第十話 「旅立ち」
どうやら【呪われた魔剣】は、一定時間しか使えないみたいだ。
端的に言うと、使っている間ものすごく疲れてしまう。
疲弊して、最後には昏倒してしまう。
だから初めて使った時、魔人を倒した直後に意識を失ってしまったみたいだ。
呪われた魔剣という名称からすると、神器にそういった『呪い』でも掛かっているのだろうか?
まあ、いくらなんでも強すぎる神器だし、それを自由自在に使える方がおかしいってものだ。
これからはもっと慎重に【呪われた魔剣】を使うことにしよう。この神器も無敵ってわけじゃないみたいだな。
ともあれ、二度目の昏倒から目を覚ました僕は、母さんの準備してくれた荷物を持ち、旅に出発することにした。
「行って来ます母さん。僕、絶対に冒険者になってみせるから」
「行ってらっしゃいラスト。ラストの活躍が聞けるの、楽しみに待ってるからね」
僕はこくりと頷きを返す。
ルビィほどの活躍を轟かせることができるかはわからないけど、僕なりに頑張ってみようと思う。
なんて思っていると、そのルビィの話題が出てきた。
「それとあなた、たまには顔見せに帰って来なさいよ。ルビィちゃんも冒険者になってからまだ一度も村に帰って来てないみたいだし、ご両親も寂しがってるらしいからさ」
「ま、まあ、ルビィはプラチナランクの冒険者だし、忙しいんじゃないかな?」
有名な冒険者になれば、それだけ皆から頼りにされる。
そもそもルビィは勇者パールティのパーティーに加入しているので、多忙は必然ではないだろうか。
だから……
「だからさ、冒険者になってルビィに会ったら言っておくよ。で、今度はルビィと一緒に村に戻ってくる。お土産話、たくさん聞かせてあげるから」
「うん。期待してるからね」
そう言って、僕は自宅を後にした。
名残惜しく、最後まで手を振り続け、やがて見えなくなってしまう。
それから僕は森の中を通って町まで向かうことにした。
冒険者になるためには試験を受けて、合格しなければならない。
そのためには町に行き、試験に参加しなければならないのだ。
と、その途中で……
「お、おい……」
「……?」
突然どこからか男の声がした。
足を止めて声のした方を見てみると、そこにはあの木こり兄弟がいた。
時間的に木こりの仕事中のようだ。でもここはいつも木こり兄弟を見掛ける場所からは離れていると思うんだけど。
なんでこんなところにいるんだろう? ていうか、僕に何か用なのかな?
「そ、その……悪かったな」
「えっ?」
「お前のこと見捨てて、俺たちだけ逃げちまった」
「本当はお前、すごく強かったんだな。見縊っていて悪かった。あの魔人を一人で倒すなんて、大した奴だぜ」
「えっ? ど、どうも……」
想定外の言葉を掛けられて、僕は形容しがたい思いを抱く。
恥ずかしいというか、なんかやりづらいなぁ。
僕のことを見下していた二人から改めてこんなことを言われると、どう反応していいかわからない。
ていうか、それを言うために僕を呼び止めたのか?
と思ったら、どうやらそれだけではなかったようで、木こり兄弟の一人がこちらに”ある物”を差し出してきた。
「あっ、それで、これよかったら……」
「こ、これ……剣の鞘?」
「あぁ、俺らの趣味でな、木材の余りで色んなもんを作ってるんだよ。前に見た時、神器を背中に吊るしてるだけだったから、お前に必要かと思って。見捨てちまった詫びとしてな……」
「形も大きさも近いもんを選んだが、もし合わないようなら捨てちまっても構わねえよ。好きにしてくれ」
「あ、ありがとう……」
予想だにしていなかった彼らの行動に、思わず僕は呆気にとられる。
本当に反応しづらい。
意外と良い人たちじゃないか。
ともあれ僕は受け取った鞘に、さっそく【さびついた剣】を入れてみた。
すると驚くことに、まるで見繕ったかのようにぴったりと収まった。
これなら動きやすそうだ。それにボロボロの神器を周りに見られることもないし。
改めてそれを背中に掛けて、僕は木こり兄弟と別れる。
動きやすくなったこともあり、僕は森を全速力で駆け抜けた。
目指すは駆け出し冒険者の町――『ミルクロンド』。
絶対に試験に合格して冒険者になってみせる。
いよいよ、僕の冒険譚が始まる。