その7
短くなってしまいましたが……。
ほっとした俺は、皆と一緒にミヤさんの作ってくれた昼食に舌鼓を打っている。
今日のメニューは、昨日ザンジさんが狩って来たという猪のような物の肉にサラダ・黒パンだ。
『ような』と言うのも、話を聞いた時には
「ブラックファングボアが獲れた。」と言っていたのを聞いて判断したものだ。
ボアと言うからには猪なのだろう、予測は付くがそれが『ブラック』で『ファング』なのだ。
俺が断言できないのも分かってもらえると思う。
漠然と、黒くて牙が一杯突き出しているような、そんな怪獣のような猪を想像しながら恐る恐る、口にした昼食の肉は控えめに言っても絶品と言って良い代物だった。
色々なハーブと塩で味付けされたその肉は、野趣溢れる味で簡単に噛み切れるほどの柔らかさを持ち、蕩ける様な上品な脂としっかりとした肉の味を楽しめる素晴らしい物だった。
恐る恐る一口目を食べて以降は、無我夢中で食べ進み笑顔で『大満足』と言えるだけの食いっぷりを見せてしまった。思わず我を忘れて食事に没頭したことに、多少の羞恥は感じるが仕方がないと言えよう。
それほどにおいしかったのだ。
地球でも、あれほどの物を食べた事は無い。もちろん探せばあるのだろうが、残念な事に俺自身そこまで拘りは無かったし(勿論美味しいものは好きだが)、高級店なんてそれこそ数える位しか行く事なんて無かったしね。
食事の後の雑談で、ブラックファングボアが魔物と呼ばれる存在である、と教えてもらいさらに驚く事になるのだが……。
なんでも、魔物と言うものは動物などが空気中に漂う周囲の魔力を吸収し、突然変異のように進化を遂げたものだそうだ。
例外はあるが、強さに比例して素晴らしい味らしい。
この村には無いが、そういった魔物を専門で狩ったりする、冒険者と呼ばれる者達をまとめる組織、『冒険者ギルド』なる物がそれなりの大きな町などにあることも教えてもらった。
ここで出てくるか!冒険者!!
俺だって人並みにゲームなどもしてきたし、中二病を罹患した経験からも、
『冒険者』その響きに心躍らせた事も仕方がないと言えよう。
危険なのは分かるが、やっぱり憧れるよね。
そのうちに雑談の内容は俺の今後の話に移って行く。
俺はいつまでも世話になっているのも申し訳ないと思い、近くの町などに行きそちらで生活する事も考え聞いてみたのだが、最寄りの人族の町まで1か月ほどの旅をしなければならない事が分かった。
「それにのぅ…………。言い難いのじゃが、今の話じゃとお主の能力では恐らく辿り着けん。」
能力値Eと言うのはやはり、5段階評価での5段階目であり、
銀狼族の子供なら10歳くらいには殆どがD以上に成長するらしい。
運は素晴らしいものを持っている、と慰めてもらったけどね!
「そこで提案じゃが、しばらくはここに留まり最低限1人でも生活出来るようになるまで修行していかんかね?」
「ちょうど、ルナとオーザが2年後の成人の儀に向けて本格的な修行を始めた所じゃ。」
そりゃあ俺にとっては、渡りに船。都合が良い事この上ないが負担になったりしないのだろうか?
「ありがたいですが、皆さんの負担が増えることになったりしませんか?」
「あらあら、そんな事気にしちゃダメよー。」
ミヤさんが微笑みながら、おっとりとした声で言ってくれる。
「それにこの子達は双子で、今村に他の子供はおらんからのぅ。良い刺激にもなるじゃろうて。」
オルバさんはそう言ってくれるが、きっとそれは建前で俺の事を考えてくれているのが、分かる。
ザンジさんは何も言わないが、厳つい顔に鋭い眼。だが、優しい光を湛えた瞳でうんうん、と頷いている。やっぱり、良い人たちだな……。
ぐっと胸に来るものがあり、言葉が詰まる。
この優しい人達に出会えた世界、ルータリアに感謝しよう。
「よろしく……、お願いします……。」
俺は深く頭を下げたんだ。
誤字・脱字などありましたら、教えていただけると嬉しいです。