一話 「くだらない死と、暗い部屋、駆動」
毎週金曜更新予定です。
俺は死んだ。
俺は齢十七にしてその生を終えたのだった。
死因はこんなところで言うのも恥ずかしい、くだらないものだ。本当にくだらない。
死んだ俺は何も無い真っ暗闇の空間に放り込まれた。
死んだはずなのに、どうも身体が重い。どうやら死ぬのは思っていたほど楽ではないらしい。
ふと、身体が軽くなった。そうすると、徐々に何かに引っ張られている感覚が起きる。どこかに行き先を決めたように。
唐突に頭に響く電子音。小刻みに自分の息と同じ感覚で鳴っている。俺はどうなったのだろう。頭を強く打ちすぎてどこか変な空間に飛ばされたんじゃあるまいか。
そこまで考えて急に不安になった。ずっとここにいなければならないのかと。
だがその不安はすぐに解消された。
声が聞こえるのだ。
聞くからして、女の子だろう。声は、呼びかけるというより、確かめるような。そんな声だ。
何もない空間にとてつもない寂しさをこじらせた俺はすぐに反応した。
こんなところにずっといてたまるか。
俺は咄嗟に声のする方に近寄った―
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目を開けると、髪を2つに結んで作業着を着た16くらいの女の子が、ベッドらしきところに寝ている俺を見下ろしていた。
生き返った。生き返ったのだ!俺は密かに歓喜に震えた。もうあそこに居るのはたくさんだ。二度と行きたくないね。
「あ、ついた!!ねぇ、私の声、聞こえる?」
女の子が俺の目の前でチラチラと手を振った。
「……」
慌てて声を出そうとするも、出ない。声が。
いや、出す声など元々無かったように、何も、発せられなかった。
仕方が無いのでコクコクと首を縦に振っておく。
「わーっ!! 意志の疎通が出来てる!! 私って天才かもね!?」
何を言っているんだ。
俺が死んだのは確定として、ラノベみたいなお約束の転生したとしてもこの身体からして人間なんだから意志の疎通が出来て当然だろう。失礼な小娘だ。
ラノベとか転生とかどうのこうのは俺の生前の趣味の情報から来ている。あれらを嗜んでいた時はあったらいいな、という感じのものだったが実際こうして死んだのに生き返る、という状況は転生としか考えられない。
やはり、転生はあったのだ。するとここはあの剣と魔法の世界か?
「ねぇねぇ、腕とか動かせる?ちゃんとしてればいいんだけどね」
そういば声や、それに今気づいたのだが全身の感覚さえも無いのはどうしたことだろう。
いや、感覚がないと言っても意図した通りに身体は動くのだ。ただ、操っているがそれが自分のものという感覚が無い。
そう、ゲーム画面越しにキャラを動かしているような。
ふと、ここでハッとする。そういえば目の前に女の子がいるのに布1枚も着ていない。つまりマッパだ。
相手が服を着ている以上、俺も服を着なくてはならない!
そう考えて身を起こした。
その時目に入るはずだった。
あるはずだった。
俺の男である象徴。
わああああああああああああああああああああああぁああああああああああああああぁぁぁあぁああああああああああああああぁぁぁ!!??(心の声)
「わああああああ!? どどどどうしたの!? 暴れないでね!!?」
無い!? 無い!!いや待て、まだ女体化転生の場合もある。確認するんだ!
穴も何も無かった。
おいおいさっきまでは俺、人間だったと思ってたんだが!?
慌てて女の子を置いてベッドから飛び降りた。
都合よく、近くに鏡があったので、俺はそれに飛びついて凝視した。
見た目の年齢は生前とさほど変わらない。少し上かな、程度である。
それはいい。だが問題は。
整った顔。いや整いすぎだ、不自然である。誰かに作られた、フィギュアみたいだ。
まっすぐ見つめる大きな瞳。だがそれは無機質で死人のようだ。
目を引くのはサラリと目元まである銀髪だ。だが、これは毛ではない。なんというか、極細の糸だ。
人間じゃない。これは。
ロボットだ。
後ろを見ると、ベッドのある場所から俺のケツに大量のコードがのびていた。
次は二話じゃないです。二話は少し待ってください。