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ギュウタンからジョニーの巻

「なつかしいわね~」


ミヤコの出身の小学校へ向かう途中の景色。


この辺りに縁がない京介にはどうでもよかった。


「今夏休みだろ。」


「休みの日も図書室は開いてるわ。私はそこで勉強してたの。」


空手の間違いじゃないのか、と言う言葉を京介はのみこんだ。


「…昔は勉強ばかりしていて友達もいなかったんだ。ダサい眼鏡かけて、すごい内気で…」


それをジョニー様がかえてくれたらしい。


京介とは逆だった。京介はどちらかと言えば体育会系だった。数学に目覚めたきっかけは…なんだったかな。


「クン!」


その鳴き声に足が止まる。


「かわいい!捨て犬みたい」


ミヤコは通りがかりの公園で鳴く犬に足を止めるが

京介は歩き続けた。


「小学校へ行くんじゃないのか?」


「…この子、置いていけないわ。」


「バカ言うな。今いつだと思ってんだ!」


「タイムマシンに乗せてく。」


京介は頭を抱えた。あれほどズレの説明をしたのにミヤコにはどうでもいいらしい。


「小学校はどうする?ジョニーに会えないぞ。」


「時間はまだあるわ。餌飼ってくるわね。」




大学付近の公園へ戻ってきた。


ミヤコのちぎったパンに子犬は飛び付いた。


京介はそんな光景はさておき、癖の暇潰しをする。 

「あんたなにしてンの?」


京介はポケットから紙とペンを出しミヤコに渡した。


「やるか?オーギュスタンコーリー方式の解説と図解。暇なときはこれに限る。」


「…やりません。この子と遊んでたほうが楽しいわ」


そういってまた犬と遊ぶミヤコ。




「食い逃げだ~!」


どこかから声が聞こえる。京介とミヤコの方に謎の少年が向かってくる。そしてその姿を確認した京介は道をふさいだ。


「こら少年。食い逃げはいけないぞ。」


なんとも時代にあっていない格好だった。布切れのような汚れた服に雪駄のような履き物。


そして後ろから追いかけてくる大人たち。


少年はふいに京介に飛び付いた。


「京介さん!やっと会えた!」


少年の声にただ驚くばかり。


「あなたはミヤコさん!」


京介もミヤコも心当たりがまるでない。


一体この少年は誰なんだ?


すると追いかけていた大人たちが立ち止まった。


「こらボウズ!警察につきだしてやる!」


少年は京介から離れると大人たちの前でタンカを切った。


「俺はこの人に指示されてやったんだ。珍しいものがあったら何でも食っていいって言われたんだ。」

少年の指先には京介がいる。


冷や汗が止まらない京介。


「あんたがこのボウズの親玉か!」


京介は生まれて初めて全力で逃げた。濡れ衣も甚だしいが警察には絶対に行きたくなかった。






大人たちが消えた頃残されたミヤコと少年。


「あなただれ?なんでこんなことするのよ?」


「今は全ての説明ができません。ただあなたに聞きたいことがある。僕と一緒に来て下さい。」








久しぶりに俺は全力で走った。そこは商店街だった。


時刻は18時過ぎ。昔ながらの商店街は開いてる店がもうほとんどない。


「取り合えず撒いたかな。」


その時俺の足を何かが噛みつく。


ミヤコの拾った子犬だった。


しっしっと手で払うが構わずついてくる。


その時またあの声が。


(…こら…どこいきやがった…)


ふいに灯りもついていないシャッターが半開きの店へ潜り込んだ。当然ながら犬もついてくる。


「…あっちへ行け…静かにしろ…」


犬の口を閉じ身を屈めた。


大人の声が去っていったように聞こえた。俺は滴り落ちる汗を拭った。


そこから出ようとすると犬は何かを食べていた。

おそらくそこで売られている商品か。


「南野には悪いがおまえは連れていけない。誰かいい人がいれば飼ってくれルよ。」


俺は犬を置いてその場を後にした。そしてポケットから落ちる一枚の紙。





店の灯りがつく。


「なんだ~犬がいるぞ。」


犬は店頭のクサヤを食べていた。


「それは臭いから売れ残りだ。そんなんでよかったら食え。」


犬は喜んで食べ続けた。


「この犬名前あんのかな…」


犬のすぐ横に一枚の紙が落ちていた。


「オーギュスタンコーリー…?」


聞いたこともない。それがなんだかもわからない。


「…これおまえの名前か?オーギュスタンなんて呼びにくい。ギュウタンでいいよな」









俺はふいに時計を見た。19時10分。トランシーバーを使いミヤコに応答をかけるがつながらない。


取り合えず走ってきたためそこがどこかわからない。電柱に腰かけて休むことにした。その電柱に貼られたポスター。(誘拐多発地域)








私は少年に誘導され福茶山の麓まできた。大学から歩いて30分と行ったところか。


少年は木の影に隠れたモノを見せてきた。なぜこれがここに…それはとても信じられないものだった。


「話すと長くなります。ここは簡潔にお願いします…」









「おいあの子なんかどうだ…」


見知らぬ古びた喫茶店で俺は休んでいたがどうも怪しい隣の二人組の声が気になる。


ふと二人は店を出てその子の方面へ向かった。


そういえば10年前にこの地域で誘拐が多発していた。


おの二人も関係あるかもしれないが下手なことすれば歴史にズレが生じてしまう。

ここは心を鬼にして無視しよう。






「おとなしくするんだ!クソガキめ。」


「キャー助けて!」


人通りの少ない路地裏で白いバンに連れられる少女。


猿轡をされ乾いた声も通らなくなった。


「大人しくしてりゃ痛くはしないよ。」


そういう男のあごにスパッと金棒のようなものが当たる。足だ。


「残念。人間は痛みから学習するんだ。」


一人の男は崩れ落ち、一人の男は鳩尾めがけた正拳突きが入り込む。


男たちは体を引きづって逃げたが先に通報していたので時期尚早に捕まるだろう。


「大丈夫?」俺は少女の猿轡を外してやると少女は胸辺りめがけて飛び込んできた。


「すごく怖かった…ありがとう。」


少女は泣きながらお礼を言うが、俺はこんなことして本当によかったのか。この子は本来誘拐される運命だったのに。





「あの…本当に結構ですんで…」


そこは少女の家だった。あの後ビビりながらも警察に行き、状況を説明した。


すると少女の親がやってきて是非お礼がしたいというもんだから。


「きみは学生かね?」


「…はい。数学を専攻しています。」


その時少女は部屋に籠っていた。おそらく今日の出来事にショックを受けたのだろう。


「本当にありがとう。君がいなかったらうちの娘は…」


どうやら酒の力もあるらしい。泣き上戸のようだ。

ある程度頂いて帰ろうとした。


「お兄さん!」


少女の部屋から手招きが見える。


部屋に入るよううながされた。


「…小学生たって男を部屋にいれたら…」


「いいの。友達もいないし、特別だよ。」


少女の姿は家にいるというのにとても着飾っていた。そして俺を見るそのトロんとした目。


「ねえお兄さん、あの男たちを倒したあの技って」


「あれは空手だよ。昔やってたんだ。」


「私も習いたいなあ。」


「今日行った警察署の横にあるよ。俺もあそこに通ってた。」


俺はこのズレをどう回収するべきか悩んでいた。この子や家族の運命を。再度今日の15時に戻るべきか。 


その時俺の顔に何かが重なった。少女の顔だ。


「…」キスをされた。


「恥ずかしいけど…お兄さんのこと好きになっちゃったの。お兄さんは私のことが嫌い?」


俺はただ首をふった。それしかできない。


少女はふいに胸へ飛び込み、俺に訪ねてきた。


「そう言えばお兄さんの名前は?」


「…ジョニーデ○プだ。」


ふいに出たその適当な名前。これで全てが重なった。


少女を払いのけ玄関を飛び出し表札を見た。


「みなみの…」


(え…え)


女のような妙な声と視線を感じる。


頭を整理し俺はそこを離れた。







警察はコピーされた学生証を確認した。


「おい。この北河京介って大学生は福茶にいねえぞ。偽造じゃないか。」


「だったら住所調べろよ。」



 






「はい」


「夜分遅くすいません。福茶警察ですが、そちらに北河京介さんていますか。」


「僕ですけど。」


やけに声が幼い。細かいことを説明して話を続けた。

「今日来ていただいたと思うんだけど…」


「どこへ?」


「…警察にですけど」


「行くわけないでしょ。もう空手の時間なんです。

遅れたら高山師範代に殺されちゃいます。」 


空手に疑問を感じた。今日あった男は空手という風には見えない。


「君何歳?」


「9歳ですけど…」


9歳!?何がなんだか。一体どうなっているのか。


「高山さんてうちの隣のだろ。うまく言っておくから警察署にきてもらえるかな。」







気分は最悪だった。


確かに俺は学校での評判はよくないかもしれない。


だが学生証の偽造書を作るようなことはしたことがない。


そしてそれを誰かにやったんだろとまで言われた。


うちの親もひたすら謝っていた。


身に覚えがないのにだ。その男の顔にも見覚えがなかった。わかることは情けない勉強しかしてこなかったような顔だった。


福茶警察の階段を放心状態で降りていた。


「おーい京介!お前捕まったンだってな!」


空手道場の同門だ。情けない。恥ずかしい。


もうこんなのは嫌だ。空手ももうやめる。


その時だった。


一人の外国人が通る。


「少年よ。数字を学んでみないか。数字は面白いぞ。」


そういって一枚の紙を渡してきた。


「ネスバール方程式…?」









「どこ行ってたんだよ。」


京介とミヤコはやっと繋がったトランシーバーで大学の裏山に落ち合った。


「色々あったのよ。…それより…ジョニー様は!」


ミヤコは時計を見るがもう22時を過ぎていた。


「…昔誘拐されそうになったの。それを助けてくれたんだ。もう一度会いたかったのに…」


ミヤコは膝から落ち泣き出してしまった。


京介は頭をかきながら最善の言葉を探した。


「あんまりいい男じゃないと思うよ…」


「あんたと一緒にしないで!」


なんとも複雑な問答だった。だがそんな問答よりも気になることがある。


「あの少年は?」


ミヤコは泣くのをやめ、何事もなかったように話し出した。


「帰ったんじゃない」


「俺達のことを知っていたよな。あいつのせいで町中走り回ったよ。どっかで会ったっけ。」


ミヤコは大きく溜め息をつき、何かに腹を括ったように話し出した。


「うまく説明ができないけど、私たちはまた過去にいかなければならない。まだ戻ってはいけないの。」


京介はその声を息をのみ聞いていた。


「すべてがタイムリーと言ってたわよね。私たちが過去に行くことがタイムリーなの。」


過去とは?いつなんだ?


京介はその意味を聞こうとしたがそれ以上は聞かなかった。


「わかった。お前も言いたくないことがあるんだろ。俺も一つある。今日ジョニーに会った。」


ミヤコは眼の瞳孔を拡げ京介に問い詰めた。


「どうだった?かっこよかった?」


「俺のことハンサムだと思うか?」


「…あんた何言ってんの?」


「…心配すんな。すげーかっこよかったよ。でももう会うのはオススメしない」









タイムマシンにも慣れてきた。美人に見慣れるのと同じ感覚なのかもしれない。


再度ロープで結びつける。


次の時代は話し合って決めた。


1985年。30年前だ。


お互いにここにも見てみたいものがあるのだ。


果たしてこの先どこに向かっていくのか。


生きて帰ることができるのか。










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