最終話 過去からのメッセージの巻
益川はタイムマシンで2000年へ行った。
そこがどこかはわからないがそこには一人の男が立っていた。
「子供と大人だからトッペルゲンガーじゃないことはわかるよな」
その男が誰だかわかる。
「病気ですかね?」
「知りたいか?」
「2015年で色々知りすぎました。もう何も驚きません。」
「昔の俺に敬語を使われるのも気持ち悪いもんだ…」
男ははぐらかしながら答えた。
「ガンだ。もう長くない。」
「そうですか。でもそれは京介さんとミヤコさんに会わなかった理由ではありませんね。」
男はゆっくり首を下げた。
「昔の自分に言うのも何だが利口だな。」
その通り…俺たちは…
「わかりきった未来を生きてる。これからの世代に教えることはない。未来なんてわからない方がいい。江頭と宮里にそう言ったろ。」
「ええついさきほど」
「俺は45年前に言ったけどな。作らない方がいいとわかって研究を続けてきた。」
「後悔してますか?」
「お前なら何て言う?」
ワハハと笑う二人。
「そして1985年に京介さんに嘘を付いた」
気付いていたかと笑う男。
「何も知らないフリをしてなぜ2000年に会わなかったのかを答えなかった。さすがですね。」
「これからの出来事を教えてなんかいいことがあったかと言われれば無かったからな。お前に言うのもなんだがな。」
「覚悟してますよ。」
男はしばらく黙るとこれからどうするか聞いてきた。
「知ってるくせに」
「一応な。本当に昔の俺か怪しいもんだ」
「そうですね。まず裏山の滝の近くに小屋を立て僕の隠れ家を作ります」
「つまんないな。やっぱり俺じゃねーかよ。」
「死ぬ前にやりたいことは?」
「…ハンバーグを死ぬほど食べたい」
「つまんないな。やっぱり僕じゃないですか」
京介とミヤコは大学の文化祭に参加していた。
体育館にて席に座る二人。
「ワールドゲームスは惜しかったな。でも2位でもすげーよ。」
「さすがオリンピック優勝者。嫌みも人一倍うまいわね。」
ムッとにらみ会う二人。
その時舞台から、二人をからかう男。
「お二人さん喧嘩しないの!この山根ブータンがきたからには、みんな笑顔で帰ってもらうからね~」
京介は興奮した。
山根ブータンは昔この辺りに住んでいたというのも驚いた。
だがミヤコには「可愛い子みつけりゃなんとかって何が面白いの?」とまるで理解されない。
「気が合わないもんだ。」
「じゃあなぜ一緒にいるの?相当私が好きなんだね。」
笑いながらミヤコは言う。
「そうみたいだ。不思議なもんだ。それを問題に出されたら俺も予選落ちだ。」
赤くなり黙りこむミヤコ。
再び山根ブータンの登場。
「実は今日特別ゲストが二人来ています。私の大親友…」
「数学会の巨匠ジョン・イリア・ネスバール博士とSunagimo社長で議員な砂肝武司だ。みんな拍手で迎えてくれ!」
京介は興奮した。イリア博士だ。まさか知り合いだったとは。
(京介さんならいつか会えますよ)
あの時の益川声が胸に響く。
周りの人逹は誰も知らなかったようであいつは誰だとざわざわしていた。
もちろんミヤコも同じ反応だ。
そして首をかしげる。
「砂肝さんってどっかで会ったような…」
気のせいかと3人の話を聞いた。
京介とミヤコは耳を傾けた。昔の話だが京介にはイリア博士の声しかおそらく入っていない。
その内容はナンパした女にアドヴァイスをもらい時間をかけてアバロンを完成させた話や、謎の男に本をやるかわりにギャグを作り上げた話、裏山の女の幽霊の話などなんてことのない話ではあった。
だが最後にイリア博士が言ってくれた。
「そんな過去でも今の自分達を作り上げてくれたものだ。時間を大事に使い後悔のないよう生きてください。」
京介とミヤコにはその言葉が人一倍響いたのだった。
益川は一人で裏山に小屋を作っていた。
その時一人の女の人がおにぎりとお茶を持ってきてくれた。
すごく綺麗な大人の女性だ。誰だろう。
「益川太一くんよね。いつもここに薪を拾いにくるから見てたの。一人で偉いわね。」
益川は頭をかきながら恥ずかしくなった。
「お姉さんも小屋ができたらきてよ。お姉さんには特別に一番に招待するよ。」
「ありがとう。でも…」
益川は疑問を頭に浮かべた。
「実は明日からお嫁に行くの。だから出来たら旦那さんと来るわね。」
その時、益川太一の初恋が大きく音を立てて崩れた。
「そうは言っても近くにいるから。私の名前は横田千代。でももうすぐ影原になるけど。」
お姉さんと別れてその後は作業ができる気力は残ってなかった。
益川の本には全て影原のハンコが押してある。こんな珍しい名字は他にない。
それから二度と益川は影原書店に顔を出さなかった。
江頭は益川との約束を守る前に一つやっておきたいことがあった。タイムマシンを使い訪れたのは2000年。
あの気持ち悪い男と宮里が浮気をしたと騒いだあの日。
それからその男を見たことはなかったが、つい喧嘩をしてしまい申し訳なく思っている。
だから過去を変えてはいけないのはわかっているが
その男をぶん殴りに来たのだ。
わざわざメリケンサックまで用意し準備万端で研究室を覗いた。
すでに一人誰かがいる。
江頭はゆっくり扉を開けようとした。
「ちょっとあなた!誰なんですか!警察を呼びますよ」
その声は若かれし頃の宮里だった。
ヤバイ。警察に捕まりこの時代に取り残されては大変だ。
江頭はとっさに抱きつきその口をふさいだ。
ガラガラ。江頭の後ろですごい殺気を感じる。
「…みーちゃん…なにやってるんだい。」
江頭の目先には昔の自分自身がいた。
室内にいたのは自分だったのだ。
「…君がそんなブサイクなオヤジが好きだったなんて…この尻軽女!」
違う違う…俺はお前でお前は俺だ。そんな江頭の叫びもむなしくかつての自分はどこかへ走り出した。
宮里は江頭の股間を「手を離してよ!」とけったくりかつての江頭を追いかけていった。
「こーゆーことか…ブサイクオヤジは俺だったのか…」
限界を越え失神。
京介とミヤコは裏山を登っていた。
「なぁ…幽霊なんていると思うか?」
「さあね。まさか怖いの。」
「お化けは計算できねえからな。」
笑いながらスタスタと足を進める。もうここには誰も入っていない。立ち入り禁止と書かれていたがそれを無視し登った。
「そーいえば。警察になぜつかまったかわかったの?」
「いいや。謎だ。」
「でもまだ警察は嫌い?」
それはよくわからなかった。
「でも私が襲われた時は警察に行ってくれたのね。」
京介は照れながら無言だった。
「あなた自身は警察に何も聞かれなかったのね。よかったわね。」
「まあ、身分証見せたし。」
ん?ミヤコは同じ言葉を返す。
「身分証を見せたの?10年前に?」
あ…。
京介はその瞬間警察が嫌いではなくなった。
「よかったわね。謎がとけて。」
笑いながらそんなたわいもない話をし、歩き続けた。
ついたわよ。
目の前には滝をバックに苔だらけになった小屋があった。
「まだあったのね。よかった。」
それは京介とミヤコが益川と2015年に戻った時に言われた言葉だった。
「全て終わったらまた裏山へ登ってください。僕が残したメッセージを見つけてください。あなた方にはそれがわかると思います。」
二人は苔がかった小屋を綺麗にした。
どこにメッセージがあるのか。
「この小屋は昔はなかったのよ。ここじゃないんじゃない。」
「他を探してみようか。」
京介は小屋を離れようとしたとき脆くなった床が崩れた。脚がはまりなかなか抜けない。
やっとの思いで抜けた。
「…なにかあるわ。」
床の下に何かが隠されている。
益川は千代にふられたあと、作った床を一枚だけはずし、木板に字を掘り埋めた。
「なんか書いてあるぞ。」
好きなものを好きだと言える人間であってください。ちなみにわたしは好きだと言えなかった。だからもう影原には行かない。
「なんだこりゃ?」
意味がわからなかったのでさらに掘り起こす。
すると影原のハンコが押された本と謎の金属片が大量に出てきた。
これは…
宮里教授のマシンだ。
「すごい。じゃあ2005年にはこのマシンは3台あったのね。」
「そうなるな。」
破片をまた埋め直した。
そして「ありがとうございました」と一礼しその場を離れた。
なあ、宮本のラーメン食べに行かないか?
一緒に行きたいの?
嫌か?
おごらないなら嫌い。おごるなら好きよ。
俺はおごらないなら好きだ。おごるなら嫌いだ。
痛っ、肩パンチするなよ、ゴリラめ!
こんな可愛いゴリラと付き合えてよかったわね。
~宮本の古びたウサギとかめの写真。それが誰なのか誰も知らない~
終
※オマケ
2015年悶絶して研究室を出る江頭。
「ちょっと、江頭くん」
「宮里くん」
誰にやられた聞く宮里。
「君だ。だから謝りたい。また俺と付き合っ…」
江頭は股間を見ると股間に宮里の脚が…。
「私がいつ蹴ったのよ!もう知らないわ!」
はぁー!!!
江頭死亡。