4 食事をしにいく魔王様
食テロではないです。
ぐううぅぅぅ〜〜
大きな腹の虫の声が聞こえた。私ではなさそうだから……
勇者の方を見ると、彼は顔を赤くしてお腹に手を当てていた。目が若干、涙目気味に見えるのは気のせいだろうか?
まあ、大の大人が子供(見た目だけ)の前でお腹を鳴らすのは恥ずかしいよね。
「お腹、減ってんの?」
私が勇者に問いかけると、勇者は赤い顔のまま頷いた。
私は顎に手を当てながら考えた。
そうだ、村で食事をしたらどうだろう?こうすれば、大量の魔物肉を消費できるし。
そう、実は魔物肉は食べられるのだ。ピンからキリまで味が違うらしいけど、獣に姿が近いものはそこそこ食べられるらしい。
ずっと異空間の容量を魔物肉に取られるのは嫌だしね。
一応、村の危機は去ったし、意外といい案なのではないか?
「えっと、リュー、村でさっきの魔物肉を提供して、ご飯を食べない?」
私は勇者に言った。
「それはいい案だね!」
勇者は目を輝かせて、私を小脇に抱えた。
えっ、また運ぶ気じゃないよね?
「よし、行くぞ!」
本日3回も勇者に私は運ばれた。
私だって、普通に歩けるし!ああ、勇者の小脇に抱えられた魔王、悲しいな。
私は勇者の猛スピードに酔いそうになりながら村についた。私は吐き気をこらえながら、村の中に入っていった。
あのスピードを一日に3回も経験するのはキツイよ。
「すみません、お肉を提供するので、ご飯を作ってもらえませんか?」
そういう勇者がやってきたのは、村の酒場。
「おう!いいぞ!何の肉だ?」
気のいいおっちゃんが了承してくれた。ありがたい。
勇者は私に視線をよこした。あ、そっか、私が持ってるんだもんね。
私は異空間からお肉を取り出し、おっちゃんに渡す。
「すげーな。収納魔法ってやつか?」
おっちゃんが目を見開き私を見る。
「まあ、そんなところです。」
私は笑って曖昧に返す。異空間のことは隠しておこう。普通の人はそんなん使わないだろうしね。
「ふむふむ、魔物の肉か。でも獣系のようだから、なかなか美味しいもんが出来そうだ。ちなみにどのくらいあるんだ?」
どのくらいあるか、と言われても。
「100匹分ぐらい。」
確か、兎は100匹ぐらいいたはず。
「坊主、本気か!すげえ量だな!」
おっちゃんのその声を聞いた酒場の人達が騒めきだした。勇者も目を見開いている。おい、勇者、自分で倒してたのに数を数えてなかったのかよ。
「とりあえず25匹分渡すので、作ってください。代金は……」
私は25匹分を異空間から出しながら、勇者の方をみる。私は人間界のお金を一切持ってないのだ。
ポジティブになれば、私はこれから沢山のお金を稼ぐことができる。ネガティブに言えば、私は勇者のヒモ!
悲しきかな。
勇者がお金を出そうと、鞄に手をかけるが、おっちゃんは
「いや、金はいらん。肉を提供してもらってるだけで十分だ。」
と言った。かっけえ。漢の中の漢だ。
お言葉に甘えさせていただきます。
2人用のテーブルに勇者と向かい合わせで座りながら、料理を待っていた。
勇者はイケメンだし、強いことも分かったので、何人かの女性達が勇者を囲み、質問攻めにしている。
肉食女子って、怖いね。どうせだし、お酒でも注文しようかな。
私は手を上げ、ウェイトレスを呼ぶ。
「おねーさん、エールください!」
私がそういうと、酒場の人が全員ギョッとする。勇者でさえも驚いている。
「ヘル、君はまだお酒は飲めないよ?」
ああん?
私は溢れる怒気を隠そうとせずに酒場の人にあびせる。
「あのですね、わ……俺は16歳!立派な成人です!」
思わず、私、と言いかけたので俺に直し、そう叫んだ。
すると、酒場がわいた。笑い声が響く。
「え?それ、本当なの?」
勇者が私に確認する。
「それが何か?」
私は勇者を睨みつけながら、言った。この、身長と童顔さえ無ければ!
睨みつける私に勇者が怯んだようで、苦笑いした。
その後、料理が運ばれてきたが、冷たい空気が去ることはなく、私は終始無言で勇者を睨みつけていた。
***
「へ、ヘル!」
食事を終えて、酒場を出る私の腕を勇者が掴んだ。私は彼をいないものとして扱い、無視してずんずん歩いていく。
幸いにも私はチートな魔王なので、勇者を引き摺り回すぐらいはなんてことない。
放置していると、勇者が後ろから私に抱きついた。勇者の方が身長が大きいので、勇者が私の頭の上に自分の頭を乗せた。
「……っ!」
私は動揺して足を止めた。
こいつ、酒のせいで酔ってんのか?あのあと私は不貞腐れて、一滴も飲まなかったが、代わりにこいつは一杯だけ飲んでいた。
「ご、ごめん!」
別に、人に子供に見られていることに腹がたったわけじゃない。そんなのいつものことだ。
ーー私は、彼に対等に見てもらえないのが嫌なのだ。
なんか、ムカつく。私はこの勇者と遜色ない力を持っているはずなのに、自分が子供に見られて、扱われるのが嫌だ。
「別に。許す。」
勇者の方を見ずに正面を向いたまま、私は言った。
けど……
「けど、俺がお前と対等だということは忘れるな。俺は、お前の下じゃない。」
きっと、この世界で君だけが、私と同じ。私達は魔王と勇者という生まれた時からの好敵手なのだから。
「勿論。」
私はそういう勇者の顔を横目でチラリと見た。
リューは、幸せそうに笑っていた。
「……ね、むい。」
そのすぐあと、リューは絞り出すようにいうと、私にのしかかった。
寝やがった!さっき日が暮れたばかりだぞ!暗くなったら寝る、って、こいつは原始人か何かか!
けど、このまま背中にのしかかった勇者を放置しておくわけにはいかない。
「しゃーない。宿にでも泊まらせてもらうか。」
私は呟いたあと、宿屋がありそうなところに向かった。リューは私にのしかかったままである。
「すいませーん。」
私は『宿屋 モリー』という看板が掲げられている建物に入った。
カウンターには1人の若い女の子がいて、こちらを見ると、軽くを頰を赤く染めた。
まあ、リューはイケメンだもんな。
「ツインの部屋、一つ空いてませんか?」
シングルベットは流石にどうかと思うので、ツインの部屋でいい。
別の部屋にしないのは、放置しておいたら、リューはベットから転がり落ちそうだし、リューのお金で私用のもう一部屋を借りるのもどうかと思ったからだ。
「あ、はい。お値段はお一人様銀貨1枚なので、銀貨2枚です。」
その娘が言ったので、私はリューの鞄に手を伸ばし、中から銀貨2枚をカウンターに置く。それと引き換えに、部屋の鍵をもらった。201と書いてあるので2階の部屋だろう。
私はリューを引きずりながら、2階に登り、鍵を使って部屋の中に入った。
入って、すぐに2つのベットを見つけたので、そのうちの1つにリューを投げて寝かせた。
ふー、ようやく肩の荷が降りた。精神的な意味じゃないからね。だってリューのやつ、重いんだもん。
同じ部屋です。本人は特に気にしてませんが。