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もう死ねないロボ転生  作者: 英摩
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三話「事実と、置いてきた青春、帰ってこない平穏」

「あんた、野中…?」

  「へ…?」

 なんでこいつ、俺の生前の名前を知ってる?

「お前、誰なんだ…?」

 思わず質問する。

 先ほど名前を聞いた相手にする質問としては異常である。だが。

「あたし? あたしはカリンだよ?」

 尚も日本語で話すカリン。

「違う! 今の話じゃなくて、いや、その…」

 いまいち自分の考えに確信が持てずにうやむやになる言葉。そう、そんな偶然あるはずが無い。あいつはあの時……。


「あたしは、昔も今もカリンだよ。道澤花麟。花麟だよ。」


 道澤。

 その名前は俺の頭にこびりついている。

 離れるわけがない。これからも離れそうに無いその名前は、どこか懐かしくもあり、俺にとって後悔の念を思い出させるワードでもあった。


「お前、ビッ…道澤! み、道澤か!?」

「うん。どうやらそうみたいだね…。その様子だと、あんたは野中でいいのかな?」

 もうほとんど確信に近い顔で確かめるカリン。

 俺も、その質問に確信を持って久方ぶりに会う友人に

 


「久しぶりだな、道澤」


 ぎこちない笑顔と挨拶で返した。

 頬から金属が擦れる音が微かにした。


「ほんと…久しぶりだよ、もう……!」

 カリンもとい道澤の目から堰を切ったように涙が溢れだした。

 ペタンと床に座りこんでしゃくりあげている。

「…もう、会えないかと思ってたのに…!」

 あの不良が、こんなふうに涙を流すとは。


 この様子だとあの一件におそらく彼女も自責の念にかられていたのだろうが、やはり口調は同じだが俺の知っている道澤とは一致しなかった。あいつはもっと強く、明るい…


 そこまで考えてからハッとする。そう彼女はいじめを受け、自殺をしようとしていたのだ。

 俺は知らなかっただけなのだ。そして心の中で決めつけていただけなのである。死ぬ前に見た彼女の幻想を抱いていただけなのだ。


 あの暗い空間でも強く、明るいだけの彼女のみが俺の心の支えだった。

 だが本当の道澤花麟は、あんなにも繊細で、こんなにもか弱かった。


「泣くなよ、ほら…」

  「ごめん、でも、とまらなくて…!」

 道澤が首にかけているタオルで拭いてやるが、涙はすぐにまた顔を濡らす。


「よかった…! あんたを、作って…、よかったっ」

 そう言って鼻をすすりながら、道澤花麟は、微笑んだ。

 俺にもあの時の後悔は山ほどあって、さっきから胸にこみ上げるものは確かにあるはずなのに。

 俺の涙は、出ない。



 ~~~~~~~~~~~~~


「なんで俺を作ったんだ?」


 落ち着いた様子の道澤の背中をさすりながらなんとなしに聞いてみた。

 返事は意外とすぐに帰ってきた。

「寂しかったからかな。ここには今はもうあたし一人しかいなかったんだ。それで、ふと思い付いて」

「おい待て。思いつきでロボットを作れちゃうのかよ」

「もともと機械には結構詳しい方でさ。異世界転生したからには、地球の現代科学で無双、してみたいじゃん? てことでその序章ってことで」

「ん? 待てまて? さっきからお前の口から俺の普段聞き慣れていた言語が飛び交っているんだが、まさかお前……!」


「機械得意系オタクか…!」

「まぁそういうことになるね」


  俺は機械が苦手、というか嫌いですらある。パソコンやスマホはともかく、ロボットほど嫌いなものは生前なかった。

 上手く会話できただけで技術の進歩、AIの発達が仕事をなんやらと騒ぐ世間も嫌いだ。あんなのは所詮聞こえた音によって違う録音された音を流しているようなものである。俺はAIという存在が疑わしくて仕方がなかった。そんなひねくれた気持ちでアナウンサーアンドロイドに変わっていく朝のニュースを見ていた。


 ある時、俺は好きなアニメの声優さんの握手会に行けることになった。その声優は俺の史上過去作最高の声優でもあり非常に楽しみにしていた。


 そこに居たのは、綺麗だがどこか死んでいるような笑顔を浮かべた、アンドロイドだった。

 そしてそのゴムと金属の塊が話す声は、紛うことなき俺がその日握手しに来た声優の滑らかな声かつて俺が何度癒されたか分からない、その声だった。

 アンドロイドは、死んだ笑顔と聞いた者が生き返るような声で、淡々とファンと握手していた。


 俺は、アンドロイド声優と握手した後、家に帰って泣いた。何故だか知らないが、涙が止まらなかった。


 ~~~~~~~~~~~


「やはりな。お前の趣味というのは、こういう事か。じゃあ、この見た目は『我が嬢』のフリード=シュトロイゼンか!?」

『我が嬢』というのは男女共に絶大な人気を博した、『我が家のお嬢様は今日も我侭』という深夜アニメである。フリード=シュトロイゼンはそこに出てくる脇役なのにやたら女性層から人気のある執事長だ。


「ふふん、分かった? 結構クオリティ高いと思うんだけど、どうかな」

 まぁ名前そのままだし分かるわな。

「確かフリードって5話で執事長の立場を使ってお嬢様の暗殺企ててたやつだったよな。俺そんな奴の顔嫌だな……」

「馬っ鹿、フリードは7話で改心してお嬢に一生仕えるって誓ったじゃん!! ちゃんと見てよね!?」

「お、落ち着けよ!そもそももう見れないだろ!?」

 

「そっか」と腰を床に再度つける。


「えーっと、これからどすんだ?もうお前は寂しくなくなったんだし、俺はお前とここでキャッキャウフフ暮らせばいいのか?」

「なわけないじゃん。そもそもあんたはあたしの作ったフリードじゃないみたいだしね」

「お前それ! 作ってる途中で趣味に走ったろ!!」

「いいじゃんあたしのロボットなんだし~」

 こいつ…。


「それにね何も寂しかっただけであんたを作ったわけじゃないの」

「え?」

 カリンは、いや道澤が1枚の紙切れを引き出しから取り出して机に置いて俺に見せる。


 そこに書いてあったのは見るからに醜悪な顔つきをした男の似顔絵だった。


「あんたにはこれから、悪党退治に付き合ってもらうから!」

 そう言い放った。


  「断る。俺死にたくないから。一人でやってくれたまえ。」


 俺はきっぱりそう言い放った。

 瞬間俺の眉間にスパナが一本投げつけられる。

 高い金属音が狭い木造の小屋に響いた。





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