表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

海堂 貴美香

 私の名前は『海堂かいどう 貴美香きみか』。

 これでも名門の娘なの。勉強だって人より習得が早いって先生がほめて下さるの。成長だって早いんだから、同じ学年の子が幼く見えちゃう。

 

 私の家は、お金持ちなの。

 家が大きくて、とてもキレイなの。お手伝いさんが毎日楽しそうに話をしているわ。ここにおつとめできて、幸せだって。

 私のこともほめてくれるの。いつもキレイですね、カワイイですねって。それは当たり前の事だから、別に言わなくても分かってるけどね。

 他にもお金がたくさんあるから、キレイな服がたくさんあって、髪飾りだって帽子だってたくさん買ってもらえるのねって、クローゼットをうっとり眺めてるの。いつも髪を結ってくれるキヌさんも、お嬢様がうらやましいうらやましいと笑っている。

 うらやましいなら、帽子が欲しいなら、買えばいいのにね。


 うちの家には決まりがあって、毎月一回、お父様の田舎へ行くんだけど……すっごーくつまんないの! そこはキレイなだけで、楽しい所が何も無くて面白くない場所なの。

 最初は行きたくないー! ってお父様やお母様にだだをこねたんだけど許してもらえない。とくにお母様は私を絶対に連れて行くって話を聞いてくれない。だからいつもがまんしてた。

 でもね、そこでちょっとした秘密が出来たの! 誰にも内緒な秘密なのよ?


 秘密の一つは、女神様。

 その田舎に来ると、毎日三時にお父様とお母様と三人でお茶を飲むの。お茶といっても不味い緑のお茶じゃないわ。外国の赤いお茶なの。お砂糖たっぷり入れて飲んでいいのよ? 素敵じゃない?

 美味しいお茶なんだけど、それだけじゃないの。

 数日に一回くらい、離れている部屋で飲むんだけどね……そこには女神様が座っているの!! 真っ白な着物を着ているけど、とっても似合ってたわ。

 女神様は眠いのかぼんやりした目で私たちを時々見てるのね、窓の外を見ているだけじゃないの。気になるのかしら? もしかして私の事も見てる? 気にしてる? いい子だって気がついてるんじゃないのかしら?


 優しそうなお姉様だけど、女神様は見ちゃいけないんですって。


 時々こっそり見ているけど、すぐにお母様が目で注意してくる。後で『見ちゃいけないでしょ!』って怒るの。もう女神様を見た後だから、まるで物語りに出てくる『デーモン』見たいな顔しちゃって……お母様も若くないんだから怒って皺を増やすのは良くないわ。

 そんな事言ったら、絶対習い事の時間を増やされちゃうから内緒ね!


 女神様には声も掛けちゃいけないの。


 なぜならお父様が、家の守り神だからって! お母様は座敷童子だって怒ってたけど。でもね、ここ何年かお茶しててそれが本当なんだって分かったの。

 女神様はいつ見てもお姿が変わらないの。

 私が大人になったら、お父様とお母様の代わりにお世話をしたいな。お話だってしたい。でもね、駄目なの……女神様は、声を掛けていたら人間になって消えちゃうなんて、驚かない?

 前にこっそり一人で近づこうとしたけど、離れへ続く廊下の前に怖いおじさんが二人も立っていて、中に入れないの。

 いつも悲しそうな目をしているから、私が笑わせてあげようと思ったのにざんねん。神様だって笑いたいよね? 美味しい砂糖菓子もあるのよ? 食べさせてあげたいじゃない。

 そして長くて黒いキレイな御髪にいつか私が櫛をさしてあげたいな。女神様って心の中で呼んでいるのも教えてあげたい。

 ううん、女神様よりも……お姉様って呼べたら……やだもぉ! はずかしいわ!! はしたない気持ちじゃないのよ、純粋な気持ちなんだからね!! お姉さまと妹なんて、そんなそんな!!

 いけない、いけない、取り乱してしまって……もう立派なレディになるのだもの、落ち着かなくちゃね!


 それに、女神様は絶対笑ったほうがキレイだわ。


 私がいつか怖いおじさん……じゃない、邪魔な天岩戸をどけて、女神様を解放してあげなくちゃね。

 神様を閉じ込めるって絶対いけない事だと思うの。だからちゃんとお外に出してあげなくちゃね?

 天へ帰るとき、私に感謝して笑ってくれるかも! 女神様、ずっと私を見守ってくれるかな? 人間になってお友達になってくれたらステキなんだけどね!

 ……お姉様になってもらっても……ううん、なんでもないわ!


 もう一つの秘密はね、二歳年上のお兄様。

 お兄様のお名前は『海堂かいどう りゅう』で今度中学校に行かれるくらい優秀な方なの! 私の自慢の兄ですの!

 でもね、海堂家の跡継ぎだからってお爺様の所にいるから、めったにお会いできない方なの。だから、このお屋敷に来るまで知らなかったのよ? お兄様がいるなんて……。お母様はなぜ私に教えてくださらなかったのかしら?

 それはもう素敵なお兄様なのよ? なんでもお出来になるの。

 前にお庭で馬に乗っているお姿を見たわ……その日の夜は眠れないほど興奮したのを憶えてる。

 誰かが私を連れ去ろうとしたら、軍服を着たお兄様が駆けつけてくださるかしらって。やだ、恥ずかしい!! 私たちは兄妹なのに! ……でも、兄妹だから助けるのは当たり前だわ。ふふ、それも素敵ね!

 でもね、時折悩んでしまうの。お兄様が素敵すぎるというのは、妹にとって辛い試練じゃないかしら。だって、お兄様より素敵な人っているのか不安になってしまう。


 お兄様はピアノも完璧なの。


 私も頑張っているけど、お兄様の演奏を聞く方が好き。先生がいうには『龍様には何もお教えすることはありません』って! すごいでしょ?

 私のお兄様でなければ、将来のだんな様になってほしいくらい大好きなの!

 ピアノを弾くお姿も馬に乗るお姿も、全て絵に残しておきたいくらい……。学校でみんなに自慢をしたい! でも兄の通う学校は特別な所で一緒に住んでいないから、みんなに見せられなくてくやしい!

 ううん、もしお兄様を知ってしまったら誰かが婚約を申し込みに来るかもしれないから、自慢なんて絶対出来ないわね。

 もし、お兄様のことを聞きにくる女の子がいたら、ぜったいに邪魔するんだから!


 お兄様のお嫁様は私よりも勉強が出来て、何より可愛くないと駄目だわ。そう、女神様の様に。


 私だって海堂家の娘ですもの。誰にも負けないよう努力を怠らないつもりよ?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ