1 魔界から逃亡した魔王様
不定期更新ですが、お付き合い頂ければ嬉しいです。
ーー私の名前は、ヘルレーナ・ディ・ボロアス。
剣と魔法の世界の住人で、前世の記憶持ちの異世界転生者だよ☆
あっ、ちょっ、ちょっと待って!立ち去ろうとしないで!私、イタイ子じゃないし、厨二病でもないから!
ま、信じてもらえないのもしょうがないかもしれない。けど、事実だからね。
えーと、前世は女子大学生であの有名大に通ってたよ!
名前は伊藤渚、大学帰りに酔っぱらってホームをフラフラしてたら、なんか背中に衝撃を感じて、線路に落下。そのまま、電車に轢かれてご臨終〜
我ながら呆気ない最期だったなと思う。
そして、なんと、剣と魔法の異世界に転生したのだ!
生まれた時から意識はあったもんで、電車が見えて、意識が薄れたと思ったら見知らぬ天井を見上げてた、的な?感じになった。
渚ちゃん、いや、今世はヘルレーナちゃんか……ともかく、ヘルレーナちゃんは気づいてしまったのです。
自分が、ヒロイン、いいえ、悪役令嬢……でもなく、男でTS転生、じゃなくて……
自分が魔王だということを!
……そこの君、また立ち去ろうとしないでよ!これも事実なんだってば!
分かった、ちょっと端折りすぎたかもしれないね。
まず、誕生した私は天才児として魔界中で有名になりました。
だって、赤ん坊の成長過程をすっとばしてきましたからね。
一日目に直立して、次の日には言葉を喋り、魔王城を歩き回るように。
今思えば、バケモンか!って感じがする。生後二日目で「おはようございます。」「お仕事、お疲れ様ですね。」とか赤ん坊が声をかけてくるんだよ?
バケモン以外のなんでもないけど、魔族の皆さんは私が生まれる前に史上最強の魔王になるであろう、ってことを知っていたらしく、案外、私は受け入れられた。
で、私の精神に合わせて体も成長し始めて、一ヶ月後には14歳ぐらいの見た目になった。そこから月日が経つも、見た目は欠けらも変わらず。
魔王城の図書館にある蔵書によると、魔族の見た目は成長していくにつれて変わり、最終的にはその者のおおよその精神年齢で決まり、大体固定だとか。
はい、ここで悲しい事実が判明しましたね。
私の精神年齢は14歳!だいたい中学2年生!
このことを知った時にはテンションだだ下がりで、一日、自分の部屋の隅で毛布に包まってましたよ。
早く成長するのはいいんだけどね。前世では成人してたのにね……
あと、悲しい事実その2。ええ、まだあるんです。
私の身長がものすごーく小さいんですよ。155cmぐらい。
たとえ、童顔でもタッパがあれば、まだいいかなって思ったけど、全然、そんなことはありませんでした。
前世の成人女性の平均身長でも159.5cm!14歳でも156.8cm!全く及びません。
ええ、さらに、さらにね!この世界の人の身長が基本的に高いんですよ!
だから、この身長でもせいぜい小学六年生ぐらいにしか見えないんですと!そこにこの童顔が合わさるとそこらへんの年代にしか思えないそうで。
この事実を知った時にも部屋の隅っこで毛布に包まっていましたよ。
しかし、ある時解決策を思いついたのです。魔法でどうにかできんじゃね?と。ここは剣と魔法の世界、ファンタジーだからそれぐらいはできるだろう、と。
その結果、惨敗。
訓練したんですけど、髪の色や瞳の色は変えられるようになったものの、身長や顔は何にも手を加えられませんでした。
なんだよ、それ以外は私、チート性能でさ、もしステータスとか見えたら、全項目カンストしてるだろ、ってレベルなのになんで肝心なところはできないの!
ん?胸はどうかって?
んなもん、母ちゃん(超絶美人、巨乳で子供を産んだとは思えないほど。)に比べたら、絶壁だよ!
たとえばお母さんをエベレスト山脈(標高8848m)としましょう、私は平野だ!よくて、日和山(標高3m、世界で1番低い山)だよ!
母ちゃん、顔はそれなりの美人に産んでくれて感謝してるけどさ、そのスタイルをほんの少しでもいいから分けてくれよ!
はぁ、はぁ……
とりあえず、今までの容姿についての不満をぶちまけました。
さてと、一回落ち着きましょうか。
生まれてから16年経ちました。色々なことがありましたよ。
お父さん(先代魔王)とお母ちゃんがお空の星に……じゃなくて、異世界旅行を始めて私に王位を譲ったりとか、儂の方が魔王にふさわしい、と言ってくる爺さんがいたので、ちょっとお空の星にしたり、執事さんが異世界旅行についていってしまったので、その息子である「キーラン」が私の元についたりとかさ。
はい、そして、その16年で思ったこと。
魔界出てぇ〜〜〜!
一段落ついたところで、ものすごーく暇なことに気づいたんだ。
私は世界征服をする野望もないし、何かしたいことも特別ない。
けどね、魔界にいるのはもう疲れたんですよ。来る日も来る日も見るのは暗い色の空、月はあるけど太陽はないし、魔王城の中も紫とか紺とか暗い色で埋め尽くされているし。
やることがないから、国民の不満を聞いて、解消していく日々。
そんな日々の中、私の思いは膨らんでいった。
魔族じゃなくて、人間見てぇ〜〜、人間の食べ物、食べてぇ〜〜
せっかく異世界転生したんだし、冒険してぇ〜〜、と。
今はゼクスーー同じ年に生まれた幼馴染的な存在ーーの話を聞いている中にもその気持ちは膨らんでいき、もう耐えきれなくなった。
「……だからだな、お前ももう少し飾り気をだな、そ、素材はいいんだし……って、え?」
私は立ち上がって、執務室の窓を蹴ってぶっ壊した。
そして、窓枠に乗って、ゼクスの方をみた。
「ゼクス、もう疲れたから人間界に行ってくる。代理はヴァージルでも立てておいて!」
そういって、飛び降りた。
ちなみにヴァージルとは私の補佐をしてくれている青年の名前である。あの鬼畜眼鏡ならいい魔王代理になるに違いない。
というか、その座を明け渡してもいいんだけどね。けど一応父ちゃんに託されたしね。
私は飛び降りたあと、背中の羽を広げて、私の姿が視認できない超高速で飛んでいく。
『門』が見えたので、スピードを緩め、着陸して羽を閉じる。
門というのは、魔界の端にある扉のことである。
この扉はいかにも魔界、という感じのゴテゴテしい装飾がされていて、巨大だ。その扉をくぐれば、人間界の行きたい場所に転移できるのだという。
凄い発明なんだけどさ、もっと携帯できるような奴が欲しいんだよね。
私は扉に手をあて、じっくりと門を解析していった。意外と単純な構造みたいだ。再現しようと思えばできると思う。
今はそれより、魔界を出たい。
私は変身魔法を自分にかけて、いかにも魔王な黒髪、赤目というのを変えよう。
うーん、本には茶髪が多いと書いてあったから、茶髪に青目あたりが妥当?
そう考えながら、容姿を変えた。
ああ、角と羽も隠しておかないと。人間にはないものだし。
あとは、服装ね。適当に麻のマントを生成して服を隠しておいて、あとで平民の服を購入しよう。
完璧な準備ができた私は門をくぐった。眩い光が放たれ、私は目を覆った。
ーー人間界で1番平和なところに行きたい!
と願いながら。
明日も更新予定です。よろしくお願いします。
気に入ったら、ブクマなどお願いします。作者のエネルギーとなるので。