第十五話 「無自覚」
名前:不滅の大盾
ランク:A
レベル:5
攻撃力:0
恩恵:筋力+50 耐久+240 敏捷+0 魔力+50 生命力+220
スキル:【不滅】
耐久値:∞/∞
なんだこの耐久値は? 見たこともない数値を示しているぞ?
プロパティに異常でも出ているのだろうか?
それにこの【不滅の大盾】とやら、なんと驚いたことに『Aランク』の神器じゃないか。
ルビィの【炎龍の大剣】と同じ、最高位のランクの神器。
類い稀なる才能を宿している確かな証拠。
おまけに、見たこともないスキルが神器に宿っている。
【不滅】・神器の耐久値が減少しない
・装備者に毒耐性付与
・装備者に呪い耐性付与
「【不滅】っていうスキルの効果で、私の盾は耐久値が減少しないようになっているんです。そのせいかプロパティの耐久値も変な数値を示していますし。それと毒や呪いも、私には効きません。というわけでまあ、神器も私も壊れる心配がまったくないんですよ」
「……」
さも当たり前のようにそう語る銀髪少女。
自分が何もおかしいことを言っていないような様子。
見るからに彼女は神器や戦闘に関しての知識が乏しいように思える。
だから何もわかっていないのは無理もない。
そんな子に対して僕は、改めて自身の凄さをわからせるように口を開いた。
「この【不滅の大盾】、とんでもない神器じゃないか!」
「えっ? そ、そうなんでしょうか?」
「そうだよ! 確かに攻撃力がなくて魔族を倒せないかもしれないけど、神器が壊れて恩恵を失う心配がないし、装備者にあらゆる耐性が付与されるみたいだし、まさに不滅の盾じゃないか! 『自分には守る力がある』って、もっと自信を持って言えばよかったのに!」
「……」
ベタ褒めすると、ダイヤはぽかんと口を開いて固まってしまった。
やがて熱を帯びた鉄のように顔を赤く染めていき、再び盾の裏に表情を隠してしまう。
何をそんなに恥ずかしがることがあるのか。もっと自信を持てばいいのに。
あの三人組に対しても、すごく自信なさげに『私には守る力がある』と言っていた。
自分の力を正しく自覚し、胸を張ってアピールしていればあんなことにはなっていなかったかもしれないのに。
それくらい、この子の才能は光るものがある。
なんだか僕は、皆が見つけられなかった財宝を、一人だけ見つけてしまったような気分になった。
「ほ、褒めすぎですよラストさん。別にそこまで騒ぐようなことじゃ……」
「いやいや、ダイヤは自分の凄さを自覚した方がいいよ。それに、まだまだレベルも上がりそうだし、”魔力”の恩恵も少しはあるみたいだから、いずれは強力な付与魔法も習得するんじゃないかな? すごく楽しみだね!」
「……エ、付与魔法は基本的に、攻撃力上昇や特殊攻撃のための魔法ですので、盾の神器に宿る望みは薄いんじゃないかと」
でも神器のランクはAなので、何かしら新しい力に目覚める可能性は充分高い。
今後にも期待ができるということで、本当に色々楽しみな神器だな。
あとはダイヤが自分の力に”自信”を持って、皆の前に立つことができれば……
過去のどの英雄たちよりも多くの人間を守ることができるかもしれない。
ともあれ、二度の戦闘でお互いの力を再確認した僕たちは、改めて『試験人形』の捜索を再開することにした。
と、再び歩き出そうとした瞬間……
「んっ?」
視界の端に”何か”が映り、僕は反射的に足を止めた。
先ほどの小人の魔物が飛び出してきた茂みの中。
そこから何やら目を引くものが……具体的に言うと人の”手”のようなものが見えていた。
思わず驚きの声を上げそうになってしまうけれど、その手がどこか無機質なものに見えて僕は目を凝らす。
「あれって……?」
茂みに近づき、その手を引っ張ってみる。
するとそこから出てきたのは、ゴスロリ服を着た女の子の人形だった。
どこかで見たような人形……
「これってもしかして、冒険者試験に合格するための『試験人形』?」
「……だと、思いますけど」
ダイヤと顔を見合わせて確認をとる。
やっぱりこれ、試験官さんが持っていた試験人形と同じものだ。
なんでこの茂みの中に?
「あの小人さんが持っていたものなんでしょうか? 先ほどはこの茂みから飛び出して来ましたし……」
「あっ、そういうことか。じゃあさっきの小人の魔物が、試験官さんの言っていた『スナッチシーフ』ってことかな?」
「そう……みたいですね」
なるほど。これで合点がいった。
あの小人の魔物がスナッチシーフなら、僕たちの神器にしつこくしがみついてきたのも納得できる。
人間の持っているものを奪い取る習性がある魔物。
あれは僕たちの手から神器を奪おうとしていたのだ。
装備している神器も例外なく奪おうとするみたいだな。
下手をしたら【呪われた魔剣】や【不滅の大盾】が奪われていたかもしれない。
破壊さえされなければ恩恵が消えることはないけれど、魔法やスキルは使えなくなってしまうので奪われるのは言語道断だ。
とにかく何事もなく終わってよかった。
「とりあえずこれで一つ目だね。この調子で早いところもう一つ見つけて、二人で試験に合格しちゃおう」
「は、はい!」
というわけで僕たちは『試験人形』を一つ獲得したのだった。
続いて二つ目の人形探しを始める。
二人で試験を受けているので、確実にあと一つは確保したい。
でももし時間に間に合わなくなりそうだったら、この一つはダイヤに譲ることにしよう。
正直な話、僕よりもダイヤの方が才能に恵まれている気がする。
先に冒険者になるとしたら彼女の方が断然いい。
彼女の力を皆が知れば、多くのパーティーから勧誘の声が掛かることだろう。
もっと言えば、仮にこの試験に落ちてしまったとしても、誰かのお眼鏡に叶えば推薦をもらえる可能性だってあるのだ。
そんなダイヤを差し置いて僕だけ合格するわけにはいかない。
何せ僕の神器は、弱小攻撃力の【さびついた剣】か、装備者の体力を奪う【呪われた魔剣】だからね。
頼り甲斐のないことこの上ない。
なんて思いながらも、試験人形探しを再開しようとした時……
「あらダイヤ、こんなところで奇遇ね」
突然後方から、女の子の声が聞こえてきた。
完全に油断していた僕らは、慌てて後ろを振り返る。
するとそこにいたのは……
「あ、あんたたちは……」
試験開始時、ダイヤからの懇願を残酷にも一蹴した、あの三人組の少女たちだった。