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【さびついた剣】を試しに強化してみたら、とんでもない魔剣に化けました  作者: 万野みずき
第二章

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第三十三話 「活動拠点」

 

 神器修復(メンテナンス)を終えた後、僕はダイヤと一緒にギルドまで依頼報告をしに来た。

 神殿にはたくさんの冒険者たちがいて、こちらもごった返しているのではと危惧したが、見る限り混雑している様子はない。

 ほっと安心しながら受付口まで行き、いつものように職員さんに声を掛けようとする。


「あのー、すみませ―ん。依頼報告お願いしま……」


 と言って受付口の中を覗くと、そこには見慣れた姿があった。


「あっ、チャームさん」


「あ〜、サビサビ君と銀髪ちゃんじゃないですか〜。お帰りなさいです〜」


 ピンクのヒラヒラとした服を着て、同色の髪をふわりと揺らす、年端もいかないように見える幼女。

 ゴスロリ人形を大切そうに傍らに置いていて、その幼さに拍車を掛けている。

 およそギルドの職員とは思えないような外見をしているこの人は、冒険者試験の時に試験官を務めてくれたチャーム・フローライトさんだ。

 冒険者になってからも、彼女には度々お世話になっている。


「どうしたんですか二人とも〜? もしかしてこれから依頼受注ですか〜? 夜の冒険は色々危険なので気を付けてくださいね〜」


「い、いえ、依頼受注じゃなくて、報告をお願いしたいんですけど……」


 相変わらずの掴みづらさに、僕は思わず苦笑を滲ませる。

 というかこの時間帯なら、普通は依頼報告に来たと思うのが自然だろう。

 ホント、不思議な人だな。

 改めてギルドに訪問した理由を話すと、チャームさんは嬉しそうに大きく頷いた。


「はいは〜い、依頼報告ですね〜。ではまずは冒険者手帳(ギルドブック)を出してくださ〜い」


 僕たちは言われた通りに、冒険者手帳(ギルドブック)を提出する。

 するとチャームさんは冒険者手帳(ギルドブック)に記されている受注履歴を見て、一度奥に引っ込んでしまった。

 その後すぐに、一枚の用紙を持って戻ってくる。

 僕たちが受注した依頼の依頼書だ。

 チャームさんはそれを見て、ふむふむと内容を確認した。

 冒険者ギルドで依頼を受ける時は、まず受付口で依頼の紹介をしてもらう。

 クラスや実績に見合った依頼を、いくつか職員さんに紹介してもらい、その中から選んで依頼を受けることになるのだ。

 そのため受けられる依頼は、職員さんの裁量によって決まる。

 もちろん期限が迫っている依頼や、急を要する依頼などが優先的に紹介されるけれど、ほとんどの場合は職員さんの見立てで見繕われるようになっている。

 ゆえにギルドの職員さんと親交を深めておくのは、冒険者として活動していく上でとても重要とされている。

 活動拠点をずっと同じ町のギルドにしたり、できるだけ同じ職員さんに依頼報告をしたりして、実力を認めてもらうとか。

 そうすれば好条件の依頼を紹介してもらいやすくなるからね。

 まあ僕たちはそういう回りくどいことが苦手なので、いる人に声を掛けるようにしているけれど。


「受けた依頼は見鏡草の採取依頼ですか〜。それではさっそく〜、袋の中を見させてもらうのですよ〜」


「は、はい」


 そう言われて、僕はすかさずカウンターの上に袋を乗せた。

 チャームさんはその中を見て、再びふむふむと頷きを見せる。

 それからしばし中身の確認を進めて、彼女はニコリと微笑んだ。


「は〜い、完璧なのですよ〜。無事に採取依頼達成です〜」


「……ほっ」


 僕は思わず安堵の息をこぼした。

 毎度この瞬間は、言い知れぬ緊張感が付きまとう。

 もし依頼不達成になったらどうしようとか考えてしまうのだ。

 ともあれ、見鏡草の採取依頼を無事に報告し終えると、チャームさんは冒険者手帳(ギルドブック)印章(スタンプ)を押してくれた。

 同時に報酬金も手渡してくれる。

 僕は受け取ったそれらを大切に懐に仕舞いながら、ふとあることを思った。

 そういえば、一定期間まったく活動実績がない冒険者手帳(ギルドブック)は、確か無効にされちゃうんだっけ?

 だからこの印章(スタンプ)が、冒険者として活動しているという何よりの証にもなる。

 冒険者手帳(ギルドブック)を提示することで入れる場所があったり、低額で利用できる施設やサービスもあったりするので、冒険者の皆は手帳の恩恵を手放さないためにも活動を続けているという側面もある。

 ともあれ、僕は今日も冒険者として、日記帳のように冒険者手帳ギルドブックを更新したのだった。


「は〜い、これで手続きは終了となります〜。サビサビ君と銀髪ちゃん、お疲れ様でした〜」


「は、はい」


「お、お疲れ様でした」


 いまだに慣れないチャームさんとの距離感に、僕たちは鈍い反応を返してしまう。

 ギルドの職員さんと仲良くするのは良いことではあるのだけど、この人の場合は向こうから距離を詰めてくるという感じなので、なんだか少々やりづらい。

 僕とダイヤはどちらも人見知りだし、こんな風に接されるとどう反応していいかわからなくなってしまう。

 いや、それはともかくとして、僕はチャームさんに言いたいことがいくつかあった。

 まず最初は……


「と、ところでチャームさん……」


「……はいっ?」


「その『サビサビ君』っていうの、できればやめてもらいたいんですけど」


「え〜? どうしてですか〜?」


「ど、どうしてって、なんとなくかっこ悪いかなって……」


「え〜、そんなことないですよ〜。とっても可愛いじゃないですか〜」


 なんだか会話が噛み合っていないんだけど。

 僕は『サビサビ君』というあだ名を『かっこ悪い』と言ったんだ。

 それなのになんで『可愛い』と返してきたのだろう?

 というか、可愛ければいいという問題でもない。

 呼ぶのならせめて、もう少し冒険者らしいかっこいいあだ名はないものだろうか。


「持っている神器もサビサビですし〜、髪も錆色ですし〜、まさに『サビサビ君』じゃないですか〜」


「……じゃないですかって言われましても」


 渋い顔をするけれど、チャームさんは譲る気配をまったく感じさせない。

 どうしてそのあだ名にそこまでこだわるのだろう?

 もしかして、アメジストのことを『紫ちゃん』と呼び、ダイヤのことを『銀髪ちゃん』と呼ぶように、髪色で呼称を決めているのだろうか?

 ともあれ、仕方がない。

 この調子では、僕がいくら言ったところで気は変えないはずだ。

 僕は泣く泣く、現実を受け入れることにした。


「……もう、サビサビ君でいいです」


「ですよね〜、サビサビ君って可愛いですよね〜。呼ばれているうちに、きっと慣れていくと思いますよ〜」


 ……だといいんですけど。

 なんて心中でため息をこぼしながら、僕は間髪入れずに二つ目の質問を投げ掛けた。


「あっ、それとチャームさん」


「んっ? まだ何かあるんですか〜?」


「あっ、いや、“何か”ってほどのことでもないんですけど、その……」


 僕は先ほどのあだ名の件より言いづらい気持ちで、チャームさんに問いかけた。


「俗物的な質問で申し訳ないんですけど、何か僕たちでもたくさん稼げるような依頼とか、あったりしませんか?」


「稼げる依頼ですか〜?」


 チャームさんはきょとんと首を傾げた。

 まあ、当然の反応だよね。


「もしかして〜、お金に困ってるんですか〜?」


「まあ、端的に言えば……」


「ん〜、それはまあ〜、銅級(ブロンズ)冒険者の宿命みたいなものですからね〜。都合よく高額依頼の指名が来たりしないと〜、銅級(ブロンズ)冒険者の稼ぎだけで食べていくのはなかなかに困難ですから〜」


 そう。ブロンズの依頼だけでは、食べていくのはそこそこ難しい。

 紹介してもらえる依頼が簡単なものに限られてしまうので、その分報酬金も少なくなってしまうのだ。

 もちろん、ブロンズの依頼だけで食べている冒険者もそれなりにはいる。

 上手くスケジュール調整をして、複数の依頼を同時に達成することで、報酬金額の低さをカバーしているのだ。

 それでも貧乏生活を強いられていることになるけれど。

 というように僕たちも銅級冒険者の金欠問題に悩まされているので、どうにかできないものかとチャームさんに尋ねてみた。

 いっそこの町でアルバイトでもしようかなと思ったくらいだからね。

 しかしできれば冒険者活動に専念したいため、その方面で稼ぎのいい依頼があれば一番だと思ったのだが、果たして結果は……


「それでしたら〜、いっそのこと“活動拠点”を別の場所に移してみてはどうですか〜?」

 

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