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「サムライー日本海兵隊史」(外伝等)

時季外れの四姉弟ともう一人の怪談

作者: 山家

 村山幸恵、土方(篠田)千恵子、岸総司、アラン・ダヴーは、「サムライー日本海兵隊史」の登場人物で、全員母親が違う四姉弟の関係になります。

(ちなみに年齢順で並べてあり、幸恵が長姉、アランが末弟です。)


 エイプリルフールネタで、第二次世界大戦後、4人が同時に顔を合わせることで、記憶がよみがえってしまい、ドタバタになります。

 土方勇中佐の下に、第二次世界大戦で知り合ったアラン・ダヴー中佐から、連絡が入ったのは、1950年3月初めのことだった。


 この3月一杯で、インドシナの戦地を離れ、東京に転勤することになった。

 ついては桜の花見をしたい、と思うので、手配をしてもらえないだろうか、とのことだった。


 土方中佐は、妻、千恵子の異母弟の岸総司中佐と一緒になって、ダヴー中佐の頼みを聞くことにした。

 岸中佐も、ダヴー中佐とは、第二次世界大戦の際に知り合っている。

 岸中佐も、久々にダヴー中佐と会って、3人で桜の花見を楽しもう、と乗り気になった。


 更に、その話を聞きつけた土方中佐の妻、千恵子が口を挟んだ。

 私も、ダヴー中佐にお会いしたい、と言い出したのだ。

 男だけで会うつもりだった土方中佐は難色を示したが、千恵子にどうも頭が上がらない土方中佐は、結局は、千恵子のわがままに押されてしまった。

 ちなみに、千恵子の異母弟、岸中佐は、むしろ賛成している。

 この際、千恵子にも、ダヴー中佐を引き合わせたい、と言ったのだ。


 4月1日の午後半日の休暇を取り、横須賀の衣笠山公園で花見をした後、馴染みの料亭「北白川」に、4人は入った。

 4人の社会的な地位から、桜の木の下で、気軽に花見をして、酒を酌み交わすという訳にはいかない。

(千恵子がいなかったら、そうしたかった、というのが土方中佐の本音ではあったが、ダヴー中佐がそれでは楽しめない、という岸中佐の説得もあって、取りやめたのだ。)

 そうしたことから、夕食を4人で「北白川」で食べ、男3人は、酒を酌み交わすことになった。

 翌日は日曜日で、皆、休日である。

 土方中佐としては、ゆっくりと夕食と酒を楽しむつもりだった。


 料亭「北白川」の若女将、村山幸恵は、落ち着かない状況だった。

 大女将の母が、少し季節外れの風邪をひき、熱を出して寝込んでいる。

 勿論、仲居が何人もいるし、幸恵も30歳半ばになり、それなりに経験を積んでいる。

 とはいえ、日ごろ、丈夫極まりない母が寝込んでいるというのは、幸恵にとって、気がかりで落ち着かないことだったのである。


「予約していた土方様達がお越しになられました」

 受付の仲居が、幸恵の下に知らせに来た。

「そう、挨拶をしに行かないと」

 土方中佐達、海兵隊士官は、「北白川」にとって、大事なお得意様である。

 幸恵はそう言って、土方中佐達の部屋に向かった。


「失礼します」

 そういって、土方中佐達のいる部屋に入った瞬間、幸恵の意識は暗転した。


「ここからでも桜が見えるのだな」

「1本だけだがな」

 料亭の一室で、ダヴー中佐と土方中佐は会話していた。

 ダヴー中佐の日本語は、堪能だった。

 会話だけなら、日本人同士の会話と思えるほどだ。

 千恵子とは、初対面の筈なのに、日本語同士で会話した気安さからか、ダヴー中佐と千恵子は、肉親のように、すぐに打ち解けてしまった程だ。


「それにしても、千恵子の母も、総司の母も寝込んでいるとのことだが、別に構わなかったのか?」

「少し季節外れに、風邪をひいただけだから、放っておいても大丈夫」

 ダヴー中佐の問いかけに、千恵子は平然と言った。

「こっちも、同様。仲の悪い二人だが、何でまた、同時に風邪を引くかな」

 総司も平然としている。

 花見の最中に、土方中佐が、義母、千恵子の母が季節外れの風邪を引いた、と口を滑らせ、更に総司も、実は自分の母も、という話題になったのだ。

「失礼します」

 そこに、「北白川」の若女将の幸恵が、声を掛けて、部屋に入ってきた。


 幸恵と部屋にいた4人が顔を合わせた瞬間だった。

「姉さん達」

「弟達」

 幸恵と千恵子が押し殺すような小さな声を出し、岸中佐とダヴー中佐、総司とアランも同様に小さな声を出した。

 土方中佐は、きょとんとした。

 千恵子と総司が、異母姉弟なのは知っていたが、他の2人も同様の関係だったのか?


 土方中佐が我に返る前に、4人はお互いに自己紹介をし、いつの間にか、姉弟同士の会話を始めていた。


「全く、他に2人も手を出して、子どもを産ませていたとは。我が父ながら言語道断。本当に申し訳ない」

 総司が、嫡男として、父代わりに、幸恵とアランに頭を下げていた。

「いえ。勝手に産んで育ったようなものですから、お気になさらず」

 幸恵は、平然としている。

「それにしても、本当にだらしないお父さんね。フランスでも女性と関係を持って、子どもを産ませるなんて、本当に許せないわ」

 千恵子は、怒り心頭の表情を浮かべながら言った。

「まあ、男とはそういうものですから、そう怒らないでください」

 アランは、千恵子をたしなめた。

 だが、その言葉は、姉二人の癇に障った。


「「ちょっと、男三人、前に正座しなさい」」

「「「はい」」」

 幸恵と千恵子に声をそろえて言われ、総司、アランに加え、土方中佐、勇までが、その迫力に圧され、声をそろえて返事をして、正座をする羽目になった。

「「あんた達、妻以外の女性に、お父さんのように手を出してはいないのでしょうね」」

 幸恵と千恵子は、声をそろえて、男三人を詰問した。


「手を出していないよ」

「手を出していない」

 と総司、勇は相次いで訴えたが、アランは沈黙している。

「「姉に真実を明かせないというの」」

 幸恵と千恵子は、更に圧力をかけた。


「結婚前に関係を持った女性はいたけど、それこそ割り切った関係で、お互い納得ずくで別れた」

 アランが、渋々口を開いたが、その言葉は、姉二人の逆鱗に触れた。

「「割り切った関係なんて、あるわけがないでしょ。子どもができていたら、どうするの」」

 姉二人は追い打ちをかけた。

「ちゃんと養育費は残してきたんだよ」

「「養育費」」

 アランの弁解に、姉二人は声をそろえて驚いた。


「「ちょっと、子どもまでいて別れたというの」」

 幸恵と千恵子は、アランをさらに攻め立てた。

「だって、彼女はスペイン人で、スペイン内戦で知り合った関係で、僕は祖国フランスの軍人として帰国しないといけなかったし」

 アランが懸命に弁解するが、幸恵と千恵子は納得しない。

「「それなら彼女をフランスに連れ帰るのが当然でしょ」」

 幸恵と千恵子は、実の姉二人として、アランを責め立て、アランは縮こまった。


 勇、土方中佐の頭、心の中に、声が聞こえてきたのは、その時だった。


「やあ、どうも申し訳ない。あの4人の父の霊です」

「一体、どういうことなんです」

 その声と土方中佐は、心の中で会話した。


「見て、話を聞いて、お分かりの通り、実は、あの4人は、皆、母親が違う異母兄弟姉妹なのです」

「はあ」

「4人が一度に顔を合わせた結果、全員が一度に事情を察して、大騒動になったみたいですね。もっとも、あの子達の母親の生霊のせいもあるみたいですが。実は、4人の母親全員が、偶々、病に臥せっていて、霊が抜けやすい状態なのです。子ども同士が血のせいで、引き合ってしまい、更に母親の霊力も加わって、ああいう事態になったみたいですね」

「何とかしてくださいよ。あなたのせいですよ」

「何とかといわれても、この際、全員を酔いつぶして有耶無耶にするしかないですね」

「はあ、分かりました」


 土方中佐は、内心でため息をつき、アランを責め立てることに専念している幸恵と千恵子の目を掠めて、仲居に酒を運ばせ、4人にひたすら呑ませた。

 4姉弟全員が酒豪揃いだったために、この日、4人が酔いつぶれるまでに、この部屋では最終的に一升瓶が5本、空になった。


「この後、どうすれば」

「かすかに記憶が戻るかもしれませんが、酔っぱらって、夢を見たのでは、ということで押し通してください。4人が、一度に顔を合わさない限り、今後、記憶が戻らないように、何とかしておきますから」

「頼みますよ。全く」

 この四姉弟のだらしない父の後始末を、何で、自分がする羽目になったのか、内心でボヤキながら、土方中佐は、運転手を呼んで、妻、千恵子を家に送り返すことにし、4人全員が揃わないように、手を配った。


「どうも、すみません。何で、私まで飲んでしまい、しかも酔いつぶれたのでしょう」

「いや、つい、酒を進めてしまいまして、本当にすみません」

 翌朝、土方中佐は、若女将の幸恵に平身低頭して謝っていた。

「奥様は?」

「早く失礼したい、といって、帰りました」

 土方中佐は、幸恵の問いかけに、背中に冷や汗をかきながら、そう答えた。


 ちなみに、土方中佐の傍には、岸中佐とダヴー中佐が二日酔いの頭を抱えて唸っている。

「何で、あんなになるまで酒を飲んだのかな?」

「本当に何でだろう?」

 二人の会話を聞きながら、こいつら、本当に兄弟だ、と土方中佐は、内心で突っ込んでいた。

 土方中佐は、幸恵に謝罪し、岸中佐とダヴー中佐が、それぞれの住居に帰るのを見送って帰宅した。


「あなた、何で、私は、目が覚めたら、家に帰っていたの?それにしても、二日酔いで頭が痛い」

 帰宅した土方中佐を、頭を抱えながら、千恵子が出迎えた。

「うん。岸中佐とダヴー中佐が、飲み比べをしていて、君が酔いが回ったから、帰りたい、と言い出したから、送り返したのだよ」

「そうだったの」

 少なくとも、千恵子からは記憶が消えているようだ。

 土方中佐は、ほっとしていた。


「それにしても、また、「北白川」で、岸中佐とダヴー中佐を招いて、食事をしたいわね」

 千恵子の言葉に、土方中佐は、冷や汗をかいた。

 また、4人が揃ったら、どういう事態が引き起こされるか。

「都合がつけばいいけどね。他の二人も忙しいからな」

 土方中佐は、惚けて言った。


 二度と4人姉弟が揃う事態を起こすものか。

 4人が揃ったら、記憶がよみがえり、えらいことが起こるのは間違いない。

 土方中佐は、内心で誓い、生涯、その誓いを守り抜くことになった。

 エイプリルフールネタですので、何で現実世界が舞台なのに、血とか、霊とか出てくる、というツッコミは勘弁してください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 土方中佐は多分彼を「あの世に行ったら殴る!」と思ったでしょうね。しかしその時には彼は転生して現実修羅場(あのシリーズですね)で「テメエ!俺の子孫に迷惑かけやがって!戻ってきたら今度こそ殴る…
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