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【さびついた剣】を試しに強化してみたら、とんでもない魔剣に化けました  作者: 万野みずき
第一章

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第十七話 「対人戦」

 

 基本的に対人戦は、神器を破壊した方の勝ちとなる。

 言い方を変えれば、神器を破壊された方の負けだ。

 神器から与えてもらっていた恩恵が消えるばかりでなく、魔法もスキルも使えなくなって、神聖力も失われる。

 神器はガラクタ同然と化すのだ。

 ゆえに神器を破壊することで、相手を完全に無力化できる。

 それこそが対人戦の決着というわけである。

 だからこそ僕は、アメジストの神器についてダイヤに尋ねた。

 奴の神器は、右手首に付いている紫色の腕輪。

 名前を【紫電の腕輪】と言うらしい。


「……やっぱり触媒系の神器か」


 触媒系の神器は、装備することで高い魔力を得られる。

 そして武器系に宿る付与魔法(エンチャント)よりも、自由度の高い魔法を使えるようになるのだ。

 今のアメジストのように、手の平から雷を放つこともできてしまう。

 武器系の神器と違って遠距離からの攻撃もできるので、厄介な面が大きい。

 しかしだからといって、触媒系の神器が武器系の神器に完全に優っているとも言い難い。

 触媒系の神器は武器系の神器に比べて、遥かに”脆い”のだ。

 耐久値の数字はせいぜい二桁ほどしかないだろう。

 だから近づいて攻撃を当てることさえできれば、神器破壊は容易い。

 そして神器さえ破壊すれば、奴は雷の魔法も使えなくなり、完全に無力化できる。

 魔力が切れるまで待つという手もあるが、そんな悠長なことを言ってる場合でもないし。

 でも僕、ちゃんと腕輪に攻撃を当てられるだろうか? 手元が狂って腕ごと斬り裂いてしまいそうだ。

 なんて弱音を吐いている場合ではないので、僕は背中の鞘から【さびついた剣】を抜いた。

 するとそれを見たアメジストは、一瞬だけ目を丸くしてから吹き出す。


「あはっ、何よそれ! きったない剣なんか出して、まさかそれがあんたの神器じゃないでしょうね!」


 悪いけどこれが僕の神器なんだよ。

 そう返したいのは山々なれど、僕は攻撃の機を窺うことに神経を研ぎ澄ましていた。


「やっぱりあんたは、無能でポンコツのダイヤとお似合いよ! 仲良くここで潰してあげる! そもそも強くなきゃ、冒険者なんて務まらないんだからさ!」


 紫電の魔法攻撃は絶えず放たれ続ける。

 そのすべてをダイヤが【不滅の大盾】で受け続けてくれているので、今のところはなんともないが。

 紫電による感電が、盾を持つダイヤに少しずつだがダメージを与えていた。

 彼女の耐久能力を持ってしても、やはり何度も魔法攻撃を受け止めるのは難しいらしい。

 それにアメジストの魔法が雷というのも、相性が最悪だ。

 早いところこちらから動かなければ。

 

 僕は右手の【さびついた剣】に目を落とす。

 さっきの戦いで、魔剣状態を二分も維持してしまった。

 疲労感も少しだけあり、おそらく魔剣を使用できる時間はあと僅かしかないだろう。

 一分……いや、その半分の三十秒も使えたら良い方だ。

 余裕なんてほとんどない。

 それに、内側から体を蝕まれるあの感覚は、とても慣れるものではない。

 常に全力疾走をさせられているかのような疲労感。

 むしろ痛くて苦しいとも思える感覚で、最後には『意識』そのものをブン殴られて昏倒してしまう。

 正直怖いとさえ思っている自分がいる。

 しかし、ダイヤが覚悟を決めたのと同じように、僕も覚悟を決めてやる。

 呪いで体が蝕まれようと、そんなの知ったことではない。

 だから今は、力を貸してくれ……【呪われた魔剣】! 


「……進化」


 ぼそりと呟くと、【さびついた剣】の刀身が黒々と光り始めた。

 そして柄まで覆い尽くしていたサビがボロボロと崩れていき、その内側にあった真の姿をさらけ出す。

 切っ先から柄頭まで漆黒に塗りつぶされ、禍々しいオーラを放つその姿を。


名前:呪われた魔剣

ランク:S

レベル:―

攻撃力:500

恩恵:筋力+500 耐久+500 敏捷+500 魔力+500 生命力+500

魔法:【黒炎(ヘルフレア)

スキル:【神器合成】

耐久値:500/500


 途端、体が羽のように軽くなる。視界が広がるように神経が研ぎ澄まされる。

 神器からの恩恵が、鳥肌のように全身を駆け巡る。

 自分が強くなったのを、文字通り肌で感じる。

 そして僕は一瞬で勝負を決めるべく、ダイヤの裏から飛び出した。

 アメジストたちの方に走り出すと、奴らは僕の神器を見て驚愕の表情を浮かべた。


「な、何よそれっ!?」


 神器の姿が変わるという怪現象。

 おまけにそれが魔人の持っている神器のような見た目なら、その驚きは当然のものだ。

 そんな彼女たちの意識を置き去りにするように、僕は敏捷力が許す限りの速度で駆け抜ける。


「くっ、【紫電(ライラック)】!」


 接近されるのを嫌がったのか、アメジストは紫電を撃ってきた。

 僕はそれを躱しながらさらに近づいていく。

【呪われた魔剣】からの恩恵で、生命力が格段に上昇している。

 それに伴って防衛本能でもある反射神経も磨かれており、雷速で飛んでくる稲妻にも対応が可能だ。

 紙一重で回避したり、もしくは魔剣で弾き飛ばしていく。


「な、何なのよこいつっ!」


 ほぼ一瞬でアメジストたちの目前まで接近すると、突如彼女たちは陣形を変えた。


「スピネル、ラピス! 頼んだわよ!」


「「任せてっ!」」


 アメジストは右手を引っ込めて一歩下がり、それに代わるようにして鎌使いの姉妹が前に出てきた。

 二人は背中から大鎌を取り出す。

 そしてアメジストを守るように、三日月の刃を二つ合わせた。


付与魔法(エンチャント)、【火鎌(ブラッドムーン)】」

付与魔法(エンチャント)、【氷鎌(ブルームーン)】」


 赤髪少女の鎌には炎の魔力が、青髪少女の鎌には氷の魔力が宿った。

 なかなかの迫力を感じる。

 おそらく神器のランクはCといったところか。 

 レベルもそこそこ高いだろうな。

 そんな神器が合わせて二本。加えて付与魔法(エンチャント)も掛かっている。

 通常ならAランクの神器でも突破できるかわからない守りだ。

 でも、僕の【呪われた魔剣】なら……


「はあぁぁぁぁぁ!!!」


 両手で握り締めた魔剣を上段から振り下ろす。

 その一撃を迎え撃つようにして二本の大鎌が振られる。

 大きさでも数でも劣っている。誰が見ても姉妹の勝利を確信する場面。

 しかし、お互いの神器が打ち合わされたその瞬間……

 赤と青の大鎌が、まるで焼き菓子のように呆気なく砕け散った。


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― 新着の感想 ―
[一言] 一撃で武器破壊…………… 今後はクラッシャーの異名でも付くのかな? まぁ、協会で回復できるみたいだけど、試験中は無力になったか………… 後はどうでるのか楽しみです!
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