第三十四話 「停滞」
活動拠点を移す?
「それって、別の町に行くってことですか?」
「そうなのですよ〜。大きな町には〜、それだけたくさんの依頼がありますので〜、もしかしたらいっぱい稼げるような依頼も〜、紹介してもらえるかもしれないですよ〜」
……なるほど。
チャームさんからそんなアドバイスを受け、僕はこくこくと納得した。
ここよりも大きな町に活動拠点を移すか。
確かにその手は、可能性を広げるという意味で有効かもしれない。
現在滞在しているこのミルクロンドの町は、あくまで駆け出し冒険者の町。
集まる依頼も簡単なものが多くて、それを銅級冒険者たちが取り合っているような形になっているから、いっそのこと別の町に行ったほうが多くの依頼を紹介してもらえるかも。
そしてその中には高額の依頼や、組み合わせ次第で効率的に稼げる依頼もあるかもしれない。
「同じ町でずっと活動を続けるのも〜、確かに良いことだと言われてますけど〜、色んな町を見て回って〜、自分に合った場所を活動拠点にするのが〜、私は一番だと思いますよ〜」
ベテランのギルド職員さんの言うことは、深く納得できるものだった。
僕もそれが一番良いと思う。
そしてパーティーメンバーのダイヤも、同じように納得してくれた。
「いいかもしれないですね、活動拠点の移動。大きな町ならそれだけたくさんの依頼があるはずですから」
「うん、確かに一つの手かもね。何より色んな場所を見ることができて面白そうだし、僕も賛成だよ」
となると問題は、どこに拠点を移動するかである。
できれば大きな町で、当然冒険者ギルドがあるのが前提だ。
いくつか候補は思い当たるけれど、やはりまずはこの人に聞くのが一番かな。
「あの、チャームさん、どこかおすすめの町とかってありますか?」
「ん〜、おすすめの町ですか〜? 無難なところで『ブルーストリア』じゃないでしょうかね〜」
ブルーストリアか。
その町なら僕も知っている。
ここより南東に位置する、有名な港町だ。
ミルクロンドより栄えた町で、建造物のほとんどが青や白を基調としているため、とても爽やかな外観をしている。
ビーチや宿屋の施設も多くあり、海水浴目的で訪れる観光客が後を絶たないらしい。
もちろん冒険者ギルドもあり、冒険者たちも多く滞在していると聞く。
「ブロンズからマスターまで〜、階級を問わず多くの冒険者たちがいますので〜、きっとそれだけ依頼もたくさんあると思うのですよ〜。それに〜、観光をしに行くだけでも価値はあると思います〜」
「それは確かに良さそうですね」
依頼を見つけられるか見つけられないかにかかわらず、普通に観光もできるのは良い点だ。
それなら試しに、そこに行ってみようかな。
なんて考えていると、突然チャームさんが思い出したような声を上げた。
「あっ、でも〜」
「……?」
「どうも最近ですね〜、ブルーストリアで活動している冒険者たちが〜、行方不明になっている事件が発生しているみたいなんですよ〜」
……冒険者が行方不明?
どういうことなんだろうと首を捻っていると、同じくチャームさんも首を傾けながら続けた。
「特に〜、ブロンズからゴールドの下位クラスの冒険者たちが〜、エリアに行ったきり姿が見えなくなってしまっているみたいなんですよ〜。不思議ですよね〜?」
「えっ? それって……」
僕は思わず、ダイヤのことをチラッと一瞥してしまった。
すると彼女は僕の予想通り、目を見張って硬直している。
エリアに行ったきり、姿が見えなくなってしまった。
似ている。ダイヤのお父さんとお母さんがいなくなってしまった状況と。
彼女のご両親も『白金窟』というエリアに行ったきり、戻って来なくなってしまったのだ。
その理由はいまだに判明していない。
ダイヤはそんなお父さんとお母さんを探すために冒険者になり、『白金窟』に入るためにプラチナクラスを目指しているのだ。
そんな中で、似たような事件が発生したと聞けば、このような反応をしてしまうのも無理はない。
もしかして、何か関係があるのかな?
「まあ一部では〜、依頼達成を諦めた青い冒険者たちが〜、依頼を放棄して逃げ出したんじゃないかって言われてますけどね〜。ともかく真相はわかってないです〜」
「……」
原因不明の行方知れず。
まだ関係があるとは言い切れないけど、気になる出来事であるのは間違いない。
これは後で、ダイヤと話し合ったほうが良さそうだ。
ともあれ……
「そ、それでしたら、ブルーストリアに行くのは、やめておいたほうが良さそうですかね」
「ですかもね〜。何もないとは思いますけど〜、万が一のことも考えて〜、しばらくはやめておいたほうがいいかもですね〜」
というわけで、ブルーストリアに拠点を移すのはやめておくことにした。
わざわざ危険な状況に、自ら飛び込む意味もないからね。
まあ、ダイヤのご両親に繋がる手掛かりがありそうだったら、話は別だけど。
とにかく、また別の候補を挙げるしかないか。
何度も何度も申し訳ないけれど、僕は再びチャームさんに問いかけた。
「じゃあ、他におすすめの町とかってありますか?」
「ん〜、ブルーストリア以外となると〜、『グリンダ』や『ピンクメリカ』ですかね〜。あっ、でもグリンダは〜、ここからとても遠いですし〜、ピンクメリカは難易度の高い依頼ばかりが集まるらしいので〜、銅級冒険者が行っても依頼を紹介してもらえないかもしれませんね〜。他に大きな町と言ったら『イエロシア』とかですけど〜、あそこはそもそも冒険者ギルドがありませんし〜……」
「……」
チャームさんがここまで知恵を絞って出てこないとは。
となると、今の僕たちに都合のいい町は本当にないみたいだ。
仕方がないけれど、拠点移動は諦めるしかないらしい。
まだしばらくはミルクロンドの町……もといこのギルドにもお世話になりそうだ。
「……まあ、それはそれでいっか」
現状、確かに金銭的な面では厳しいものがある。
だから拠点を移動してたくさん稼げるようになろうという話になった。
でもそうしたら、せっかく知り合ったチャームさんとも離れ離れになってしまう。
それはとても寂しい。
ならまだしばらくは、ミルクロンドで頑張ってもいいんじゃないかな。
と、僕の判断だけで決めることはできないので、パーティーメンバーのダイヤの意見も聞きたいところだ。
しかし彼女はいまだに固まったままなので、また後で聞くとしよう。
とりあえず僕は、チャームさんに頭を下げておいた。
「すみませんチャームさん。あとは自分たちで考えてみます。色々とお話を聞かせてくださってありがとうございました。お仕事中だったのに……」
「いえいえ〜、全然気にしないでください〜。ギルド職員として〜、冒険者とお話しするのもお仕事の範疇ですから〜」
ヒラヒラ服の幼女は楽しそうにそう言ってくれた。
そして僕は、“それでは”と会釈をして立ち去ろうとする。
固まるダイヤの手を引き、受付口前を後にしようとしたが……
その寸前、チャームさんが僕たちの背中に声を掛けてきた。
「明日は〜、できるだけ稼ぎのいい依頼を用意しておくので〜、絶対にギルドに来てくださいね〜。お二人にぴったりの依頼を〜、きっと見つけておきますから〜」
「はい、ありがとうございます!」
僕は今日一番の声で、チャームさんにお礼を言った。
やっぱりこの人に相談してよかった。
にしても、僕たちにぴったりの依頼ってどんな依頼なんだろう?
チャームさんは少し僕たちの能力を過信している節があるので、もしかしたらそれなりに難易度の高い依頼を紹介されてしまうかも。
ちょっとだけ怖いなぁ。
けれど、明日がとても楽しみになったのだった。




