7 ついに、勇者パーティーに入ってしまった魔王様
その部屋には2人の男女に偉そうな人とその護衛らしき人がいた。
まず、1人目の男は、女と見まごうような中性的な美貌のエルフだ。エルフだと分かったのは、髪の間からとんがった耳がのぞいているからである。そして、彼はその長い白緑の髪を緑色のリボンで結んでいる。
もう1人の女性は鉄製の鎧を身にまとっていて、赤毛を高い位置で結んでいる。彼女は男性のような凛々しい顔立ちだが、その代わり、豊満な胸が女性らしさをアピールしている。
偉そうな人の頭の上には国王の印である王冠があり、彼が国王であることが分かる。真っ白な髪の毛が彼を老人に見せているが、その顔は年老いた者とは思えないほど若々しい。彼の周りには護衛がおり、常に周囲を警戒していた。
な、なんで国王様がいるんでしょうね?
それがこの部屋に入った時、私が思ったことである。
この様子だと、2人の男女も勇者パーティーのようだ。男は魔法使いで、女は騎士、というところかな?
そんな場所に魔王がいていいだろうか?
いいや、よくない。
私はこのあとどうすべきか考えていた。
出た結論は、凡人だから、といって王城を出て勇者パーティーを見送る。そのあとは人間界巡りをしばらくしてから魔界で勇者パーティーを迎撃しつつ、平和的解決をしよう。
それが1番だ。私が勇者パーティーと一緒に魔王討伐の旅に出るのなんか、もってのほか。さりげなく離脱して勇者パーティーを見送るのがベストだと思う。
計画を頭の中で固めた私は意識を現実に引き戻した。
「『職あり』の者達よ、今日ここに集まってくれたことを感謝する。私はウィリアム・パーチュム。このパーチュム王国の国王である。」
予想通り、この人は国王様だったみたいだ。というか、国王様でもない人が王冠を身につけてたら、不敬罪とか反逆罪になるけどね。
あ、ちなみに私、『職あり』じゃないからさ、早く出たいんだけど。
「聖女、賢者、騎士、勇者と……?」
国王様は次々と職業の名を述べていく。さっきのエルフさんは賢者だったのね。魔法使いじゃなくて。
国王様が?になっている部分は、何を隠そう、この私が原因です。
4人いるとしか聞いてなかったんだろうね。それで想定外の5人目の私のことが分からないと。
私もさっさと退場したいからさ、そこ指摘してくれよ。
国王様が側近らしき人に尋ねているが、側近さんも分からなさそう。
「茶髪の其方はなんの職か?」
国王様が私に直接訊いてきた。
「私は『職あり』じゃなくてですね……」
国王様の前だから『俺』、ではなく、『私』を使った。
私がそう言おうとしたところ、それを遮ったのがノエルである。
「あ、国王様。この子も『職あり』じゃないけど、パーティーに入れてもらえませんか?」
はいいいいい?
私と同じように国王様も、その側近も目が点になっている。
私が国王様の立場だったら、「んなことできっか、このボケがぁ!」とでも言って、意見を一蹴しただろうが、国王様はそんなことをするわけにもいかず、
「何故その子をパーティーに入れたいのか?」
とノエルに理由を訊いた。
「えっとですね、魔王討伐の旅には私達4人だけで出ることになるのは知っての通りですが、問題が一つあります。私達は戦闘面に特化していますが、日常面ではどうか分からないのです。だから、その子は料理とかも軽くできるみたいだし、魔法が使えるようだから足手まといにはならないと思うのです。」
えーっと、要約すると、日常面でのサポートに私が欲しい、と。
「なるほど、勇者様は違うが、聖女様や騎士様は貴族の出であるし、さらに賢者様も特別爵位持ちであるから、日常面が不安であると。」
へえ、ノエルと女騎士さんと賢者さんも貴族なんだ。
って、国王様、納得しちゃ駄目だよ!私が魔王を倒しにいく、ってどんなギャグよ!駄目でしょう!
「では子よ、私の護衛を相手にその力を見せてみろ。」
国王様がそう言うと、彼の護衛のうちの1人が一歩踏み出し、私を見据えた。
まじっすか。
私はいつの間にか横にいた国王様の側近さんに剣を手渡された。
これで、戦え、ということなの?
護衛さんが剣を抜き、私に向かってきた。
もの凄いスピードでやってくるもんだから、私は剣を抜くことができず、鞘のまま攻撃を受け止めた。
すると、鞘にヒビができ、壊れたため、剣は剥きだしになった。
うえっ。鞘が壊れるとかどんだけ力込めたんだよ。
そういえば、こういうのって、本来なら私にも結構な衝撃がくるはずだけど意外と大したことなかったな。だったら、いけそうかな?
私は護衛さんから一旦距離をとり、殺傷力が少ない水系の魔法を使用する事にした。
ここは初級魔法のウォーターボールでも良さそうだから、私はウォーターボールを3発、同時に発動し、護衛さんがそれに気を取られているうちに縮地法で接近し、剣を振り下ろす。
その間に足元が疎かになっているので、彼の重心を崩し、地面に押さえつけて終わり。
「やめ!」
国王様がそう言ったときの体制はというと、護衛さんが地面にうつ伏せになっていて、私が彼の両手を片手で拘束しながら、その上に馬乗りになっている状態。
え?剣は何処かって?拘束していない方の手に持ってます。
やめろ、と言われたので、私は立ち上がり、ついでに護衛さんも立たせてあげました。
「うむ、彼が十分な力を持っているのも分かったので、彼を勇者パーティーに入れることを認めよう。名は?」
み、認められちゃったよ。っておい!私は認められるための手助けをしちゃったじゃないか。……だって、向かって来られたら返り討ちにしたくない?
そんなことはあとで考えるとして、今は国王様の質問に答えるとしよう。
「ヘルという。」
「ほお、ヘルというか。これで、パーティーメンバーも揃ったことなので、激励会でも開こうではないか!」
王様が手を叩くと、私達はメイド達によって、個別の部屋に案内され、格好を整えさせられた。
お風呂にも入らされたのだが、自分でできる、と言い張れば、服を置いておいてくれたので、女だとバレることはなかった。
私は紺色の男物の服を着せられ、テンションが上がったメイド達によって、髪をいじられたりした。
出たくないんだけどなぁ、と思いつつ、背中を押され、舞台の上に磨き上げられたリュー達と共に並ばされた。
目が痛い。
実際に痛いわけではないのだけれど、そのように感じる。何故かというと、私を除く他の4人は基本的に美男美女である。大事なことなので、もう一度言おう、美男美女である。
そのため、磨き上げられ、格好を整えさせられたため、その美しさがより際立ち、そんな4人が並んでいるので目が痛いのである。
1人だけ恥ずかしいよ。
そのあと王様によって紹介され、他の人はビュッフェを食べたり、誘われて、踊ったりしていたが、私はそんな気にもなれないので、少し食事をしてから、こっそり抜け出す事にした。
分かると思いますけど、ヘルも、もちろん美形です。人外系の美形ですね。