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天狗様に投げ文を  作者: 一 晶子/marmellata_o
5/7

五、

 付き合ってと言われた三日間が終わり男とわかれ、家に帰ったとき、私の家族は泣いていた。おじいちゃんや、おばあちゃんまでもが私の家にいて、何人かの刑事さん、私がさらわれたの場面を唯一目撃した龍くんと、龍くんのお母さん、お父さんまでもがいた。


「大きな羽根の男だった! きっと悪魔かなんかだよっ!」


 という龍くんの主張は、大人たちには信じてもらえなかったらしい。そんな大人たちは、みんなが私のことを心配そうな表情で見て、同じことを聞いてきた。


「どこにいたの? 誰といたの? 怖い目に合わなかった?」


 そう聞かれても、私はこのことを人に話す気になれなかった。

 

「……あまり覚えていなくて、気が付いたらここに戻っていました。」


 うそをつくことに、ツキリと胸が痛んだ。けれど今、わたしには、うそをつくことがどうしても必要だと思ったのだ。


 そう答えた私を、龍くんは泣きながらにらむようにして見ていた。

 なんでも彼は、ずっと自分を責めて泣いていたのだと言う。


「悪いことじゃなかったし、何も気にしないでね。ただ……もうダンゴムシ、見せてこないでね。」


 私がそう伝えると、龍くんは一度うなずいた。

 そして、こう聞いてきた。


「あの男の人、誰だったの?」


 そう聞かれた私は、龍くんに近づいた。そして大人たちに聞かれないように、小さな声で答えた。


「内緒……でも、一生懸命探してくれて、ありがとう、ごめんね。」


 私がそう言うと、龍くんはまだ、何か聞きたそうにしていたが、それ以上のことは聞いてこなかった。

 

 心配をかけた家族や、龍くんには悪いけれど、このことは私と流星さんの二人だけの約束だ。


 私は誰にも、話すつもりは少しもない――これからも、ずっとそう決めた。



 そして、


 神隠しにあってから、もう十年もの時がたち、昨日私は、二十歳になった。二十歳になった今でも、もう何年もの間、私は、この小さな山に通い続けている。


 木の枝に目印としてくくられているのは、紅く色づくヤツデの葉。一年中、朽ちることもなく、つけられているその葉の木の前に立ち、私は手紙をそらへと、投げる。


 すると、その投げた手紙は、またたく間に黒い羽根に覆われる。そして、私の手元には一枚だけ羽根が落ちてきて、舞い踊っていた残りの羽根は消えてしまう。それと同時に、投げた手紙もどこかへ消える。


 私の手元に残った羽根も一晩がたつと消えてしまうから、また次の日、私はここの山に来る。

 

 それが私と天狗《流星》の、約束の証。

 

 私が人間としての生を終えたとき、私は彼の奥さんとなると誓い合った。それまではこうして、文を交わして、彼の一部に心を寄せると約束したのだ。


 人生百年と言われる時代、私が彼に嫁ぐのはまだまだ先だ。

 けれどそれが私の楽しみとなり、死を、恐れない理由となった。


――天狗様だ。けど、このことだって、誰にも話すつもりは少しもない。これからも、ずっと。


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