表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

8 魔王様はエルフ賢者に遭遇した。

王城には図書館があるそうなので、そこでパーティーが終わるまで避難していようかと思う。


これには別の目的もある。客人として招かれている今なら、図書館に普通に入れるので、そのうちに情報収集をしたいのだ。


人間界でいう魔王とは何かとか、国の地理とかね。


誰もいないようなので、私はこっそり図書館内部に入り、明かりをつけた。この場合だと、明かりをつけないでこそこそしている方が不審だと私は思う。


私は王国の歴史、というのが書かれている棚のあたりで立ち止まり、本を開いた。


その本をパラパラとめくり、終わったので、本を閉じて次の本を開く。そして、同じ作業を繰り返し、棚を網羅した。


どうやらこのチートな体には瞬間記憶能力と速読能力が備わっているらしく、軽く本をめくっただけで、内容を理解し、記憶する事が出来るのだ。

今はただ全ての本を記憶して、効率的にかつ、早く情報を頭の中に記録したいのだ。あとで記憶の海から探って再び読む事も出来るので、この場で記憶さえ出来ていればいいのである。


そうやって作業を続けていくと、直ぐに最後の一架になった。どうやらこの図書館の本は厳選されているようで、内容が濃いものや歴史書だけだったので、意外と蔵書数が少なかったのだ。


最後の一架は魔王関連の棚である。多分、ここで私の欲しい情報を得る事が出来ると思う。


私は本を開き、作業を開始した。


ーー結果、あまり有益な情報はなかったけど、人間界でいう魔王が何か分かった。


人間界でいう魔王は、文字通り、魔の王だ。


そもそも魔とは何か、と調べても魔は魔としか書かれていなかった。


魔族が魔なのかは分からないけど、魔の王と魔族の王、または魔界の王ーーつまり私ーーは別物のようだ。


すこし、ホッとした。


だけど、歴史書に描かれている魔の王の姿絵を見てみれば、明らかにその体の特徴が魔族なのだ。

何かしらの関係はあるのかもしれない。


そこまで考えて、私は違和感に気づいた。


あれ?でも……


「へールー君!」


しかし、その先は誰かに声をかけられたことにより、考えることが出来なかった。


振り向くと、勇者パーティーのメンバーである賢者さんがいた。


「こんばんは、えっと……」


挨拶を返そうとしたが、賢者の名前が分からなかった。


「ユネクだよ。」


分かった、ユネクね。


本人が教えてくれたので、その通りに言った。


「ユネクさん。」


「さんはいらないよ〜、パーティーメンバー同士なんだしさ?」


手をひらひらさせながらユネクが言った。


なんだか、胡散臭いんだよね。


「ね……ヘルちゃん?」


ちゃん?さっきは君だったのに?あれ、もしかしなくても女だってことバレてない?


すると、腰に手を伸ばされたので、私はユネクの手首を撚りあげた。


そして、私は、何すんだ、この変態が。という気持ちを込めて、彼を睨んだ。


「いいじゃん。」


よくねえよ。と内心思いつつも返事はしない。その代わり、彼の手首から手を離した。


「いてて……ねえ、ヘルちゃんは何で男のふりしてるの?」


「この世界は、男の方が有利だし、今更言えない。」


とユネクに答えた。うん、実は今更、実は女だよ〜☆、なんて、言えない気がするのだ。気まずくなるというか、ね?


「ふーん。じゃあさ、黙っててあげるからちょっと付き合ってよ?」


この場合の付き合うとは男女の付き合いをさすのか、どこかに一緒に行こうよ、という事なのか。

初対面の女子の腰に手を伸ばしてくるような変態だから、私は前者かとふんでいるが。


「どういう意味で?」


一応聞いておこう。


「もちろん、男女の付き合いに決まってるじゃん。」


そういい、彼は小悪魔のような笑みを浮かべた。小悪魔っていうよりは悪魔よりだけどな。今度は顎を触られ、顎クイ、と俗に言われるものをされた。


すごい。全くといっていいほど心臓の鼓動が早まらない。


というか、この状況って脅されてるだけだよね?顎クイをする意味が分からん。


「へえー、この状況でも動じないんだ。」


ユネクは笑みを深めた。そして、なんと、彼は私に顔を近づけ始めたのだ。


その時私は気づいた。あ、これキスか、と。


ユネクじゃなかったら、私の緊張度はMAXだっただろうが、ユネクだ。だから、それも冗談な気がして、あまり気持ちがよくない。それに、私が特別好意を抱いている相手でもないから嫌だ。


私はキスを迫られている間にその結論に至ったので、遠慮なく闇魔法をぶっ放した。


ユネクの体は吹っ飛んで、壁にのめり込んだ。


勿論、本を巻き込んだりする真似はしないので、被害を受けたのはユネクと壁だけのはずだ。


「……うっ……」


ユネクの声がしたので、生きているようだ。


良かった。中級魔法ぐらいにとどめておこうかと思ったけど、ちょっと気を抜いてしまったので、上級魔法になっているかもしれなくて心配だったのだ。


結局、中級魔法か上級魔法を使ったのか分からなくなってしまったが、生きているのでいいだろう。


生きていれば、全てよし!と言った感じだ。


「ゲホッ、ヘルちゃん、えげつないの使ったね……」


ユネクが口元を手で抑えながら、起き上がった。


血反吐を吐いているのかと思って、光魔法で軽くユネクの体をスキャンしたが、問題ないようだ。


ただ、肝臓の状態が少し悪かったので、こっそり回復させておいた。


ついでに、ヒビ割れた壁も魔法で直しておいた。自分でやっておいて、放置しておくのは良くないからね。


「ん……なんか元気になった気がする。」


ユネクが顔をあげて辺りを見回した。すると、目がちょうど私とあった。


「もしかして、ヘルちゃんが?」


私はそれには答えず、ただ無言でユネクに笑いかける。


「……分かった。強引に迫ったことは謝るし、ヘルちゃんが女であることも黙っておくよ。これでいい?」


ユネクから言質をとったので私は口を開いた。


「はい。ありがとうございます。では。」


私は満遍の笑みで微笑み、図書室から去った。






「……あんな笑み見せられたら、惚れちゃいそうじゃん……」


なので、私は私が去った後の図書室でユネクが呟いたことは知らなかった。





こんなユネクのキャラも好きです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ