第24話 過去との再会は
一月の第二月曜日の朝、潤は久しぶりにスーツに袖を通していた。成人式に参加しているからだ。
ーーーー眠い…………拓真と夜遅くまでやり取りしてたからだけど……山崎は何処にいるんだろうな。
指定された場所に行くし……参加するって言ったけど、やっぱ面倒だ。
拓真を見習いたいとは思っても、拓真になれる訳じゃないし……
「……樋口?」
「…………えっと……」
名前を呼ばれたから振り向いたけど、誰だか分からないや。
振袖だし、女子は化粧すると変わるし……
「覚えてない? 中三の時、同じクラスだった小野なんだけど……」
「あーー、覚えてるよ。小野もこれから同窓会に参加するのか?」
「うん、するよー」
クラス委員やってた奴だよな。
俺だって分かったって事は、あんまり変わってないって事か?
これでも中学の時よりは、十センチ以上背が伸びたし、筋力だってついた方だと思うんだけど……
「小野ちゃん! えっ?! 潤?!」
「あぁー、久しぶり」 「テツ、久しぶりだねー」
ーーーーやばい……小野が目立つのか、人が集まってきた。
テツとか懐かしいな……ってか、こんなに近くで同中の奴が式典に参加してたのか……
「潤!」
「うわっ!」
勢いよく突撃してきた奴は、やっぱ山崎だ。
高一までは会ってたけど、音楽活動をするようになってからは、その機会が減ったんだ。
山崎はサッカーの名門で頑張ってるみたいだし、目指すモノは違うけど、気のおけない友人の一人には変わりない。
それ以上に……俺が面倒くさがりなだけで……
「久々! 元気にしてたか?」
「あぁー、山崎も相変わらずだな」
「そうか? ってか潤、また背が伸びてないか?」
「そんな事ないって。大学に入ってからは、そんな伸びてないし」
「もうサッカーやってないのか?」
「あぁー、山崎は続けてるんだろ?」
「まぁーな」
ーーーー懐かしいな……この感じ……俺の友人は、何て言うか……拓真みたく明るい奴が多いよな。
要するに、俺とは正反対で太陽みたいな奴。
本当、いい奴ばっかだよな……
話しながら移動すると、幹事の山崎と小野が予約した店に着く。同窓会は地元のレストランを貸し切って行われていた。
「これ美味いなー」
「そうだな」
これとか……味濃くてピリ辛だから、拓真が好きそうだよな…………って、俺は女子か……こんな風に考えるのは昨日、話してたからだよな。
「潤は彼女いないの?」
「いないよ。そう言う山崎は?」
「俺? 俺はーー……」
「その顔はいるんだろ? どんな子?」
「鋭いなー、この子だよ」
素直に写真を見せてくるあたり、彼女の事……相当すきなんだろうな……
「可愛い子だな」
「だろ?」
上原の方が可愛いけどな……とは、言わないけど。
山崎が好きそうな……笑顔が似合うような子が写ってた。
彼女かーー……
「潤は、そういう浮いた話ないの?」
「……無いな」
「今の間! 絶対あるだろ?」
「あーー、そうだなー」
「棒読み!」
バカな話をしてふざけ合ったり、中学の頃はよくあったよな…………来て良かった……
「山崎、今日は幹事お疲れ。誘ってくれて、ありがとな」
「いーえ! 来てくれて、ありがとな!」
にっと歯を出して笑う山崎は、あの頃と変わらないな。
ビールと美味い料理に、友人との再会か……久々にバラードもありだな…………帰ったら、拓真に聞いてみるか……
既に音が鳴っていると、懐かしい顔から声をかけられた。
「樋口、久しぶりー」
「坂元……酔っ払いかよ」
「いいじゃない! せっかくの成人の日なんだから!」
「はいはい」
山崎が席を立った隙に隣に座られてるし、正直……会うまで忘れてた奴、結構いるよな。
「潤と坂元、今も交流あるのか?」
「テツ、ある訳ないだろ? 卒業してから会ってたのなんて山崎くらいだし」
「サッカー部で仲良かったもんなー」
「あぁー」
「本当、樋口は男前になったねー」
「……変わってないんじゃなくて?」
「話したら、樋口って分かるけどー……中学の時は可愛い感じだったのにー」
「坂元、男に可愛いとか……」
「あぁー、嬉しくないし」
「えーーっ!」
坂元を引き取りに小野が来ると、山崎が戻ってきた。
そういえば……山崎と坂元って、付き合ってたんだっけ……懐かしいな。
あれから、五年経ったって事か…………
「テツー、潤が想い人教えてくれないんだよー」
「マジ? どんな子?」
「いないって、もういいだろ? ほら、テツはどうなんだよ?」
「話逸らしたな? ったく、しょうがないな。俺は好きな奴ならいるよ」
「……テツが片想い?」
山崎がそう言うのも納得。
よく一緒にいたメンバーの中で、テツが一番モテてたっぽいし。
あの頃から背が高かったから、羨ましかったんだよな…………そのテツが片想いだろ?
「ーーーー俺もテツみたいな子はいるよ。写真は無いから勘弁な」
「やっぱりか……同じ大学?」
「あぁー、テツは?」
「俺も同じ専攻の子」
「そっか……」
俺のは完璧に片想いのまま終わるけど、テツは実るといいな。
好きな相手と両想いって……それだけで、俺には奇跡みたいだ……
男三人で近況報告していると、彼女に呼び出された。
……懐かしいけど……それ以上の想い出はない。
「潤くん、片想いしてるの?」
「あーー、さっきの聞いてたのか?」
「うん、聞こえちゃった」
目の前にいる彼女は、潤が初めて付き合った相手だ。
あの頃の俺は、サッカーとピアノで……好きだった相手に構ってなかったよな…………今更ながら、反省してたりするけど……
「前田は……綺麗になったよな」
「潤くんも、背が高くなってて驚いた」
「高校で伸びたからな」
「そっか……」
…………沈黙とか……やっぱ無理だ。
本当、俺は基本的にインドアだし、社交性の欠片もない。
描きたいモノは山程あるのにな……
「…………潤くん……今日は会えて良かった。ありがとう……」
差し出された手を握り返すけど、あんなに胸が鳴らないんだ。
ーーーーやばいよな…………彼氏がいるし……あんな歌姫のような人、好きになっても仕方がないのに……それでも、どうしようもなく惹かれて……離れられないんだ……
「前田、ありがとう……」
「うん!」
笑顔で応える彼女は、何処か上原を想い出させた。
全然似てないんだけど、片想いしてる所だけが……当時の彼女と、今の俺とがダブって見えたんだと思う。
「潤、大丈夫か?」
「ん? あぁー、普通に挨拶だよ」
「そっか……前田、綺麗になったよなー」
「……そうだな」
「その反応は、前田じゃないって事かー」
「違う」
「即答……元カノとの復縁とかもあるじゃん?」
「テツはあるのか?」
「ーーーーすみません」
山崎と顔を見合わせて、思わず笑ってしまった。
テツにとっても、元カノとの復縁はないって事か。
俺は元カノって呼べる程、付き合ってた訳じゃないけど……遊園地で、デートはしたか…………
最近、音楽一色って感じだったから忘れてた。
それくらい、特別なんだ……
「この後、飲みに行かないか?」
「散々飲んだのに?」
「いいだろー、テツー。潤も行けるだろ?」
「あぁー」
「じゃあ、俺も行こうかなー」
この感じ、本当……懐かしいな…………どんなタイトルがいいかな?
曲は描き起こせそうだし、拓真も同じようなの作ってきそうだし…………彼女以上に惹かれる相手はいないけど、そんな相手と再会できたら……もう一度、伝えたりするのかな…………
懐かしい顔ぶれに当時を振り返る。
音楽一本に絞る事は出来なくて、サッカーも続けた。
それは、それで……毎日が楽しくて、充実してたと思うけど……今とは比べられないな。
ーーーーそうなんだ……それくらい進化というか、変化してるって言ってもいいと思う。
今も、音が鳴ってるから…………
「潤、行くぞー!」
「あぁー」
久しぶりの再会に、当初の面倒くさがりは何処かに行ったようだ。
二次会も参加したから遅くなったけど、行って良かった……会えて良かったな。
バイブ音に気づき、電話に出ると相方だ。
「もしもし?」
『潤、お疲れー』
「お疲れ、成人式どうだった?」
『あーー、元カノに会った』
「ふっ……そっか……」
『もしかして、潤もか?』
「ん? あぁー……」
ーーーー元カノか…………そんな長い付き合いはしてないけど、そうだな……周囲に流された感はあるけど、好きだったんだろうな。
じゃなきゃ、面倒くさがりの俺がデートなんてしないだろうし……
『もしかして曲、考えてたのか?』
「あぁー……試験後に合わせたいけど、明日聴いてくれるか?」
『勿論! 俺のも聴いて欲しいし!』
「やっぱな……」
揃って笑みが溢れ、いつもとは違う環境下で生まれた音に、お互いに興味津々である。
あーーーー、ギターが弾きたいな……
思いを持て余したまま電話を切って、ベッドにダイブだ。
音楽の事も、エンドレの事も、今の俺を知らない友人か…………カラオケでは『上手い』って言われたけど、それだけじゃ足りないんだ。
歌が上手いだけの奴なら山ほどいる。
声がハスキーなテツとか、音程を外さずに歌える山崎だって、歌が上手い部類に入るだろうし……俺は、もっと…………
いつの間にか部屋から寝息が聞こえてきた。
その手には、充電器に挿したままの携帯電話が握られている。メモを残しながら寝落ちした思考は、音楽で占められていた。
 




