみになんだけど、戦意の切り替えを素早く行うことで、【さびついた剣】と【呪われた魔剣】を瞬時に切り替える小技も絶賛練習中だ。

 これはとても難しいので、完璧に使いこなせるまではだいぶ時間が掛かりそうだけど。

 

 ともあれ、こうして【呪われた魔剣】を出した僕は、禍々しいその姿に目を落とした。

 そして今一度、自分がやらなければならないことを振り返る。

 僕が修行するべきことは、まず第一に“呪いの克服”だ。

 僕の持つ【呪われた魔剣】の神器には、なぜか元から“呪い”が掛けられている。

 そのせいで魔剣を装備している間は、著しく体力を消耗し、すぐにバテバテに疲れ果ててしまうのだ。

 疲れると戦う意志も弱まり、神器も【さびついた剣】に戻ってしまう。最悪、そのまま意識を失ってしまうなんてこともある。

 それでは満足に戦うことだってできない。

 だからこそ呪いの苦しさに耐え続けて、“呪いの克服”をしなければならないのだ。

 

「今日は十分くらい行けるかなぁ……」

 

 僕は今の自分の体調を鑑みて、そんなことを呟く。

 今の万全の状態から開始して、おそらく魔剣を握っていられるのは今から十分くらいだろう。

【呪われた魔剣】を使い始めた時は、せいぜい三分くらいが限界だったが、修行を繰り返すうちに次第に持続時間が伸びてきた。

 呪いに耐え続けてきたことで、体が呪いに慣れてきたのだろう。

 ほんの少しずつだが、修行の成果が出始めている。

 このまま【呪われた魔剣】を使い続けて、順調に呪いに慣れていけば、いずれは一時間や二時間だって進化状態を維持できるようになるかもしれない。

 理想は“一日中ずっと”だけど、まずは一秒でも長く魔剣を握っていられるようになるんだ。

 と意気込む反面、僕は自分が口にした“十分”という時間に眉を寄せた。

 

「三分から十分……か」


 正直、目覚ましいほどの成長とは言えない。

 持続時間が倍以上に伸びたと考えれば称賛すべき結果だけど、僕たち冒険者が活動する場所は、常に危険が付きまとう危険域(エリア)の中だ。

 そんな中でたった十分しか戦えないなんて、心許ないことこの上ないからね。

 おまけにこうして"じっとしている状態”でその時間なのだから、戦闘時はもっと短くなると考えたほうがいい。

 僕はもっともっと修行を続けて、呪いの克服をしなければならないのだ。

 まだしばらくはこの苦しみと付き合うことになりそうだな。

 ともあれ……


(さて、“あっち”の修行もやろうかな)


 僕は姿勢を正し、改めて右手の【呪われた魔剣】をしっかりと構えた。

 そして剣に集中する。

 修行で第一優先すべきは、もちろん呪いの克服だ。

 でも、ただじっと呪いに耐えているだけでは、なんだか時間がもったいない。

 このもどかしい時間をどうにか上手く活用できないものか。

 ……と考えた結果、僕は呪いに耐えながらでもできる“別の修行”も思いついた。

 そちらも並行して進めることにする。

 一人でも頑張れて、呪いの克服をしながらでもできる、もう一つの修行。

 それは……


付与魔法(エンチャント)――【黒炎(ヘルフレア)】」


 瞬間、『ゴオッ!』と魔剣の刀身に漆黒の業火が宿り、暗い木陰を明るく照らし出した。

 この神器に宿っている付与魔法(エンチャント)の一つ――【黒炎(ヘルフレア)】。

 神器の元々の攻撃力が高いこともあり、これで火力は恐ろしいものになっているはず。

 斬れないものなどないのではないかと思えるほど、装備者の僕でも強大な力を感じるくらいだ。

 でも……


「ここから……さらに……!」


 僕は右手の魔剣にさらに集中し、慎重に口を動かした。


付与(エン)……魔法(チャント)……【闇雷(ダークライ)】!」


『バチ……バチバチッ!』と、黒炎の上にさらに黒い稲妻が走った。

黒炎(ヘルフレア)】に劣らずの強力な雷。

 神器の攻撃力が凄まじい勢いで上昇しているのを肌で感じる。

 だが、次の瞬間――

『バチッ!』と手元で魔剣が弾けた。


「うわっ!」


 手元で弾けた勢いで、僕は思わず尻餅をついてしまう。

 “いてて”と呟きながら右手の魔剣を見てみると、先ほどまで纏っていたはずの黒炎も黒雷も綺麗に消えていた。

 シンと静かになってしまったそれを見て、僕は眉を寄せる。


「うぅ〜ん、上手くいかないなぁ……『二重(デュアル)付与魔法(エンチャント)』」


 付与魔法エンチャントの重ね掛け――『二重(デュアル)付与魔法(エンチャント)』。

 黒狼の魔人から得た【黒炎(ヘルフレア)】と、黒猫の魔人から得た【闇雷(ダークライ)】を重ね掛けしようとしたのだが、残念ながら上手くいかなかった。

 神器に宿る魔法は、大きく分けて二種類存在する。

 一つは、武器系の神器に宿る付与魔法(エンチャント)

 僕が使っている【黒炎(ヘルフレア)】のような、神器に特殊な効果を持たせる魔法だ。

 もう一つは、触媒系の神器に宿る属性魔法(エレメント)

 アメジストが使っていた【紫電(ライラック)】のような、神器から超常的な現象を引き起こす魔法だ。

 皆が連想するような一般的な魔法といえば、後者の属性魔法(エレメント)になる。

 属性魔法(エレメント)は多種多様な魔法が存在し、一つの触媒系神器に三つや四つ宿ったりする。

 だから触媒系神器の持ち主は、それらを組み合わせて使ったりして、『魔法使い』なんて呼ばれたりする。

 しかし武器系の神器に宿る付与魔法(エンチャント)は、基本的に“一つだけ”とされている。

 あくまで武器系の神器は、神器そのもので戦うことが前提とされているため、そもそも付与魔法(エンチャント)が宿る可能性が限りなく低いのだ。

 しかし稀に、二つ以上の付与魔法(エンチャント)を宿す武器系神器が現れるそうだ。

 そして過去に、その持ち主の中に、二つの付与魔法(エンチャント)を同時に使おうとした者がいたらしい。

 人類初めての試みだったため、習得にはかなりの時間を要したみたいだけど、その人は無事に付与魔法(エンチャント)の重ね掛けを成功させた。

 そしてその技を『二重(デュアル)付与魔法(エンチャント)』と名付け、それは今世まで伝えられてきた。

 できることなら僕も、その『二重(デュアル)付与魔法(エンチャント)』を習得してみたい。

 僕の【呪われた魔剣】は少し特殊で、『神器合成』なるスキルのおかげで現在は二つの付与魔法(エンチャント)を宿しているから。

 でも……


(上手くいけば、さらに【呪われた魔剣】の攻撃力を底上げできると思ったんだけど、やっぱりすごく難しいな)


 どうにも感覚が掴みづらい。

 二つの付与魔法(エンチャント)を同時に維持するのがこんなに難しいとは思わなかった。

 どんなに集中していても、今みたいに弾けて二つの付与魔法(エンチャント)がお互いを打ち消し合ってしまう。

 何かコツとかないんだろうか? 

 できるという事実だけが伝わってるだけだから、いまいちやり方がわからないな。


(……まあ正直、これ以上神器の攻撃力を上げる必要はないと思うんだけどね)


【呪われた魔剣】の攻撃力がそもそも驚異的だし、一つの付与魔法(エンチャント)だけでもとんでもない威力を発揮してくれる。

 おそらく斬れない相手はいないと思えるくらいに。

 じゃあ二重(デュアル)付与魔法(エンチャント)なんてしなくていいじゃん、と思ってしまうけれど、それは自ら強くなれる可能性を手放すのと同義だ。

 強くなれる可能性が少しでもあるのなら、僕はそれに手を伸ばしてみたい。

 言うなればこれは、ただの“向上心”だ。

 強くなると決めた以上、僕は手を抜くことだけはしたくないと思っている。

 それに、じっとしながらでもできる修行と言えば、これくらいしか思いつかなかったからね。

 

「……とりあえず、地道に頑張っていこう」


 僕は自分に言い聞かせるように、そう呟く。

 今も昔も、僕にできることは地道な努力だけだ。

 だから僕はたった一人、呪いの克服と二重デュアル付与魔法(エンチャント)の修行に打ち込んだのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] この世界『付与』と『呪い』の違いってなんなんでしょうか? 両方ともある意味で付与魔法とも言えなくもない技術ですが、根本的な技術の違いや正と負の方向性みたいな何かしらの違いがあるのでし…
[一言] ニトス「俺は強い、俺は強い、俺は強い」 変身をするのに苦労するのに変身を解くのは一瞬でできる某英雄を何故か思い出しました(超マイナー)
[気になる点] >漆黒の業火が宿り、暗い木陰を明るく照らし出した 漆黒なのに明るい というのに違和感が・・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ