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3-2、アンマッチな二人/プリミティブとアストラル

今回はちょっと短めですね

「もう2時半か。あっという間だったわね」

「そりゃ、カラオケで3時間も歌ってりゃそうなるでしょ」


 今、私は龍波と、カラオケから少し歩いたところにあるショッピングモールのフードコートで遅めの昼食をとっていた。昼食といっても、ハンバーガーとポテト、それにジュースが1本という軽めのものだ。

 アルタイスは元の姿に戻って龍波の横の席でとぐろを巻きながら、ハンバーガーやらポテトやらを食べている。昼の一番混む時間帯は過ぎているとはいえ、傍から見たら……ぎりぎり、精巧な人形に見えなくもないかも、ぐらいのすれすれだった。


『うん、おいしい。プリミティブの食べ物ってサイコーね』

「そう? それはよかったわ。じゃあ、もう一つハンバーガーあげるわ」

『イズミ、大好きー!!』


 一応、私たちの座っているテーブルはフードコートの端の方だし、アルタイスはとぐろを巻いているから、見つかりにくいとは思う。しかし、それにしても、


「あ、じゃあ私、追加でもう一つハンバーガー買ってくるわね」

『あ、それじゃあさっきのとは違う味でお願い!!』

「ええ、わかったわ」


 確かにアルタイスの食べっぷりは、見ていて気持ちのいいくらいだし、すごくおいしそうに食べるから、龍波が色々と食べさせてあげたい気持ちはわからなくはないけど、これだとアイツがアルタイスを餌付けしてるみたいね。

 ふと、私は手元のブレスレッドに視線を落とす。


「ねぇアンカー。ハンバーガー、いる?」

『別にいいさ。お前の金で買ったもんだろ? 全部お前が食えばいいさ。というか、俺はまだ腹はそんなに減ってないし大丈夫だよ』

「ん、それじゃ遠慮なく」


 こいつ、案外小食なのかしら? スターダストってのがどんなものなのかはわからないけど、腹持ちはいいのかもしれない。それか、アルタイスが大食いなだけか。


「おまたせ、アルタイス。追加のハンバーガーとシェイクよ」

『わーい』


 なんか、ただアルタイスが大食いなだけな気がしてきた。

 アルタイスの目の前にハンバーガーとシェイクが置かれて、待つこと3分。龍波の持ってきたトレイの上は綺麗に片付いていた。

 うん。たぶん、アルタイスが大食いなだけだと思う。


「あ、そうだ。アンカー、アルタイス」

『どうした、射水?』

「そういえば私たち、まだコロナ・ジュエルや奈落の使徒について、詳しいことって聞いてなかったな、って思って」

「あぁ、そういやそうね」


 この二週間くらい、一応アンカーとは大体のときは一緒にいたけれど、私は改めて聞こうという気にならなかった。1回目、2回目の時は色々とばたばたしていたし、それから暫く奈落の使徒が来なかったから肩透かしをくらったような気になって忘れていたんだと思う。


『ああ、そうだな。お前たちには話しておかないとな。――とは言っても、俺たちも分かっていることのほうが少ないんだがな』

「それでかまわないわ。お願い、アンカー」


 龍波が話を促すと、アンカーはコホン、と少しだけ咳ばらいをしてから話し始めた。


『コロナ・ジュエルっての俺たちの世界にある宝石の名前だ。本来は10個あるとされてるが、今は6つしかない。それでコロナ・ジュエルは、そうだな……プリミティブで言うところの季節を、アストラルにもたらす役割をもっている』

「季節をもたらす? 宝石が?」


 龍波が首をかしげる。意味が分からないのは私も同じだった。


『ああ。アストラルの神殿に、コロナ・ジュエルを嵌める台座がある。そこにコロナ・ジュエルを1つ嵌める。そうすると30日の間、アストラルは温暖な気候が保たれるんだ。そして、30日経ったらコロナ・ジュエルは力をなくす。そして、次の30日間、また別のコロナ・ジュエルが暖気をもたらす。こうやってローテーションしながら、役目を終えたコロナ・ジュエルは1年間力を蓄えて、また次の年に30日間、アストラルに暖気をもたらす』

「アストラルの1年って何日なの?」


 龍波が訊く。そういえば最近、当たり前のように受け入れ始めていたけれど、こいつらは言葉は通じても住んでる世界が違うんだから、1年は365日とは限らないわね。


『300日だな。とはいえ、プリミティブとはたぶん1年の区切りが違うぞ。アストラルの1年、つまり300日ってのは、コロナ・ジュエルが暖気を与えられる30日に、力を使い果たしたコロナ・ジュエルが復活するまでの日数、270日を足した日数だからな』

「なるほど。でも、アストラルにはコロナ・ジュエルが6つしかないんでしょ? なら、あとの120日ってどうなるのよ?」

「あ、私わかったかも」


 私が疑問を口にすると、龍波が何かを思いついたように手を打った。


「コロナ・ジュエルがアストラルを暖かくしてる期間が私たちの世界にとっての春から夏で、それがない期間が冬なんじゃないかしら?」

『察しがいいな、射水。その理解で大体合ってる』


 ああ、なるほどね。だからアンカーは、「コロナ・ジュエルは全部で10個あるとされる」なんて曖昧な言い方をしたわけだ。1年が300日だから、コロナ・ジュエルも10個あるはずだ、っていう理屈なわけね。


『コロナ・ジュエルが大地を暖めている間に作物を育てて蓄えて、残りの90日をその蓄えで過ごす。それが、アストラルの営みだった』

「ん、90日? 120日じゃないの?」


 思わず訊き返した。アンカーの言うコロナ・ジュエルの数が正しいとすると、計算が合わない。

 アンカーは暫く黙り込んでいた。アルタイスのほうを見ると、アルタイスもどこか悲しそうな顔をして口をつぐんでいた。

 やがてアンカーは、重い口を開いた。


『俺たちが生まれたころは、アストラルのコロナ・ジュエルは7つだった。だが数年前、奈落の使徒が襲ってきて――コロナ・ジュエルを1つ奪っていったんだ』

「それって、かなりまずいんじゃないの?」

「私たちの世界で言えば……冬が始まるのが一か月早まるってことだから、大問題じゃない!!」


 龍波の言う通り、大問題だと思う。私はあまり農業の事とかは詳しくないけれど、四季のバランスが崩れて、農業ができない期間が増えるわけだから、宝石を1個奪われた、の一言じゃ済まされないことはさすがにわかる。


『一応、今は蓄えてある非常用の食料とかを女王様が配ったり、お祭りとかを全部やめてアストラル全体で食料を切り詰めてはいるが、いつまでも持たないのも確かだ』

「なるほど。それでコロナ・ジュエルを……って、ちょっと待てアンカー」

『ん、どうした頼火?』

「アンタらはコロナ・ジュエルを取り戻さなきゃいけないんでしょう? じゃあなんで私たちの世界に来たのよ?」


 奈落の使徒がコロナ・ジュエルを奪ったなら、アンカーたちは奈落の使徒の本拠地に乗り込むはずだ。アンカーたちや奈落の使徒がわざわざ私たちの世界まで来る理由はない。


『ああ。それはな。色々と目的はあるが、一つはこの世界にあるコロナ・ジュエルを手に入れるためだ』

「「ちょっと待って!!」」


 思わず、私と龍波の声が重なった。とはいえ、それも無理のないことだろう。

 なんでこの流れで、アストラルの宝石を求めて私たちの世界にやってくることになるのよ?


『あぁ、コロナ・ジュエルはもともとプリミティブのものだからな』

「「え?」」

『というか、7つのコロナ・ジュエルをこの世界から別の世界に持ち去って、その先でコロナ・ジュエルの力で創られた世界ってのがアストラルだ』

「「えええええっ!!??」」


 なんか、いきなり話のスケールが大きくなったわね。いや、異世界とかの話なんだから既に十分大きかったはずなんだけど。


「あ、もしかして……」


 また、龍波が何かに思い至ったらしい。なんか私ばっかり察しが悪いみたいでシャクだけど、今は何も思いつかないから、とりあえず続く言葉を聞いてみることにした。


「私たちが変身するときの星座って、ほうおう座やりゅう座じゃない。それも、私たちの世界にある星座と同じ形の」

「お、同じ形なの?」

「同じ形なのよ。それに、10個ある太陽とか、1年中温暖だったけどある時を境に四季に分かれる話とかって……神話とか昔話に似たようなものがあるわ!!」


 言われてみれば、10個の太陽ってのは何かで聞いたような気がするわね。


「あ、それじゃあ私たちの世界が“プリミティブ”って呼ばれてるのってもしかして――普通に「原始的」って英語の直訳?」

「それじゃあ、アストラルってもしかして――」


 色々と話しているうちに、私と龍波は同じ結論にたどり着いた。


「「私たちの世界から分かれた世界?」」


 半信半疑で言った私たちの言葉を、アンカーは肯定した。まだわからないことのほうが多いけどとりあえず、私たちがアンカーたちと、ある程度なら普通に会話できてるのにも一応の説明はつくわね。


「それで。この世界にあるっていうコロナ・ジュエルの手がかりとかってあるわけ?」

『ないな。奈落の使徒たちは、俺たちが何か知っていると思っているらしいが』

「それは素敵な勘違いね」


 なるほど。だから私たちが初めて戦ったあの時、テリオンはアンカーたちを襲って来たわけね。つまり、奈落の使徒にとってもこの世界はアウェーで、コロナ・ジュエルの手がかりなんてない。だから、アンカーやアルタイスをとっちめて吐かせるのが一番近道だと思ってるわけか。


「ってことは、一応私たちも奈落の使徒も、今は条件は同じってわけね」

『まぁ、そうなるな』

「でもさ、アストラルにはまだ6つのコロナ・ジュエルがあるんでしょう? なら、どこにあるかわからないものをこの世界で探すより、アストラルに攻め込むほうが奈落の使徒にとっては手っ取り早いんじゃない?」

『ああ。だが、一つ取られて、アストラルでも今はだいぶ警戒しているからな。それに、今は女王様が奈落の使徒の攻撃にも耐えられるだけの強固な結界を張ってるから、迂闊には攻め込めないんだ』

「そっか。アストラルの人たちも大変なのね」


 龍波が呟く。確かに、食料が少なくて、いつ敵が攻めて来るかもわからないんじゃ、まるで戦時中みたいね。アンカーも、実はハンバーガー食べたかったのかしら?


『ん、なんだよ頼火?』

「いや、なんでもないわよ」


 今度、家に誰もいない時にでも、こいつにご飯くらい作ってあげてもいいかな。

世界観設定で色々書きましたが、どんな感じだったでしょう?

とりあえず、大まかなことだけでもわかりやすく伝わればいいんですが……。

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