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3-3、アンマッチな二人/言いたい想いは口に出ない

3話は今回で完結です

 フードコートを出てからも、私たちは暫くショッピングモールの中であちこち行ったり来たりしていた。

 鴻さんは家電量販店の中に入って行ったかと思うと、一目散におもちゃコーナーに行って、30分くらい、主に特撮のベルトとか武器(?)とかを眺めていたり。

 私が楽器屋を見たいと言ったら、それにもつきあってくれたわ。鴻さんは私が楽譜を色々と見ている間、ギターやドラムのコーナーにいたみたいだけれど、ああいった楽器に興味があるのかしら?

 そして今は、


「……鴻さん、ストップ!!」


 ゲームセンターで、二人してユーフォーキャッチャーの前で真剣に、たぶん特撮ヒーローのぬいぐるみを取るべく格闘していた。

 鴻さんの、曰く「今月の小遣い最後の500円」での挑戦らしいわ。私が横からアームの位置と、ぬいぐるみを一番掴めそうな場所の位置を確認しながら、鴻さんに合図をおくる。

 ヒュイイン、とアームがぬいぐるみ向かって下がっていく。


「お願いします、神様仏様……」


 1回100円のゲームで、これが5回目。ラストトライだった。アームはゆっくりと下がって、そして再び上昇を始め……アームはがっちりとぬいぐるみを掴んでいた。


「いやったー!!」

「やったわね、鴻さん」


 鴻さんは満面の笑みを浮かべながらガッツポーズをする。つられて、私もガッツポーズをしてしまった。

 ぼとん、と取り出し口に落ちてきたぬいぐるみを抱えて嬉しそうにしている鴻さんを見ていると、それだけで私まで幸せな気分になった。

 だけど、私と目が合うと、鴻さんはさっきまでの笑顔が嘘みたいに消えてしまった。


「ありがとう、龍波さん」

「ええ、どういたしまして」


 そんなやりとりはしたけれど、たぶん私は、鴻さんにはあまり好かれていないのだと思う。

 時計を見ると、もう17時前だった。まだ外は明るかったけれど、あまりゆっくりもしていられないということで、今日はここで終わり、ということにした。

 帰る途中、近道をかねて公園の歩道を通ったとき、鴻さんが私に、こんなことを訊いてきた。


「今日はさ、なんで私を誘ったの?」

「それは……えっと、理由がなくちゃ、ダメかしら?」


 改めて訊かれて、私にはそう答えるしかなかった。


「もしかして、鴻さん。私と遊ぶのは、楽しくなかった?」


 恐る恐る、訊き返す。

 退屈だったとか、つまらなかったとか、そんな言葉が返ってきたらどうしよう。そんな不安が私の中に渦巻いていた。私は今日一日、とても楽しかったけれど、それが私だけのものだったら?

 鴻さんは、今日をどんな風に感じていたのかしら? それを訊くのは怖かった。だけど、訊かずにはいられなかった。


「つまらなかったなら、ハッキリとそう言ってあげたほうがいいんじゃなーいっかな~?」


 肌寒い風が、私たちの間に吹いた。

 気が付くと、私たちの前には……前にアルタイスたちを攻撃していた女の子、テリオンが立っていた。

 仮面越しにでも笑っていることがわかるような声だった。それも、私たちを、いや、私を嘲笑っているんだということは、表情を見なくても伝わって来た。


「アンタ、いったい何のつもりよ?」


 鴻さんの顔がこわばる。ぬいぐるみを抱えたまま、しかし強いまなざしでテリオンを睨みつけていた。


「別に? 私はただ、あなたの心の声を代弁してあげただけよ? だって今のあなた、すごく嫌そうな顔をしてたもの」

「別にそうだとしても、あんたには関係ないことでしょ?」


 語気が強い。鴻さんが怒っていることは一目瞭然だった。

 だけど、何に怒っているのかがわからなかった。そして――、嫌そうな顔をしていた、というテリオンの言葉自体を否定はしなかった。

 鴻さんが怒っているのは、私といて嫌だったっていう鴻さんの心の中を、テリオンに見透かされたから?


「変身するわよ、龍波さん。奈落の使徒にコロナ・ジュエルを渡すわけにはいかないからね」

「え、ええ……」


 鴻さんの言っていることは間違っていない。

 テリオンは、怪物を呼び出す力を持っているみたいだけど、単体での戦闘能力も高いから、私たちがいつまでも生身でいるのは危険だ。

 だけど今、鴻さんが変身を急かしているのは、今の質問を誤魔化しかったからなんじゃないかと、ふと私は思ってしまった。


 ■■


 二人が右手を高く掲げる。

 ちなみに、頼火が先ほどゲットしたぬいぐるみは、アンカーがそっと、近くの木陰に置いて来ていた。


「「我が身に宿れ、原初の世界の星辰よ」」


  ステラ・リングを召喚して、高く掲げる。二人の司る星座とともに、赤と青の光が二人の体を包む。


「空に輝け勇気の火よ」

「大地を満たせ慈愛の水よ」


 叫びながら、二人の姿は戦うためのそれへと変わっていく。

 赤い髪、赤い衣装に、フェニックスの紋様が顔に浮かんでいる頼火。

 青い髪、青い衣装に、ドラゴンの紋様を顔に浮かべた射水。


「邪悪を払う情熱の翼!! フェニックス・ブレイズ」

「命を守る悠久の大河!! ドラゴン・ストリーム」


 二人が勢いよく名乗りを上げ、テリオンに対してファイティングポーズをとる。

 それに応えるようにテリオンも、右手を高く掲げる。


「奈落に呑まれし星屑よ。黒き光にて蘇れ!!」


 上空に巨大な黒い穴が現れ、その中から怪物が召喚される。

 それは、全長5mはあるかとう、巨大な真っ黒い虎だった。ただし、その背中には木組みのワクのようなものが取り付けられていた。

 その木枠の形状に、射水は見覚えがあった。


「あ、あれってもしかして……バッティングセンターの機械?」

「っていうか、カタパルト?」


 二人が、前回現れたヒューポースとの落差に肩透かしを食らっていると、不意にギシッという音を立てて、虎の背中の木枠のうち、棒の1本が縦回転を始めた。そして、二人に向かって、直径2mはあろうかという巨大な岩が飛んできた。


「さぁ、行きなさいカタパルトラッ!! あの二人を潰してやりなさい!!」


 テリオンの号令とともにペースが加速し、何十球という岩石の球が次々と二人を襲う。


「ってちょっと待てッ!! あんたふざけてんのッ? 何よそのアホみたいな名前はーッ!!!!」

「お、鴻さん。カタパルトって何?」

「投石器よ。石を凄い速さで飛ばしてお城の壁とかを壊すための、昔の武器よ」

「えっと……つまり、古代版のバッティングセンターの――ピッチングマシン、みたいなもの?」

「まぁそんなとこよ」


 次々に飛んでくるそれを、あるいは受け止め、あるいは躱し、それでも処理しきれないものは射水のバリアで防ぎながら、二人は叫ぶ。


「ピッチングマシンで人を狙うなんて危険でしょ!!」

「そんなこと言ってる場合かッ!!」

「残念だけどこれは野球の試合じゃないの。だからビーンボールも問題ないわ」


 射水の見当違いな説教に頼火が突っ込む。しかしそれに対するテリオンの言葉は、間違ってはいないのだが、


「あんた、なんでビーンボールなんて知ってるのよっ!?」


 頼火は、むしろそちらに対して疑問に思った。

 ちなみにビーンボールとは、野球の試合で投手が故意に打者を狙う危険行為のことである。


「よ、よくわからないけど、そんなことより……どうするの、鴻さん? これじゃ、カタパルトラに近づけないわ」

「そ、そうね……」


 射水が当たり前のように「カタパルトラ」という名称を使っていることに少し困惑しながらも、射水の指摘は確かだった。今は二人とも、射水が張ったバリアの中にはいって岩石を防いでいるが、このままだと近づけないのが現状だった。

 射水のバリアは一度展開した場所から動かすことができない。そのため、バリアを盾のように使って少しずつ距離を詰めるということができないのである。

 二人がこれからどうするか考えあぐねていたところ、不意に岩石の雨が止んだ。

 そしてテリオンが二人に話しかけてきた。


「ねえ、さっきの話なんだけどさ、フェニックス・ブレイズ」

「……何よ?」


 何かの罠かもしれないと警戒しながらも、頼火は答える。


「あなた、顔に出やすいんだからさ、思ってることもハッキリ言ってあげなよ。ドラゴン・ストリームちゃんってそのあたりの勘が鈍いみたいなんだし?」

「どういう意味よ?」

「あなたたち二人は、私たちと一緒に戦うためだけの関係なんでしょう? なのに、学校が休みの日にまで、戦いと関係ないことにつき合わされて嫌だった~って、素直に言ってあげたら、って話」


 わかったような口ぶりで思いのままに話すテリオンだが、頼火はその言葉を即座に否定することができなかった。

 射水の表情が曇る。射水は頼火とテリオンのやりとりを、ただ立ちすくんで、黙って聞いていた。


「あなたたちが一緒に遊んだりしたところで、私たちとの戦いには何の役にも立たないの。無意味なのよ。フェニックス・ブレイズ。あなたは見たところ、戦いたくて戦ってるんでしょう? そっちのストリームちゃんみたいに、偶然アストラルのやつらと知り合ったから、そのまま流されてここにいるような子とは違ってね」

「無意味なんかじゃないわ!!」


 頼火が声を張り上げた。

 その一言で、射水はハッとした表情で頼火を見つめた。


「いきなり誘われて戸惑ったり、何話していいか悩んだりはしたわよ。だけど、龍波さんが私のことを誘ってくれたのは、コイツなりに私のことを知ろうとしてくれてたんだ、ってことくらいは私にもわかるわよ!! それで、今日一日、私がコイツと一緒にいたのは私が自分で決めたことなの。アンタに、意味とか役に立つとか、そんなことをとやかく言われるなんて、余計なお世話もいいとこよ「!!」


 叫び終えると頼火は、隣に立っていた射水を見つめた。


「やっぱ私って、細かいことを考えるのは性に合わないみたい。とりあえず突っ込むから、さっきみたいに指示くれないかしら?」

「……うん、わかったわ!!」


 短いやりとりだが、それだけで射水には頼火の意図が伝わった。

 バリアが消えた。二人はカタパルトラに向かって走り出していく。再びカタパルトラの背中の棒が動き始め、岩石が二人めがけて飛んでくる。


「鴻さん、ストップ!!」


 頼火が足を止める。岩石が頼火に命中しようとした、その直前。頼火の前に庇うように立った射水が、水色のバリアを展開して岩石を防いだ。頼火を庇う射水めがけて集中砲火が飛ぶ。バリアに、わずかにヒビが入った。


「思いっきり跳んで!!」


 射水の叫びに合わせて頼火が地面を蹴る。高く高く、10mは跳びあがったが、そこで限界が来た。

 この高さはまだ、カタパルトラの射程圏内である。あとは落下に身を任せるしかないという頼火を、無数の岩石が狙う。


「もう一回、蹴って!!」


 しかし、突如として頼火とカタパルトラの間に、水色の四角い足場が生まれた。射水のバリアである。頼火はそれを思い切り蹴りつけ、再び跳躍した。さらに高く飛びあがった頼火をカタパルトラが背中の投石器で狙おうとするが――。


「スターフォース・ドラゴン!!」


 地上に立つ射水の体が青く光る。

 青い光の龍が現れた。


「させるかッ!!」


 カタパルトラを守るようにテリオンが割り込んできて、自信の体の周囲に8つの紫の光弾を生み出す。

 テリオンが光弾を射水めがけて飛ばしたタイミングを狙って、射水は両手を前に差し出し、テリオンの体の前に巨大な青いバリアを張った。

 光弾はバリアに防がれ、うち何発かは跳弾となってテリオンやカタパルトラへと飛んでいく。

 カタパルトラが、射水がはじいた光弾に苦しんでいるところへ――。


「うらァァァァァァァァッッッッ!!!!」


 20m以上の高さから、落下しながら、頼火が右こぶしを勢いよく振り下ろした。

 ただでさえ強烈な頼火のパンチに落下の際の加速力が乗り、カタパルトラの体が派手に地面に沈み込んだ。地震と錯覚しそうになるほどの振動が周囲一帯を包みこむ。

 叩きつけられた際の、ただのパンチ一発で、カタパルトラは黒い粒子となって闇に返った。


「二度ならず、三度までも……。ビギナーズラック、ってわけじゃなさそうね」


 カタパルトラが倒されたのを見ると、テリオンは前のように、黒い穴を作って撤退していった。


 ■■


「ねぇ、鴻さん」

「何よ?」


 変身を解除した状態で、改めて二人は向き合う。頼火の顔はどことなく気まずそうで、それをごまかすためか、視線を射水の肩あたりへとやっていた。


「今日は、その……」


 射水が少し口ごもりながら、続く言葉を言おうとする。頼火はそれが、先ほどうやむやにした質問を問い直されるのだと思った。


「一日、付き合ってくれてありがとう。私、鴻さんと遊べてとても楽しかったわ」

「へ……?」


 頼火は思わず、すっとんきょうな声を出した。射水はそれだけ言うと、にっこりと笑った。


「さぁ、早く帰りましょう。一日遊んで、奈落の使徒と戦ったから、もうお腹ぺこぺこだわ」

「そ、そうね……」

「晩ごっはん~、晩ごっはん~、今日のごはんはなんだろう~?」


 まるで先ほどまでのことがすべてなかったかのように、陽気に歌いながら、スキップしそうな勢いで歩き出した。いや、もしかしたら、射水もなかったことにしたいのかもしれない。

 二人の帰路が別れるまでの間に、射水がさっきの質問をすることはなかった。


「それじゃあ鴻さん。また明日、学校でね」

「……そうね」


 そう言って射水と別れたあと、頼火は暫くその場に立ちすくんでいたが、やがて舌打ちをした。


「最低だな、私。すごくカッコ悪い……」

『そう思うなら、もう少し射水に対して素直になったらどうだ?』


 アンカーの言葉に、頼火は答えはしなかった。

 射水の背中が見えなくなるまで頼火は、悔しそうな、そして歯がゆそうな顔でその方向を見つめていた。

感想などなんでもいいので、何かあればよろしくお願いします!!

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