『邪眼』のクロ
「今日がお前の命日だ」
「なにを。貴様ごときがこの『邪眼』様に勝てるとでも」
「貴いに様まで付けてくれるなんてありがとよ。くたばりぞこないからでも褒められると嬉しいや」
「口の減らない若造め。その身をもって、暴言を償うがいい」
右手に『邪眼』のクロ、左手に『モヒカン』ブラウン。荒い息を喉から絞り出すふたりから少し離れた場所で『灰被り』お墨は固唾を飲んで決闘を見守っていた。
にらみ合うことしばし。
ふたつの影が交差した後、立っていたのは『邪眼』のクロだった。
「シャー」威嚇の声にブラウンは公園から脱兎の如く逃げ去った。
クロはゆっくりと首をまわすと、まっすぐに私の方へ歩いてきた。
「変な名前や台詞を付けるのはよせ。お主は中二病か。それとも名前で描写を済ませようと安易に考えているだけなのか。彼奴はモヒカンでは無く、毛にツヤが無いだけだ。野良なのだから栄養の偏りは仕方なかろう。そして俺の目付きは生まれつきだ。誰かしら、体型など本人の意思でどうしようも無いことについてとやかく言ってはいけないと教えてくれるひとはいなかったのか」
「傷つけてごめんなさい。ちょっと中二病だったかも。『◯風』ウルフみたいなカッコいい名前をつけたかったのだけど、君たち猫だし。猫の名前って、タマとかドラ◯もんぐらいしか咄嗟に出て来なくって。」
「『◯風』がカッコいいのか、中二病よ」
「。。。カッコいいと思うんだ。
所で、君が踏みつけているパンジー、近所の皆様が好意で植えたものだからそろそろ脚を上げてほしいな。それから君のシンデレラ、どこかへ行ったよ」
白く光る眼に耐えられずシドロモドロに話をずらすと、黒猫はフンっと後ろを向き、ベンチに飛び乗りそのまま丸くなった。
自転車を押して歩いていると、どこからとも無く決闘を告げる声が聞こえてきた。
ジェンダーレスって難しいものですね