山中 うめ
瑠璃香様にも困ったものじゃ。
少しは悋気を抑えてもらわねば、みこが消えたらどうすのか……。
みこは昔、りゅうが連れ帰ってきた。山の中にいたんじゃと。
面倒事はごめんだと思ったが、みこを見てりゅうの気持ちが分かった。
あれはどこか良い所の子じゃ。
顔が違う、肌が違う、なにより服が違う。
赤子の様じゃったが、かなり顔が良かった。
もし食うに困った時に高値で売れると、喜んだ。
見目いいな女子は宝じゃからの。
だがりゅうは神の子だと笑った。
意味が分からず首を捻っていると、みこがいた場所へと連れられた。
そこには色んな食べ物が実っていた。これから冬を越すのに必要な食べ物とあったかい毛布がつまれとった。
これは金持ちの隠し子に違いない。
いつか迎えにくるぞ?
りゅうが学校を卒業したら、みこを嫁に貰った。
役所にも言えんから学校へ行かせず家で仕事させとったけど、みこに懸想する輩は多かった。娘である『はな』よりも『みこ』、『みこ』、『みこ』。夜這いもしょっしゅうで屋根上に特別寝る場所をつくったくらいじゃ。
じゃが、確実に信者も作った。
じじいが最初の信者。わしよりもみこを大事にして屋根に上る階段前で眠る。まるでみこを守るように。しかもはなも一緒に寝させて見張らせた。
だが警戒していた懸想しとる連中も、時期に敬うようになってこっそりと作物を置いていくようになる。勝手に畑を耕す連中まで出てきた。
わしらは楽できるが……男だけじゃない。女も信者になって洗濯を手伝う……わしはなんで信者にならんのか。
話を聞けば、みこに係われば運が良くなるという。
りゅうが外へ奉公へ行くもたくさん金をこさえて来る。
みこを嫁にしたからではないか? なら、ほかの男がみこと寝れば、そやつも大成するやもしれん。
じゃが、夜寝る前にみこの声を聞いて全部分かった。
「りゅうが、はなが、おとうちゃんとおかあちゃんが元気で幸せでありますように。里のみんなが幸せでありますように」
なにやら毎晩祈ってる。
はなに聞けば、毎晩そうしているのだと。
はなが一度、たちの悪い風邪を引いた時、わしが代わりに一緒に寝たんじゃが……みこは必死にはなの事を祈っていた。
すると死人がでた病気がケロリと治ったから、驚いたのなんの。里の中で重い病気の子の話を聞けば、みこに合わせてほんの少しの時間看病してやれば、治ったのだ。
みこは里の秘中の存在になった。
みこの存在を国やおえらいさんに知られたら、取り上げられてしまう。よそ者に気をつけ、みこの話をしないようにみんな口を噤んだ。
みこがりゅうの子を身籠った。その年は不思議な年で、みな忘れないだろう。花が咲き誇り、収穫物は大量に、里はまるで神に祝福されたようじゃった。
しかもりゅうが都会の仕事を里に持ち込んだ。そして大きな仕事を割り振り、彼らの暮らしをよりよく変えた。
ただ、問題だったのは新しい嫁も連れてきたから。
りゅうも苦しんでいた。
みこのお陰で成功しているかもしれない。でも人脈と金はみこにはない。新しい嫁、海堂瑠璃香のお陰でより成功しているのは確か。
目に見えない力と目に見える力。
みこの祝福を知っているから、りゅうを説得して手放させず手元に置いている。しかもみこはこの里から出すと祝福が薄れてしまう。
里で祈らせると、まるで目に見えて祝福が溢れる。
みこの力は、この里だけか? だが、確かに海堂家の危機を救った。
ただ、いまさらみこを他所にはやれない。
この里でずっと祈ってもらわにゃならん。
新しい友禅も、白粉も香水ももっと欲しい。荒れた手に戻りたくない。もっともっと幸せになりたい。
みこはりゅうに惚れている。だから、りゅうにはしっかりみこを慰めてもらわないとな。
りゅうが駄目になったら、龍がおる。龍が居る限りみこは祈り続けるだろう。出来ればまた身籠って欲しいなぁ。
次は里がどんな祝福されるか、楽しみじゃ。