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2 勇者に捕まった魔王

光が弱まったのを感じた私はゆっくり目を開けた。


上には16年ぶりの青い空に暖かい日の光。


ああ、私は本当に人間界に来れたんだ。


そう考えると涙が溢れて止まらない。嬉しさを噛み締めていたら、下から声が聞こえた。


「おーい、君、大丈夫か!」


大丈夫って……


そう思い私は下を見ると、自分が木の上にいることに気が付いた。


なんで?


驚いていると、体がぐらりと揺れ、私は真っ逆さまに地面に落下していく……はずだった。


地面の感触の代わりに人の暖かい体温を感じた。


「良かった。」


そう言いながら、ニッコリと笑ったのは王子様なイケメンだった。


金髪青目という私の中で考える定番の王子様の色彩に清潔感のある爽やかで整った美貌。


私はその人に助けられて、胸がキュンとして恋に落ちて……いない。


外面がいい男なら身の回りにいる。


ゼクスは性格が面倒くさいけど、顔は整っているといえば整っているし、それならば、キーランもイケメンの部類に入るだろうし。


助けられたのはありがたいけど、別に助けられなくても、史上最強の魔王と呼ばれる私が簡単に死んだりしない。


というか、そんなんで死んだら、(魔王)を倒そうと頑張っている勇者が不憫だわ。


恋に落ちてはいないけど、一応助けてもらったので、お礼をいう。


「あ、ありがとうございます。」


魔界では使うことのない人語を使っていった。


ふっ、必死に習った甲斐があったというものだ。


「ううん、君が助かって良かったよ。」


と天使のような笑みで青年がいった。


なんだ、笑顔が眩しい。灰になる!こいつ、聖人君子か何かか!


「僕の名前はアンドリュー。魔王を倒す旅に出ている勇者なんだ。」


すると、衝撃の一言が飛び出した。


おまっ……勇者なんかい!魔王を倒す旅って、あんたの腕の中に魔王がいるんですけど!?


それに、そんなに簡単に正体明かすなよ。せめて、冒険者とでもいっておけよ。


ていうか、『門』!なんで、魔王を勇者のところに転移させる?対面したら平和、なんてものは消し飛ぶわ!


私が門に対して心の中で叱咤していると、勇者が口を開いた。


「ねえ、君はなんて名前なの?ご両親は?」


そこを追求するか。


「名前はヘルレ……ヘル。」


ふう、危うく本名をいうところだった。ヘルでいいだろう。


「いい名前だね。」


また聖人君子な笑顔で勇者がいった。


「両親は、(異世界旅行に出かけてるから)いない。」


異世界旅行、というワードは口にすべきじゃないと思ったので、重要なところは全て括弧(かっこ)内に入れた。


「そうか、辛いことを聞いてしまって悪かったね……」


途端に勇者が暗い表情になった。いや、生きてるからね?私が重要な部分を言わなかっただけで。


「もし、よければ顔を見せてくれるかい?」


え、嫌。


私は反射的に首を振った。


私がなんのためにマント着てると思ってんの?顔を隠すためでもあるんだよ?それに勇者に顔を覚えられたら私、どうなると思ってんの。


私が拒否すると勇者は捨てられた子犬のような悲しい目をした。


「自己紹介をしたから、仲良くなれたと思ったんだけどな………」


自己紹介でそんな簡単に仲良くなれるか!こいつ、放っておいたら騙されそうだ。


けれど、そんな悲しい目をされるのも辛い。


「げ、元気出して……」


えっと、勇者の名前なんだっけな?最初の方は覚えてないけど、最後は確かリューだったと思う。


「リ、リュー兄ちゃん!」


必殺!お兄ちゃん呼び!


機嫌をそこねたゼクスにはよく効く技である。けど、そのあと挙動不審になる副作用があるけどね。なんなんだろ?


「リューお兄ちゃんか。悪くないな。」


おっ、効いたみたいだ。


「そうだ、ヘル君、両親がいないのなら、僕が保護者になるよ!」


は、はひ?


勇者が魔王の保護者って?何処のギャグ漫画か!


それに、私はこの世界でいえば16歳だから、十分な大人なんだけど!


「そうと、決まれば服を買いに行こう!」


そうと決まれば、って、決まってねえよ!了承してないし!


そして、私はなにやらスイッチが入った勇者に抱っこされたまま、高速で運ばれた。

さすが、勇者。身体能力も半端ねえ。


……つーか、これ時速何キロだ?めちゃくちゃ早いと思うんだけど。私だったら耐えられるものの他の人だったら即死だぞ?


「よっ、と。」


私は勇者のその声で目的地についたことに気がついた。


見ると、穏やかな村があった。動物も人も皆んなのんびりしていて、穏やかに暮らしている。


また、涙が溢れそうになったけど、唇を噛んで、どうにか堪えた。魔王が勇者の前で泣いちゃいけないからね。


カララララン


ドアベルの音が木造のお店の中に響いた。


どうやら、お店の中に入ったみたいだ。なんのお店だろう。


「おー、勇者坊やじゃねえか。」


ドワーフっぽい感じのお爺さんが勇者を見ながらいった。


あれ?このお爺さん、人間ですよね。ドワーフの特徴である尖った耳もないし。

けど、めちゃくちゃドワーフっぽい。


そういう人も時にはいるか。


「あれ?僕ここに来たの、初めてのはずですけど。」


勇者が不思議そうにしていると、お爺さんが答えた。


「いや、近隣の村に勇者がいる、って情報が出回ってるんだよ。」


なるほどね。


そりゃあ、出回るだろうよ。そんな情報は。


「そうなんですね!じゃあ、この子の服を見繕ってもらえますか?」


そういって勇者は私を差し出した。


「ふーむ、この子だと……」


そう言いながら、お爺さんは次々と色々な服を出して山になった。


服の山の1番上にあった服を勇者が取って、私に渡した。


「これ、ちょっと着てみてくれない?」


勇者から解放されると思ったので、私は頷いた。すると、勇者はゆっくり私を下ろした。


私は急いで更衣室的なところに入って着替えるた。前に着ていた服は異空間に入れて置いたので、見られることはないだろう。


高級じゃないから、少しゴワゴワするけど、許容範囲なのでOKだ。


着替え終わったので、私は勢いよくカーテンをひいた。


「綺麗だね。」


聖人君子な笑顔で勇者がいう。


おい、その笑顔をやめてくれよ。そんなのいちいち見てたら、眩しすぎて、私が灰になるわ。


はっ、そういえば、私は顔を公開してしまったのか。勇者の罠に嵌められるとは、不覚だ。


そして、私は気づいてしまった。


この服、男物じゃねーか!そこに積んである他のやつも!


私は男じゃねー!歴とした乙女だぞ!


そう心の中で叫びながら、自分の格好を見直した。


この異世界は中世的な世界観だ。この世界では『髪は女の命!』という概念のため、短い髪の女は殆ど居らず、短かったら、男と思われる。


そしてだな、私はだな、髪を伸ばすのが面倒で、耳元あたりでバッサリと切っているのだ。


マジか。私、勇者に子供、って思われている上に男と思われてるのかよ。


「はぁ……」


溜息しか出ない。


「ど、どうしたの?気に入らなかった?」


勇者が溜息をついた私を見て、慌てる。


「そうじゃないよ。少し疲れてるだけ。」


精神がね!


けど、男と思われたままでいいかも。女だと思われると、なめられたりしそうだ。


男尊女卑の世界だし。


連続更新頑張ります。

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