モフモフの人によるモフモフのための生活
「…………は?」
目が覚めると森の中に居た。
何言ってるのかわからないだろう?安心してくれ。
俺も何言ってるのかよくわからない。
ふた抱え程はありそうな木に、寄りかかった状態で俺は気が付いた。
公園や人の手に管理されているような木なんかじゃない。沢山ある木の中の1つだ。
ここはどこだろう?
待て待て……落ち着くんだ……。
こういう時はアレだ!分かりやすいことから考えてみよう。
俺の名前は鈴木 薫。28歳。
よし。別に記憶がなくなってる訳でも酒に酔っているわけでもないな。
えっと……昨日は夜遅くまでネット小説投稿サイトで小説を読んで……、
ベッドで寝た記憶がない………。
おいおい、寝落ちかよ!なにやってんだよ俺!
……いや、違う。そういう事じゃない。
「深呼吸だ。こういう時は深呼吸して落ち着こう。」
スーッ………ハーッ………
「よし!落ち着いた。なんてことはねぇよ!なんで目覚めたら森の中なんだよ!ここどこだよ!」
落ち着こうとすればするほど、状況が理解できずにパニックが加速していく。
「グルオォォォォォ!」
パニックだった俺に冷や水を浴びせるような獣の唸り声が響く。
「ひっ……。」
恐る恐る唸り声が聞こえた方を向いてみると、言葉を失うような光景が広がっていた。
2頭の大型の獣が向かい合いお互いに威嚇しあっているのだ。
いくら俺がパニックになっていても、これだけは分かる。
これはまずい状況だ、と。
ガクガクと足が勝手に震えてくる。
こちらに気付いているのかどうかはわからないが、このままでは危険だ。
それは分かるのだが危険を感じると同時に、その光景を美しいと感じている自分がいるのだ。
目が離せないというのはこういうものだろうか。
大雑把に言ってしまうと、虎?のような黒と赤い柄の5m程の獣が
同じくらいのサイズの白い狼?に吠えかかっているのだ。
お互いに向き合ってはいるのだが、なんと言えばいいのだろう。
虎?の方は必死に牙をむいている感じだが、狼?の方はと言えば仕方なしに相手をしているようにも見える。
なぜ自分がそう思ったのかはわからないのだが、いわゆる『役者が違う』と言うやつだろうか。
その時にふと、狼と目が合った様な気がした。
チラリとこちらを見た気がしたのだ。
その瞬間を隙だと思ったのか、虎が狼に飛びかかった。
「危ない!」
とっさに叫んでしまった。
あとで考えてみると、その行動自体が危ない事この上ないのだが、その時はそんな事は考えられなかった。
俺の脳裏に虎に食いつかれて絶命する狼の姿が浮かぶ。
しかし、現実には違った。
狼が、
「グルゥ!」
と、唸り声をあげ突風が吹き荒れた。
強い風に思わず目をつぶってしまった俺が、次に目を開けて見た光景は信じられないものだった。
首を切断され、断面から血を噴出して絶命していたのは虎の方だったのだ。
その光景を呆然と見ていた俺は、数秒なのか数十秒だったのかわからないがようやく我に返った。
そして、恐らくその光景を作り出したであろう狼の瞳が、まっすぐに俺を見つめていることにも気が付いた。
理性的とも、知的とも言える光が瞳に灯っているようにも見える。
ようやく動き始めた俺の脳が最初に出した命令は…………。
「はじめまして………。鈴木薫と言います。」
話しかけるなんて何をやっているんだ。
とは、思わなかった。
なぜか確信があったのだ。この狼とは話が通じる、と。
俺が話しかけると狼の目が面白いものを見つけた、と言うような好奇心とも言うべきものが宿っているように見えた。
決して、殺意や狂気などではない。
「ほう…………。やはり異世界人か。我らが王の加護も持っているようじゃのう。」
「しゃべった!?」
内容に関しても、色々聞き捨てならない事をしゃべったように思えるが、問題はそこじゃない。
狼がしゃべった………。
「なんじゃ……。お主の世界の狼はしゃべらぬのか?不便よのぅ。まぁ加護のない獣ならそれも道理か。」
今見ているのが夢でなければ、ここは地球じゃない…………はずだ。
だって、狼はしゃべらない……、よな?
いや、実際は日本に居て本物の狼とか見る機会なんて無いし、本当にしゃべらないのか確信があるわけじゃないから、まだ疑う余地と言うものはあるのだろうが、俺は実感してしまったんだ。
この狼は嘘をついていない。
と、言うことは…………。
「異世界!?」
昨日の夜にネット小説でそういう物語を読んだけど!
まさか……自分が……。
くつくつと笑いながら(笑う狼って初めて見たけど)、
「混乱しておるのぅ。まぁさもありなん。わしが感知していた限りではつい先ほどこちらへきたようじゃしのぅ。」
「わ、わかるんですか?」
白い狼は、こくりと頷きながら俺に向かって、
「わしにも、森王の加護があるでのぅ。おぬしもそのうちわかるようになるじゃろぅて。」
「森王?ですか?」
「そうとも。お主にもしっかりと加護がついておるよ。まぁ他にも色々とついているようじゃがな。」
「??????」
狼は思案気な表情を浮かべた後、俺に向かって
「まぁ色々と聞きたいこともあるじゃろうが、ひとまずはここを離れるとするかのぅ。血の匂いにつられて、他の魔物が来るやもしれん。いくら襲われようが問題はないが、煩わしいことにかわりはないでのぅ。」
狼はついて来い、とばかりにその場で向きを変えゆっくりと歩いていく。
一瞬どうしようかと迷ったが、そもそもここがどこだかわからなかったし、何よりも目の前で冷たくなっている虎(狼に言わせると魔物?)を見ると、選択肢などないのだと思い知らされた。
慌てて狼の後を追いながら、薄暗い森の中を歩いていく。
結構な距離を歩くことになったが、狼はたびたび俺の方を振り返りながらちゃんとついて来ているか、確認しながら速度を合わせてくれているようだ。
「スズキ カオル?と言ったかのぅ?」
「あ、はい。カオルと呼んでいただいて大丈夫です。」
「そうか。わしは銀狼族のオルバじゃ。」
俺が頭を下げながら、
「よろしくお願いします。」と、言うと
オルバは笑いながら、
「そう硬くならんでもえぇ。同じ王の加護を受けた輩じゃ。敬語もいらん。」
「そうで……そうか。ありがとう。」
「うむ。そして異界の旅人よ。ようこそ銀狼族の村へ。」
木々を抜け明るくなった少し開けた場所に、1本の大樹がそびえ立っていた。
その圧倒的な存在感に思わず、
「おぉ…………。」とため息が出てしまったのは仕方のないことだろう。
呆然と見上げている俺に、
「あれが森王が城。森王樹じゃ。わしらの一族はその番人と言うわけじゃな。」
オルバにそう言われて、周囲を見回してみると大樹を中心に簡素な木の小屋のようなものが、ちらほらと見える。
そして、オルバよりは少しサイズが小さいけれど、同じような狼の姿も……。
現実離れした風景に、俺の心は少しワクワクとしてしまったんだ。